番外編03「代行者の宴 その3」
アイオリアの頭を叩く男が立っていた。
一斉にみると、髪はストレート、伸びかけの髪、顎は剃り忘れうっすらと生えた髭。
目つきは今にも人を殴りそうな漆黒の瞳
風貌は靴はハイカットの革靴にデニムを履き、ごついベルトを巻き、シングルデザインの黒いレザージャケット
決してサラリーマンではないオーラを放ち、アウトローな背格好で現れた。
「おい……うちのモンに声かけるってことは……覚悟は出来てんだろうなぁ?」
声が太く、聞いたことない人なら恐怖を与え、知る者は安心を齎す声音は、身体全体に駆け巡り手足の指先まで響き渡る。
「まさか……!」
ユズキは聞きなれた声に思わず声をあげた。
「せ、セイメイさんッッ!!」
ギロリとみる瞳に映るユズキは憧れの眼差しであった。
セイメイはにやりと笑い、口に咥えようとしたタバコを離しユズキに話しかける。
「ほう?お前がユズキか。このナンパ野郎は外部の人間か?」
「いえ……あの……」
ユズキは気まずそうな表情をみせていた。
「まさか!?店員がナンパしたのか?身なり的にそうだよな?そうなんだろ!?この綺麗めイケメンクソ野郎!!いいか!?お前に覚悟なんて求めてねーから、さっさとくだばりやがれェッッ!!」
セイメイは蹴り込もうとした瞬間ッッ!!
クリスがセイメイの背中に抱きつく。ふくよかな乳房が皮のコート越しに伝わってくる
!??
「セイメイさん!!ダメッッ!!一応、そんなクソ野郎だけど!お兄ちゃんなのッッ!!!」
「はぁ??て、ていうかおまえ誰だよ!?」
「我が妹よ!それはないんじゃないのか!?」
セイメイは思わず、照れ隠しも含めてクリスを背中から剥ぎ取った。
「どういうことだよ!!?おい!ユズキ!説明しろ!!」
ユズキが声をあげようとすると、アイオリアはユズキの前に腕を出して、止めさせた。ユズキは一瞬、一触即発のムードだと思ったが、その心配は次の瞬間には消え失せた。
アイオリアは膝を払い、右手を左胸に当て軽くお辞儀をしていた。
「我がオケアノスの長にしてギルドマスター、いや、今や三国に股をかけるグランドマスター!セイメイ殿!!我が、白金の拳ッッ!御身のため、死の淵までお守り致す所存でありますッッ!!」
そして、顔をあげると目を光らせてにやりと笑う。それを見たセイメイは耳をかきながら煙たそうにしている。
「お前がアイオリアかよ!想像以上にぶっ飛んでて俺の苦手なタイプだぜ!で?なんで、そこにお嬢様風の女にけしかけてんだ?」
そこでようやくユズキが説明する。
「あのね……セイメイさん。すごく伝えづらいんだけど…、自分よりは上なんだけど、どこぞの大企業のお嬢様っぽいよ……そんで、カルディアさんらしいんだけど自分も未だに信じられないんだッ!」
ユズキはセイメイに耳打ちをする。
セイメイは一瞬なんのことをいっているのかわからず、ユズキに確認をした。
「ユズキ、そういう話は俺にしなくてもいいんだぞぉ!?最近、かまってやれてなかったせいかー!そうかそうか!そういう嘘をついちゃうもんだよな?うんうん!わかるぞぉ!!ハハハハハハ!!!」
「ちがうよ!セイメイさん!あの子が!カルディアさんなんですよ!!」
「んなわけあるかぁーい!お前ら?え?なに?騙されてんじゃねーの?はぁ?カルディアってそもそも男だからな??
