第161話「追跡者からの逃亡」
~ アメリカ合衆国・サンフランシスコ ~
レオはアイリーンを助手席に乗せ、静かに目的地へ向かっている。
この年、珍しく昨晩は雪が降っていたのだが、路面が凍結するほどではなく、朝方には地面は乾くほどだった。
ここで、サンフランシスコという街をなんとなぁ~く知っているぐらいの読者の為に説明させて頂く。
よくアニメや小説などで出てくるサンフランシスコだが、“サンフランシスコと聞くとなんとなくわかる。あーはいはい”ではなく、再確認をして頂きたい。
ここ、サンフランシスコはロサンゼルスと共にカリフォルニア州の経済、工業の中心地であり、また、アメリカ西海岸においては金融センターとして重要な拠点である。高層ビルは立ち並び、観光都市にもなっている。
ゴールデン・ゲート・ブリッジを始め、映画など度々登場するアルカトラズ島刑務所、ボヘミアンな雰囲気を匂わせるメイスン通りは路面電車が走り、ゴールデン・ゲート・パークの一部には日本茶庭園が構成されている。アメリカにいながら、日本に来たような空間を設けており、人気のスポットだ。また、ロンバード・ストリートはくねくねと曲がった坂があり、芸術を生活に取り組んでいるというお洒落な場所だ。
そんなサンフランシスコは気候が年間通して穏やかだ。それはヨーロッパの気候に類似しているからなのだ。
地中海性気候であり、冬は温暖で降水量が多く、夏は気温が低く乾燥している。それは、三方を海水面に囲まれているため、太平洋の冷たいカリフォルニア海流の影響により、季節による温度変化が少ない穏やかな気候である。気温が24°Cを超えるのは、年平均わずか30日前後しかない。
そして、夏はよく霧が出る。この霧が出始めると夏の到来を告げる。夏の風物詩といってもいい。それはカリフォルニア内陸の渓谷地帯で、暖められた空気が上昇して気圧が低くなるため、北太平洋高気圧からの風がゴールデン・ゲート海峡を通って内陸に向かい流れ込む。これによって、サンフランシスコ特有の夏期の霧が発生する。
日本に住む我々からすると、過ごしやすそうな気候である。一度はいってみたい都市であろう。
さて、そこからシリコンバレーに向けてインパラを転がす。
アイリーンは見慣れた街並みを見ながら、レオに話しかける。
「レオはなんで戻ってきたの?」
「国がヤバい方向に傾いているのを正すのが俺らの機関だろ?」
「FBIの私を利用して、元IRS調査官のあなたが何をしたいの?」
「決まっているだろ?リンク・オデッセイ社が軍の指示によって動いているのか確認したいだけさ」
「なんで、そこまでするの?」
「大事な弟の為にさ」
「え?あなたには妹しかいないじゃない?」
「ん?お前には関係ない話さ。とりあえず、身分証は持ってきているんだよな?」
「あるわよ!私はそんなおっちょこちょいじゃありません!!」
「ならよかった。仕事は真面目にやっているんだな?」
「元々真面目です」
「そうだな。仕事を辞めて、俺は日本に帰って楽しかったよ。EAとしての仕事も順調だしな」
「私は寂しかったわ。いきなり、帰国するっていうし、国籍も日本に戻すなんていうから……」
「俺にはアメリカは自由すぎるし、狙われやすい。恨みを買う仕事をしていたしな。それから逃げたんだよ」
「日本は安全なの?」
「銃が身近にない国だからな。それは安心さ」
身の上話をしていると、280号線のハイウェイに乗り、回転数を上げスピードをあげる。
「レオはこの調査が終わったらニッポンに返るの?」
「ああ、今回は調査のみだ。その進展があるかないかは君の仕事さ。ギャラは払わんぞ?」
「食事ぐらい付き合ってよ~!」
「あのなぁ!泊まる予定のないお前を無防備に泊めてやったんだ!その上でワガママをいうのか?」
「女はワガママを言うくらいが丁度いいのよ!」
「男女平等が笑えてくるね~!」
