第151話「先駆者の逆襲」
アーモロトはゆっくりと時間が流れているのも束の間、セルがログインしてくる。
少し焦りを見せているセルはソロモンをみつけると、三人の娘達を押しのけてデスクを叩く。
バンッ!
「おい!!ソロモン!セイメイはどこだ?」
「今、旅に出とるっぽいぞ?それになんじゃ?騒々しいのぅ」
ソロモンは煙たそうにしていると、その煙を吹き飛ばす勢いでセルは声をあげる。
「当たり前だ!!」
「だぁーもう!うるさい!急用なら、マスターにwisでもなんでも飛ばせばええじゃろ?」
「そうさせてもらうが、ソロモン。お前にも伝えなければならない事がある!」
「なんじゃ?」
「プレミアがッッ!!妖精王ユグドラシルの地を攻めるッッ!!」
『!!!』
一同は固唾を飲んだ。
「ユグドラシルは……たしか、鉄壁のヴォルフガング率いる“イザヴェル騎士団”のギルドが統治しているわよね!?」
「あそこは攻められてもココと同様、難攻不落のはずよ!?」
「小娘共、それはここにいるみんなが知っている話だ。だがな、プレミアは斥候部隊を送っていた。俺もきな臭い匂いは何度か出入りして感じてはいた。今回はそれが表立って行われたようなもんだ」
セルの情報によると、難攻不落のユグドラシルを攻め入ろうとする際に、内側に所属するイザヴェル騎士団の中核を崩すという事を行なっていた。そのことにより、№3に位置するプレイヤーがプレミアに寝返るという事が発覚したのだ。
「ヘッドハンティングか、現実じゃよくある話じゃの」
ソロモンは平然として落ち着いていた。
「バカか!?このことにより、あのプレミアがユグドラシルを陥落とせば、次はここだぞ?」
「それでどうしろというのだ?」
「ユグドラシルを占領している、イザヴェルんとこのグラマスに同盟交渉しにいけっていいたいんだよ!」
「占領ギルド同士が同盟だと?それじゃあ昔のエウロパと変わらんではないか!!」
ソロモンはガタッと椅子から立ちセルに詰め寄る。
セルも引き下がれない。
「ジジィ!!よく聞け!今回の件でオケアノス並びにフォルツァは各占領ギルドから睨まれている。この状況下ではいずれ、どちらかが強大な押し寄せてきて潰されちまう。下手すれば呼応して同時に潰される事も可能性として否定できない」
「そうなったら、昔と変わらんじゃないか!?仮にそうだとしても!前と同じような占領状況にして収益を付け回しするような事はできん!!」
「事が起きてからでは遅いんだぞ!?」
二人の睨み合いは続くところにスカルドが二人に話しかける。
「私なら、交渉しますね」
「!!」
「なんじゃ?お前さんはワシが気に食わんからセルの肩を持つという事なのか?」
「違いますわよ!ソロモンさんの言いたいことはわかります……。セイメイ様と同じ意見の元、今まで一緒にいますからそこは痛いほどわかります。しかし、現実として、このままではセイメイ様の意志すら貫けないと思ってしまう……」
「ソロモンさん、戦略的に?セイメイさんの進む道のりに壁ができてしまうのなら……それは排除すべきだと思いますから」
「嬢ちゃんのいう意見もわかる。だが、肝心なマスターがおらんからなんともいえん……」
しばし、みんな黙ってしまった。
この重苦しい雰囲気の中、あっけらかんとした感じにズカズカと入ってくるはお察しの通り、カルディアとピピンの二人だった。
「よう!あけおめ~!ってどうしたんだ?お前ら??」
ピピンが元気よくはいってきたのいいのだが、重苦しくピピンの苦手な雰囲気だった。
「んだよ、新年早々しけた面しやがって……」
ちっと舌打ちしていると、カルディアがさらにズカズカと入っていく。
「セルもソロモンのおっさんも何が不満なんだ?」
「おまえら二人には朗報かもしれんな?」
「なんだよ!そういうのちゃんといってくれよ!」
「プレミアがユグドラシルを攻めるんじゃと」
ソロモンがぶっきらぼうに言い放つとカルディアが目の色を変えた。
「ほう……?あいつら俺にやられているにも関わらず、懲りねー輩だな!」
「あんだと?」
セルがギロリと睨む。
