第138話「聖と魔」
~ローレムス・東門~
ソロモンとドリアスは迫りくるクーロンの部隊を迎え撃っていた。
パドスの討伐に伴い、勢いは大いに削がれ撃退しかけていたが、妲己の本陣の前進により、一時の撃破で攻撃の波は止んだが、再突撃により、窮地に陥っていた。
「クソ!やはりクーロン!!一筋縄でいかねーか!!」
召喚獣の攻撃で爪と鍔迫り合いをしており、一方、ソロモンも応戦し、サブナックが召喚獣と戦っていた。この戦いにおいて一進一退の攻防が続いていたが、全部隊をあげての防衛は意外な幕引きをすることになる。
それは、AIによる戦略兵器と言わんばかりの攻撃で全てを無に帰そうとしていた。
~東の森・入口~
アイオリアが囮になったことにより、セイメイとクリスはクーロンの陣営の裏を取ろうと音を立てない様に動いていた。
―セイメイさん、大丈夫なんですか?
―大丈夫とか戦時中に安全なんて場所は存在しないんだよ。
―でも!
―まぁなるようになるさ
すると、クーロンが前進するの見ながら平行して移動を開始し、セイメイはルカを探していた。すると、進軍する前方で騒めきが起きていた。
―――なにかおかしい。クーロンが突撃している最中に城外で騒ぐことなんか起こらないはず!
セイメイはクリスを置いてけぼりにするように走り出した。
―セイメイさん!どこにいくの!?
クリスはオドオドしながらセイメイの後を追った。
「フン、踊らされている無様なニンゲン風情が…。」
前進するクーロンのギルメン達を見下ろしながら、蓬華は城壁の上に立っていた。
「破壊を好む我が至高の美をとくと味わうがいい…!!」
出でよ!我が魔神!!アジ・ダハーカッッ!!
夜を一瞬にして空を明るくする。
「な、なんだありゃ!?」
「閃光弾だ!!」
「隊列を組め!!」
「なんで!城門前で閃光弾なんだよ!?おかしいだろ!?」
「しるか!!とにかく盾を前に出すんだよ!!」
クーロンのギルメン達は慌てていた。
「我が結晶を権化とし邪悪なる力を我が手に!!」
蓬華の胸から現れた赤い結晶は光り輝き、蓬華の身体を包む。
―――ば、バカな!?
セイメイは岩陰から覗き、瞳に映る景色に驚きが隠せないでいた。
見る見るうちに蓬華の身体を黒い煙が包み込む。すると、黒い煙は具現化していくそこには、アジ・ダハーカが現れた。
「全テノ愚カナウジ虫ドモニ世界ノ破滅ヲ!!!」
―――あれは…BOSSクラス!!
クーロンギルドのメンバーは奇襲攻撃により隊列を崩し、東門の攻撃に手をこまねく事態に発展した。
応戦するプレイヤー達は必死に応戦している。ネクロマンサーが魔神を呼び出していても、格が違うため潰されていく。ヴァルキリーやハイエルフといった一部上位職も応戦するが、まるで歯が立たない。
なすすべもなく無情になぎ倒れていく。
クーロンの列は分断され、前方にいた後続は焼かれ、分断した傷口には尻尾で吹っ飛ばしていった。その様子はただ虐殺をしているだけの地獄絵図を描いていた。
ギルメンが次々と死んでいく中、そこにようやく妲己が現れる。
「ほう、出てきたな。悪魔め!!」
蓬華は何かを悟ったように目を細めて、口を開き牙を見せていた。
「オ主モ同ジ同族…!何ヲ口走ッテイル!!」
「さぁ何を言っているのか見当もつかないねェ~!!」
妲己はルカを前に出すと、あの光を放つ。
「さぁ死ねぇぇーー!!」
大いなる光が辺りを照らす。
爆発と共に爆風が辺りを吹き荒れ、生き残っていたギルメンすらも消し飛ばしていた。
光が止むと、アジ・ダハーカは健在し剥がれていた鱗などは修復していき、自動回復をしていた。
「フン!!その程度で私が驚くとでも思うたのか!?」
「ホウ、他ニ技ガアルヨウニ見エンガ?」
「そもそも、そこが浅はかだというのだ!!」
「ナラバ、タメシテミルガイイ…!!」
すると、ルカが宙に浮き胸元から白い結晶が現れた。白い煙に包まれて具現化していく。そこには女神が立っていた。ルカが扮する女神は白いローブに包まれており、頭にはティアラのような冠をし、金色のマントのようなものを羽織っていた。
「これで貴様は、悪魔の使いだということだ。」
「ネクロマンスガ神ヲ扱ウカ…!」
「何をいう!これは私の力だ!!いけ!!やつを浄化しろ!!」
女神は杖を振りかざし、アジ・ダハーカへけしかけにいく。しかし、アジダハーカの前には結界があり女神の攻撃を防いでいる。それから攻撃の打ち合いをし始め、辺りは静けさだけが残った。
セイメイはその行方を見守っていた。ようやく、セイメイの近くまできたクリスはセイメイに話かけた。
―セイメイさん!!この怪獣大戦争みたいな流れなんですか?
