第148話 「源泉」
ルカはおもむろに言葉を発しているような雰囲気ではなく、どうやらはじき出された言葉をいうような感じにも見えなかった。
「ならば、ミナモトでよいのでは?」
「なんでミナモトなんだよ!」
横から入ってきたルカは理由を述べた。
「セイメイという言葉は、“生命”とも捉える事も可能ですよね?つまり、サムライであるマスターに対して、サムライの由来は平安末期における武士の台頭。いわゆる源平の戦いが主題となる。そこにおいての勝者は源氏である。ここから取るとして名に恥じぬ事が課される事にはなるけど、ミナモトと名乗れば、語呂がよくなる。どうでしょうか?」
ルカは深呼吸すると静かにゆっくりと名前を挙げる。
「ミナモトノセイメイ……セイメイのミナモト。どうでしょうか?」
「いいっすね!ルカちゃん!ナイスッス!!」
―――ミナモトノセイメイ……
セイメイは自分に英雄号がつくことなんて考えてもいなかった。
「でもね、ルカちゃん?セイメイ=ミナモトノになっちゃうよ?この際だから、【ノ】はいらないけどねw」
ユーグは苦笑いしながら、少し笑っていた。
「ルカが、提案するなんて珍しい。俺はこれでいくぞ」
「有難う御座います。まさか、採用されるなんて……」
「ああ、たまにはこんな綺麗事を俺から言わせてくれてもバチは当たらんだろ?」
ルカは静かにこくりと頷くだけだった。
「そうっすね!」
「破壊者で代行者で一方恐れられている。良い時代がきそうじゃないか?ええ?」
「なんか、言い方が悪人風なのはなんで?」
「そっちの方が面白いだろ?表では綺麗事並べている政治家さんみたいでよぉ?俺は現代を映し出す鏡みたいなもんだ」
「う~ん、セイメイさんが悪者って感じしないんだよな?自分にとっては恩人だから……」
「ああ?まだあの事きにしてんのか?そんなの言われるまで思い出さなかったぞ?」
「えええ!!??あんだけ迷惑かけたのに??」
「あんなのどうでもいいわw知らんッッ!!」
「やっぱそこがセイメイさんの良いところなんすよねェ~豪快というか、器がでけーというか……」
「くだらねーこと言ってねーで、さっさと支度しろ。俺らはサンライズに入るぞ?」
「え?あんなとこまでいくんすか?」
「そうだ。わるくねーだろ?」
「あそこ苦手なんだよなぁ……」
「俺と出会ったのもあそこだしな?」
「う~ん……」
ユーグは腕を組み、悩んでいたが悩んでいてもしょうがないと思ったのかため息をつく。
「まぁ……いいか!」
「おう。出てきたらぶっ殺せばいいんだよ。お前にそれだけの実力は付いているはずだぜ?」
「うう……、それが出来ればいいんだけど……」
「少なくともユーグさんはマスターより数少ない職種です。傾向は対策が取られづらいでしょう」
「わかったよ。とりあえず、頑張るよ」
「まぁ少なくとも後衛にルカがいるのは心強いしなユーグも盾役にもなるし、俺は安心しているぞ?」
セイメイは肩をポンと叩く。
「んじゃあ、いきますか?」
「忘れ物するなよ?」
「あはw戻ってきただけだから、いつでもいけます!」
そして、三人は厩舎へ向かう。
ルカは馬をもっていないので、セイメイの跨る馬の背中に乗る。手綱を握り馬へ走る事を促すと勢いよくアーモロトの門を潜り抜け、黄竺を目指し馬を飛ばした。
――――――――――――――――
アーモロトを抜け、かつての戦場を越える。
メディオラム地方に入るとロームレスに寄りたくなったが、ルカの事を考えるとあまりよくないと思い、城には入らずに迂回する。
森に入るかを悩んでいたが近道だという事で走り抜けていた。
――――――――――――――――
~黄竺~
ここはかつて九龍ギルドによって制圧されていた国、ダイトー地方を統治する街である。
現在ここの統治ギルドはいなく、次回の占領戦において生き残ったギルドが統治するということだろう。
攻城戦がなく、通常の拠点戦と変わらない。相手の砦にある旗を取った方が勝ちというシンプルな戦いが行われる。
また、以前に話の上がった伝説上の悲劇のヒロイン、アリシアの恋人役カイ王子がいた街だ。王は王子の死を嘆き、その後、カイ王子の幼い弟に王位を継承した。以来、黄竺は別の方法で国を栄え、隣国のサンライズ列島にあるスメラと交易をなし、経済を回しているとの設定である。
もっとも、セイメイ達が通り過ぎた川は戦争を終わらせた。それは聖女の涙による終戦だったのだ。
メディオラムとダイトーとの境目を分かつ川、それが聖女アリシアの涙が濁流を生んだとされ、アリシア川と名前を変えられた。今は何事もなかったように川のせせらぎは穏やかである。
黄竺の町並みは他の街に比べて独特の町並みを見せる。マノが登った塔や、家々は長屋のような造りをしている。また、ギルドハウスは四合院のような塀に囲まれた門構え。時折見せるデザインは中華を彷彿させる町並みである。
