第144話「囲選救力」
戦場を白くした特大魔法は全てをなぎ払った。
大地は衝撃波を放ち、すべてを蒸発させるかのように波動をうながした。
全てのプレイヤーが消えたかと思いきや現状、何も変わっていなかった。
「なんでだ!!おまえらは即死級のダメージだぞ!?即死攻撃だぞ!!なんでなんだ!?」
動揺を隠せないテラルは背中に背負っていた大剣を抜く
「ふふふ…ははははははは!!!!」
セルは高らかに笑っていた
「よう、黒騎士、相殺って言葉、知っているか?」
「な、なんのなぞかけだ??」
「なぞかけではないぞ?wありのままだッ!!」
「な、なんだと!?」
テラルは動揺し小刻みに震えて鎧が笑っているような音が聞こえてきた。
「あ~いいリアクションだねぇ~!そうだよ。そういうリアクションする場面なんだよなぁ!」
そして、倒れているベルスを起こす様に自分のギルメンに聖水を飲ませる指示していた。
「あーすまないww隙だらけだから仲間を復活させてもらうよ?ていうか、おまえらも復活しているな?」
セル達に殺されていったオメガグリードのメンバーが起き上がりを見せる。
セルは自分の後ろにいるプレイヤーを手で視線を促す様に待機していた者へ誘導した。
そこにはメガネをかけた魔導士が詠唱をしていた。それは、城門を守っているはずのファウストが、セルのギルメンに囲われるように詠唱していた。
「馬鹿な!?そいつは南門を守っているだけの……!!」
「おまえさん、なんか勘違いしていないか?」
「な、なんだと!?」
「死神のファウスト、お前ほどのプレイヤーなら知っているな?」
「ふぁ、ファウストだと!?」
「ああ、そうだ。ありとあらゆる魔法を会得した。ああ!お前のとこのギルマスも習得済だったな!?」
「そ、それがどうした!?」
矢継ぎ早にテラルは声を発する。
「ファウストは隠居したはずだ!!エウロパのマスター継承の時の一時解散に!!それにアーモロト城の戦績に載っていない!!」
動揺し続けるテラルに、セルは追い打ちをかけていく。
「そう、ラスキルは全て周りのギルメンに献上していたんだろうな~。気にもかけてなかったわwww」
「んなバカな!!」
「あ~おまえさんの言いたいことはわかるぜ?ラスキルは高火力プレイヤーがダメ押しでなぎ倒していくというセオリーだろ?キル量産だって言いたい事はわかるぜぇ~??討伐数ランク外だったしな。でもよ、うちの総大将を舐めるなよ!?」
「ベ、ベルスじゃないのか!?」
「ちがうんだなぁ~~これがッッ!!」
ふぅーとため息をしながら首を横に振る。おまけに両手を肩まで上げてあからさまな挑発交じりのアクションをしている。そして、テラルを指さしてセルは追い込んでいく。
「うちの総大将は性格が悪い。悪いが故にとっておきの隠し玉を持っている。おまえらが噂のAIだかなんだかでこちらが、クーロン側で出していると踏んできたと思うが、そりゃあ!大きな計算違いだ!!
本来、一番怖いのは!!本当の隠し玉!!懐刀の人間なんだよ!!それをさも“切り札をつかった”とみせかけての!この配置!!ファウストがいる時点でこの場の制圧は確実なんだよ!!」
「なにいってやがる!!特大魔法を打ち消す事なぞできん!!」
「打ち消してないよ?喰らっているよ?♪」
セルは被せる様に馬鹿な言い方をして煽りに煽っていく。そして頭を掻きながらニタニタしながら自慢げに話をする。
「しょうがねーなぁ!先にそっちから説明してやるよ!いいか?ラピスが打ったのは、隕石衝撃だろ?てことは、魔導士同士の魔法なら当たり前だ。詠唱にかかる特大魔法には!その真逆、新・反射実現という魔法が存在する!
おまえさんも知っているが、リフレクションノヴァリアリゼーション通称:R.N.Rは一度だけダメージを同じ威力で相殺してくれる。つまり、鏡みたいなバリアーだ。実戦ではどんな攻撃でもという点で使い勝手が悪い。だが、これは重複できないバフ魔法だから取り回しがきかない!
