第171話「追う者、追われる者」
~地下道~
レオとアイリーンは、埃に紛れている微かな痕跡を追い、地下道を進んでいく。時折、地上からの日光が漏れるようになっていくと次第に足跡は新しいモノへと変わっていった。
「ねぇ、レオ?ここから早く出たいんだけど、彼はどこまでモグラみたいな事をしているの?」
「ああ、俺もそうしたいのは山々だが、奴さんは待ってくれないからな?先を急ごう」
「早く出れるといいわ……」
閉鎖された空間に置かれた自分達にアイリーンはメランコリックになっていたが、レオは意に介さずドンドンと進んでいく。
すると、太い配線の先に見えてくる大きなターミナルホールが見えてきた。近づいて、少し古びた案内プレートを見ると、とある建物の地下に入った事に気づく。
「ここは……!?」
「銀行か役所のような建造物の真下に位置する場所だ」
「え?」
「更にこの下に空洞がある。これは地下水道が広がっている。ちなみに異臭が上がってこないのは、穴が大きいためだ」
「この街って穴だらけなのね?」
「地上に電線がないのは、景観をよくする為だろ?それにどうせ穴を地下深く掘るならってことで出来たのもあるかもな?」
「このあとどうするの?足跡はないわよ?」
「君ならどうする?追っている・追われている身のプロファイリングをお願いしたいね?」
「犯人が私なら、地下にはいかないわ。万が一、死んだ時の死体処理に手間を取らせないなんて、自ら棺桶にダイブするようなモノだしね」
「じゃあ、上にいくと??」
「人前ならば、人込みに紛れたり、隠れる場所があるからね」
レオはゆっくりと歩き、地上へ上がる梯子のような物体の前に立つと、天を指していう。
「さぁ…地上の楽園へ上がろうか…?」
そして、二人は梯子をのような足場を上がり、地上へ這い上がる羽化するために這い上がる蝉のように地下から地上へと昇ろうとした。
アイリーンの視界に映ったのは、うっすらと積もった埃が大人の足の幅だけ綺麗に残っていた。
~地下中継地点~
壁についている梯子を上った。だいぶ深くまで降りてきたようだ。そして、目の前には、緩やかな螺旋階段が設置されており、上を見ると空が見えるのかと思ったが、無機質な天井からライトが差し込んでいただけだった。しかたなく目の前にある階段をゆっくりと一段一段登っていく。
すると、階段の先にはドアが立っていた。
ドアの鍵が設置されている。内側からも外側からもカギで開けるようになっている仕組みで、ドアの外枠の周りには棘のような返しが設置されている。無論、鍵がかかっているので、開くことはない。
「ちっ……そううまくはいかないな」
「これ、電子キーじゃないのね?」
「そりゃそうだろ。洪水などでここが浸水したら開かなくなるだろうしってそんなことより、少なくとも住居区画ではないという事ぐらいはわかるんだがな」
「なんでそういえるの?」
「仮にここの上が住居区画であれば、こんな大きな穴を掘る許可がいるはずだ。また、大きな建造物であれば、地盤調査を行ったうえでの地盤改良など行ない、建築設計を行わなきゃいけないってもんだよ。これを下に設けているという事はそれ相応の場所でなければならない。そう……ホテルやそれに準ずる規模の施設だ。セキュリティ面でもしっかりしている建造物で、高さもそんなにないモノ…だな」
「ちょっとまって!レオ!」
「なんだ?なんか面白い冗談でも思いついたのか?」
「もしかしたら、空港なんじゃないかしら?私達はだいぶ歩いたわ。それに隣に併設するかのようにカジノもあるわ?」
レオは少し考えた。すると血の気が引くような形相をし、焦りだした。
「おい!アイリーン少し離れろ!!強行突破するッッ!!」
レオは銃を取り出して鍵穴に銃口を向けて数発打ち込む!!
