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負け組エリートのギルドマスター~VRMMORPGで復讐主人公は最強を目指し全一ギルドをざまぁする~  作者: 齊乃藤原
第伍章【青は藍より出でて藍より青し。氷は水これをなして、水より寒し】
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第170話「追憶」

 ―――翌朝、


 外は曇天の空で今にも雨が降りそうな空模様を描いていた。

 眠り疲れた二人はとある音で起きる。それはケータイの目覚まし時計だった。


「ああ…、うるせーな…。明日だぞ仕事……」


 寝ぼけ眼で炬燵の上においてあるケータイの目覚まし時計を止める。そして、目覚まし時計のアラーム止めて再び眠りにつこうと炬燵の布団に潜ろうとする。そして、座布団を枕代わりにして瞼をいったん閉じて何事もなかったように二度寝しようとするが、一瞬視界に何かの違和感を感じずにはいられなかった。


 そして、薄っすらと瞼を開くと、そこには女の寝顔が横たわっており、また、炬燵はほんのりと暖かい温度の調整がされていた。


「お、おい……なんで、お前が??ここで寝ているんだッッ!?」


 まだ夢の中にいるクリスを揺り動かす。


「今日は、…私はおやすみなんです…お兄ちゃんは仕事勝手にどうぞ……むにゃむにゃ」



 ―――俺はお前の兄貴じゃあねぇぇッッ!!



「く、クリス?起きろ。ていうか、こんなところで寝たら風邪ひくぞ?」



 ―――特大ブーメランッッ!!!


 自分は炬燵で寝るといった以上、それを相手にいうのは自分にも言えたことなのだ。頭を抱えていると、ようやく目を擦り起き上がるクリスに声をかける。


「朝だぞ?っていっても、もう10時だがな?」

「あ、そうなんだ……って!!セイメイさん!!??」

「ああ、なんだ?おまえひょっとして自分の家にいるつもりだったのか?」


 ガバッと起きると昨日と同じ服をきて胸元が少しはだけていたのをみると、慌てて隠す。そして、昨夜眠さのあまり、炬燵の中に一緒に入っていたのだった。


「私の胸…!!どさくさに紛れて触りましたね!?」

「ちょっとまて!!触ってないし!そもそも俺は……!!」

「あ~そっか……!!」


 二人は下向き黙り込んでしまった。


 クリスはしたり顔でセイメイの顔を覗き込む。


「ウッシッシ!!昨日はセイメイさんのうぶな表情が垣間見れてラッキーでしたね!」

「ああ??お前からっ!!……してきたんだろうが!!」

「殿方からする時代はとうに過ぎましてよ??ホホホホホ♪」


 まるでスカルドが乗り移ったような喋り方をしている。


「どこからそのキャラ出してんだよ!!」

「それよりも!セイメイさんの味はほろ苦いコーヒーの味でしたね♪」

「お、大人を茶化すな!!」

「残念!!私も大人の部類ですよ?」


「生意気な事いってんじゃあねーぞ?牛みたいなクセに!!」

「はぁ??少しくらい胸が大きいからって失礼ですよ?!」


 まくし立てているクリスに、セイメイはクリスの胸をツンとつつく。


「ちょっ!もう!!ヘンタイですか!?」

「ほらな?牛じゃねーか!!」

「な!?もう!あ・・・!なに?なんなの??揚げ足取りの天才ですか!?フン!!もう知らないんですからね!!」


「はははははは!!!おまえも!こりねぇ…はははは!!」


 セイメイは笑いのツボに入り、爆笑して転がっていた。


「そうやって!!乙女の純情を弄ぶんですか!?ううっ……」


 クリスは泣き出してしまうとセイメイはまずいと思ったのか少し弱腰になる。


「わ、悪かったよ。すまんな……」

「本当に悪いと思ってます?」

「ああ、思っているよ?」

「本当に本当に思っている?」

「ああ、思っているさ!」


「じゃあ!!お見舞いのあとにお詫びとしてカフェいきましょうね♪」


 泣いていたクリスは満面の笑みを浮かべる。


「こいつ……ウソ泣きなんぞしよってッ!」

「女の武器はピンポイントで使用し、戦況を優位にするんですよ?覚えておいてくださいね♪」

「一瞬でも信じた俺がバカだったよ!クソが……」

「まぁまぁ気にしない♪気にしない♪今回は可愛いものでしょ?」

「チィ……今回は騙されておいた方がこれ以上、傷を広げなさそうだ。手を打つか……」

「わーい!やったぁ!!」


 クリスは子供のようにはしゃいで笑っていた。


 女というものはかくも恐ろしい生き物だ。時には女神のようであり、時には鬼のように恐怖を感じる。この表裏一体の必殺技をここぞとばかりに繰り出してくるのは、本能から来るものなのだろう。セイメイは改めて女性の恐ろしさを知ると同時に、笑顔という餌に釣られ、奥底に眠る毒に冒されずにはいられない生き物が男であると、自覚するのであった。


