第146話「フラッシュバック」
激闘の末、セイメイは勝利した。しかし、戦いが終われば平穏な日々がまた戻ってくると確信していたのだ。だが、セイメイに追い打ちをかけるように悲劇は襲う。
妲己を撃破したことで士気は上がり、浮足立ちそうな東門のメンバー達にドリアスは城門の修復をギルメンとソロモンの直轄部隊に促し、城を固める指示を出した。また、ソロモンに城を固めるぞといって、一時城門まで戻り指示を出していた。
その時である。
「セイメイさん!!」
最初に蓬華の異変に気づいたのはクリスだった。
蓬華はイーリアスの光に吸い込まれるように、少しずつ質量を失っていた。
セイメイは慌てて近づく。
「蓬華、おまえ……、なんで……自分で手を出した?俺らなら!死んでも死に戻りができるというのに……!!」
蓬華は横に首を振った。
「神の代行者が、神殺しのきっかけを作れるわけなかろう……。」
「でもな!」
「でもじゃない。短い時間であったが、お主を最後のマスターとして仕えてよかったぞ?」
「馬鹿野郎!!そんなのお前が……言えるような…!セリフじゃ…ねーだろうが!!」
嘆くセイメイの顔を蓬華の手が触れる。セイメイの触感は脳に伝わり、まだ幼い手であるようにしか感じてならない。その手をぎゅっと胸にもっていき、握り返す。
「何を絶望しておる。私はお主らの敵だぞ?」
「俺は敵だと思っていない!仲間だッッ!大切な仲間なんだッ!お前がどこの誰であろうと!!ウチに所属している限り!!仲間なんだよォ……!!」
蓬華はゆっくり身体を起こし、セイメイの目をみつめる。
「この世界の破壊者セイメイよ、この世界はあまりにも大きく、またあまりにも小さい。それをお主はよく肝に銘じるのだな。」
「意味…わかんねーよ……。」
「敵は強大だがこの世界は所詮、一室にあるサーバーの一部の出来事に過ぎないという事だ。またグスタフはこの世界だけではない。他国のサーバーにも潜り込んでいる。ゆめゆめ忘れるでないぞ?」
「な、そんな!!なんで……!?」
「フッ……。相変わらず危機感のない奴だな。それゆえ、愛されたという事か。」
最後に見た事のない笑顔をセイメイに見せると、セイメイの胸の中に落ちていく。
「何がだよ!!?おい!!しっかりしろ!!」
蓬華の身体をゆすろうとしたが、手にはもう幾何かもない粒子のみが手に残り、蓬華はデータの海へ消えていってしまった。
雲の隙間から零れる日差しが、二人のプレイヤーを天に帰してしまった。
クリスは号泣し、セイメイは膝をついたまま何度も地面を叩いていた。
「ちくしょう!!ちくしょう!!ちくしょう!!なんで!!俺の周りで!これからってときにッ!!いつも大事にしようとすると!!すぐ仲間が消えていくんだよッッ!!」
セイメイは泣き崩れ打ちひしがれながらも無理くり立ち上がり、森へ向かって口笛を吹いた。
ピュゥゥイッッ!!
セイメイの愛馬がどこからともなく現れた。すると馬に跨り、刀を抜くと声を上げた。
「これよりッッ!!弔い合戦であるッッ!!おまえらぁぁぁああああーーーー!!!ついてこいッッ!!」
「こぉりゃいくしかないっしょ!?ね?アイオリア先輩♪」
すると、アイオリアが返事を返す間もなくセイメイから激が飛ぶ。
「アイオリアァァァァーーー!!!」
「はっ!!」
「おい、貴様の力を使うぞ?クーロンを……蹴散らすぞ!!馬をひけぇぇ!!!」
「轡を並べるに我が四聖剣を!我が愛馬もマスターの馬同様、足がはようございます!いつでもご出立を。」
そういうと口笛を吹き、アイオリアの馬が現れた。
「ヨシ!この戦いに終止符打つッッ!!黄竺を落とすッッ!」
「な、なんじゃと?この時間からか?」
「ソロモン!おまえはどうするんだ?来るのか来ないのか?」
「ふぅ~む。ワシが行かないとでもおもっちょるのか?」
頭をボリボリと掻きながら、ルカをクリスにあずけるとアイオリアの馬の背中に跨った。
そして、ドリアスが一定の指示を下した後、セイメイに会いに来ると、黄竺攻める事を聞く。それを聞いたドリアスは呆気に取られて言葉を発せなかったが、自分を取り戻すと“やめておけ”とセイメイを諌める。
「お!おい、まてよ!セイメイ!!このままでも優勢勝ちじゃねーか!?南門の心配もあるけどよぉ~??」
「ドリアス……、すまん。俺は~こういう時にしか動けない…情けねーヤツなんだよ……、このことは許してくれ。」
―――こ、この男が謝辞を述べるだと!?あれだけ冷静にあたかも丁寧な物腰で狡猾的に持論を展開する男が!?
