第143話「一計の破壊力」
テラルとの一騎打ちにより、ベルス率いるフォルツァは危機に瀕していた。
あのまま拒否れば、ギルドメンバー全員が殺させて全滅は免れない。少しでも時間稼ぎをして城門に張り付かせないためにも、ここはなんとしてでも凌がなければならなかった。不穏な空気が戦場に展開されている中、じりじりと距離をつめてくるテラルにベルスはまだ血路を見出すことができずにいた。
また他のギルドは対象外のため、フォルツァのギルメンは一時は攻撃判定されないとは言え、距離をつめられている。
仮に勝っても八方塞がりだ。
それをわかっているベルスは、ただただ時間が過ぎることを祈り続けるように、剣を握っていた。
そろりそろりと足を動かす。
「おいおいおい、ベルスのヤロー!足がすくんでいんのか?」
「無理もない、相手はセレクターのテラルだ。暗黒騎士で聖騎士勝っちまうほどの腕前だぜ?ベルスも名うての聖騎士、伊達にデュランダルを握っちゃいないさ!」
ガヤガヤと周りの他ギルドのメンバー達はヒソヒソと話をするほど余裕をもっていた。
なにせ、テラルが勝とうが負けようが被害ゼロ。人数に大してものを言わせるだけの事をするだけの事だからだ。
――クソッッ!スキがねぇ!!!構えてはいるが、この一発をスカせばカウンターで大ダメージは免れん!!まだか!?まだ占領戦の時間終了での決着はつかないのか!
視界の左上に映し出される時間はまだその時をつげるには、まだ早かった。
――しかたないッッ!!
ベルスは地面に剣を突き刺した。
セイバーエッジッッ!!!
地面から穿つ刃がテラルを襲う!
テラルはひらりと交わすと黒い霧で距離を縮めてきていた。
「ふむ。まずは牽制、定石だな。」
「く!?」
ベルスはニヤっと虚勢を張りながらモーションを戻し、テラルの剣を受けていた。
ギシィィーーーーーン!!
「果たして…、どうかな?」
剣と剣が軋むようなエフェクトと効果音が鳴り響く。
テラルはすぐさまベルスに蹴り込んでくる。
ドンッ!!
「ぐふッッ……!!」
倒れ込むベルスに容赦なく間合いをつめてくるテラル。
「潔く死に戻れッッ!!!」
バシィーーン!!
ベルスは剣で攻撃を受ける。鈍い音と共に剣の損傷が著しく悪くなるのがゲージを見なくてもわかった。
「ほう?まだ抗うか?ベルスよ!?」
「ああ…、生憎!逃げ道がまだ見つかんなくてな!!」
「そうか?強がりはその辺にした方がいいぞ!?」
ベルスの剣をはじくと起き上がるタイミングに合わせるようにスキルを放つ!!
我が叡智を授けし、アーソナよッ!我に力を授けよ…!
齎す暗黒ァァァーーーーー!!!
黒い光を剣に纏わせる。そしてテラルは踏み込み、大剣を一気に振り下ろす!!!
「これでぇぇーー!!往生せいやぁーー!!」
振り下ろした剣は地面を軽く裂いて勢いを止めた。
ベルスは起き上がりのタイミングを早めて左腕を差し出していた。
Guard break!!
「つぅッッ!!」
思わず出した左腕には、騎士が持つような大きな盾ではなく、聖騎士用の小型の盾が壊れていた。
「フン、バックラーもどきに……!!」
「バックラーとはちょいと違うがな……」
「なにをいっている!?盾に依存している者のいいわけなんぞ……!」
大剣から繰り出す連携技を交わすことになったベルスは、デュランダルでさばいていたが蓄積ダメ―ジは顕著にHPゲージを奪っていった。
――もうあとがない!!!
焦りの色を必死に隠すのに、一撃一撃が重いテラルの攻撃を必死にさばき最小限に抑えていた。が、熱くなっていると思っていたベルスは次の一撃を交わすことができないと読んでいた。しかし、ベルスは予想外の事にまた、心の動揺は高まるばかりだった。
それは、あと一歩のところでトドメをさせるのにテラルは大剣を振るのをやめたのだ。それは戦場に響き渡った爆発音が空から聞こえてきたからだろう。
――あ…おだと?なにが起きるのだ!?