「おまえら!なんかやったんか?」
「ああ、おまえんとこに入る前に二人で妖精王のクエストを消化しに行っていたときのことだ。あいつらは祠の入り口で何やら企んでいやがった。どうやら、どこぞの誰かさんを待ち伏せしていたようでな、そこに俺らが出くわすといきなりPKモードをオンにして切りかかってきやがったんだ」
「それからどうした?」
「決まってんだろ?ピピン様の弓矢が炸裂ッ!カルディアがトドメを指すという黄金パターンよッ!!」
二人は胸を張っていた。ソロモンは少し考えさせられることになった。
しばらくすると、ソロモンは重い腰をあげる。
「お主らワシと二人で、イザヴェル騎士団にいくぞ!?」
「はぁ?なんでだよ!?」
「我がマスターの意思のもと、同盟援軍の話をする。おまえら二人では交渉の余地があってもゼロにしかねん。ワシを連れていけ!」
「おっさんどうしたよ?俺らが女だとわかったうえでいっているのか?」
ソロモンに色々罵声を浴びせていた。クリスが制止しようと間を入ろうとするとソロモンの怒号が飛ぶ。
「バカ野郎!!わしゃお前らが男であろうと女であろうとこの際、どっちでもいいんじゃ!!うちらのマスターの道に転がっている小石を取り除くために今回動くんじゃ!!ガタガタいってねーで、ちったぁ力かせぃ!!」
ソロモンはゼハゼハと息を切らしながら切れたため、息が上がっていた。
「そんな怒んなよ……!」
周りを見渡すとあっけにとられていた。唖然としてしまった二人はしぶしぶ了承することにした。
意外にもそこにハイエルフの女が出ていく。
「私も行きましょう。このハイエルフは妖精王の化身とされています。私のような上位職が何人いるかわかりませんが、少なからず、プレミアにいるでしょうから私は防衛の方に回りたいと思います」
「ま、まぁお主がいるとだいぶ助かる点はある。しかし……!」
「エッチな発言とセクハラ行為をしないと約束するなら、同行します」
「いやぁ~そんなことせんよ……」
「ぎゃははははは!おっさん信用ねーのwww」
「うっさい!ボケッ!!じゃあ!お前もこんかい!!」
「え?あ、俺が??」
「そうじゃ!今回ぐらい付き合え!ボケナス!」
「はぁ??おっさん!いっていい事と悪い事あんの知っているよな!?」
「フン!!たまには年寄りのいう事を聞けってんだよ!」
「ねー!!いってて恥ずかしくないの??ね?ね?」
「あのな!年取ってくると羞恥心が薄れるんじゃよ。で?くるのか?こんのか?」
ソロモンは睨むとセルはやれやれと言った顔でソロモンをみた。
「わかったよ、じーさんいきゃあいいんだろ?いきゃあ!!」
「じーさん……フン!!精神年齢が若作りのアホウに言われたとしても痛くも痒くもないわい!!」
ソロモンは腕を組んでフンと顔をそむけた。
「と、とりあえず、交渉の方、宜しくお願い致します。ソロモンさんも悪気があっていっているわけではありません。皆さんも頭ではわかっていると思います。ここアーモロトは結華さんと一緒にいますからどうか道中の安全を祈らせてください」
クリスはそういうとみんなの尖った氷山を溶かすように言葉を発していた。
「とりあえず、DMは飛ばした。あとは返答次第だな。おそらく、やめろとは言わんだろうな。しかもアイオリアが不在の時に……こんなことがわかるなんてな……」
天井が高いこの広場でセルは日が差すステンドグラスに目をやった。
神がいるのなら、なぜ俺らをここに集わせて酔狂な事を本気でやっているのだろう。セルはアイオリアの目的が読めないでいた。なぜあのとき、セイメイを担いだのか?真の目的とは何か?
セルは心のどこかでずっと引っかかっていた。
最初はムカついていたセイメイが、いつの間にか気ごころ知れた仲間になり、戦友となり、友人になった。セルは周りそう仕向けたアイオリアの思惑を知りたくなっていたのだった。
決して過去の過去を振り返りたかったわけではない。彼こそが先の先を見据えていた先駆者だったのだから。
天下無双の格闘家、アイオリア。
それは誰にもいえない逆襲が始まろうとしていた。





