第152話「成長途上の葛藤」
―――翌日、
セイメイはいびきをかきながら、グースカと寝ているところに目覚ましアラームが鳴り響く。
眠気眼で、スムーズをポチっと押し、また眠りにつこうとするとDMが届いていることに気がつく。端末から光るグリーンのランプを消そうとDMを開くと、それはセルからDMだった。
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おいセイメイ!とうとうプレミアが動く!
ユグドラシルとの同盟を結べ!!
アイオリア不在の最中、右往左往するギルメンだらけだ。
お前の答えを聞かせてくれ!早急の返答を求む!!
Message by セル
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―――ちっ!朝から面倒な事を起こしやがってッッ!!
頭をボリボリ掻き、とりあえず冷蔵庫に向かう。キンキンに冷えている缶コーヒーを取りプシュとあける。それは年末にドカンと箱買いしたカフェオレの缶を冷やしてあったのだ。
セイメイはコーヒーが苦手だ。なぜ、あんな泥のような苦い物を好き好んで飲むのか理解できなかった。しかし、歳を重ねると共に過去の栄光時代に出されるコーヒーを飲むことが多く、徐々になれていくのだった。
しかし、今でもコーヒーは苦手なのだが、カフェオレは美味しいと思った。それは、甘くそして仄かに苦いテイストが、セイメイの舌を満足させたのだ。それをセイメイは自分の人生を重ねるという訳の分からないダンディズムに囚われていた。
一見かっこよく響くこの言葉は、ものすごくダサい。
ダサいがそのダサい性分なんだったと戒めを込めて表現していた。
そう、セイメイの人生は甘くそしてほろ苦いのだ。そこにもう一度、カフェオレを流し込み苦味を味わった舌へ甘さで緩和するという事に人生観を見出していた。
そこにタバコの火をつける。ベランダに出ると外はまだ真冬の寒さ。それでもホットの飲み物を飲まないのは、暖かい飲み物を苦手とする偏屈な理由からだ。
タバコの煙を一息入れて、飲みかけのカフェオレとタバコを吸う事になんの意味もない。
彼だけが知っている特別な時間、無になれる。そう、喫煙者独特の時間なのだ。
タバコの煙は苦い。苦いがゆえにカフェオレの甘さがそれを許してくれる。
この苦みが人生の苦みで、甘さは人生でまだ見ぬ女性の優しさがこの甘さと思っている節がどこかにある。そんなしみったれた感覚を併せ持つのが、この男セイメイなのだ。それを他人に口することなく、ただただタバコの火種をフィルター近くまで燃やしていくのだった。
「さて、俺の答えはもう出ているだろ?セイメイ……」
ベランダから覗く自分の部屋は、がらんとしている。そして反射して映るのは、寝ぼけたおっさん化した自分だ。そう、「俺はもう若くないのだ」と言い聞かせるように舌打ちをする。
そして、もう一度自分が映るガラスをみる。
そこには自分がセイメイとして生きている姿を思い描いていた。
―――さぁいこうか、セイメイ……。俺には出来なかった仲間を守る行動を!今度はお前の体を借りて成しえてみせるッッ!!!
ガラスに映ったセイメイはフッと笑ったように見えたのは自分の顔だった。
そして、俺は髭もそらずにダイブしていくのだった。
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.....ヴォォォィン
HEY! Master...
Language setting is Japanese...
Come on! give me voice-print authentication
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
It's a Crazyyy!hahaha!LMFAO!
ohohoh!sorry...OKOK! System... all greeeeen!!haha!
Dive standby...OK.heyhey..Come on! YeeeS!!All Ready!!!
I'm on your side.You know?
「Ooookeyyyy……YES!」
Marvelous!!!! GO!!GO!!!GO!!!!!
