第160話「回り始めた時間」
「セイメイよ、YoShi光はお主を信じていた。それゆえにPKしてきたセイメイに対して、ワシにも誤解を解いてきていた」
「そ、それでどうしたんですか?」
ユーグは思わず声を出してしまった。
「ふむ……。セイメイよ、ヤツの思いを踏みにじってはならぬ。今のお前にとっては自分が裏切った友人であると認識しておるじゃろ?」
「ええ、ここを離れてから、大分やさぐれもしましたからね……」
「自ら裏切ってしまったと思っておるんじゃろ?」
「だからそうだっていっているじゃないですか!?」
玄庵はフフフと笑い、慌てて手で口を抑えた。
「落ち着けセイメイ。これを渡そう」
玄庵がシステムを通じて、セイメイに一通のDMが送られてくる。
それはYoShi光からのPDF化されたDMだった。
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よう、セイメイ!お前やらかしたらしいな?
なんかギルド資金のバグ使ったんだって?俺にも教えろよw
ミヤゾンと腰巾着がコソコソとやっているのを俺は知っていた。
俺はその事にイラついていたんだ。
その補填は誰もしないのだから、減っている資金を疑うのは
誰もが思うところだろう。それを新参者のお前に出来るわけないのに
みんな鵜呑みにして、お前を非難したよな?あれはなかったわw
まぁ俺はお前を庇ったよ。抜けたのにも関わらずな?
それと、俺がゲームをやらなくなったのは、渡米することになったからだ。
だから、お前は気にせず楽しめ。これを玄庵先生に頼んだのは、
また玄庵先生のところに必ず戻ると俺は予測していたからだ。
人間は何かに詰まったり迷った時、必ず原点に返る。
お前がこれを読んだという事はそういうことだ。
玄庵先生には伝えてある。どうか許してほしいと。あとはお前が謝れば
和解が成立する。だからもう一度、出直す気持ちで玄庵先生から学べ。
人は過ちを犯す。だが、それを失敗だと嘆くのではなくそれを生かす糧にするのだ。
お前は俺によくいってたじゃないか?
“ゲームオーバーになるまでがゲーム。失敗しても勝てば、成功じゃないか?”ってね。
そういったのはお前だっただろ?
リカバリーはお前の十八番じゃないか!
直接いうのは少し恥ずかしいので、このようなギミックを施した。
またどこかで会おう。
Message by YoShi光
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セイメイは読み終えると涙があふれてくる。
一時の感情で振る舞った行動が、よもや親友にまで迷惑をかけ、後ろ指を指されている状態から逃げていたように負い目を感じた自分が情けなく、そして自分を戒めれなかった事を悔いた。
「師匠……すいません…でした……」
目を抑えるセイメイをみて玄庵は立ち上がる。
「セイメイ、少しワシに付き合わんか?」
「……あ……はい」
「玄庵殿!」
雲海ギルドのギルメンが制止を促すが、玄庵は問題ないといって制止を断った。
セイメイと玄庵は裏の山脈に山菜採りに出掛けた。それはセイメイが最初に教わった生活コンテンツだった。
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~ セントラル・最北エリア ~
セルとスカルド、そして、ソロモンは先に先行して、妖精王ユグドラシルの地を目指していた。
それは、イザヴェル騎士団のヴォルフガングというギルドマスターに会うためだ。
ユグドラシル
古より北の大地を納めているのは、妖精王ユグドラシルの名をとってつけたのが由来である。
妖精王の元ネタはオーベロンを叩き台にしたであろう設定がいくつも散りばめられている。そこにユグドラシルという伝説の木を混ぜた設定である。こういった事はどのゲームにもどの物語にも存在しているし、パクリだオマージュだなどというのは、野暮だ。イーリアスは現実世界の伝記・伝説を扱っているので、世界観に没入できるユーザーが一番楽しめればそれで良いのだ。
ちなみにイーリアスの世界ではこうだ。
妖精王ユグドラシルは、トネリコという木材を主とした木に精霊が宿り、その木が生まれて枯れるまでが妖精の寿命とされている。妖精王は世界樹と言われるほど、大きな木で出来ている。長寿であり、古代から生えているため、別名:古代樹とも言われている。
ユグドラシルのエリアでは北欧神話も混ぜられている。所謂、ノース人が伝承したと言われている話を元に描かれている神話の集合体をここに全て集約しているといっても過言ではない。
それゆえ、ケブネカイゼの山頂には“見えない城”天空の城ヴァルハラが存在している。
これが、神の城であるのは想像出来るであろう。全ての神話に理屈をつけたら、面白くないしゲーム上のファンタジーが失われる。勝負どころなのは、シナリオにおけるクエストがゲーム性の根幹となる。腕の見せ所で勝負どころである。このシナリオこそが、イーリアスユーザーの心を離さないのである。
伝説や伝記を踏襲しつつも、オリジナリティを付け加える。これこそがシナリオライター達の腕の見せ所であると言えよう。
「準備はいいか?」
セルがいうと、ソロモンをみる。
「ワシはいつでもいけるぞぃ?」
「骸骨は?」
「いけますわよ?ていうか、骸骨って……!」
「あーわりぃな。スカルドってなんか呼びにくいんだよな。だから、三文字で納めて見たら、骨ってなるだろ?それだと、ホトケさんになっちまうから、折り合いをつけたら骸骨になった」
「なんッなの?その厨二成分たっぷりの分析……」
スカルドは怒るより呆れていた。
「ウォッホン。それじゃあいこうかの?」
「ああ」
そういうと、三人はユグドラシルの最初の町、ガルズへ向かうとした。
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~ アメリカ合衆国・サンフランシスコ ~
レオは朝目覚めると、隣で眠るアイリーンを起こさずに支度を始めた。
これから、リンク・オデッセイ社のデータを受け取りにリチャードと打ち合わせにいくのだ。
リンク・オデッセイ社
イーリアスをリリースさせた会社で、世界でも有数ののビックカンパニーだ。そこの社内事業部と軍の癒着を調べにいこうとしていた。
部屋を出てエレベーターに乗り込む。まだ外は雪が降っている。
フロントのあるフロアにつくと、いつの間にかアイリーンが立ち塞がっていた。
「どうやって俺より先に降りた?」
「たまたまよ?」
「まさかと思うが……?」
レオは軽く首をひねり、アイリーンに近づき問いつけると、アイリーンはあっけらかんとした声をあげる。
「もちろんよ!?」
アイリーンは、レオの肩に手を回して軽快に歩きドアへ進む。
昨日乗っていたインパラをまわしてもらうとそれに乗り込んだ。今度はレオが運転席に乗り、アクセルを踏み込む。
そして、リチャードの弁護士事務所に向かって、軽快に飛ばしていくのであった。
これから、それぞれのプレイヤーがやらなければならないミッションが動き出す。
セイメイ、ソロモン。そして、アイオリアはそれぞれの思惑と見えない絆を手繰り寄せながら、それぞれの道を進んでいく。
一筋縄ではいかない出来事とわかっていながら、人は前にしか進めないブリキの玩具のようだ。
それぞれの歯車が回り始めた音が聞こえてくる。





