第157話「内輪揉め」
~ アーモロト城・大広間 ~
セルはアーモロトに戻って、ソロモンのログインを待っていた。途中、幾人かのログインにより、大広間にはわさわさと集まりだした。
わさわさと集まっていたオケアノスの面々は、不思議と別ギルドのギルドマスターがイライラしてまっているのを見ると、近寄らず談議を始めていたのだ。
すると、見覚えのあるメンバーもログインしてきたのだった。
クリスはものすごい目つきでまっているセルをみると、話しかけて様子を伺った。
「あ、セルさん。今日は早いですね?どうしたんですか?」
「ああ?セイメイの女か?ソロモンはどうした?」
それを聞いた顔を赤く染めたクリスは必死の弁解をしていた。
「ちょwちょwちょっと私はまだ、セイメイさんのお嫁さんになっていません!!」
「あ゛あ゛??耳でも腐っているのか?そんなことはどうでもいい!ソロモンはいつくるんだと聞いてんだよ!?」
「はひ!ソロモンさんは何もなければ、もうすぐくるんじゃないんですかね?あはは……」
「ちぃ!つかえねー秘書兼セフレだな!」
「はぁああああ!?私はまだそういう関係になってません!!それに……私は…まだ男性と付き合ったことありません……」
「フン、お前の性事情を聞いているんじゃねーよ。さっさと呼びな?」
セルが畳みかける様にクリスの戸惑いを封じていこうとすると、スカルドと結華がログインをしてきていた。
「ちょっと?セルさん!?」
「ああん?……ちぃ!まためんどくせーのがログインしてきたな」
「はぁぁ???なんなんですの!??」
「だまれ。雌牛が!今の俺が用事で来ているのは、おまえらのような!かしまし娘のお囃子を聞きに来たわけじゃねーんだよ!?」
セルは二人の女性を一蹴するかのように発言を抑えていこうとした。
「このスカポンタンがぁ!!あんま私を舐めているとぉ!!ぶっ潰すわよ!!??」
スカルドが頭にきて、精霊剣を出し戦闘態勢を取っていた。
「バカか?城内でのPvP(プレイヤー同士の戦い)が出来るわけねーだろ?脅しにもならねーよ」
「こんの……厨ニ病みたいなふざけた恰好したイカレポンチがぁぁッ!!」
スカルドの怒りが頂点に達しようとした頃に、ようやくソロモンがログインしてきた。
「お??なんだなんだ??城内でのPvPが出来るような更新アップデートでも入ったんか?」
ソロモンはアッケラカンとした表情をしていた。
「おっせーぞ?ジジィ。お前の親分から伝言を受け取っている。みろ」
セルはDMを外部ツールを使い、ソロモンにDMを送りつける。
ソロモンはDMをみると、表情を変えた。
「ふむ。ではいこうか?セル」
「フン、伊達に歳は食ってねーようだな?察しがいい」
「カルディアとピピンには後で来るように、嬢ちゃんに言伝を頼んでおくか」
「ふぇ?わたし??」
「そうじゃろ?お主が代行してここを守るんじゃ。簡単じゃろ?」
「ええええーーー!!???」
「ウフフフ……!あなたにお似合いですわね?それにしても……」
セルを睨みつけながら恨み節をいう。
「この厨ニ病患者と旅するのは、不愉快極まりないのですが……セイメイ様のためにここは我慢しておいてさしあげるわッッ!!」
怨恨を付きつける様にセルに言い放った。
「どうとでもいえ。俺はハイエルフ如きに負けるつもりは毛頭ないし、お前の援護もいらん。だがな、これだけは言っておく。足は引っ張るなよ?エルフはスタミナが他より少ない。それゆえ、持久力がないとスキルに影響する。わかってるよな?」
「ムカッ!あなたに言われなくてスキル回しやメーター管理ぐらい出来ていますわッッ!」
「威勢がいいのは結構。俺は結果しか見ねぇ!プロセスなんてものは、結果を出した後のこじつけにしかならん」
「プロセスがあるからセオリーが出来るのではなくて?」
「はん?一々下手くそにテンプレ作業を教えこんで猿真似させ、“教えたのは私だ”といって優越感に浸りたいだけだろ?」
「なんですって!?」
言い合いをする2人をソロモンは両腕を広げて制止する。
「おまえら?これから旅に出て苦難を乗り越えようと言う時になんで内輪もめする?なんか得するのか?金策になるのか?おい!?」
ソロモンは2人にもっともらしい事をいう。今現状で言い争ってもいくらにもならないし、生産性もない。2人はわかってはいるものの、今までプレイしてきた経験がこういう時に邪魔をする。
ソロモンは広げた両腕を下ろすと、こういった。
「いいか?ワシらは今以上に団結しなくてはならん。ワシをボロクソに言うのは構わん!それでまとまるならいくらでも、陰口や罵倒の数々を聞こう。だが、団結を乱すようならば、直々に追放処分を行おう!セル、お前の場合は同盟解除じゃ!」
「くっ!偉そうに……」
「なんじゃ?ワシがいくら不利のネクロマンサーであっても、負けるつもりはないが??少なくとも!ワシと1戦交えた時点で、マスターの意思に背くという事になるぞ?」
それを聞いたセルは、大きく深呼吸してソロモンにいう。
「別にアンタと1戦交えるのは、一向にかまわねぇ。だが、そうするとオッサンもマスターの意思に背いて遅延をさせている事にならんか?」
ソロモンはキョトンとし、そして大笑いをする。
「ガハハハ!!こりゃ1本取られたわい!意図を理解していると見えるのぉ!?」
「そりゃ、オッサンとは目的は一緒だ。パーティメンバーに少し不安要素があるぐらいだからな。まぁ、お手並み拝見といくか」
スカルドをチラッとみると、口を開こうとした。
しかし、流石にここで口論する時間も惜しくなったスカルドはやれやれと言った感じでシステムを開きアイテムを有無を確認した。
それをみるソロモンはほっと胸を撫で下ろし、気持ちを切り替えた。
広間に集まるギルメン達に語る。
「我々の目的は無謀にも全国統一である!それは、今はおらんアイオリアの意志であり、我がマスターセイメイの意志でもある。ワシらは城を開けるが、不慣れな嬢ちゃんのバックアップを頼んだぞ?」
そういうと、オケアノスのメンバーはオーッと声を上げるのであった。
果たして、ソロモン一行はイザヴェル騎士団との交渉に成功するのか?