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~ 商業都市・水都 ~
セイメイは昨日、ログアウトした場所に降り立つと、街に流れる治水された川のほとりに向かって歩き出す。すると、またしてもルカが街角で待ち構えていた。
「おはよう。マスター」
「だぁぁ!!またかよ!!なんだよ!お前、俺を脅かすの日課なのか??」
「違います!そうじゃないです!」
無邪気な顔を見せたルカをセイメイは当たり前のプレイヤーとして扱うのを躊躇わなかった。
「そうかそうか!それは良かった!いやぁ~なんにしても、目覚めのいい朝ではなかったな」
「なにをいっているのですか?」
「……実はセルから連絡が来ててな?北欧を攻めるギルドがいるから、北欧のユグドラシルの統治するギルドと同盟を組めと連絡がきた」
「ああ、あの情報なら知っています。ログを漁っていたらそんな会話が出てましたね……」
ルカはそういうと何か考えていた。
「マグナカルタのギルドですか?かなりの戦力ですね?おそらくマスターの行く手を塞ぐ強敵なギルドです。過去の強豪でいうとエウロパというギルドよりもしかしたら強いかもしれませんね?」
「まじかよ!?」
「ええ、なんでもイザヴェル騎士団というギルドに所属する№3の副マスが移籍するという大型な契約となるのではないかと目されているようですね……」
「ちぃ!!名プレイヤーの移籍は抜けた穴を埋めることなんだが、致命的なダメージを追うことになる。それにしても引き抜くだけの魅力がプレミアというギルドにあるのか?」
「無きにしも非ずといったところですね。一応、エウロパは壊滅させたのちに、他ギルドの順位は一時期横並びでしたからね。そこにエウロパの残党が他のギルドに移籍すれば、戦力は大きくなりますから、手ごわくなります。オケアノスでさえ、一時とはいえ、TOPギルドでしたからギルドメンバーの募集にことかかなかったはずですよ?」
「ん~うちの場合はどっちかというとご新規さんが多かったからなぁwww」
「それでも、十分でしょう。バックアップの補給防衛が潤沢であれば、起死回生のターンは必ず来ます。そこにオケアノスの強さがあり、また攻撃面は天下無双のアイオリア・ソロモン王のソロモンさん、暗黒騎士JOKERを倒したユーグさん、ハイエルフのスカルドさん、女サムライの結華さん、ヴァルキリーのクリスさん、女ストライカー豪傑のカルディアさん、名手のピピンさん、ああ、チートファウストさんもいますね?」
「名前を上げたらきりがない!!www」
「そして、システム上、友好ギルドになってしまったとはいえ、ベルスさんもいる。これがひとつのギルドにまとまったとき、最強のギルドでありますからね」
「たしかにオケアノスだけを考えれば、頭一つどころから3つ4つ下だからな……」
「マスター……」
そういうとルカは黙ってしまった。なにか変な事言ったのかと考えていたが、ルカにどうしたと尋ねる。
「……オケアノスは……まとまるべき時が来たのではないのでしょうか?」
「それは合流して、特大ギルドへ昇格させろということかい?」
「ええ、いまなら……あなたなら!この世界をまとめ上げる事のできる一人としてのチャンスがあります!!」
「おお、おうw」
「私からしたらなぜ、そうならないのか理解ができません……!う、アタマが……」
そしてルカの眼つきが変わる。
「よう、主よ!」
―――蓬華か!?
「なんだ?大事な時に??」
「我が妹では、説得に欠けると思って出てきたのだ」
「ああそうかい?で、お前も同意見なのか?」
「無論だ。お主はただ逃げているだけなのではないか?」
「なにからだよ!!何も逃げちゃ……いねーよ……」
「怖いのだろ?自分が人の上に立つのが?妬み・辛み・やっかみ……負の思考が手に取るようにわかる!」
「何様なんだよ!」
「いい加減、清濁併せ呑むべき大人になれ。お主に足らんのはそこではないか?」
「おまえに何がわかる!?」
セイメイは睨みつけていた。それは自分の人生で置き忘れた勉強であったからだ。大人になれば、それが否応がなくそれを求められてくるからだ。
「セイメイよ、お前は“マキャベリズム”という言葉を知っているか?」
「君主論の著者からとった支持者の話か?」
「うむ。そこまで知っているのなら、あえて言おう。どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるのだ。この場合、国家はギルドだなぁ?」
「この世界にそれを持ち込めというのか!?」
「いや、時にはそれを行使する時があるということだ。それと同時にそれは今ではないのか?ということだ」
「ここにきてその話かよ!!」
「セイメイよ、お主はここまでよく頑張った。頑張ったが継続性に関しては未知数だ。ここからは物事を大局的に見ざるを得ないのだ。……わかるだろ?」
「くっ……」
セイメイは蓬華のいう事に反論できないでいた。それはセイメイがもっとも嫌いなどんな手段や非道徳的な行為であっても、結果さえ良ければ良いという結果主義者の考え方だからだ。それゆえ、繫栄も早く力をつけやすいのは、当然であったからだ。
「お主は、もう清濁併せ吞む立場にきてしまったのだ。そう、キサマの嫌なところにな」
「ああ、そうさ。俺はそれをわかってて、ここまできた。人に嫌われるのは慣れている。もう、慣れちまったんだよ……」
俯きながらセイメイは拳を握り始めた。
「なら、早速ベルスにwisでもDMでもして送るがいい。奴は快諾するぞ?」
「おまえ!!それをわかってて!!」
セイメイはルカの胸倉をつかんだ。正式的には蓬華の精神を掴みたかったのだ。
「ここはセーフティゾーンだ。無意味なのは知っておろう?しかもギルメンであれば尚更な?」
「こぉのぉやろぉ~!!!!!」
「まぁ落ち着け。主よ。そんな急な話を持ち込むんだのは、己の覚悟を聞きたかったということだ。離せ」
セイメイは、なすがまま掴んだ胸倉を解いた。
「その選択肢を近い将来、求められてくるだろうな?で、セルへの返信はどういったのだ?」
「ああ、もちろんそれは“交渉の余地あり”とだけ伝えただけだ……!」
「主にしては中々良い判断じゃの?」
「ウルセー……。こちとら、なりふり構っていられなくなったんだよッ……」
「まぁそんなに嘆くな。私にも考えがある。聞くか?」
項垂れるセイメイに、蓬華は一筋の光を齎そうとしていた。





