第147話 心剣回帰「ゲシュタルト」
――翌年、
セイメイはオフ会における“とんでもハプニング”による非日常を彼は過ごし、センチメンタルになるような時間がなかった。
そして、仕事始めの前々日、ようやくドタバタとしたセイメイにとっての“非日常”は過ぎ去り、落ち着きを取り戻すとやっとの思いでIliasにログインすることになった。
~アーモロト城・セイメイの部屋~
和屏風の床の間に降り立つ。
―――ふぅ……。とりあえず、準備でもしよう。
セイメイは旅支度をしようと街に繰り出すため、城の中にリンクしている自分の部屋のドアを開けると、目の高さにお化けの帽子がこちらを笑いながら現れた。
「うぎゃああああああーーーーーー!!!」
セイメイは腰を抜かし、床にペタンと尻もちをついた。
すると、ルカがセイメイを見下ろしていた。
「お主、良い身分じゃの?」
「な、なにがだよ!!ぐ、グラマスなのが気に食わんのか??」
「そうじゃない。私をおいて……皆と楽しく過ごして……」
ルカは少し高圧的な目線でセイメイを凝視していた。
「(オフ会に)行く前にいっただろ?時間を空けるが戻ると!」
「ほう……?私は114時間51分48秒10の瞬間まで待っていたのだけれど?」
「こまけー……!細かすぎて俺が現実に待ち合わせとかで『これだけまってました』と言われたら不気味で仕方がないwww」
セイメイは倒れた上体を起こしゆっくりと起き上がる。何か変な違和感に気づきながらも旅支度を整えようと城下町にいくため、城の階段に向かい降りていく。
二人は階段を降りてながら話を続けた。
「フン、私をおいて皆で楽しんでいた罰だ。罰にしては、ニンゲンの精神というところに負荷をかけてみたのだが、堪えたような素振りだな?」
「あーひとによっては十分効果のある圧力だったぜ?」
セイメイは頭を掻きながらげんなりしていた。が、ふと気づく。
―――ああ、そうか。コイツは親しい仲間がいなかったのが寂しかったんだ。まてよ?
なにかおかしい!?AIだぞ?寂しいという思考が働くのか?どういうことだ?
色々考えていたが、頭の中にあるほどけない糸くずをほどくようで混乱していた。
「すまん。その分、次回の占領戦まで俺と旅しようぜ?」
「む?何をいっておる?私はだな!」
「あっ……!」
セイメイはルカの手を引いて城下町の道具屋を回る事にした。
~アーモロト・城下町~
メインストリートは王都として、どこの国にも恥じない大通りだ。
道具屋・鍛冶屋・酒場など店舗が軒並み並ぶこの通り、裏通りもいいが今日はこのメインストリートを歩んでいく。
先の防衛戦において逆転勝利を収めたセイメイ達であったが、セイメイの名声は良くも悪くも高まってる。少なからず、アーモロトに所属をおく他のギルドの奴らは比較的に好印象だった。
道ですれ違うプレイヤーは手を挙げたり会釈したりとアーモロト内では頭に王冠マークがつくからわかりやすいのかもしれない。
「ふむ。やはりマスターは愛されやすいプレイヤーなのですね?」
「嫌われるよりマシだ」
「嫌われるのが怖いんですか?」
「んー昔は怖かったよ。けど、全員に好かれることなんて無理だ。ただ、分母が増えれば増えるほど、比率が好意的な方に比重が重くなればいいやぐらいしか思っていない」
「攻撃的な人達はどうするの?」
ルカはセイメイの顔を見ると、セイメイは悩むことなくすぐに答えた。
「無視する」
「そうなんだ。無視するという回答なのか……」
「イチイチかまってられん。そこに時間かける暇があるなら、自分の為に時間を費やした方が幾分かはマシだ」
「そう……」
「それに!」
「俺には自分の為に時間を費やしてくれる仲間がいる。そいつらのために時間を有効活用したいと思っているさ」
自慢げに笑うセイメイをルカは驚きと戸惑いを覚えていた。
「ニンゲンはどこからその自信と確証を得ているのでしょう。どこからでも裏切りや離反の可能性は存在されるというのに……」
「無論だ。それをされても凹まない気持ちを持つという事だろうな……俺も悩んでいた事もあるからさ」
「うん……」
「まぁAIにはわからんだろうな。お前らは色々な可能性の算出で可決していくだろう?でもな、その先でもしかしたらまた合流するかもしれんだろう?それを完全な“0”にしたら、可能性という存在が消えてしまう。それではダメだと思っている。人というのは過ちから学ぶ事もあるのだから」
そういうとセイメイは歩みを止めて取引所へ入っていった。
≪いらっしゃい!≫
NPCの聞きなれた挨拶と同時に店頭に並ぶアイテムをみていく。
ポーションを買い、その他必要なエリクサーなどを買い漁る。
ここでは生活コンテンツの収益をここで売り買いするプレイヤー同士のマーケットがここに存在する。
素材を集めて、精製し売る。この単純な作業で富を得るプレイヤーも数多く存在する。かくいうセイメイも生活コンテンツに顔を覗かせてはいたが本格的な事はやっていない。