全ては時の運が知っている。
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~サンライズ・獣道~
道なき道を歩むセイメイ達は、MIKADOの強襲を避けるため、山道とは程遠いルートで進んでいく。
途中から竹林にかわり、また凶悪なモンスターに出くわすも上級者クラス+チートがPTであるため、そこまで苦難な道のりではなかった。ただ一つを除いて……。
「おーい!ユーグ!?大丈夫かぁ??」
「ちょ、ちょっと……スタミナの回復時間くれませんか?この道のりではキツイすよ!?」
ユーグのスタミナはそれなりにあるのだが、カンストしているセイメイと宙に浮遊するルカは気になる地形ではないのである。とりわけ、基礎体力・持久力・重量に関しては、それなりに上げておいて損することはない。
セイメイはなぜ持久力とよばれるスタミナをカンストさせているかというと、サムライのスキルがMPに該当する闘志だけでなく、スタミナも求められてくる職であるため、ドリンクや移動をなるべく徒歩にしていたため、カンストはしてある。これは、どの職にも言える事だが、基礎的な要素はしっかりと行っておくと、こういった時に非常に心強い。
“筋肉は裏切らない”という通説をここで体現させている。かどうかは、不明である。
はてさて、セイメイ達はどうやら裏手の村付近まで来たようだ。ここはセイメイの育った村でもある。
セイメイは小さく見える村の屋根を見て少し憂鬱になっていた。
―――師匠、まだこのゲームやっているよな?
フレンド登録から抹消されている空欄を見てセンチメンタルになっていた。それは、紛れもないセイメイの師匠であり、友人でもあった人の名前の欄を見つめていた。フレンドリストを閉じて村に目を一瞬やった時の事である。
気合の入った声でセイメイの頭上から降ってくる物体があった。
「とおぉりゃぁああああ!!!」
すかさずセイメイは心眼の悟りを使用して、攻撃を躱す。
そのプレイヤーは敵対表示がされている。PKモードだ。
「だれだ?お前は!!?」
「私の名は雫、雲海のモンだ!貴様ら!!雑魚狩りだな!?」
「はぁ?なんでだよ!PKモードオンになってないだろ???」
「みんなそうやって、後ろから斬りかかるんだ!騙されないぞ!??」
「なんだってんだ!!おまえ!」
「キサマ!サムライのくせに言い訳をするなぁ!!!お前もMIKADOとかいうギルドのモンだな?」
「んまぁ昔はな?今はちがっ……」
「ええい!!問答無用!!武士の風上にも置けん!!しねぇぇいい!!!」
すると、雫は八相の構えからスキルを放つ。
刀技:風の刃
雫の体からつむじ風が巻き起こり、セイメイへ距離をつめて突きをしてくる。
セイメイはひらりと目視で躱せてしまう。
「おのれぇ!!キサマ避けたな!!?」
「だってそのスキル、モーションでかいから避けれるよ……」
「うるさい!!黙れ!!」
雫はセイメイの声をかき消すかのように、攻撃をしかけてくる。
セイメイは、その攻撃を峰で受け流し雫を転ばせる。すかさず距離を詰めて、起き上がる雫の目の前に切っ先を突きつけた。
「おい、俺をイライラさせんじゃねぇ。今、俺は会わなきゃいけない人がいるんだ。お前ごとき斬り捨てる事なんざ、覚悟もいらねぇ!今のうちに失せろ!」
セイメイはマウントを取っていたが、雫はニヤリと笑う。
「マスター!危ない!!」
ルカの声と共に無音の刀撃が音を立てる。
ガシィィン!バリバリバリバリバリッッ!!
セイメイは後ろを振り返ると、追いついたユーグがセイメイの背中に走るはずであった刀撃をレーヴァテインで受けていてた。
「ほう……セイメイの背中を守る黒騎士か……。中々面白いッッ!」
セイメイはどこか懐かしく聞きなれた声を耳にして、声のする方を見ずにはいられなかった。
鬱蒼と茂った竹林は、枝葉を縫うように風が駆け抜けていった。





