第176話「決意」
~雲海ギルドのギルドハウス~
ここは以前、セイメイが離脱した場所だ。
セイメイはきちんとことのあらましを雲海ギルドのメンバーに話した。ギルマスの突然の死による絶望感は否めない。それに輪をかけるように雫も現れていない。
セイメイは今回の拠点戦に自分も野良で参戦すると告げた。雲海のメンバーは少し驚いていたが、冷静に戦力の大幅補強による戦力UPに大いに盛り上がった。
それは玄庵に対しての弔い合戦のようでもあった。
「セイメイさん、バンプーとは因縁の戦いでもあるんです。ここいらで勝負をしかけて戦いに勝ちたいです」
一人の大斧をもった剛腕の男がずいっとセイメイを影で覆うように立っていた。
「お、おう。勝ちたいという意識は誰にでもある。ただ戦闘の最中、心が折られるシーンが何度もある。それに耐えるだけの気概というか精神力が求められる。と、偉そうにいっているが、今回は亡きギルマスの手向けとなるように不屈の闘志で望んでもらわないとね」
「なにいってるんですか!!今回はマジでやりますよ!」
別のギルメンが割って入ってくる。
「そうか。なら、俺もやり甲斐があるってもんだ。君達の奮闘に期待するッ!」
「マスターちょっと……」
ルカが珍しく場の空気を読み外に連れ出す。
「どうした?ルカ。珍しいな」
「珍しいも何もあの場では言えませんよ。それより……」
どうやらルカの情報網によると、バンプーパンダ側にも不穏な雲行きが見受けられたようだ。
それはセイメイ達が参加するということが情報が流れて向こうにも何人かMIKADOのメンバーも参戦するという情報が入ってきたようだ。
「ほう、それではかなりの激戦が予想されるわけだな?で、勝率はどうだ?ルカのスーパーコンピューターの計算は??」
「すーぱー?よくわかりませんが、本来の勝率であれば、38%でありますが55%とそれなりに勝算はあるようですね」
「ん?なんでだ??」
「私がいるからです」
「いるのに55%とか低くない??」
「残りの45%は不特定要素がありすぎるのと戦力が本来であれば、5:5であるにも関わらず、マスターの参戦や外部要因が多すぎるため、少なめの算出となっています。」
「多めの算出は??」
「多め?んー作戦内容によりますが、時間いっぱい戦うという名目で持久戦ということであれば、75%までは引き上げることは可能です」
「高いじゃん!!」
セイメイの顔から笑みがこぼれるとルカはすぐさま釘を刺すかのように留意する。
「あくまで、持久戦です。それでは結局“引き分け”で終わる形になります。それに拠点戦は2時間のみですからね。占領戦とは勝手が違うのです」
「たしかに。今回は何が何でも勝つという事が最終的な結果を欲しているからな」
セイメイはまた負けられない戦いが出来たのかと思い、表情には出さないものの、少しセンチメンタルになっていた。しかし、それは、勝利というものは自分のためだけにあるものではない。周りが求めているものでもあると考えていた。そのため、今までの自分は邪魔なもの、かかる火の粉を払うために勝つというマイナスからのスタートだった。今回もそうなのだ。誰かのための勝利を目指せなければならない。負け組のままではいけないと自分に言い聞かせてその言葉を飲み込み、目が合った雲海の戦士に親指を立てて笑顔を送った。
「さてこれから作戦会議だ。ルカ、力を貸してくれ」
「望むままに……」
二人は雲海のメンバーのところに歩いて行くのだった。
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~ユグドラシル・アースガルズ~
「あなた方はオケアノスの方々かな?」
白騎士は玉座から少し離れた場所におり、そこから声をかけてくる。
「ええ、いかにも。今回はヴォルフガング殿との謁見に参った次第です」
「ほう、謁見とはな。それで、今回はどのような内容あるのかな?」
「今現在、我がセントラルを預かる身ではありますが、ここユグドラシルが脅かされようとしている情報を聞き、御ギルドにいち早くお伝えするべく馳せ参じたところです」
ソロモンは目の前にある階段の上、数段上にいるヴォルフガングらしき者に向かって言う。
するとヴォルフガングは顔を歪めた様な雰囲気を醸し出し、ゆっくりと階段を下りてくる。
周りには並んでいるアーカードをはじめ、ギルメン達が追従するかのようにソロモン達に圧をかけてくるようだった。
「ここまできて、まさかのガセをいいにくるような計略をする必要性もない。出処は?」
セルが前に出て言う。
「そりゃちと企業秘密だが、現時点でおたくの№3とやらが存在するのであれば、そいつが騎士団の反逆者だぜ?」
セルはニヤニヤしながら、白騎士に向かって言う。
「ヴォルフガング殿……?ではないのかな?“白狼のヴォルフガング”と名高い人がいるのだが、それはあなたの事ではないような気がしてきたぞ?」
感づくソロモンに白騎士は問う。
「ほう?なぜそう思う?」
「さぁ?あくまで噂は“白狼のヴォルフガング”であり、それが同意義の白騎士があなたであるとは限らない」
「え?違うの?え?まじ?」
カルディアとピピンが驚いていたが、ソロモンはそれを横目に話を続けた。
「秘密主義、執行者、白狼、イザヴェル騎士団のもっとも強みであり、鉄壁を有するのはこの3つが強みである。秘密主義である意味は情報を漏らさない事により、敵軍への情報が一切回らず、勝つことはなくても負けることはない。“鉄壁の情報網”が今日まで敷かれていること。執行者として白騎士のあなたが何よりも証拠、初見の私達には威厳のある白騎士を前に出すことにより、執り行うと見せる。これも秘密主義における代理人による会談だ。白狼を一目見ようとする者もいるだろう。しかし、白狼の名づけるだけのものがここに存在しない。“白”がいても“狼”がいない。それが私の答えだ」
「ふむ……」
白騎士は少し考えていた。すると、騎士団の整列を促す。
「整列ッッ!!」
城内に響き渡る号令をかける。
「剣を抜け!」
シャキン!シャシャシャシャキン!
