番外編05「代行者の宴 その5」
セイメイとファウスト、クリスが席に戻るとセイメイのところにスカルドと結華が謝りにきた。
「あの……ご気分を害するような事を申し上げしまい、申し訳ございません」
「ごめん。セイメイさん。そんなつもりじゃなかったんだ。本当にごめんなさい」
セイメイはファウストから聞いていたのもあり、二人を許した。
「別に謝ってほしいんじゃないんだ。ソロモンの事をよく知れば、ただのエロオヤジじゃないことぐらいは君たちほどの人間ならば、理解できるはずだ。
人を一面でしか見ないような女性ではないのを俺は良く知っている。それに謝るのは俺じゃなくソロモンにじゃないのかい?」
セイメイは少し笑いながらソロモンをみるとソロモンは困り果てていた。
「あのマスター、わしゃ……そのなんだ、エロオヤジは揺るがないんか?」
「ああ、エロだ」
「マスタァー!!そりゃないぜよぉ!!マスターもいつかワシみたいにエロオヤジになるんじゃから~~!!そんなぁ!寂しい事をいうなやぁ~!!後生やぁぁあああ!!!」
セイメイに抱き着くエロオヤジをセイメイは剥がそうと一生懸命になっていた。
「わーったから離れろ!俺もそのうち老けるし、加齢臭も既にカウントダウンだ!だけど、見境なくそういう事をするようなオッサンにはなりたくないって思っているんだよ!クソ!!離れろ!!!」
泣き上戸になるソロモンを他所にアイオリアが被せるように絡んできた。
「マスタァー!!私も!!マスターのような男になりたいです!!」
「だぁーーー!!気持ち悪い!!いい年したオッサンとボンボンが、三十路過ぎた男の腕にしがみつくな!!」
そこにクリスが割って入ってくる。
「こぉぉぉのぉぉぉバカァァアニキィィィ!!!!」
パコーン
それはセイメイがアイオリアの頭を殴った新聞紙だった。
クリスの必死の制止により、むさ苦しい惨劇は収まったが、ドリアスがその新聞紙を広げて見て大爆笑していた。
「ギャハハハハハ!!!おい!セイメイ!!なんてもの見てんだよ!!!」
新聞紙を広げてこちらに見せてくると、それは官能小説の記載のあるページだった。
「お、おい!!それはみてねーんだよ!!俺は表面の……」
そういうとあれだけバラバラだった女性陣は一気に結束する。
開口一番はクリスだった。
「マスターはああいうのを平然と読む人だったんですね!?しかも持ってきますか?女性がいるところに!!」
「いや、ちげーっていってんだろ!!!??」
「おい、セイメイ。流石にありゃやりすぎだ。俺もああいうのをみたい気持ちを理解してやらなくないが、ここに持ってくるというタイミングがわるいにゃあ」
ピピンは酒が入り猫言葉になっていた。
そして、この二人の対応にセイメイは戸惑う
「セイメイさん、ちょっと引きますね。決闘の流鏑馬の時は紳士でカッコよく見えたのに幻滅です」
「ちょ!だから、さぁ俺の言い分を聞いてくれって!!」
「セイメイさま……私でよければ、夜のお供を致しますのに……なんでいっていただけないのですか?」
「いや、それはそれで嬉しいけど……ってちげーーよ!!俺はそういうのはナシなんだよ!」
たまらずセイメイはドリアスから新聞を取り上げて表紙の一面をみせる。
「俺は明日の有馬にかけているんだよ!!!」
『アリマ??』
女性陣は何をいっているのかわからず、静かになった。
ここまで沈黙を守っていたベルスの眼が光る
「年末、千葉県船橋市に中山競馬場というものがある。その競馬場で開催されるGⅠレースだ!!
