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負け組エリートのギルドマスター~VRMMORPGで復讐主人公は最強を目指し全一ギルドをざまぁする~  作者: 齊乃藤原
第伍章【青は藍より出でて藍より青し。氷は水これをなして、水より寒し】
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第169話「コネクター」

 食事を終えたセイメイはクリスとぼーっと深夜のお笑い番組を見ている。しかし、瞼が重くなってきたクリスを見て自分のベットで寝る様に促す。

 セイメイは炬燵で寝るといい、自身も眠いのでそのまま炬燵で寝る事にする。しかし、ふと目が覚醒したクリスはセイメイに話しかける。


「ちょ!セイメイさん!」

「んだよ…今日は疲れた。眠すぎて()()()()()面倒になってんだ。寝かせろ」

「それはそれで女性として辛いんですけど…ってちげーわ!!」

「ったくなんだよ。大声出すなよ!近所迷惑だろーが……」

「先に言っときますけど!!セイメイさんは……無力じゃ…ないですからね!?」

「なッ!いきなりなんだよ……」


 眠い頭を起こす様に寝ていた身体をベットにもたれかかる様に起きる。


「私を拾った時、兄を助けた時、色々な場面であなたは色んな人を救っています!」

「いきなり何を……そんで??」


 テーブルの端に置いてあったタバコに手を伸ばし咥えたが、クリスが来ているので火をつけるのをやめた。


「仮に俺がそうだとしても、いざという時に大切な人を救えなければ何も意味がない。それに、ゲーム上で救う事なんてザラだろ?あんなのは気まぐれ以外の何物でもない」


「その気まぐれで人が救われて感謝している・恩義を感じている人もいるわけですから、もっと自分に自信をもってください!私には!!自信に満ち溢れ……仲間を救おうとしているセイメイさんが!!大好きなんですっ!」


 目頭抑えて、目の眠気を取る。そして、あーっと声を出し話し始めた。


「それでもな、どうにもならない事がこの世の中に存在するんだよ。抗うことも、逃げる事も叶わない。どうしようもない状況…、自分も、相手も、救いようのない状況ってのがな……」


「だから、それはみんなで力を合わせれば、一人で出来ない事でも出来るかも知れないじゃないですか!?」


「自分の問題を他人に迷惑かけて巻き込んで結果が得られなかった時、どう申し訳をするんだ?サーセン!できませんでしたー!って間抜け面して言えと?」

「そうならないように、みんなが納得する結果を出せばいいじゃないですか!何事もやり切る事が大事なんじゃないですか?」

「お前に何がわかるんだよ!!」


「わからないです!!」


「な……んだと!?」


「わかるように!力を合わせるから意味があるんじゃないですか?やりもしないで限界を自分で決めて、他人を頼る事もしないで……それで踏ん切りがつくんですか?後悔…しないんですか!?」


「大人は……諦める事も大事だと学ぶんだ。そういった処世術で人を捨てていく。それが社会だ」

「それは()()()()のする事でしょ?私たちは私達で時代を作ればいいじゃないですか!?」

「それが出来るのは力を持つほんの一握りの人種だけだ!俺のような負け組に何が出来るッ!?」


「あなたは負け組なんかじゃない!!負けを認めるのは挑戦することを諦めた時や志半ばで倒れた時だけです!!今はまだ戦っている!!あなたにはあなたにしか出来ないモノがあります!」


「偉そうにいうが!お前に俺の何がわかるってんだよッ!」


 咥えていたタバコをTVの画面にに投げつけた。その瞬間、我に返り背中に冷たいものが走る。まだ、火がついてないだけよかった。火がついていたらとんでもない事になっていた。自責の念がまだセイメイに容赦なく襲い掛かる。


「すまん……今日は帰ってくれ…。タクシー代は俺が出す。わざわざ会いに来てくれてありがとう……」

「帰りません」

「はぁ??」

「帰らないと言っているんです!今日、セイメイさんは何をやってましたか?」

「お、お前に関係ないだろ?」

「いいえ。私が知らないとでも思っているんですか?」

「おまえ……まさか!!ルカからッ!?」


 クリスは大きく息を吸いふぅーとため息をつき、もう一度セイメイの目を見る。


「お見舞いに…かけつけたんですよね?」

「あぁ……あれは、お見舞いなんて大したことじゃない。ただの野次馬だ」

「セイメイさんは飛び出したあと、私は色々情報を頂きました。……明日、もう一度()()にいきましょう」


 セイメイはそこまで知っているのかとクリスに見透かされている事に気づく。


「チィ…なんでもかんでもお見通しかよ……いけ好かねーな」

「私は別に…セイメイさんの弱みを握ってどうこうしようというわけで来たのではありません。ただ……」


「ただ??」


「そんな自分を追い詰めなくても、人は誰かを救い、誰かを助けられて生きているという事に気づいてほしいのです。例え今回はその人を救えなくても。別の人を救ってあげれば、無力である0(ゼロ)ではないと思います。セイメイさんは関わった全ての人を救おうとするから潰されてしまうんです。出来る限りの範囲で人を救えばいいと思うんです。


