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負け組エリートのギルドマスター~VRMMORPGで復讐主人公は最強を目指し全一ギルドをざまぁする~  作者: 齊乃藤原
第伍章【青は藍より出でて藍より青し。氷は水これをなして、水より寒し】
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第162話「伝承」

 ~天穂村・北西部~


 セイメイと玄庵は、戦闘用アバターから採取用の服装に着替えて、山菜などを採取していた。


 名も無き山々を歩き回りながら、採取を行う。

 これは持久力などMPに該当する闘志の上限値、基礎体力の上昇も併せた目的としての行動なのだ。無論、該当する飲み物や食事のアクションを起こすことで摂取するやり方もある。だが、こうやって山を歩き続けるという行動も経験値のゲージを伸ばして、少しずつレベルアップしていくことも可能だ。また、通常の動きをするだけでも基礎体力経験値は常に微量だが上がっていく。


 ここの山岳でセイメイの基礎体力・持久力は養われた。


 ゲーム上では汗をかくことはないが、持久力の消費だけはステータス依存となる。サムライはここぞという踏ん張りがきくのはこの基礎体力の上限が必須と教えを説いたのは玄庵だった。

 セイメイは技ばかり磨こうとする傾向を咎めて、この地味な生活コンテンツを極める様に言われ、修行のように行われた。無論、利益という観点では着実に稼げているので、中々バカに出来ない。セイメイは強い武器を買うため、一生懸命に採取クエストや、料理製造にウェイトをかけるようになっていった。


 その合間をぬって、刀の技を磨き連続技やカウンター技、繋げない技をつなげるという荒技をみつける。


 誰にも真似できない努力の成果をここで発揮することになる。

 玄庵を凌ぐ持久力は、玄庵の指導の予想を越えるものとなっていた。


 このことにより、セイメイの剣技はより連続技に磨きがかかり、持久力を軽視していたプレイヤー達を動揺させ、連続キルをおこなっていった。それは、あの雨の日、反逆より語られた通りである。


 MPに当たる闘志は自動回復も存在するが、ショートカットに入れとくだけでアクション省略による回復が可能となる。ショートカットは手を開き、5本の指から可能だ。なので、全部で10個のショートカットが可能である。ポーションやエリクサー、聖水と継戦を維持するためにほとんどのプレイヤー達が行っているが、ここの持久力だけは、どの職業もあまり重要視されていない。


 しかし、玄庵は特にサムライという職には、ここが重要と教えていた。


 セイメイが格上と互角に渡り合えるのは、断続的に技を繰り出せる事に意味があった。それはギュスターヴ戦において、攻撃を受け流せる回数や小手先の技を出し続けていられたのはこのおかげであり、ギュスターヴがサムライ如きに手こずることになってしまったのは、セイメイの底なしのような持久力のせいである。それをまざまざと証明した。


 さて、ここで培ったセイメイの能力を玄庵とセイメイを二人で行かせたことにやきもきしていた雲海ギルドのメンバーは、その心配をよそに玄庵はセイメイを連れ出していき、セイメイに最後の教えをするのであった―――



「どうだ?思い出したか?」

「思い出すもクソも、見慣れたこの景色に……俺をここに誘ってどうするんですか?」

「お前に最後に言い忘れた技があってな?」

「え?スキルは全て取りつくしているし、今更教わるもないでしょ?」

「あるんだなぁこれが!とっておきのカウンター技がな?」

「え?」

「お前は最悪で最強の弟子なんじゃ。ゲームなんてものは二の次。剣の本筋を知っている。しかも、この世界でも通じる殺人剣のな」

「はぁ??」


 セイメイは戸惑いをかくせなかった。


「いいか!?ここだけの話。ワシ……いや、俺はもう先が長くない。それゆえに俺の最後の剣技をお前に授ける。それを使ってお前の守りたいものを守れ。俺にはそれができないし、それをここで使えるのはお前しかおらん」


「刀を抜け」


 玄庵は粒子化している刀を呼び出し居合の構えをしていた。


「え?あ、はい!」


 セイメイも慌てて呼び出し、居合の構えをした。

 玄庵は構えを説いて、数歩ほど歩きながら、会話を始める。


「うむ。既に“明鏡止水”は覚えておるな?」

「はい、ロマンスキルと一部で揶揄されているスキルですよね?」

「なんじゃそりゃ?」


「実践向きではないということですよ」

「そういうことか。ややこしいの!」

「はい、すいません(なんで俺が謝ってんだよ)」


「うむ。明鏡止水は故事にならっての……」

「説明はいいです(毎回長いんだよ)」

「本当にわかっているのか?」


「“波風たたずにただ静かに水面が広がるさま”ですよね?」

「付け加えるなら、“鏡のように”をいれろ」

「は、はい!(一々うるせーな……)」


「そこでだ。本来の明鏡止水の“抜き手”をあの木に向かって、やってみろ」

「あ、はい」


 セイメイは居合の構えをしたまま、横一線に抜刀する。

 抜いた刀は木に触れる事はなかった。ただの抜刀をしただけのように見える。が、次の瞬間!