「なによ!?それじゃあ旧時代的な考えをもっているの?」
「それはお前の方だよ!アイリーン!」
「好きな男にワガママをいって困らせて気を引くぐらいいいじゃない!」
レオはバックミラーをチラッと見て真剣な顔をする。
「その話はあとだ。ホテルを出てから、同じ車がずっと後ろについている。こんな朝からだ。俺は端に寄っているにも拘わらず、追い越しできるというのにしない」
「まさか……!」
「振り向くなよ!バレるだろ!」
振り向きそうになったアイリーンを車内で諫めるとアイリーンはゆっくりとサイドミラーをみて、車をみていた。
「さぁて連邦捜査官さん?どうしますか?」
「私のデートを邪魔するのなら、排除するしかないんだけど、これデートなの?」
「そうだなぁモーニングじゃないけど、ブランチくらいは奢るぜ?どうだい?」
「交渉成立。流石、ビジネスマン!」
「おいおいおい、お前の方がやっぱ旧時代の人間じゃないのか?」
「あら、そう?ご都合主義ってものよっ!」
アイリーンはそういうと、腰に隠していたM9を取り出し、マガジンを入れてスライドを引きデコッキングする。
「まぁ落ち着け。こんな朝っぱらから襲ってくるやつらじゃないだろうよ。それに奴らは殺しのプロだ。俺らじゃ歯が立たないだろう」
「じゃあ黙って死ねっていうの??」
「だれが死ぬなんていった?」
「じゃあどうするのよ!」
「こうすんだよ!!」
レオは思い切りアクセルを踏むとアイリーンはシートに貼り付ける。
「ちょ!ちょっと!スピードを上げるなら上げるって言いなさいよッ!」
「悪い。タイミング的に今だったんだよ。しっかり掴まっとけよ!」
網の目を縫うように車を追い越していく。目の前に迫る車をスレスレで交していた。
「ぶつからないでよ!?」
「誰に言ってんだよ!」
キュルルル!!!
少しハンドルを回すだけでタイヤが悲鳴を上げる。
「このポンコツ!エンジンもつの?」
「ははは!ニトログリセリンでも積んで置けばよかったか?」
「この状況で笑えない冗談言わないで!!」
相手もスピードを上げているのがわかる。
サバンナに住むヒョウのようにインパラを狙いを狙っている。
「まったく!しつこい奴らだ!」
すると、地元警察の車両が待機していたらしく、こちらにサイレンを鳴らす。
「さぁて大人しく捕まるかな?」
「え?じょ冗談でしょ?」
「お前はクルマの中にいろ」
「え??」
レオはゆっくりと右に幅寄せして、警察官の指示通りする。
すると、走り去るのと同時にこちらに発砲してきた。
パンッ!パパンッッ!
1発はフロントガラスに、2発は左サイドドアに命中する。
それをみた警察官は慌てて、組織の車であろう車両をサイレンを鳴らして追いかけていった。
「ねぇ!!やっぱり打ってきたじゃない!?」
「防弾仕様にしといて正解だったぜ!」
「それ!早くいってよ!!」
「そんな段取りよく説明出来る状況だったか?ていうか、お前本当にFBIかよ?ビビり過ぎ」
「こういうのは、あんまり得意じゃないのよ!」
「そんなFBI捜査官いるのかよ!」
「いるわよ!ここに!」
「やれやれ……参ったな。にゃんにゃん喚く子猫のようだな」
「いいじゃないの!別に!」
「あーはいはい。じゃあ車出すぞ?」
そういうと、ゆっくりと走り出した。
「もう大丈夫なんでしょうね!?」
「そんなの俺に言うなよ?向こうに聞いてくれ」
「フン!」
「それより残念なお知らせがある」
「なによ!?まだなんかあるの?」
「身の危険がある以上、ブランチはキャンセルだ」
「ちょっと!契約不履行というわけ?」
「最後の晩餐にしたいなら別だがな?」
「……」
「まぁどこかコンビニかテイクアウト出来る店で買おう」
「最悪の朝だわ……」
ハイウェイを進んでいくと分岐が見えてくる。そこのバイパスで降りることとした。
朝日はインパラのボンネットを徐々に温めていた。