俺のイメージでは!髭もじゃの熊みたいな人で、北海道で木こりしているイメージなんだぞ!?」
フフーンと鼻息を荒そうにしていると、ふと否定的な空気を感じる。周りはみな首を横に振る。
うそだろ?とユズキを見ても、横に振っていた。
「んなバカな!!」
セイメイは先ほどから握っていたタバコを落とす。
そして近くの壁にもたれて頭を抑えていた。
すると、ピピンがまた席を立ちセイメイに近づいた。そして、セイメイの尻に蹴りを入れる。
「いって!なんだこのチ、ビ……、おま、え…ピピンか!?」
「うっせ!!おまえ!!女を泣かしてんじゃねーぞ!!」
ピピンの指す方を見ると、下をずっと向いているお嬢様風の女の子は今にも泣きそうになっている。
ピピンが駆け寄り話しかけていた。が、すると、声高に声をあげていた。
「いいの!!ピピンありがとう。私、ここにくるの場違いだったんだよ!!」
「そんなことねーよ!お前楽しみにしてたじゃんか!これで前の事も忘れられるっていってたじゃん!」
その秘密を知る者がいる。
ファウストはそれを知っていた。
知っていたからこそ、ドリアスやベルスなどのギルドに組みしなかったのも要因の一つだった。それは、紛れもなく出会いを求めてくる男嫌いで男キャラを使用していたという理由を知っていたのはファウストとピピンだけなのだ。
それゆえに、隠居生活をすることになる。
ファウストは動揺するセイメイに近づき話しかける。
「やぁセイメイ殿?」
「うわ眩しッ!!どこのイケメンだよ!?」
爽やかな顔に女性ならイチコロの満面の笑顔をセイメイに浴びせると思わず後光がさすかのように導く。
「まぁ人には言えない事がいくつあるように、あなたにもあるでしょ?察しと思いやりが、今は必要なんじゃないでしょうか?」
「おまえ……だれなんだ?」
「ファウストです」
「んえ゛え゛ええ??だって、おま、おまえ!」
「そう、死神ですよ?」
あまりの爽やかさにセイメイはびっくりしていた。
口をパクパクするセイメイをみて、ユズキはこのままでは動揺しすぎてセイメイが心臓麻痺でも起こすんじゃないかと心配になり、強引に進行を進める事にした。
「セイメイさん、とりあえず席について色々自己紹介するでしょうからね。ささ、こちらです」
セイメイは促されるように上座の席に案内され席についた。「飲み物は?」と聞くと、「酒はいい。今日は肉を食べにきたんだ。酒は後で自分で頼む」との事だったので、コーラを頼んでいた。
衝撃的な事が起こりすぎたセイメイをよそに会は進まれていった。
全員が揃った頃に飲み物やコースの肉が出揃う。
そして、ここにセイメイ率いる首脳陣が集結することになったのだ!
気持ちを切り替えてセイメイは、グラスを持つと周りからはやし立てられる。
「セーイ・メイ!セーイ・メイ!セーイ・メイ!」
セイメイは結華と戦った時の事を思い出していた。
「やぁ!みんな初めまして!俺が、あの狡猾で人を小馬鹿にした態度をしておきながら、したたかな人たらしのセイメイです!www
今日はわざわざユーグの失恋パーティにようこそ!!じゃんじゃん肉焼いて楽しんでいってくれ!!カンパーイ!!」
「ギャハハ!」と爆笑の中、乾杯のグラスの音が鳴り響いていた。
『カンパーーイ!!』
色々な誤解と衝撃と真実を飲み込みながら会は進行し、自己紹介も終わる頃にセルがセイメイに話しかけてきた。
「よぉ!お前そんなナリでくるなんて思っても見なかったぜ?俺よりひどいじゃねーか!なぁ?ユーグ!?」
急に振られるユーグは烏龍茶を吹きそうになった。
「そんなの自分に振りますか??」
「ギャハハ」と笑うのはピピンだった。ピピンは背が小さいせいか、ユーグに持たれて酒を飲んでいる。
「他のやつらも思ってるぞ?なぁ?ソロモン??」
「わしゃあ!思った通りの若者でなによりじゃぞ?」
「あぁん?セイメイいくつだよ?答えろ!」
「……33だよ!未婚彼女なしだ。こちとらお前みたいチャラチャラしてねーんだよ!」
「いや、そこじゃねー33??見えねぇーww」
「む?」
「なんだと?」
「そりゃそうだろ?無精髭を生やしていても、顔のパーツも含めて童顔よりだ。ましてや、服装が若い!若作りしている俺がいうのもなんだが、おまえも相当だぞ?」
「いってろ。俺は自分に合った服しかきねーんだよ!」
「わしゃイメージ通りで好きだがの」
「そう言えば、ソロモンとこうやって話すのは初めてだね?」
「じゃな?ここまでくるとは思ってなかったぞぃ?」
「そうだな……」
セイメイは天井を見上げ瞼を閉じて回想していた