銃弾は鍵穴横、デッドボルトを破壊し無理矢理開錠させた。
「まったくクレイジーな事をする人ね!?映画みたいな事をする人だなんて思わなかったわ!!?」
「俺もだよ。鍵屋と君のクレームを聞く時間はないのでね!先を急ぐぞ!!」
重いドアのレバーをグンと押し下げてドアを引き、地上への螺旋階段を再び登っていくとまた同じようにドアがあったので、先ほどと同様に鍵を壊していく。
「一度やったら、止まらない。まるでドラッグみたいね?」
アイリーンは呆れてレオの背中に愚痴を溢していた。
「今は時間が惜しい。あとで請求書が上がってきたら、うまくやってくれ」
「まったく、それに見合うものがないと出来ないわよ??」
「そうか?じゃあ……」
レオはアイリーンの唇に向かって自分の顔を寄せていった。
「……。…、……ンンン、ちょ!ちょっと!!!」
「すまん。今はこれしか出来ない…先を急ぐぞ!!」
レオはとある地下室に入った事を確認し、次のフロアに上がる階段かエレベーターの場所を、廊下の標識を確認しながら調べていた。
「レオ!こっちに階段が!?」
「まて!非常階段だと何度もキーロックを解除しなきゃならない!!エレベーターの方がまだ楽だ」
「階段を昇るのに疲れちゃったの?」
「違う。エレベーターの端末からコイツで進入して疑似的にロック解除して地上に上がる!」
レオは端末を取り出してエレベーターの端末に接続すると、自動解読を行い予めもっていたフリーのカードキーを生成した。
「なんでそんなをあなたは持っているの?」
「これだけじゃない。車のオートロック解除や偽造ID、この国で蔓延る正義の傘に隠れた悪を炙り出すには色々とスパイのような小道具が必要なのさ。コンピューターにメンドクサイ事を押しつけたニンゲンの抜け穴を利用しているに過ぎない」
レオをみてため息をつくアイリーンをしり目にエレベーターのフロア解除が成功する。
そして、1Fの押ボタンを押しドアを閉める。
「……そもそも、彼がここを使って上がったという痕跡はあるの?」
「ないだろうな。だが、どっちにしろ奴は上に上がったのは確かだ。どのような手段を使って脱出したのかは、見ててわかるだろ?奴はこうなる事を見越して脱出路を確保していたのだ」
「彼は弁護士よ?こんな違法行為を彼がやれば、資格は愚か裁判にかけられることは間違いないわ!?」
「だろうな。それでも、ヤツにはヤツなりに追っかけている別の案件があったんだろうよ…。じゃなかったら…メアリーの件を今更、俺に聞き返すはずがない……」
「…………」
レオはフロア表示される画面を見つめながら、アイリーンの質問に答えていた。
1Fにつこうとすると、二人は銃を構えてドアが開くのを待ち構えていた。すると、黒ずくめの男達が立っており、こちらに銃を構えていた。
「銃を下せ!!」
黒ずくめの男達はレオ達に怒号混じりの警告を促す。
―――ちぃ!!こんなところでッッ!!
チラッと横を見ると、そこには痛めつけられたリチャードが腕をカタめられていた。
「うっ、レオか…面目ねぇ……」
半開きの目でこちらを見ていた。
レオはそんな姿を見せられて、憤りを感じたが勝てない戦いしないという手法をとり、いったん彼らに屈する選択を選んだ。
「わかった。とりあえず、命の保証と聞きたい事を話そう。それが条件だ。俺らを消すこともあるまい。相手が悪いぞ?こっちはFBIがいるんだ。そうそう消すにはお代が高いと思うんだがなぁ??」
そういいながら、銃を地面に落として両手を挙げていた。
「俺らにそれを決める権利はない」
そういうと、レオ達に目隠しをして、近くに停めてあるであったであろう車に乗せるのであった。
~???~
どれくらいだろう。一時間は立っていない。エレベーターのようなモノに乗せられる。耳がキンとなり、つばを飲み込んで解消さえた。そんな場所に両脇を抱えられながら、とある一室に通された。
そして、レオの目隠しを外すとそこには見慣れた男が立っていた。部屋はサンノゼが見渡せる。ホテルの一室のような場所へ案内されていたのだった。
レオはその男を睨みつけ、グッと奥歯を噛みしめて憎しみ目を向けていた。
「ほう。中々いい目になってきたな」
「黙れ!!ママを殺した殺人者めッッ!!」
「それがどうした?息子?」
「クソッたれがぁぁぁあああ!!!」
部屋中に響き渡る憎悪の叫びが響き渡っていた。





