第166話「元・一匹狼と伝説の狼」
ドォォン!!
地面が揺れるような轟音が鳴り響く!!ソロモン達はスカルドが発動させた白い霧の中を駆け抜けていく!!
ソロモンは指輪に無詠唱の設定を施すため、指輪の回転部のスロットを回していた。
「おい!オッサン!!なにやってんだよ!!」
「今!!三人が搭乗可能な悪魔を探しているじゃ!!話かけんな!!!」
―――クソ!ダイヤルのメモリーが地響きで乱れる!!
「それよりあいつはどこにいるんです??」
「さっき俺らの前をすり抜けていったよ!見えなかったのか?」
「見えるわけないじゃないの!!こっちは目を瞑ってたんですぅ!!っていうか、どこに話しかけていいかわからないじゃないの!!」
「うるせーな!!お前の右側にいるよ!!」
そういうと、セルは隠れていた身柄を出してきた。
「良い逃げっぷりですわね!?まったく!!」
「そうも言ってられんぞ?前を見ろ!」
そういうと行く手を阻むようにフェンリルが白い霧が消えかかっている部分から覗くと大きな口を開き、冷気を帯びた吐息を吐いていた。
「ひぃぃぃいいいーー!!!」
「こっちだ!!」
ソロモンとスカルドの服を掴んで強引に森の中へ入っていく。
「道から外れたら!!相手の思うつぼですわッッ!!?」
「その分、森の木が障害物となり、ヤツのスピードを抑えてくれる!」
「服を引っ張るな~!ダイヤルがぁぁ!!!」
「うっせーぞ!!クソジジィ!!足腰鍛えるには十分な運動だぞ?!」
「んな事言ったって!!仮想世界に運動機能なんて……!!」
「あ~!うっせー!たまには若い…若くねーけど!!若いもんの言う事聞け!!」
セルは少し言葉を詰まらせたが、足でまといになりかねないソロモンを強引に背負い出す!!
「おい、オンナァ!!白い霧のCT明けは??」
「あと60秒!!」
「ちぃ!!時間が惜しい!!」
セルは胸元からあるエリクサーを取り出して体に振りかける。
「ちょ!それ!!意味ないんじゃ…!?」
「飲むか身体に振りかけるかなんてものは、個人の自由だ。効果効能はどっちでもいいんだよ!」
AGI-UP!!
「あれ?!足が!早くなって…る…!?」
「PT用だから三人ともステータスUPするぜ?おい!!オッサン!!運動の時間だぞ??」
ソロモンを下し、ソロモンの腕を掴みながら森を走り抜ける。
「これ!!う゛ぃあーるじゃから意味ないんじゃああ~~~~~!!」
サラッと走り抜けていく三人をフェンリルはどす黒い瞳と良くきく鼻で行く先を追っている。
足を屈めて地面を蹴り飛ばす!!
ブォォォーーーン……
空を翔け、風のように走り出したフェンリルは、あっという間に三人の後方に位置付ける。
チラッと後ろをみるセルは驚きを隠せないでいる。
―――ちぃぃ!!フェンリルを巻くことなんて出来ないっていうのはわかっているが、隠れる事もできないこいつらをどうするかだな……!!
「おい、ガイコツ!!爺さんの介護しろ!!」
「ハァァァア??」
「誰がクソジジィじゃあ!!」
「一々突っかかってくんな!!あと、ジジィには“まだ”そこまで言ってねーだろうが!!」
腕を引っ張っていたセルはスカルドにバトンを渡す様に突き出す。
「え?ちょwえええ????」
戸惑いながら、ソロモンを強引に押し付ける。すると、セルは振り返り走る二人へ叫ぶ!
「先にいけッッ!!その爺さんが対話の席に着かんと無意味に終わる!!俺はどうとでもなるから!さっさと失せろ!!」
二手に分かれるとPT解除を行い、二人を逃がすようにセルはフェンリルと対峙する。セルは腰に隠していた暗器と帯刀を出す。
フェンリルは走り込みながらセルを飲み込むかのような噛みつき攻撃を行う。
―――クソが!!
セルは噛みつかれるタイミングで姿を消す!!
フェンリルは空ぶる牙に不快感を示す様に吠える!!
ヴァウアアアァァウゥ!!!
