番外編04「代行者の宴 その4」
瞼を閉じたセイメイは最初の頃を思い出していた。
刀を手にして、モンスターを討伐しスキルポイントを稼いで新しいスキルを追い求めていたあの頃を。
あの頃に出会った師匠の事を思い出していた。
師匠はまだこのゲームをやっているのか。
そう思うと、自分はこれだけ成長したことを報告しにいきたいのと同時に、価値観のすれ違いで離別した人の事をセイメイはずっと心の片隅で考えていた。
そしてゆっくりと瞼を開ける。
今こうやって目の前に広がる宴を楽しんでいいのかと悩んでしまった。
しかしどうにもできない。自分がそうしたくても相手が拒否をしてしまえば、それ以降の変化はない。
ただ、お互い忘却の彼方にそっとしまってしまう。そして、いつしか風化していくことを余儀なくされてしまうのだ。
それは寂しい事だし解決しようとしたところで、それは解決しようと思っている側のエゴでしかないのだ。
互いが欲している・そうしなければならないという事であれば、解決をする事に越したことはないのである。しかし、こういった類の悩みは尽きる事をしらない。むしろ、現実社会で日常茶飯事に起こっている。それはちょっとした弾みや何気ない一言、一場面が無情にも人を傷つけていく。これはオンラインが発達した今でさえ、起こりえる人間社会の歪みなのだ。我々はこの闇と一生付き合っていくしかないのであろう。
セイメイは見た目に似合わず、そんな事を考えていた。
だれだってそうだ、傷つきたくない。傷つけるつもりなんて本当はないんだ。なのに、なぜこんなにも世界は歪んでしまっているのだろうか。
そして、俺らは、“共喰いの様に他人を傷つけずにはいられない性分”なのだろうか……。
ソロモンは物思いにふけるセイメイの横顔みながらグラスビールをぐいっと飲み込んでいた。
「よう!スカルド!現実であったんじゃ!何かの縁じゃ!酒をついでくれぃ~!」
「はぁああ??セイメイ様にもまだお酌が済んでいないのになんであなたに!?」
スカルドが不機嫌になると結華がすかさずその言動に突っ込まずにはいられなかった。
「ねぇ、ゲーム内は雰囲気があるからまだいいけど、現実だとただの高飛車女になるわね?クックックッ……!!」
「な、なんですって!??」
「いい加減諦めなよ?あんたに集る男は、精々ああいうオッサンだけだよ?」
そういうと茶番を繰り広げていた。
ダン!
「おい、やめろよ!」
テーブルをグラスで叩いた音は、にぎやかな雰囲気を凍てつかせた。
「ソロモンは……、そういう感じのエロオヤジじゃねぇ。そうやって見た目で人を判断し、収入で人に優劣をつけるから!争いが絶えないんじゃないのか?」
「セイメイ……!」
戸惑う二人にセイメイはふと我に返ると、周りはセイメイの事をみていた。
「すまん……興が悪いな。少し身体を冷やしてくる。ユーグいるか?」
「は、はい!」
ピピンらと思い出話をしていたユーグを呼びつけた。
「悪い、お前の振られた話をして場を盛り上げてくれ。俺は一瞬外に出る。あー帰らんよ?帰ったらもっとシラけちまう。すまんな、場を繋いでくれ」
「ええーー???」
「ええ??なにそれ??ちょー聞きたい!!」
「暗黒騎士様の失恋話!いいね!闇深そうだわ!闇落ちしただけにな?」
セルが韻すら踏んでないネタでだだスベリをしている。
「さぁ聞こうか!!四聖剣の恋の話をな!!」
アイオリアはうまくユーグに会話のバトンを返した。
そのすきにセイメイはその場を後にした。
焼肉屋の外に設けてある喫煙所に出る。
リセットをかけようとタバコを取り出し火をつける。
ふぅー……
セイメイはあの場で考える事の内容じゃない事を考えていた事に後悔をしていた。それは自分も結局、制止することで自分も相手を傷つけている事になっていた事に自虐的になっていた。本来であればザマァみたいな自業自得を演出するのだが、身内でのああいうやりとりを見させられると、心底辛くなってしまうのだ。
そして、いつも逃げてしまうのが、ソロでやってればこんなことにならないのになという考えだ。
これも悪でしかない。他人とコミュニケーションを取らなければ、傷つくことも傷つける事ない。そういうことじゃないんだ。他人には相手と傷つけあって絆を深めろとかそんな綺麗な事が言えても、自分がそれを行うのには抵抗が出てしまう。この矛盾がセイメイを苦しめている。
セイメイは手から落ちそうな灰を灰皿にポンポンと落とす。
なんとも御しがたい精神と思考を持ち合わせている自分に嫌気がさしてくる。
頭を掻きながら、近くにある長椅子に腰かけて空をふと見上げると既に夜の景色だった。
冬は日が落ちるのが早い。それをセイメイは感じていた。
そこにクリスが入ってくる。
「セイメイさん……」
暖かい場所から冷たい場所に出てきたクリスの肌はまだ赤らめていた。
「おう、クリス。ちゃんと話すのは初めましてだなw」
「いえ、それよりうちの兄がすいません」
「謝ることはないさ。君の兄だ。何か色々考えての行動だったんだろ?」
コクリと頷くとクリスの吐息はまだ白く口を開けていた。
「隣座っていいですか?」
「ああ、いいぜ」
長椅子が少し古いせいかギィと音を立てたので、驚いていたが目が合うとクスリとお互い笑ってしまった。
「セイメイさん、覚えていますか?あの時の事」
「どんな時だ?」
「セイメイさんの部屋に行った時です」
「あ、ああ覚えているよ」
―――なんでその話なんだーー!