空に放たれた信号弾は青色をしていた。
「ふむ。どうやら、ここでお遊びは終了だ。」
「最初から私は遊んでなんかいないッッ!!」
「そうじゃない。私のような道化はフォルツァの主演を袖幕に追いやらねばならん」
「出演させたり、退場させたりと忙しいんだな?テラル劇場は!」
ベルスは嫌味の一つでも返してやろうといったつもりだったが、所詮、戯言に過ぎずテラルは異も返さず淡々とベルスを追い詰めていく。
大剣を掲げ、攻撃モーションを起こす。
「うむ。ではトドメといこうか。」
ベルスは修理したばかりの鎧がほつれるほど損傷をしていた。
「さあ、念仏を唱えろ!貴様の動きは既に鈍くしてある!!」
攻撃時におけるデバフがベルスの身体を重くし、逃げる事も躱す事もできない。ましてや攻撃を受ける余力など、とうに尽きていた。
「退場だ!ベルスッッ!!」
――クソ!!
宵闇の王よ、我が剣に力を与えよ!さすれば新たな闇を与えん…!!
喰らえ!! 破壊の闇 !!!
テラルの大剣は黒い光を放出し、刀身から黒いエネルギー体が大剣にひも状で絡みついている。絡みついたエネルギー体を振り払うような斬撃を放ち、エネルギー体はひも状から球体に変わり飲み込んだ。
「ぐああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
テラルは大剣を担ぎ、駆け込みながらその球体を真っ二つに裂いた。
ベルスの身体は大きな傷を負い、絶命する。
「これも戦場の習わしよ。すまぬな。」
チン!
テラルは手を合わせていた。粒子化しないベルスを背にテラルは本陣に返ろうとしていた。
「はぁーい♪うちの御大将を倒してハイサイナラできると思っているようじゃ、うちのルーキーより甘いなぁ~!甘すぎるよテラルさまよぉ~!!」
そこにはいるはずのないセルとDCのメンバーがオメガグリードを始め、他のメンバーをアサシンスキルにより拿捕されていた。
「貴様は……!?」
「そうだよ。暗殺ギルドDCのセルだ。背後取らせたら最強っていうギルドだぜ?」
「ふん、とんで火にいるなんとやら……。貴様らの行動は予測の範囲を超えていたのだが……、いや、超えていなかったな。」
「あぁん??なにごちゃごちゃうるせぇこと抜かしてんだ??しばくぞ?」
「だったら、さっさとしばかんと、俺らがお前らをしばくことになるぞ??」
「望むところだ!!」
セルは捕まえていたコウキ達をDCのギルメン達は首をかっ斬り、致命傷を負わせる。
「ふは…ふははは……、悔しいけどお前らに負けても悔しくねぇな。」
コウキは、首を抑えながらセルを嘲笑っていた。
「あぁ??テメーなにハッタリかましてんだ??」
「頭に気をつけろよ?どうせ……かわせねーだろうからな。」
「なに!?」
セルは空を見上げた。
特大級の火の玉が、隕石落下のようにすぐそこまで迫ってきていた。
「な、なんじゃこりゃ!!」
「おまえらの頑張りすぎだ。あのヤローは人をコントロールしやがった。俺らの勝ちだ。玉座前の激戦が楽しみだぜ?」
「なんだと?」
「あのセレクターのギルマス、ラピス。それが俺ら連合軍の大将だ。」
「ちぃいいいい!!!」
テラルは一度、納刀した大剣に手をかけていたが、コウキが説明した通りなので何も口にしなかった。ただ、一言だけセルに言い放った。
「玉座の間で会おう!」
と、言い残すと背を向けた。しかし、セルはニヤニヤがとしていた。
「な、なにがおかしい!?」
「ニヤニヤがとまれねぇーぜ!!?なぁ??おかしくておかしくて仕方ねぇよぉ!!!」
ぎゃはははと高らかに笑うセルをテラルは不快に思う。
「お前らアサシン如きが!!何を企める!?」
馬鹿笑いをしていたセルが急に笑うのをやめ、狡猾的な態度に出ていく。
「アサシン如きに謀れるようじゃあ!お前の軍師様もてぇーしたことねーって事だよ!!」
「ほざけ!!我が!!セレクターの特大魔法をとくと味わえ!」
テラルがセルたちに向かって腕を振り下ろすと戦場に特大の隕石が落下し辺り一面を真っ白にしていった。
全てを飲み込む白い発光は、特大魔法の名に相応しい威力であった。