辺りを見渡すと遠くに逃げたスカルド達を見つけ、走りだそうとする。
どこからともなくセルの声が響き渡る。
「どこみてんだよ!?ワン公ォォォッッ!!」
素早く森の木を利用して三角飛びをし、高く飛び上がったセルは帯刀を突き刺すように落下してくる!居場所に気づけなかったフェンリルは、セルの落下攻撃を眉間から鼻にかけて斬り付けられる!!
グオオオォォォーーーーーッッ!!
セルは着地すると共に霧隠れを使用し、身体を森の薄暗い闇に溶け込ませる。
ダメージを負い、目がクラクラとしていたフェンリルはセルの姿を血眼になって探し始めた。
嗅覚・聴覚・視覚……動物おける感覚を研ぎ澄ませている。
フェンリルはセルの匂いを嗅ぎ分けるかのように、鼻をヒクヒクさせながら辺りを嗅ぎまわった。
パキッ……!!
何か枝が割れたような音がフェンリルの聴覚を刺激する。フェンリルは研ぎ澄まされた感覚で辺りを見渡すが、音のする方へ目を向けると誰もいない。
だが、匂いだけはフェンリルを騙すことができなかった。
何もないところに一気に駆け寄るフェンリル、それに気づいているセル。この、二匹の狼の戦いは収まる事はなかった。
この世界に匂いなんてものはない。おそらくプレイヤーが動いた痕跡粒子を拾い、行動を予測し、プレイヤーの動向の流れを読む事がプログラミングされているのかもしれない。
そのカレントが匂いとなり、フェンリルのCPUは情報解析を行い、セルを襲うのだった。
フェンリルの右前足がセルの身体を翳める!
「チィィ!!いつの間に俺の居場所がわかるようになったんだ?!今までこんなことなかったのにッ!」
噛みつきや前足での攻撃をさらりさらりとかわしていくセルは、躱しつつも微量ながらダメージを受けていく。
―――クソッ!!出血のCCが入りやがった!!このままでは事前に用意してあったポーションが切れたら死ぬ!こんなところでッ!自転車操業みたいなことやってられっかよッ!!
走りながらポーションを浴びる様に自分にふりかけていく。
木という障害物を使い“逃げ”に徹したセルは、攻撃の構えを解いて走る事だけに徹底した。ランダムに立っている木を避けていくが、フェンリルはお構いなしになぎ倒していく。
―――嘘だろ!!?障害物無視なんてあるのかよ!?
チラッと後ろを振り向いてみると、木という障害物による遅延が存在していなかった。
―――ランダムモンスターにしたって!この仕様は明らかにプレイヤーに対して即死案件だぞぉ!!
必死の思いで逃げ廻っていると、目の前にシステムアラームと同時にPTの誘いが入る。
息つく暇もないセルは拒否を押し、更にフェンリルの攻撃を躱す!!
バシュン!!
フェンリルの攻撃で木々はなぎ倒されていく。また、目の前にPTの誘いがポップアップされる。
「だれだよ!!クソが!!」
それをまた無視し、フェンリルの猛攻は続く。
いくつもの攻撃を躱し続けるセルだが、ポーションもとうとう尽き果て、エリクサーの効果も次第に切れていき、やがて元のスピードに戻ってしまった。
攻撃を受け流したセルだが、流石に全部を躱す事は適わなかった。
ぐはッ!!血が飛び散るエフェクトを発生させ、瀕死のセルは近くの木に寄りかかりながら、刀と暗器を握り、構えた。
グルルルル……!!
今にも吠えそうなフェンリルをみて、セルは余裕の表情を無理に出していた。
「さぁこいよ…!!ワン公ぉ…!!お前に殺されても、俺らの意志は引き継がれた。あとで死に戻ってあいつらの後を追えばいい。俺の勝ちだぜ??へへ……」
―押しなさい。
聞きなれない声がセルの耳に入る。 PT招待のポップアップが表示される。
―――この状況でPT招待を飛ばすとか、アタマァ!イカレてんのか!?
フェンリルは大きく息を吸い込み、ブレスを吐き出した。 足元から凍り付く吹雪はセルの動きを封じる。
―押しなさい!早くッ!!
次の瞬間!!フェンリルは前足でセルを踏み潰す様に振り下ろした!!
ギャァアー!ギャァアー!ギャァアー!
フェンリルの周りに寝ていた怪鳥達が鳴き出し夜空を無数に舞っていくのだった。