“年の暮れの中山競馬場で日本ダービーに匹敵する大レースを”と提案したのが始まりだ。
当時の日本中央競馬の理事長であった有馬氏が提案した事から始まった。しかし、提案者の有馬氏が翌年、肺炎で亡くなってしまったため、中山グランプリという名称から“有馬記念”に変わり、今もなお開催されているッッ!!」
『オオオオォォォーーー!!』と一同は声を揃えて驚いていた。
「セイメイ殿、あなたは競馬をやるのかね?」
いつになく凄みをみせるベルスの問いに、少し苦笑いしながら答えた。
「んまぁ普段やらないんだけどさ、こればっかりは昔、爺ちゃんと二人の秘密で家族に内緒でいっていた場所なんだ!大金かけないんだけどさ。年一だからやりたいんだわwww」
ベルスが立ち上がり、セイメイから新聞を取り上げ、ジャケットに刺してあった赤ペンを取り出すと、キュキュッとペンを走らせた。
そこには、数字や二重丸が描かれており、そして三頭ほど丸や三角が書いてあり、また計算式の答えのように、数字の羅列の下に二重線が引かれていた。
「5-9?」
「私の見たたてでは、一番人気の馬が必ずくるッ!」
「この馬の成績は……」
セイメイは競馬欄に小さく書いてある出走履歴を覗き込むようにみて驚く
新聞を持つ手を震わせながら、ベルスをみる。
「この一番人気は……だ、東京優駿馬じゃねーか!!」
フフンというと腕を組んでドヤ顔でベルスは語り始める
「そうだ。その馬の戦績は目を見張る。皐月賞も勝ち、ダービーにも勝った。天皇賞はダメだったが、得意の距離は2400~2500m!!こいつぁくるぞッッ!その他の馬はまぁ流しで買えばどっか引っ掛かるぞ?私の見立てに狂いはないッッ!!」
豪語するベルスはセイメイに情報提供した。セイメイの知る温和なベルスの意外な一面に驚き感動していた。
「なんか、ベルスさんと関われて非常に嬉しいというか、面白いと思えましたよ。万が一外れても文句はいいませんからww」
「当たったら、そこにいる女性に何かあってあげる事ですよ?フフフ……」
「ちょ……勘違いしないでください!!自分は、ギルメンに手を出す様なマスターでは……!!」
ベルスがセイメイの弁解に割って入る
「ここまできて、女性とねんごろにならないのは、男としてどうなのだ?ビビる年でもなかろう!?」
「いや、ていうか、そんなキャラでしたっけ……あ!」
ベルスの席に目をやるとテーブルの横には既に空のジョッキが沢山並んでいた
―――ダメだッッ!!いつものベルスじゃないヤツゥゥゥッッッ!!
「いやまて……え?」
「私は嫁も子供いるが、些かおせっかいな部分が年によって出てきてしまったのだろうな~、酒も入っている。こういう時は年長者のいうことも聞くべきではないか?」
「そういうベルスさんはいくつなんですか?」
「齢50を迎えた」
「そ、ソロモンより上なの……??」
「ふむ。君は年齢で男の生き方を変えなければならないと思っているようだが、男とは基本子供のような一面を持ちつつも、時にはケジメをつける刻がくる。その時の覚悟をするには、まず女子を見つけねばな!?」
セイメイの肩をポンとたたくと不敵に笑い、ガハハハと高笑いしていた。
それを見たセルが悪酔いしている。
「そうだ!!ベルス!!流石!ローレムスの城主として威厳がある!!それに比べて、王都となるアーモロトの城主様はなんだぁ?未だに嫁もおらんとは!!これは世継ぎに問題が発生するなぁ!!」
というと、女性陣を眺める。
「ちょ!おまえは彼女とか嫁とかいるんのか??いねーよな??」
「残念いるんだなぁ~!家に帰れば肩身がせめーけど、イーリアスの時だけは“俺”でいられるのさぁ!カッカッカッカ~!!」
―――だめだ、こいつら悪酔いしてやがるッッ!普段から相当なプレッシャーと戦っているとみるッ!