―おまえこういう時に限って全力でボケるんだな?違うよ。ルカと蓬華が戦っている。
―え?蓬華さんまで?
―あいつもAIだからな、この際、なんでもありの戦いが目の前で繰り広げられている。無力なものだ。
こんなのに付き合っていけるようなもんじゃねーぞ…!
二人は岩陰に隠れて戦いを見守っていた。
そして、女神を操る妲己の目は血走るほど狂気に狂い、ひゃひゃひゃと笑いながら戦っていた。
すると、アジ・ダハーカの結界も弱くなり、次第に攻撃が入るようになっていた。
「どうした!?貴様も私には勝てまい!」
「………。」
アジ・ダハーカは静かに妲己を睨みつけていた。
「所詮、量産機モデル…!!我が敵ではないわッッ!!」
“受けよ!我が奥義!!”
妲己の前に大きな魔法陣が出現し、周りには十字を切る様に一回り小さな魔法陣が四方に出現すると、円を描くように回り始めた。勢いよく回り始めると目で追えなくなり魔法陣の前には眩い光の元素が輝き始めた。
死ね!オーラアタック!!アイン・ステイニュート!!!
ドッ…ン!…ピュシュィィィーーーーン!!
魔法の光はアジ・ダハーカに向けて放たれる。それをもろに受けるとアジ・ダハーカは煙に変わり、その中から蓬華の身体でてくると落下する。そして、地面に叩きつけられた。
「アーハハハハハハハ!!!愚か者よ!我が魔術に恐れ入ったか!!」
セイメイは居ても立っても居られなくなり、蓬華に近寄る。
「おい!大丈夫か!!オイッッ!!!」
「なんだ…、出てくるのが遅いじゃないか…。」
「いいから黙ってこれを飲め!!」
セイメイはハイポーションを与えていた。
「残念だな…。私はこの手のアイテムは使用できない。回復なんぞしないのだ…。」
セイメイが持つハイポーションの手を払い、蓬華はボロボロの腕を痛みを堪えながら天にかざす。
「私はこの身体が大っ嫌いだった。可愛いだの、萌えるだの、ずるいだのと勝手にレッテルを張ってきよる。お主はそういう事はせずに容赦なく真っすぐに接してきたな…。」
腕を上げていた手をセイメイは握る。
「もういい…。お前も一人だったんだろ…!?変な奴だけど、俺の仲間じゃねーか…。」
「お主は仲間と思っていようとも、周りはそうおもっておらぬ…。私はどこでも忌み嫌われていた。それが楽だったのだ。」
「くそ!!そんなこと…!!そ、そうだ!!クリス!!クリスはどこだ??」
叫び呼んでいたセイメイはクリスを探す。焦るクリスは思わず岩陰から顔を出すとセイメイに呼び出されるまま、蓬華を回復するように説得する。
「クリスッ!蓬華を回復しろッッ!!死なすなよ?!グラマス命令だ!!」
「は、はい。」
そういうと、セイメイは二人を背にして刀を抜く。
「今生の別れは済んだか?セイメイ?」
「お、お前…!!」
「どうした?怒りに任せて斬りかかってこんのか?」
女神化したルカを前に出していう。
「お前もAIなんだろ??そうなんだろ??」
「フフフ…。そうだといったらどうする?倒すのか?よもや、お前に私を倒せるとでも思っているのか?」
そういうと、ニヤニヤと笑って無表情の女神を前に出していた。
「さぁな!?お前を倒す事より、勝つことが今回の目的だ。引けば、これ以上は攻撃しない。撤退宣言しろ!」
「それは出来ぬ。我々もこの城を皮切りにジェノヴァに攻め入るからなぁ?」
「ジェノヴァだと?」
「そうさ、あいつは私をコケにしたのさ。“お前じゃこの世界は統治できない”とね。」
「この世界は誰も統治できない!」
「ニンゲンには無理だ。愚かな生物だからな。」
「!?…やはり、お前もAIなんだな!!」
妲己は口に扇子を当てて驚く表情をする。
「おっと、口が滑ってしまったようだね。アハハハ!!お前はニンゲンの中でも賢いと判断が下したようだ。ククク…、皮肉なものよのぉ?」
「何言ってんだか…、さっぱりわからねーぞ!?」
「お前にはわからなくていい。所詮、脆弱なニンゲンよ!!さぁ死ね!!セイメイッッ!!!」
女神化したルカから一閃の光が差す。サーチライトのような照らす光を避けるセイメイ。走るセイメイを追尾する光は、確実にセイメイを捉えていた。
―――遮蔽物も何もない!!どうやって躱せば…!!
セイメイは焦りながら、周りを見渡す。すると、先ほど隠れていた岩を見つける。
―――あそこに隠れるにしても詠唱時間がかからないんだった!こいつら…!走っても悟りを使っても間に合う距離じゃない!!
「アーハハハハハハ!!情けないグラマスだな!!セイメイッッ!!城の中で待っていろ!!大人しく死ねぇぇぃぃい!!!」
女神の杖から差し込む光がより強くなり、セイメイのHPが解かされていく。
夜空から差し込む光はセイメイを照らしていた。





