第142話「ギルマス達の覚悟」
朝日を背にした暗黒騎士はベルスに語りかけた。
「私の名はテラル、セレクターの副マスだ。フォルツァの当主とお見受け致す。いざ、尋常に勝負。」
ユーグと同じような大剣を有しながら、ベルスに話しかけてきた。話しかけられたベルスは仲間が切られたのに、意外にも冷静だった。
――この期に及んでなぜ一騎打ちなのかとッッ!!?――
城主を倒せても旗を取らなければ、勝利に結びつかないのは、誰もが知っている。その上で未だ拠点制圧すらままならない状態で一騎打ちには意味があるのか?
一騎打ちシステムは、互いの了承の元行われていくのだが、権限は副マス・ギルマスのみ。申請は一戦に一人一回のみ。拒否は2回まで可能。それ以降は強制許可が発生する。占領戦に有する残り一時間のみ可能のシステムである。
但し、ドリアスとパドスの場合はこれに該当せず、暗黙の了解で行っていた。
これを受けて勝負が決まれば、より決着へ更なる機運が加速をする。
そのシステム、一騎打ち申請が飛んでくる。
目の前にポップアップされている、【 YES or NO ?】の表示が手元に浮かんできていた。
―――受けるべきなのか……?いや、落ち着け!ここは、弱気な城主と印象づけられてもいいから引くべきなのでは?
しばらく押せずにいた。
すると、テラルが妙なアドバイスをしてくる。
「ここで、私を拒否しても君達は既に囲まれつつある。見たまえ!後ろを!」
そういうと、いつの間にかぐるっと後ろに回り込まれ、後続のギルメンらは、オメガグリードの面子が廃していた。
「さて、ここで一騎打ちを受けるか。それとも拒否続けながら血路を開くか。それはベルス。君次第だ。」
―――迂闊だった!あの綺麗な引き際の裏には高揚したギルメンらの勢いを逆手に取り、我々をおびき出す事にあったのか!!?
「ちなみに、拒否は二回。私を拒否すれば、次にそこにいるオメガグリードの副マスの面々とやり合い、本陣に控えているグラブレのハーネスト達が猛追撃を行ない、殲滅を図るだろう。君達は既に包囲されている。」
「貴様らはそれを見越して……!!」
「さぁ?あくまで予測の範囲以内の出来事だ。いくらでも軌道修正は可能だ。」
「ならば、その予測の範囲を超える選択肢をわざわざ用意してくれていたわけだな!?」
ベルスは【 YES 】の選択肢を触り、一騎打ちモードに切り替わっていく。
一騎打ちモード
互いのギルドメンバーは一時的補完がされ、攻撃対象から外れる。移動は出来ない。
戦うプレイヤー以外は攻撃や魔法はおろかVCも出来ない。
周りはどういう状況をされているかというと、イメージでいうならば“固唾を飲む”状態を意味する。
そう、この一騎打ちモードは当事者も周りも、今まさに固唾を飲むほどの状況を作り上げていたのだ。
「さすが、ベルス殿。誉れ高き聖騎士とお見受けした。」
テラルは大剣を構え、じりじりと間合いを詰めていく。
ベルスは愛剣デュランダルを鞘から抜き、間合いを取るため円を描くように足さばきを行ない、雷鳴衝撃をいつでも打てるように構えをする。
―――なぜ、すぐにスキル打って来ない?何か思惑があるのか?
二人の時間は周りより時間の体感が止まっているような空間を作り上げていた。
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ドォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
光の柱がセイメイを襲う。
セイメイは刀を地面に突き刺し膝をつき、刀で身体を支える様に耐えている。
「さぁあああ!!しねぇぇぇ!!!!」
セイメイのHPが完全に消えかかりそうなときにセイメイに黒い影が落ちる。
「な、なにぃぃ!!?」
聖銀に輝く神々しい盾がセイメイへの光が遮断されたのだ。
足元をみると、なにやら見慣れた具足がセイメイの突き刺した刀のそばにあった。
上をみると、金髪に頭には羽が生えた額当て、誰かと悟ったセイメイは、渾身の一言を放つ。
「ライトニングスラストを妲己に打てぇぇーー!!!」
ちらっとみたヴァルキリーは一瞬戸惑ったが、ライトニングスラストを瞬時に放った。
聖なる光が全てを包み渡り、光の一線が進行方向に真っすぐ突き刺さる
「くっ…。」
妲己はあまりにも眩しい光に目が眩み、目を瞑ってしまった。
目を開けると目の前にはヴァルキリーしかおらず、セイメイの姿がない。一気に焦りをみせると廻りを見渡してもいない。そして、安堵していった。
「クックックッ!!馬鹿めッッ!!やられおったか!あーはははははは!」
妲己はにやっと笑い、高揚した気持ちを抑えきれずに高らかに笑っていた。
そして、ある程度の笑い切ったあたりで、目障りなプレイヤーに気づく。それはまだ戦う意志のあるヴァルキリーが盾を構えていた。
「ほう、ギルマスがやられて仇討ちか!!?よかろう!お前も一緒に逝くがいいッッ!!!」
そういうと、女神化したルカに指示を送った。
がッッ!!!!ルカは動かないッッ!!!
