第139話「戦術の選択」
~ロームレス・南門~
城壁内では、門の修繕と再突撃に備えてベルスを始め、ファウスト達と力を合わせて修復していた。
修復の材料は、予め置いてある。また、重さは0という事で初心者でも修繕のコマンドを行う事が出来る様になっている。やり方は簡単だ。壊れかけた城壁に向かって、石材や木材をアイテムBOXから取り出し修繕するのポップアップ表示が出てくるため、それをポチるだけである。
比較的簡単な作業工程なので、新人や初心者などはこの雑用から戦争の空気に慣れていくというのが、セオリーだ。だが、中堅クラスになると人手も足りないなどの理由により、いきなり実戦という事もあり戦場に放り出される事もしばしば見受けられる。
今回の占領戦も例外ではない。
半ば火力(攻撃力)があると、部隊の末席に呼ばれてサポートに回る事がある。
これは致し方ない事ではあるが、一度会敵すれば、即死も免れない。死に戻りが最長3分というCTにぶち込まれることもしばしばある。占領戦、主に攻城戦においては格下を潰すのが上策、いわゆる雑魚狩りが横行するのはこういった修繕させないという作戦の元、人手を削り、陥落させるという意図があるのだ。
なので、新人だろうが初心者だろうが、【戦力外】なんて言葉はこのゲームに存在しないのだ。
それゆえに、皆が一致団結する必要性が大いにあるコンテンツ、それがこの占領戦なのだ。
さて、どうやら修繕が完了するようだ。私も“末席”加わろうとしよう。
「みんな!よくやった!!完全回復とはいかないのは仕様の問題だが!これはこれで限界まで回復させた!突撃に備えるぞッッ!!!」
『オー!!!』
武器を掲げて声を上げると士気を高めているのはベルスだった。そして各自が持ち場にいき、再突撃の衝撃に備えていった。
ベルスはというとファウストと共に城壁に登り、敵の陣形を確認しに移動していた。
「ベルスさん、敵はどう出ると思いますか?」
「わかるわけないでしょ?www」
「そりゃそうですねwwあははははwwww」
「でもね、いやぁ~な予感はするんだよね……。」
「というと?」
ベルスは少し神妙な面持ちで考える。
「相手はそれなりの中堅クラスのギルドの集合体、もしひとつになれば、我々以上の戦力になる。」
「たしかに……。」
「まだ、攻めてきていないギルドあるでしょ?」
「あー……、ありますね。」
「どこのギルドだい?」
ベルスは同じリストを出して、確認していた。
「セレクター……??ここか?!」
「ええ、このギルドですね。おそらく後方支援のギルドではないかと思いますね。」
「いや、このギルドの噂には聞いている!」
「え?どういうことですか?」
「ここのギルドのラピスという人物は、かなりのキレ者だと聞く。ギルドは少数精鋭。新人初心者は勿論の事、中堅・上位プレイヤーの加入もしないというギルドだ。」
「え??」
「つまり、“本当に強者でなければ入れない”というギルド方針だと聞いた。」
「な、なんだって??」
「ああ、それゆえ連合軍の最後の切り札ってことだ。」
「一気に劣勢が濃厚になりましたね…。」
「あくまで結束したらの話だ。」
「油断は大敵ですね。このままだと押し切られてもおかしくない!!」
「無論だ。このままやられてばかりでは、メンツが立たない。しかも、クーロン相手ではなく連合軍に負けたとなれば、笑われてしまう。」
「それは、別に笑われはしませんけど……。」
「いや、セイメイ殿に苦笑いで“大丈夫だよ。また取り返せばいいじゃないか?”なんて言葉を吐かせたくないのだよ。」
「ベルスさん……。」
ファウストは少し引いていた。ベルスは慌てて場を茶化した。
「あ、ほらあれだよ!恥ずかしいだろ?なんというか……」
「大丈夫ですよ。私は少し驚きましたが、差別はしません。人それぞれですからね……。まさか、あっちの方だったとはね……?」
「ち、違うよ!!誤解しているッッ!!こっちは嫁も子供もおるわいッッ!!」
「戦時中にとんでもないカミングアウトする方だと思って、やはりギルマスをやる方は違うなぁと思っていましたよ。」
「ファウスト殿、違うと弁解しているじゃないか!!」
「まぁそれを聞いて安堵している自分がいます。私も狙われていたのでは?と……。」
「ぃいや~!そういうことじゃない!」
ベルスとファウストのやり取りを見に来たマノが、ファウストに蹴りを入れてきた。
「いって!!だれだ??」
ファウストが振り向くとマノがこちらを睨みつけていた。
「あんたら指揮官でしょ?何ふざけてんのよ??こっちはみんな緊張しているのにっ!!」
「あぁ~いやぁすまん!ちょっと取り込んでてねw」
「フン!どうせアンタの世迷言でしょ?ベルスさんに迷惑かけないでよね!?」
「おー?さっきまで泣いていた子が発言する内容ではないな?」