 乾いた音が聞こえてくる。


 カンッッ!!


 そして、音のする方からザワザワと風が吹いてきた。


「よし、出せているな」

「これ、数秒遅れて発生する技で、しかも居合なのに時間差というスキル……微妙ですよね?戦場で使う分にはいいですけど、それでも、さほど威力はないというか……」

「うむ。そこで、“逆抜き”でやってみろ」

「えええ??ただの通常攻撃になりますよね?しかも単発の……」


「いいからやれ!!」

「ハイハイ、わかりましたよ……」


 言われた通りに逆抜きを行う。


 無論、特になにも起きなかった。


「ほらねぇぇえ!!?なにも!!おきなかったじゃん!!!」


 騒ぐセイメイをみて、頭を抱えてしまった玄庵がいた。


「はぁ~。もう少し頭のキレる男だと思ったんだがなぁ~……よぉ~くみてろよ?」


 玄庵は居合の構えをし、セイメイと同じように逆抜きをした。しかし、玄庵の動きは終わらなかった。



 逆抜きした逆手の持ち方のまま、左手も逆手に柄にもち、八相の構えのあべこべのような持ち方をした。そのまま刀をぐるんと後ろから前へ回しながら順手に返し、上段の構えを大きく構えて一気に振り下ろす!!


 ―――あの上段からの振り下ろしはッッ!!ご、轟天斬……!?


 刀の先から振り下ろしにかけて、光のエフェクトが発生する。


 それと同時に明鏡止水の時間差の攻撃が発生し、前後でのハサミ攻撃が可能となっていた。

 一連の攻撃に唖然としたセイメイは、ただただ立ち尽くすしかなかった。


「な、なんなんだ!?今のは!!?」

「頭を使え。バカ弟子が!!」

「だって、おかしいじゃん!!逆手で明鏡止水は発動しなかったよ??」

「はぁ~。これだからお主は最悪なんじゃ!!」


 玄庵がシステムを開き、スキル一覧をみろとセイメイに促した。

 セイメイは慌ててスキル一覧を開き、目を皿のようにして見回した。


「そこにかいてあるじゃろ?特定条件下でスキルは発動可って!」

「ええ?これがそうなの?」


「うむ。特定条件というのは、まだ明かされてないものだが、それは個々のプレイヤーがみつけていく。しかし、サムライ職はどうしても開拓されてきていない。もしくは公表しないっていう人間が多いのでな、おそらくこれを見つけたのは俺だけだろうな」


「すげー……」


 セイメイの感動をよそに玄庵は、セイメイにやれという。


「もう無理じゃぞ……俺は身体がもたん。やれ……」

「まぁ木の陰で休んでな!!っしゃあ!!」


 セイメイは言われた通りに、同じ動きをする。そして明鏡止水と轟天斬が重なった。


―――そうだ、セイメイ……お前は、その類まれなセンスをお前自身は全く気づいていない。剣の道は長く険しい。だが、ここの世界なら心技体の“心技”でやっていける。俺のような老いぼれがここで生きていけるのも、そのせいなのかもな……



「っしゃああ!!出たぜ!!?やっぱ、あれだよな~!地道にステータス伸ばして継戦能力高い奴がモノを言える世界なんだよなぁ~。ねぇ!師匠!!?」


 打ち終えたセイメイは自己陶酔し終え、いつもならとんでくるゲンコツがないのを不思議に思い、玄庵をみると木にもたれかかる様に座り込んでいた。


「ったく、寝落ちか……!?おい、師匠、まだ寝るには早いんじゃねーのか?まだ三時のおやつも……」


 ドサッ


 そのまま玄庵は倒れ込む。それをみたセイメイは、一瞬背筋が凍りつく。動揺はしたが一旦、心を落ち着かせて急いでユーグにwisを飛ばす。


わけのわからないまま、セイメイはユーグに一方的に喋り、雫に伝えてほしいというとユーグはその場で雫へ話しかけて事情を伝えると、雫は血相を変えてログアウトしていく。



セイメイはただ、玄庵の身体を抱えて、山道を越えて天穂村に戻っていく事しかできなかった。


山はうっすらと雪化粧をし始めていた。


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