クリスはソロモンよりルカを託され、ルカを抱き抱えながらセイメイを見たが、セイメイは目を合わせようとしなかった。
それは、セイメイはクリスの目を見たら目に浮かべる涙を堪える自信がなかったからだ。
「我が同志達よ!!これより修羅と化す!いざ、参るッッ!!」
セイメイはそう言い残すと馬脚を早め、黄竺に一直線へ向かっていった。
――――そのあとの展開は、俺はよく覚えていないんだ。
結果は、俺ら元連盟の勝利だ。
俺らがカウンターの決めるように黄竺を攻めた。このことにより妲己を失ったクーロンは総崩れを起こした。彼らは待っていたのだ。戦線復帰をする妲己を……。二度と帰らないマスターを……。
マスター不在のため、指揮系統は瓦解。
リミッターを外したオケアノスの主力メンバーは一気に森を抜け、黄竺へ突入。俺はアイオリアと共にハイスコアを叩きだしたが、アイオリアの方が撃破数を上回っていた。またトップスコアラーの異名をイーリアス全体に轟かせ、再度、アイオリアの完全復活に他の占領ギルドは震え上がらせたとの事だ。
この戦いで、玉座解放を図ったパドスを俺は問答無用で切り捨ていった。このことにより、その報は南門攻略を行なっていた連合軍に伝わり一時不安定な状態に陥ると、そこをベルス達は攻勢の転機とし善戦した。
オケアノスのセイメイは問答無用でプレイヤーを斬るという事で一時期叩かれていたが、占領戦で相手に旗を渡すなら旗の前にいないギルマスがいけないとか、ギルマス不在で副マスが代理を務めてるとか意味わかんねーとか、空中戦が行われたが結果、オケアノスは籠城から一転して一瞬のスキをついたから勝ったという事で終息を迎えていた。
俺はその占領戦の直後、チャットで「お疲れ様でした。疲れたので即寝します。」と、逃げる様にログアウトした。無論、戦闘終了後の論功行賞を行わずに……。
黄竺に所属しているギルメンというギルメンを片っ端からなぎ倒していったということだけはぼんやりとおぼえていた。ゲームで死人が出るなんて思ってもいなかった。
あいつらはAIなのかもしれないが、俺にはAIだろうとなんだろうと自分の言葉を持っている奴は“人間に値する”と思っている。逆に人間なのに、自分の言葉を持たないやつらの方が腐るほどいやがる。そんなやつらが、声を上げて“人権だ!なんだ!”というのは烏滸がましいとさえ思っている。
俺はこの戦いで得た大事な仲間を取り戻したのと同時に失いもした。
昔の戦争とかならわかるけど、このご時世で戦争でましてや、ゲームで仲間を失うなんてアニメの世界だけかと思っていた。
おそらくログインしたら、いないのだろう。
わかっている。ロジスティクスに考えて彼らはいない。
戻らない。存在していない。蓬華はそれに巻き込まれただけなんだ。
もっと話をしたかった。何をすればいいのか聞きたかった。
葬式も何もできない。名も無きプレイヤーが自分の不甲斐なさと冷静になるべきところでなれない。そんな己の未熟な精神を俺は恨むに恨んだ。
そして思い出す。前の会社を辞める時の出来事を……。
「だから、君のやり方では当社のやり方にあわないのだよ」
「しかし、このままでは事業部が!部下はどうなるんですか?ここまでやってきた仲間なんです!」
「淘汰されるべき部門は他社でもあることだよ。さしずめ依願退職というね……」
「ちょっと!それはあまりにも理不尽では!?」
「ならば君がやめるかね?彼らを思って…?」
布団をぎゅっと握りながら涙が枕を濡らす。
そして、悔しさに泣きつかれた俺は沈み込むように眠りに落ちていった。
次の日、俺は年甲斐にもなく仮病を使い、仕事を休んだ。
そう今年の出勤が残り2日という消化的に過ごす、どうにでもなる日を……。
そして、時は容赦なく進む……!
――――― 第肆章 完 ―――――
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