 少なくとも……私達、兄妹きょうだいの絆は深まりましたし、イーリアスでいえば、ギルド内の結束はより深まっていると思います。人と人とを繋ぐ・繋ぎ止める事が出来るのはセイメイさんの特別な力だと思います。だから、明日、知ってしまった情報のもと、出来る範囲の事をしてあげればいいと思います。あなたのやるべき行動は人を繋ぎ止め、新たな力を生める力だということです」


「そんなわけ……」


「そんなわけない!と仰りたいのはわかります。でも、自分では気づかない特別な力や能力は、ゲーム世界に限った事ではありません。年収で勝った負けたというのであれば、()()()()の創業者()()()を目の前に勝ち組だと言えますか?ええ、そうなんです。全て無に等しくなり、そんなものを作り出したのは、市場価値での値踏みしかないのです。真の勝ち組は、人に必要とされ、愛された者が真の“価値組”であると、私は思います」


「なんだよ。オマエ……。一見、バカぽい天然キャラ装っておいて、理論立てて俺を説き伏せようなんて、中々の策士だな?」

「いいえ。これは兄からの受け売りをスピーチ化しただけですから……」

()()()()()だな。いっそ、政治家にでもなればいいんじゃないのか?お前ならそこそこいい線の女性議員になれると思うぞ?」


 セイメイは皮肉交じりにクリスの説得を躱す様に返すと、クリスは更に食い下がる。


「食えるか食えないかといえば、私はセイメイさんの事が大好きです」


「は??おまえなにいっ……」


 涙を浮かべながらセイメイに訴える。


「あなたは人を信用していない。でも、私はあなたを信用したい……!でも、このままだとずっと一人で何もかも抱えて誰も信用しないで、心を閉ざしたままどこかで野垂れ死んでしまい兼ねない。そんなの私には耐えられない……!」


 頭を掻きだすセイメイは、辺りを見回してすっとティッシュの箱を渡す。


「まぁ泣くなよ。俺は女の涙すら信用しないとも決めたんだ。ただ……仮に、今クリスの言葉が本当なら、俺も大分()()が廻ったか、夢を見ているようなモンだ」

「そんな!わたしは!!」

「ああ、普通に考えれば、夜、男の部屋に上がれば男はケダモノになる。それをされてもいいというのが、なんつーか……サインであったり、んーそういうもんだ!ただ、クリス、お前にだってそういうのはわかっているだろ?それでも俺のとこにくるというのは、よほどの勇気や覚悟がなければ来ないだろうしな」


 クリスはコクリと涙を流しながら頷く。


「だけど、今の俺には、君を幸せにするだけの経済力も精神も持ち合わせちゃいない。はたから見れば、もったいねー!!ささっとヤっちまえというのかもしれん。だが、それをするにも責任が付きまとう。それを蔑ろにする若さや勢いも今はない。勢いで出来るのは20代までだ。俺からの答えは……」


 遮るようにクリスはセイメイの声に割って入る。


「じゃ!じゃあ!!せめて……!!それまで今いった二つが整うのを待っていてはダメですか?」


「おまえ……」


「私はセイメイさんが好きなんです。お金なんて!サイアク、私が出します。セイメイさんが再度立ち上がるのを待ったり、手を差し出すのくらいさせてくれないんですか?」



 ――――“情けない”その一文がセイメイの心に突き刺さる。



 ―――俺をこんなにも大事に思ってくれる人がいるのに、俺は自分のプライドやメンツをまだ保とうとしている。それでなんになるんだ。俺だってこんな人生じゃなかったと思っているんだ!だけど――――


 沈黙の時間が無情にも過ぎていく。隣の部屋にある冷蔵庫のモーター音がヴーンと静かに聞こえてくる。


「わかった――」


 セイメイは沈黙を自らの言葉で破る。


「付き合う事は“今”は出来ない。それは、俺が立場を利用して付き合ったなんて穿った見方をされたり、告られたなんて言われれば、ギルドの求心力も失われかねない。そして、なによりも、クリスの気持ちにちゃんと応えれる事になるまで自分自身をしっかりさせたい。だから、返答は待ってくれないか?」


 クリスは再度頷き、セイメイに飛びつくように身体を抱きしめた。


「お、おい?!」

「私の方があきらかに若いです。ですので、時間はたっぷりありますから。遅くなるなんてことはないので、ゆっくり、じっくり好きになってください…私はずっとそばにいますから……」


「あぁ…わかった。クリス、ありがとう」


 クリスはセイメイの顔に顔を近づけて小声で言う。


「じゃあ、せめてキスぐらいはしてください」


「バカか!!??おまえ!!??」


 動揺するセイメイをよそにクリスは語りかける。


「これくらいは世界基準ワールドスタンダードで、許されるでしょ?」


 セイメイはゆっくりとクリスの腰に手を回すと、さきほどまでシンとくる部屋の寒さを忘れるような火照りが耳を温める。目の前には透き通るような柔肌に唾を飲まずにはいられない。心地よい重さが上半身にのしかかる。若い女の息遣いにセイメイの意識は遠のいていった。

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