それを、撃っただけの話さ。本来こんな魔法大戦なんか起きやしないし、実践向きでないわけだ!しかも上位の魔導士でないと打てないし、最大MP枠も他のプレイヤーでは不足しがちだ。だが、ファウストは違う。己を圧倒的に高めるエリクサーを飲み回し、瞬間火力がチート級だからなんだよ!!」
「そ、そんなバカな!!」
「そんなバカがうちらには存在しているんだよッッ!!泣く子も黙るエウロパ初期メンバーの怖さ!!まだおまえらには早かったようだなッッ!!」
――――時は遡ってセルの死に戻りに至る。
セルの死後、ロームレスに死に戻り帰還を行った際に東門と南門にいく話し合いがギルド内でされていた。
「親分、どうするん?」
「ああ??知るかよ!?予定が狂いに狂ってやがるッッ!!ったくよぉ!!」
「東門にいきますかい?」
「いや、万が一のことを考えると俺らがここにいる事も大事だぜ?現にベルスが出払ってる。南でなんかおきてやがるな??」
その時、クーロンの副マスを倒した報がシステムに入ってくる。
「お?ドリアスが副マスをぶっ殺しやがったな!?」
「じゃあ東門で!?」
「ばかやろうッッ!!東門はソロモンのじいさんとドリアスで十分だ。それにセイメイもまだやられてねーんだぞ?ここは、あいつらに任せよう!!」
「では、南門に?」
「ああ、ファウストに会うしかねーだろ。あいつが大丈夫ならそれから東門にいっても十分時間はある!!」
「よっしゃあ!!親分!!いっちゃおうぜ!!」
「オシ!!いくぞ!!」
そして、DCギルドは南門へ向かう。
~ロームレス城・南門~
セル達は南門のファウストに会いにきたが、なにやら騒がしい。
DCのギルメンがオケアノスの人間に声をかける。
「よお!どうなってる?」
「あ!今、ベルスさんが南門から出陣して、交戦中です!!」
「ファウストはどこだ?」
「ファウストさんなら、城門上にいて戦況を確認中です!!」
セルが見上げると小娘となにやら言い争いをしているようにみえた。
セルは得意の跳躍力で城門上に飛び移るとした。
ファウストに近づくとマノと言い争いをしていた。
「早く応援行かないと!!」
「そうはいかない!!万が一、ベルスさん達が全滅しても、この南門をやられるわけにはいかないんだ!」
「でもね!ベルスさんはアンタの最大火力にかけているの!!だからアンタを残したんでしょ?」
「仮に僕が参戦したところで、抜かれたとき!誰が指揮するのさ!?」
「そうならないためにアンタが前線の後方支援に回るんでしょ??なんのための魔導士よ!?」
傍から見ていると夫婦喧嘩のような痴話喧嘩のような光景をみて、セルはあきれていた。
ファウストの目にセルがうつると言葉が詰まっていった。
「ほら!!何も言い返せないじゃない!?だいたいね…!」
ポン!
マノの肩をセルが叩く。
「小娘にしちゃあ、いい度胸だぜ?なぁ?ファウスト?」
「東は……東門は!落ちたのか??」
「なぁに動揺してんだよ。俺がこうやってのんきに死に戻りして南門にいる時点で、こっちは攻勢に出ているんだよ。それより、南はどうなんだ?見た感じ雲行きが怪しいそうだな?」
「ああ、どうも前線が伸びてしまっている。あれは誘い込んでいるようにしか見えない。」
「だからそれを防ぎにいけっていっているの!!」
マノは息を吹き返したようにファウストに詰め寄っていた。
「まぁこの小娘のいっている意見はもっともだ。どうも、あの見晴らしのいい戦場が気になるぜ?」
「それは僕も思うさ。だけど、ここを離れるわけにはいかない。」
セルはニヤッとする。
「うちのメンバーが出る分にはいいんだろ?」
息を飲むようにファウストはゴクンとした。
「ああ、それは構わない。ギルマスの判断に委ねるしかないだろ?」
「そうかそうか、ギルマスの判断に委ねてくれるのか?結構結構!」
そして、セルはマノの顔を見て、くっくっくっと笑いファウストにいう。
「ファウスト、お前俺についてこい。死守してやるッッ!その代わり、防衛魔法のいっちばんいいやつ、頼むぜ!?」
セルの悪巧みがファウストを出陣へと促されていった。
城門を出たファウストとDC率いるセルは一計を案じる。
「あそこにベルスを誘い込むというのは、俺らは一致している。無論、ここにいることは相手も承知しているだろう。だが、身を潜めるやつらと一緒に行動してくるとは思わんだろうな?」
「ああ、そりゃ奇想天外すぎるからな?」
「奇策には奇策を王道には王道を。これだ。」
「まさか!?伏兵に伏兵を当てるのか?」
「そういうことだ。これからファウストは一番後方にいてもらい、詠唱をするタイミングはお前に任せるとしよう。その場で立ち止まり、うちのギルメンが死守してやる。」
「相手は何で来るのかわかっているのか?」
「さしずめ、特大魔法をあてにくるんだろうな?てことはあの小高い丘に潜伏しているが、回り込むには時間も距離もある。だが、伏兵をつぶせば、ベルスを逃がして撤退すれば、南門でまだ戦えるだろう?」
「ああ、そういうことか。いいだろう!では、頼むよ?」
「そうこなくちゃな!」
ファウストを後方に回し、忍び足で戦場を走る。無論、ファウストはそのスキルは使えないので、ゆっくりと物音を立てずに歩くことにした。多少隆起しているとはいえ、身を潜める場所を転々としながら進むとしていた。
[とまれ……!!]
セルはギルドのVCで会話をしていた。
ファウストは後ろからセルの動きを見て伏せていることに気づき、慌ててファウストも伏せていた。
するとどうだろうか、もの見事にベルスのフォルツァは囲まれて行ってしまう。
――やはりな。これで袋叩きにすんだな?
[おかしら!上に隕石が!]
セルは上を見上げると特大魔法の隕石、隕石衝撃の魔法だと感づく。
セルはファウストに目をやると、アイコンタクトをし、上をみろ!と合図を送る。すると、ファウストは服に仕込んでいたエリクサーを飲み回し強化を図る。飲み終わると早速、急ピッチで詠唱をし始めた。
DCのギルメンはそれを見て察しファウストを囲むように息を潜めていた。
その後の顛末は物語の通りである――――
※タイトルは造語です。
“囲魏救趙”をもじって決めました。もともとの意味は…
敵を集中させるよう仕向けるよりも、敵を分散させるよう仕向けるのがよい。
敵の正面に攻撃を加えるよりも、敵の隠している弱点を攻撃するのがよい。
という意味です。
魏と趙は戦国時代の中国の国名です。
セレクターは“選ぶ”の選という字をあてており。
フォルツァは“力”という意味なので力としてました。