ファウストのメガネがキラリと輝く。
「ま、まぁいいじゃないかwマノさんだって、緊張をほぐしにきたわけだろうから……。」
「ベルスさんも!このエロメガネの調子に合わせなくていいんですからね!ったく……。」
「わ、わかったよ!ごめんって!」
マノは怒りながら物見台に上がり、敵の襲来を確認しにいった。
「ふぅ……。泣いたり、怒ったり、大変だなぁ。」
「ははは!案外、尻に敷かれるのがタイプなのかい?」
今度はベルスがファウストを茶化していた。
「彼女はそんな存在で見たことないですよ!?」
「若い……!若いっていいなぁ~。年を追うごとに思うよ。」
ベルスはまだ荒れぬ、静かな戦場を眺めていた。
すると、報が入ってきた。
マノがはいった別の物見台からの報告だった。
「敵襲!敵襲!!距離1500にて敵軍を発見!!」
「きたか!」
遠くの方で土煙がうっすらと見える。
「おいおいおい、まさか騎馬隊でせめてくるんじゃないだろうな??」
「騎馬隊??」
「ああ!!馬の突進を生かして門のダメージを稼ぐ気だ!馬のHPはプレイヤーより多少ある。乗馬中のプレイヤーは馬HP依存になって馬が死なないと倒せない。」
「あいつら!そこまで…!?」
「落ち着け!ファウスト殿!我々はその備えをする時間はある!!」
「どこに!!?」
ベルスをみて焦るファウストは動揺を隠せないでいた。
「私と君、そして名も無き勇者たちが我がチームいるではないか!?」
ベルスは城門の上から下を見下ろした。
ベルスのフォルツァをはじめ、オケアノスのメンバーが緊張した面持ちで構えていた。
「皆の者!!よぉおくきけぃぃぃッッッ!!!」
「敵本陣が向こうから近寄ってきた!!これは脅威ではなく、チャンスだ!!各大将首を狙え!!雑魚に構うな!!」
『オオオォォォォォーーーー!!!』
さきほどより、大きく鼓舞しモチベーションをあげていた。
「ま、まさか、勝算がおありだと?」
「あるちゃあ~あるし、ないちゃあ~ないな!?」
ファウストの肩を叩きながら笑っていた。そして、ベルスは時間を惜しむように指示を的確に出していく。
「弓持ち、遠距離職は壁の上に立てッッ!!歩兵の近距離は門の前で待機!!ディフェンダー・プロテクションなどの防御の魔法を唱えておけ!!エリクサーの重ね掛けも怠るなッッ!!」
そして、物見台に上がり遠くの土煙を睨みつけていた。
「さて……奴さん達はどうくる?時間もないぞ?ククク……。」
~連合軍・進軍中枢~
南門を肉眼で捉えたハーネスト達は一時スピードを抑えた。ここの丘を越えると、一気に南門まで距離を詰めれる坂となっている場所だ。馬のスピードは抑えられ少しずつ前進する。
コウキが眉間に皺を寄せ、困り顔でいう。
「本当にあの戦法で行くのか?」
「まあ時間もなしね。行くしかないわよね……。」
ムギとコウキが愚痴をこぼしていた。
「まぁお前らは戦力にならんだろうからな。そこで指でも咥えてまってろ。」
「んだとてめぇ!!??」
ハーネストが見下す様な目線でコウキ達を睨みつけた。
「まぁ落ち着きなよ。ストレスの発散をうちの人間にするのはどうかと思うよ?ハーネスト?」
二人の言い争いを止めようとするアークスは少し空気を読んでいた。
「俺はお前らのような従順な下僕成り下がってまでAIなどという得体の知れないヤツの下につく気はないんでな!!??」
「んじゃあお前の褒賞金は俺らがもらうぜ??」
「なんだと!!?」
「あーあ可哀想にグラブレのギルメンさん達はよぉ!?」
「この野郎!いっぱしの口を俺に聞くんじゃあねーぞ!?」
ハーネストとコウキの一触即発のムードを割って入ったのはラピスだった。
「お主らのイライラはとりあえず、敵に当ててくれんか?ここで争っていたら向こうの思うつぼだぞぃ?」
「んじゃあこのあと相手が出てこなかったらどうすんだよ?」
「馬で突撃すれば、良い。」
「ああ??あの戦法はやらないのかよ??」
「撃って出てくるときに、やればいいのじゃよ。簡単じゃろ?」
ラピスは年甲斐にもなく、蓄えた髭を触りいかにも老人のような仕草をしていた。
―――このジジィキャラ!うさんくせーんだよなぁ!!
「さて、時間も無くなってきよったからに。迷わず、城門突撃を行うとしよう。門が開いたら一旦引くんじゃぞ?」
「うるせーー!クソジジィ!!やればいいんだろ?やれば!?」
「期待しておるぞぉ~?」
コウキは陣を抜けて幾人かのギルメンを携えて、城門へと走り込んでいった。それをみたハーネストは、自分のギルメン達に発破をかける。
「フン、我らもいくぞ!?あんなヤツに先を越されては、グラブレの名が廃る!!突撃ィィィ!!!」
グラブレは陣形を整え、一気に丘を下っていった。
天空の夜空が少し明るくなっていた。