「あの日から……いえ、あの前からずっとセイメイさんの事が気になっていました」
「え?」
「助けてくれた時から今まで黄竺への旅、蓬華ちゃんがいなくなった時までも……」
「その話はやめてくれ……まだ踏ん切りがつかないんだ」
「踏ん切りつかないのは普通だと思いますよ?」
「え?なんでだ?」
「私の場合、母が他界してから、父と兄は喧嘩ばかりしていました。そのせいで兄は家を出て、私をおいていきました。本当は優しくしてほしかった時期なのにです。まぁ兄はあんな性格ですから、父との離別を望んでいたのでしょう。それが母の死によって決定づけられたといっても過言ではありませんからね」
足をぶらぶらしていたクリスは足を止めるとセイメイの顔を見る。
「だから、思い出にしろとは言いませんが、進むしかないんですよ、セイメイさん。私達は今もなお生き続けている。その気持ちは大事に閉まっておいて、いつでも取り出せるようにしとけばいいんですよ」
クリスはそう言い終わるとにこっと笑顔で笑った。セイメイはその笑顔で悩んでいた過去のトラウマが少し和らいだ気がした。
「ははは……」
「な、なにがおかしいんですか!?」
「いや、なんつーか、クリスは年下なのにしっかりしていて、俺は自分が情けなくなって呆れて笑っちゃったんだよ」
「そんなことないですよ!私だって……辛い事ありますから!」
「ああ、そうだな!みんな辛い経験を得て今の自分があるからね」
「そうです。だからセイメイさんだけが辛いんじゃないんです。だけど、私ぐらいになら相談できるでしょ?」
「なんだ?俺は子供相談室の室長さんに相談すればいいのか?」
「子供じゃありません!成人しています!!」
膨れるクリスをみて、セイメイは笑い出した
「また!??いくらセイメイさんでも怒りますよ??」
クリスがジトーと睨みつけていた。
「わ、悪かったよ!茶化したりして……」
セイメイはごめんと手を合わせてクリスに詫びた。クリスはムスッとしていたが、大きくため息をつくと「仕方ないから許す」といってくれた。
「まったく……最近の若い子はコワイぜ……」
「どこがですか?セイメイさんが無駄に純粋すぎるんですよ」
「よう!いけしゃあしゃあと凹む事をいうな!?」
「だから!私が守るっていうのは、ゲームでも、これからもいいですね?ね?」
ずいずいとくるクリスにセイメイはおされてしまう
「あ、はぃ……」
気の抜けた返事をしてしまった事にセイメイは頭に手を置き、項垂れていた。
「じゃあ、年末お参りのカウントダウンにいきましょう!」
「人込み苦手なんだよなぁ……」
「時間ずらせば大丈夫ですよ!?」
「二人で行くのか?」
「当たり前じゃないですか!?」
「デートになるぞ?おまえ……」
セイメイはちらっとクリスを見ると、顔を赤らめていたがシラをきるように装う。
「へ、平気ですよ!?あ、もしかして、セイメイさんは私に気があるんでしょぉ~?そうでしょお~!まぁしょうがないですね!若い!かわいい!おしとやか!ですからねん♪」
腕を組んで鼻息を荒くしながらゴキゲンだった。
「はぁ~おしとやかが、男を守るとかいうセリフ吐かねーんだけどなぁ……」
「なんかいいましたか?」
「いいえ、なにもいってないです……」
セイメイを脅迫まがい脅してでいうと、心配したファウストがセイメイ達を見つける。
「ここにいたんですね?みんな心配していますよ?」
「ファウストか、みんなに謝らねーとな」
「みんなそんな事で文句言ってませんよ、スカルドと唯華が反省していますから、許してやってください」
「なんで、あいつらが……」
「あなたが怒ったから。でしょ?セイメイさん」
「俺は怒ってなんか……」
「じゃあ誤解を解きにいきましょうか。二人ともクリスさんのライバルですけどね?」
そういうと、クリスを見透かしていたファウストはクリスにウィンクをする。
クリスは悟られたと思い、下を向いてみんなのところに戻るのであった。
セイメイとファウストは占領戦の出来事を話し合いながらみんなところへゆっくりと戻っていた。
吸いかけのタバコは吸い殻入れの受け皿の水でじわじわと水を吸っていった。