「剣を胸にささげ!」
整列した騎士達は道を作る。
「勇敢なるオケアノスの一行よ、イザヴェルの名の下に連れて行こう。さぁくるのだ!!」
白騎士はソロモン達を睨むように奥へと案内される。アーカードに向かって白騎士は何か話し込んでいたが、そのまま奥に通されていくのだった。
~玉座裏の別室~
そこは関係者以外立入禁止のゾーンに指定してあるようになっており、任意での入室ができないようにしてあるようだ。ここにきて、ようやく白狼に出会えることとなる。
「マスターよ、お目覚めですか?」
白騎士が膝をついて様子を伺うように話しかける。
「うむ。良いだろう」
奥には白銀の亜人がそこにはいた。美しい毛並みを靡かせてこちらを見つめている。
「聞いていたぞ?ソロモン殿」
「白狼……って亜人だったのか!」
驚くソロモンにヴォルフガングはいう。
「まぁ誰にもこの姿を見せたことはないですからね。それより、どうぞお席に……」
「あ、はい。失礼します!!」
慌てて席に着くソロモン、それに追従するかのように一行は席に着いた。
「さて、ソロモン殿、我がギルドへの有益な情報を提供してくださり、誠にありがとうございます。今回はプレミアが攻め込んでくるということでありますが、あなた方にはむしろ好都合のはず。なぜそのような情報を??」
「単刀直入に申し上げます。我がオケアノス率いる連合に轡を並べて頂きたい」
白騎士が聖剣に手をかけようとする。
「キサマッッ!!情報を流すから軍門に下れというのか!?」
「落ち着け。この“白騎士”がいう内容に間違いはないのか?それがセイメイの判断なのだな?」
「違います。我がマスター、セイメイは同盟といっております」
「ならば!!使者を遣わすとも、本人がきて直々にいえばいいのではないのか?」
「それが本筋だと思うのですが……マスターが肝心な時に別の案件でどこかに行ってしまいまして……」
「話にならんではないか!!」
「まぁそう熱くなるな。白騎士。お主もその兜を外したらどうだ?」
「は、はい……」
兜を外すと白い髪を靡かせていた凛々しい女騎士がそこには座っていた。兜を取った白騎士はにやつく男性陣に向かってキリッと面と向かって言い放つ。
「フン、女のアバターだからだと思っていると痛い目にあうぞ?」
「まぁそんなにイキリ立つな。すまない、ソロモンさん。我が弟なのだよ」
「な、なるほど!?」
「姉である私に少し感化されている部分もあるので、落ち着かせよう」
「姉??」
「ああ、そうだ。イザヴェル騎士団は私達、姉弟でギルドを運営しているのだ。これを知っているのはごく少数、数人しか知らない」
「そうなんですか……」
「それはそうと、同盟とはまた不思議な事だな。プレミアと組んで、ここ、ユグドラシルを制圧も出来たのではないか?」
「ああ、そこなんじゃが……。ちょいと因縁めいたものがあちらにはあるんでね。どっちかというとイザヴェル騎士団の方が……なんちゅーか、正々堂々、真っ向勝負をしそうなイメージじゃな?」
「おい、オッサン。ストレートにいえよ。バカ正直だってな!!」
「この野郎……」
セルが煮え切らない態度だったソロモン達の会話に水を差す。
「まぁ落ち着けセルよ。今はワシらとの交渉じゃて?お主は最後の切り札じゃぞ?」
「フン。……で、どうするんだ二人共?このままいけば、内部から崩されて俺らも介入せざるを得なくなる。それは本心ではないはずだ。同盟を組むというのはシステム上は出来ないが、口約束レベルだ。
条件も何もない。こちらが困ったら援軍をよこせという事も今のところこちら側は要求を出していない。出すとすれば、不可侵条約に近い。内容はザックリ言えばこんなモンだ。さぁ答えを聞こう。難しい話じゃない」
セルはソロモンの交渉の主導権をぶんどるように、答えを請求していった。
まるで、焦らすかのように―――
セルは黙り込む二人をみて煮え切らない態度だと判断すると、セルは立ち上がりテーブルにダン!と手をつき二人に対して、「さぁどうすんだ」と言わんばかりに睨み付け答えを催促するようだった。
ヴォルフガングは閉ざした口をようやく開くのであった。