「おい!!貴様!!なぜ動かん!!!??」
ふと足元を見ると、死んだはずのセイメイが女神に向かって正拳突きをしているように見えた。
朝日はセイメイの横顔を照らしていく。
「こんのぉ……!!死にぞこないがぁぁ!!」
もう一度、ルカへ指示を送るが動かないッッ!!
「残念だったな…!!ルカの制御はこの俺が止めさせてもらったッッ!!」
静止したルカは妲己の制御下から切断され、宙に浮く。
「ば、バカなッ!?キサマッ!!何をしたッッ!!!??」
セイメイはにやりと歯をみせて悪だくみをした子供の顔をしていた。
「なぁに、コイツさえ止めちまえば、お前なんか大して怖くねーんだよ……。カッカッカッ!!!」
勝ちを確信したかのようなセイメイの言葉に妲己は動揺を隠せないでいた。
「な、なにをしたッッ!!??なにをしたかと聞いているんだ!!セイメイッッ!!!???」
「そんなに知りたいか?妲己ッ!!俺はコイツと入れ替えただけさ。」
セイメイが手にしたのは白い結晶の破片だった。そして、セイメイは結晶をぐっと握るとパリーンと割れ塵になり、破片はデータの海へ消えていった。
「ば、バカな!!システム上!!お前にそんな事が出来るはずがないッッ!?」
「ああ、そうだ。だから……!!俺はそんなことが出来るアイテムを手にしていたんだよッッ!!」
絶望する妲己へトドメの一言をいう。
「既にお前はッッ!!戦う前から俺に負けてたんだよッッ!!」
セイメイはそう言い終わると、納刀していた刀の柄に手をかけて、スキルを放つッッ!!
剣聖神道流奥義ィィ!!!死境ッッ!!!
妲己を横一線に切り捨てる。
チンッ
セイメイは刀を鞘に納めると妲己は蹲り絶叫する。
「ぐおぉぉぉおおぉぉお…!n、に、にん…げん如きに……、なぜ、私は!!負けなければいけないのか……!?」
「そぉりゃあ決まってんだろうがぁ!?おまえらの創造主は人間様だぜ?」
セイメイはやれやれといった表情で妲己を見下ろしていた。
「おまえ……ごときに……負けを認めるるる…な、な、なんなんて、てて……。」
セイメイは妲己が機械であることを確信すると共に、トドメを刺す事にしていた。
「お前が、プレイヤーのアカウントを使用しているか定かではないが、恐らく憑依みたいな感じだろ?そのプレイヤーはログインできずに諦めてしまったのかすら!わからん。運営にも抗議のメッセージを何通も飛ばしているだろうにな!でも、お前の仕様外能力で、ログインは既成事実として意図的に行われていて、改造されている。おそらくそのアカウントは、永久に凍結されてしまう。妲己よ、その罪は重い。この俺が制裁してやるッッ!!ハラをくくれ!!!」
シュパーーー……ン……
刃は鞘を走り抜けて外に出る。
「………。」
セイメイの口上に観念したのか妲己は静かに下を俯いていた。
一歩、また一歩とセイメイが近づく
刀を振り上げて振り下ろそうとした瞬間!!
セイメイへの最後の一撃を喰らわそうとした。
動揺しつつも、刀を振り下ろして止められない!
攻撃中に防御スキルは受け付けてくれない!!
イーリアスの世界は無常にもセイメイの危機を黙って眺めているだけだった。