去年、セイメイは怒りに任せて黄竺の中央に悠然と構えている城にめがけて、刀や青龍偃月刀などを使用して突き進んでいった。そこにアイオリア、ソロモンが加わればほぼ無双状態だ。“ソロモンの指輪”の使徒たちが暴れれば、九龍ギルドお抱えのネクロマンサー達が魑魅魍魎の召喚獣や魔神達を退け、アイオリアの瞬殺力を余すところなく尖兵を潰していく。
そして、玉座にいたパドスを一刀両断にし、旗を奪い戦いを終わらせた。
NPCと入国手続きを行ない街に入る。行き交うプレイヤーがいる。しかし、セイメイを知る者達はセイメイを見て目を逸らす者、ガンを飛ばす者、それぞれの表情を覗かせていた。
「せ、セイメイさん……、こりゃやべーほどのアウェイですよ?」
耳打ちするユーグの心配をよそに堂々と歩くセイメイはユーグの顔をみていう。
「気持ちいいじゃねーか?たかがゲームで人から恨まれたり、憎まれたり興味を持たれている。無視・無関心されるよりよっぽどいい。ぞくぞくしねーか?ユーグ?」
ええーとした表情をしながらユーグは感覚がおかしいのかと疑っていた。しかし、セイメイは至って普通の表情をしていた。
「す、好かれた方がよくないですか?」
「そりゃそうだ。好かれる方が断然いい。でもな、こういう奴らがいるからこそ!自分を好いてくれる人を大事に出来る。そうじゃないか?」
「そりゃあ……そうですけど……!」
「んじゃあ、こんだけ領地を広げてんだ!敵の一つや二つ!出来た所で堂々としていないとな」
ニヤリと笑うと目つきが変わる。
目線の先にはパドスにギルドマスターを変えたクーロン一行がセイメイの行く手を阻む。
「キサマァ!!よくもやってくれたなぁ!!」
街中でセイメイを囲むようにするとパドスが怒鳴り散らす!
「さぁ?知らんなッッ!お前らも全力を出したんだろ!?それを今更なんの文句がある??」
セイメイは鼻で笑うようにパドスを見下していた。
「ああ??てめーら!!なんかやったろ!?」
パドスは怒りに任せた言葉を放っていた。それを聞いたセイメイは声を荒げる。
「ああ?なんかやったのは、テメーんとこのギルマスだぞ?おい。てめーんとこのギルドはチート使いまくって負けたんだよ?お前はそれ知っていたんだよな?じゃあお前はまもなく垢BANだぜ?」
※垢BAN…アカウントBANEDのスラングで略。既存稼働しているアカウントの利用を停止する。
「んだとテメー!!」
パドスは拳にオーラを纏わせていた。すると他のギルメン達は武器を抜き始めた。
「おいおいおい、こんなとこで寄ってたかってPKか?」
セイメイは刀の鯉口を開くと柄に手をかける。すると、ルカが前に出ていく。
「お主ら、一言申そう。妲己は死んだ」
「なッ……!?」
「お主らの知る妲己はとうの昔にログインできないようじゃな?それに別の乗っ取りしたモノはそのせいで死んだ」
「死んだだと……?」
ざわざわとクーロンのギルメン達は動揺が走った。
すると、ユーグが声を出す。
「ほら、死んだというのはアカウント停止せざるを得ない状況になったという意味だよ?!ね?ね?ね!?」
パドスに向け弁解するようにいうと、最後はルカに念を押していた。
「まぁなんにせよパドスとやら、あれは戦場だ。斬られて逆上するのは、ちと違うんじゃないか?戦場ではやられる方が悪い。それくらいわかるであろう?」
「では……なぜ!!俺の話を聞かなかった……!?」
セイメイがルカを押しのけて前に出る。
「それはすまん。あの時、この不毛な戦いを終わらせるには非情にならざるをえなかった。聞く耳をもつ余裕が俺にはなかった」
「くそが……!」
「斬り捨て御免は戦場での習わし。許せッッ!!それが嫌ならば、お前が強くなれ……俺は未だ頂きを知らないッッ!!」
「んなこたぁわかっているさ……!」
パドスは下を向き言葉には言い表せない態度をしていた。
「まぁ……うまくいえんが……、俺を超えるのは簡単だ。だが、アイオリアを超えるのは俺でも難しいぞ?」
そういうと顔をあげて苦虫を嚙み潰したような表情をする。セイメイはパドスに向かいながら横に立つ。
「俺もアイツを敵に回さなくてよかったと最近思うよ。まぁそれでも勝てぬ戦をしなきゃいけないときだってある。スジを通すというのは、かくも難儀である」
「わかったような口をきくな!!」
パドスは振り向くとセイメイの背中へ向かって叫んだ。セイメイはくるりとパドスに向かって話す。
「だが、それがいい!!主君である友のため!!命を差し出す覚悟をお前はした!何を恥じている!?胸を張れ!!そして、王都のギルドマスターの俺に斬られた事をまず誇れ!!次は俺の手でお前と戦う事など叶わないのだからな!」
セイメイはそういうと、どけっ!といって道を開けた。
それにさささっと網目を縫うようにユーグとルカはすり抜けていった。
セイメイの胸の中はイーリアスの空と同じ、赤く燃え始めていた。