「さて!それじゃあ本題のお見舞い、いきましょうか?」


 クリスは炬燵から出るとすくっと立ち、ハンガーにかかっていたコートを取り出した。


「も、もういくのか?」


 準備が出来ていないセイメイは慌てて自分のジャケットに手をかける。


「そりゃそうです。今じゃないとダメなんです。それも早い段階で……」

「……?お、おう」

「な、なんかよくわかんないけど、やれるだけの事はやってみようと思うよ」

「ええ、その意気です!」


 セイメイは自転車を取り出し、この年になって二人乗りをした。



「まさか、この年になっても()()()するなんて思いもよらなかったな」

「まぁいいじゃないですか?警察が見てなければ、良いですから♪」

「おまえ……そういう交通違反に対しての意識の希釈が自己都合っていうのがなんとも許せんな……」

「セイメイさんも同罪ですからね?一心同体です!」


「そうかい??」


 道を知り尽くしているセイメイは、警察が巡回していないであろうルートと車通りが少ないルートを瞬時に割り出して駅へ直行するのであった。




 ――――――――――――――




 電車に乗り、昨日使った路線を辿る様に病院へ向かった。

 クリスと二人で、自分の問題、事柄に触れた事は一度もない。今回は何かが違う。徒労に終わるかもしれないそんな予感も残しつつ、セイメイは導かれるように()()()()が担ぎ込まれた病院へと向かう。



 ~都内某所にある病院~



 昨日の事だ。ここにセイメイはただ衝動的にここにきて何も出来ない自分を無力とわからされた場所だ。どうにもならない。そんな状況だ。資格も持ち合わせていない。ただ気持ちだけが先行し、カラ回るというなんとも情けない自分を思い出さずにはいられなくなり、今すぐ立ち去りたい気持ちにもなった。


「セイメイさん、少し待ってくださいね」

「あ?ああ……」


 ロビーで待つセイメイをおいて、少し離れたところに座るクリスを不思議そうに見つめた。

 クリスはタブレットPCを取り出し、何かを調べている様子だった。そして、タブレット端末を肩からかけていたバックにしまうと、ゆっくりと立ち上がり辺りを確認しながら、セイメイに近づいた。


「セイメイさん、わかりました」

「なにがだよ?」

「セイメイさんのお師匠さんの部屋です」


「どうやって調べた……ッッ!!」


 セイメイはクリスの手首を掴み、ギンっと睨みつけた。


「セイメイさん、私もこんなことをやりたいと思いません。ですが、ここで踏ん切りをつけないとあなたはまた抱え込むでしょう。私がハッキングで捕まるなら、それもわかってやったことですからいいんです」

「馬鹿野郎……!!俺はそんな情報で行く気はないぞ!?」

「といっても、私が直接下したわけではありません……」

「てめぇ!!ルカを使ったのか!?」

「そうでもしないと!あなたは何も前に進めないでしょう!?」


「このッッ!」


 立ち上がり、掴んだ手首を引っ張り無理やり立たせると廻りの視線がセイメイ達を包んでいた。


「…セイメイさん、痛いです…、それに、ここまで来たんです。私が取得した私の独断です。後で罪は償いますから放してください……」


 小声で話すクリスをセイメイは恫喝するのを躊躇ためらった。それは周りの目を気にするという心理状況がセイメイの怒りの足かせとなっていた。セイメイは手を放し座っていたソファに座り込む。


 平常心を取り戻した二人をみた人々は視線が逸れて乱れた空気が落ち着きだす。


「おまえ……やっていい事と悪い事くらいわかるだろ?」

「わかりますよ?今はそんな細かい事を気にしている場合ではありません!」

「細かい事だと?ハッキング行為が??」

「厳密には私がやったわけではありません、あくまで()()()()()()()()()()だけです」


「モノは言い様だな……それで、ここまできて、俺も共犯者に仕立てあげたんだ。俺はここで引いても押しても変わらんのだろ?」

「それはセイメイさんのいう罪というの意識の感覚で、見方を変えればグレーゾーンの出来事として、処理してください」


 クリスは真剣な眼差しでセイメイの目を見ていた。セイメイはその熱意というと綺麗事だが、そこまでする姿勢に根負けして話を進める様にクリスへ促した。


「わかったよ。乗り掛かった舟だ。後戻りはできない。案内できるのか?」


クリスは静かに頷き、病棟の方へ足を向けた。セイメイは覚悟を決め、一歩一歩噛みしめながら目的の病室へと歩を進めることにした。

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