第172話「包囲網からの脱出」
「貴様ら、どこの所属か言え!」
アーカードはいきり立つギルメンを抑えながら、問答をしかけてくる。
「おまえ……」
カルディアがつっかかろうとしているところをソロモンが止める。
「我々はオケアノス、副長?副マスのソロモンだ。他のモンはただの付き添いじゃ。ちなみにお主とは対等の立場じゃ。そして、どうか我々の意見を聞き入れていただきたい」
「付き添いだと?」
「ったく、この期に及んでなんでそうなるんだよ」
カルディアとセルが呆れたガヤを入れていく。
アーカードはチラッとみて眼光を見据えている。
「返答次第では貴様らをここでPKする。いいな?」
「それはそれで構わんが、少なくとも込み入った話になる。どうせなら、このまま、おたくのギルマスと交えて話がしたい。事態は込み入った事になっている。それと今の現状打破するために明確にいえるのは、あなた方のギルドと共闘の姿勢があることをここでいっておこう」
「な、なんだと??」
アーカード率いるイザヴェル騎士団のメンバーは動揺し始めた。
「これはワシ一人の判断ではなく、我がマスター、セイメイの判断であることを付け加えておく。そのための使者のポジションだと言ったほうが明確になるんじゃがの?」
しかし、イザヴェル騎士団のメンバーは声を揃えて反対の声をあげていた。
「成り上がりのギルドが何をいっている?俺らはお前の力なくても防衛してきたんぞ!?」
『そうだそうだ!』
「こいつら……!!」
「事が起きたら、戦意喪失するくせに……」
カルディアとピピンが愚痴をこぼした。
「本来なら、ワシらもそちらに攻めてもいいんじゃがの?お主らに万が一、勝ててもプレミア率いるマグナカルタに勝てる勝算はないんじゃがの?」
「なんだと!!?喧嘩売ってんのか??ゴルァー!?」
「アーカードさん!こいつらやっちゃいましょう!?わからせるしかねーべ!?」
セルがたまりかねてキレ始める。
「さっきから雑魚共がうるせぇな!!?アーケードに許可されないと、攻撃しかけらんねーのか?あぁん?」
「おいやめろって!ゲーセンじゃねーぞ!?」
「こっちはそんな人間できてねーんだよ!こんな話の分かんねー連中なんざ、とっととマグナカルタにぼろ負けして野に落ちればいいんだよ!」
「そんなこといったら元も子もないでしょうよ!!」
「ていうか、よりにもよってゲーセンって……」
ヒルレインが呆れていた。怒り狂うセルはピピンとスカルドに諫められる。
互いの暴言に耳を傾けるような物腰でいたアーカードは、煽っている仲間達を静かに聞いていた。
ソロモンはそれでも交渉を続けていく。
「外野はともかく、ワシらはイザヴェル騎士団には落ちてもらっては困る。地形的にも戦力的にも増幅したマグナカルタを叩く自信が今はない。で、戦力がないなりに模索した結果、イザヴェル騎士団と共闘の姿勢をとったほうが、セントラルもユグドラシルも安定するということじゃな?双方の利益一致は同意できると思うんだがの?」
アーカードはソロモンの言葉に耳を傾けていた。しばし、考えたのちに深呼吸をしたあと、言葉を吐き出した。
「わかった。とりあえず、ヴォルフガングさんに面通ししてもらおうか?これはギルド方針にも関わる。お前ら、文句あるやついるか?あるなら、俺に勝ってから聞くぞ?」
「……」
シーンとしてしまった。どうやら、この男、相当腕が立つと思われる。
スカルドはアーカードの左手が聖剣の柄に手がかかっているのがわかった。
ーーーこの人、メンバーを除隊させたら、すぐに殺す気だわ!!
焦るスカルドをよそにソロモンは恐る恐る足を前に出して、ヴォルフガングのいる城へ向かう事にした。
「異存はなさそうじゃな?では、ヴォルフガング殿との会見といこうか」
一歩踏み込むと前に出て馬を回し誘導するような陣形を取ると、ソロモンは胸をなでおろす。それと共にギルメンらの顔をみて安堵の表情を浮かべた。
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~ユグドラシル・アースガルズ~
ここを説明するのも烏滸がましい。もともと、北欧神話に出てくる王国である。ここには精霊王ユグドラシルの加護のもと、エルフをはじめ、亜人種達の故郷となっている。イーリアスに出てくる逸話ではここから外界のあたる東西、並びに南は人の住む場所、外界とされている。
その外界に遊びに行った妖精や精霊達は人間と出会い、聖剣や魔剣を生成するヒントを与え、迷える人間達に英雄を生ませ、争いのない統一された世界を齎したともされている。
もっと時代を遡れば、神々がいた頃、人間は今よりも愚かで直情的であったとされ、神による統一された世界に生きらせていた。しかし、神々の争いによる“ラグナロク”によると、神々も巨人族との戦いにおいて、ほぼ死に巨人族も死に絶えた。神々は精霊王ユグドラシルに託し、この世を去った。また、巨人族の末裔として、ストライカーを主とするアマゾネス、ジャイアントといった偉大なる力を失った異邦人達も共存共栄をはかっている。
そんな王国を統治する冒険者であり、代行者は名前にふさわしい北を制圧したイザヴェル騎士団の団長こと、ギルドマスター、ヴォルフガングである。職業は聖騎士、彼の剣は聖剣グラムである。
ちなみに元ネタは、古エッダの英雄譚に出てくるファフニールを討伐に使った聖剣であり、シグムント王より受け継ぎし英雄ジークフリートはファフニールという黒竜を葬ったとされた竜殺しの剣である。
また、この物語にちなんで出てくるアイテムとして出てくるのは、竜の血を舐めたジークフリートは血を舐めたことにより、賢くなり鳥の声すらも理解できるようになったとされている『竜の血』である。
セントラルにおける竜の報酬には竜の血の報酬があり、消費物で存在するが、レア度が高くまた戦争で使うにしてもあまりにも場面を選ぶということで、占領戦や拠点戦前には売り切れが続出、かつ高価な値段での取引が行われるため、なかなか市場に出回らない。だが、ひとたび戦場で使用すれば、20分間のみ無双のような力を手に入れて、プレイヤーが紙のように容易く切れるほどの力を持つということでもある。
だがこのアイテムにはデメリットがある。だから、場面を選ぶということでもあるのだ。
さて、本章に戻ろう。
ソロモン一行は城に案内されると、玉座の間に通される。そこには暗黒騎士のようないで立ちだったのだが、鎧は白く金の装飾が施されている。
―おい、爺さん。あいつ相当強いぞ?
ピピンからwisが飛んでくる。
―あの鎧のせいか?
―あの鎧見たことないのか?アイオリアの鎧にそっくりだろ?
ソロモンは一歩一歩近づくにつれて、アイオリアの鎧と似通ったデザインなのは、職業に応じて微妙に変化しているからだと気づく。
―ああ、似てるなぁ。
―こいつは……正真正銘のトップランカーで……エースだッッ!!