すると、静かに黙ってこの流れを眺めていた。
お嬢様が立ち上がる。
「あのッッ!もしよかったら一緒にいきませんか!?」
『ハァ!!??』
「いえ……私の…財閥の馬が明日走るのです……ですから、皆さんもどうでしょうか……?」
『エエエエェェェーーー!!??』
かくしてこのオフ会のメンバーは明後日の競馬場へ行くことになった。
そして、ここで宴もたけなわ盛大な盛り上がりの中、閉幕を迎える。
セイメイは帰り道にソロモンと一緒に歩いていた。
「マスター、わしゃあ想像通りの男で安心したぞぃ」
「なにいってんだよ、俺はIliasでも現実でも同じだよ」
「マスター、お前さんさえよければ……ウチで……」
ソロモンは酔っているせいか躓きそうになった。すかさずセイメイは肩を掴んだ。
「ははは……優しいやつじゃの……」
「普通だろ!?これくらい……」
肩をかしながら、駅へ向かう
そして、秋葉原駅でそれぞれの家路につく。また今度は競馬場で待ち合わせという事で来れる人は来るという事で解散に至った。
ソロモンはタクシー乗り場でタクシーに乗せた。家が都内で近くだということで乗せた。
ふうというと、セイメイはみんなが去った駅にゆっくり向かっていく。
今日の色々あった事を思い出しながら、改札をぬけようとすると、背中をツンツンとつつく者がいた。
振り返ると、そこにはクリスとアイオリアが立っていた。
「ったく……、破天荒兄妹が何かようか?今度は何を企んでいる?」
セイメイは頭を掻きながら気だるそうにしている。
「いや、お願いがある。マスター」
「ロクなお願いじゃねーんだろ?聞くだけ聞いてやる。なんだ?」
「年明け、少しの間時間がほしい」
「あぁログインが一時的になくなるのか、占領戦では痛手だな」
「今は攻めてくるやつらはいないと思う。今や、オケアノス・フォルツァの二強が手を組んでいる。西の強豪も下手に手を出してこないだろうし、北の侵攻に躍起になっているプレミアもこないだろう。それを見越しての休止だ」
「それでどうしたんだ?なんか忙しくなるのか?」
「いや、父型の方に会いに行くのだ」
「ああ、そうか。クリスも一緒なんだろ?」
「いや、今回は俺だけだ」
「はぁ~ん?まぁいいか、俺が口出すことじゃないしな」
「そこでお願いがある」
「まだあるのか?」
「我が妹の面倒を頼む」
「は?なんで?」
動揺するセイメイを無視してアイオリアは話を続けていた
「こう見えても寂しがり屋だ。ログインしてマスターと会うのはいいのだが、現実でも会ってほしい。金はある。俺のカードを妹に渡してある。不動産などの資産購入以外は基本問題ない。なので、これを妹に渡してあるから、美味しいものなどを一緒に食べてほしい」
「いやそれくらいの金はあるぞ!バカにしてんのか?」
「いや、相手してもらうお願いをしたのだからこちらが払うのがスジだ」
「セイメイさんは自分の事にお金使ってください♪私はお兄ちゃん以外の人と外食するの楽しみなんですよ!?」
目を輝かせているクリスをみて、頭を抱えて悩む事になってしまう。
「わ、わかった。と、とりあえず夕飯だけでいいんだろ?」
「ええ、そうです。どこで食事したかは後の履歴でわかりますからね」
「つかわねーよ!!」
「まぁまぁ♪セイメイさんは照れ屋ですからねぇ~!」
「そういうんじゃないんだって!」
「なので、よろしくお願い致します」
珍しく全部まともな言い方をしてきた。ただお金の出どころ以外は……。
「ああ、なにしにいくのかは聞けないが、すぐ帰ってくるんだろ?」
「無論!マスターと遊びたいですからね?」
「そうか。身体と身の危険には気をつけろよ?向こうは日本じゃないんだから」
「マスターより見の守り方は知っていますよ?」
「あ……。そうだなwスマンスマン!」
照れ隠しをしながら口元をかいていた。
「じゃあこれが俺の番号だ。何かあれば連絡をよこせ」
そういうとセイメイは端末を出して、連絡先を交換した。
「有難う御座います」
「お前よりは信用のあるクリスに礼をいえ」
クリスはふふ~んと自慢げに兄を見上げていた。
「では、少しだけログインしなくなりますが、くれぐれもギルドの脱退をさせないように」
「大丈夫だ。それはしないさ。お前もまともな冗談は言えるじゃないか?それでいいんだぜ?」
「あ……」
アイオリアは少し気まずそうな顔をしていた。
「まぁ騒がしさがなくなるのは少し寂しいがやることやったらさっさと帰って来いよ?」
「では、妹をお願いします」
「わかった。じゃあまたな!」
そういうとセイメイは改札を抜けて自分の帰りのホームに向かってエレベーターに乗っていった
セイメイは翌年、壮大な一年を過ごす事になる。
番外編はこれにて終了です。
五章開始まで暫しお待ち下さい。