しかし、最低限の収益を作っておかないと、狩りやクエストコンテンツだけではお金はたまらない。色々な分野に手を出してこそ、収益は黒字に転換されていくと思っている。
現実のビジネスでもそうだが、違う分野の三本柱が確立されていれば会社は潰れないという説がある。それを鵜呑みにしてこのゲームで行っている。
そう、山菜取りから教えてくれた師匠がいた。セイメイがまだ右も左もわからない時の事だ。
神道流の派を学ぶ前の頃である。あの師匠とあの時袂を分かつ時までは師匠であった人の事がふと頭に浮かんだ。そして、単身飛び出してこの世界を侮っていた頃の自分を思い出していた。
「……ター?おーい、マスター?」
「はっ!」
セイメイは昔の苦い思い出に浸っていた。
「ねえマスター。どうしたの?」
「ああ、いや懐かしい思い出を思い返していたんだ」
少し照れ臭そうにしているとルカは思わぬことをいう。
「ふむ。ちとまて」
「え?ああ!!おい!おまえそれやんなよって注意しただろ!!??」
「他人のはダメだが、“俺のはいい”といったのはお主だぞ?」
「だからって……!!」
一通り何かを終えたルカはセイメイにいう。
「うん!マスター、私を極東の列島“サンライズ”に連れていって?」
「おまえ……何を読んだ!?」
「知れた事よ。お主の過去を覗いた」
「それにアイツもおるのだろ?お前と似たあの女も……」
「ルカ……、皇国スメラにいくというのか!?」
「なんじゃ?私はいくというておろうが。お前もいくんだ。私の言う通りにしろ今回ばかりは」
「なんでまた、お前の言う事を聞かなきゃいけないんだよ?」
「なんでもかんでも私が教えなければ進めんのか?お主は?」
セイメイはその時、思った。
―――やはりな。最初の頃とはだいぶ違う喋り方をしている。蓬華のプログラムも残されているか一部コピーされているのか?それをコイツが取り込んだとでもいうのだろうか?この違和感はそれを感じていたんだ。
謎が謎を呼んでいた違和感に感づいていたが、その時は見過ごしてよいレベルだと思い、経過観察も兼ねてセイメイは様子を伺っていた。
「まぁいい。俺は準備が出来次第、出発するがお前がくるとして他は誰がいくんだ?」
「お主と私ともう一人だよ」
「なんでだよ!頭数的に前みたいに妲己のような奴が現れたら対処できねーよ!!」
「大丈夫です。あの固有スキルはもう存在しません。それに今回ピンチに陥るとしたら、マスターの方が高いです」
―――ややこしい喋り方をするなぁぁーー!!俺を!!上から物をいってみたり、下から見たりとややこしいッ!
頭を抱えているとユーグがセイメイをみつけるなり、声をかける。
「セイメイさん!ここにいたんですね?ログイン履歴がみれたので、狩りにいこうかと思ったところを急いで帰ってきたんですよ!」
「それでどうしたんだ?要件を言え」
「またまたぁ~!セイメイさんはスメラにいくってルカから、お誘い受けているんですよ?」
「なにぃ!?」
ルカはどうやらセイメイの履歴を遡り、ユーグが一緒に旅したいという願いを聞き入れていたようだ。それによるユーグへのメッセージを送っていたとセイメイは推測していた。
「おまえ……」
「お前ではない。ルカ、ルカ=マイアーズ。これが私の本当の名だ」
「マイアーズってことは英雄号持ち!?」
ユーグは驚いていた。
「フン、英雄号が何様だよ……!」
「セイメイさん!セイメイさんも英雄号持っているじゃないですか!?」
「ああ!??俺はもっちゃいねーよ!」
「なにいってるンすか?グランドマスターの称号を保持している時点で、英雄号ですよ?」
「くだらん!」
「いいじゃないですか!まあ、さしずめセイメイですから安倍でいいんじゃないんですか?」
ユーグはプクククッ!と笑いを堪えながら腹を抑えていた。
「ちぃぃぃいい!!いちいち見透かしたような苗字をつけるわけねーだろ!?」
「あれ?ギャグセンスのレベルを求める割には寂しい事いいますね……」
「んじゃあ!他になんか良いのないのかよ?」
「じゃあ“セイメイ”って呼び方は清明と当てましょう!」
「お、なんだなんだ?文学的要素を盛り込んできたな?」
「二十四節気という暦があるんですよ!季語としても使われますよ!」
「流石!学生!学業の本分を弁えているッッ!!」
「3月の弥生が丁度それに当たります。ですから、ヤヨイセイメイというのはどうでしょう?」
「音としてはいいんだけどさ、残念だが、後ろに来るんだぞ?セイメイ=ヤヨイになる。すると、女の子みたいな可愛らしい名前になっちまうんだが??」
「ぶははははは!!!セイメイさんが女の子!?ぎゃはははは!ありえねェェ!!」
ユーグは思わず爆笑してしまい、セイメイは肩を震わせて怒りを抑えていた。
「ちぃい!!まともに聞いた俺がバカだった!!」
馬鹿馬鹿しい事に付き合いきれないと思うセイメイの横で、ルカが思いがけない発言をする。
セイメイにとっては意外なほど納得する内容だった。





