第136話「ヒュブリス ーHubrisー」
~ロームレス・中庭~
死に戻りをした仲間と合流するため、ベルスは回復をしながら、城内にもどった。すると、ファウストの一行と出会う。
「ベルスさん、すまない。全て殲滅できなかったけど、大丈夫でしたか?」
「ここにいるという事は辛勝といったところか、君の仲間が援軍に来なければ、負けていた。」
ベルスはマノの背中を押し、ファウストの前に出した。
「マノ、よくやった。南門を抜かれていたら、もしかしたら劣勢に立たされていたかもしれない。」
「わ、わたしは指示を無視してしまいました…。それに怒られるかと思ったし…。」
「なぜだい?僕はベルスさんも君も仲間だし、仲間のピンチに駆けつける事の何がいけないのかね?」
俯くマノの顔を下から覗くように腰を落とした。マノは目を合わせようとしない。ベルスは剣の柄で顎をグイっとあげる。
すると、マノの目から涙があふれていた。ベルスはマノの目を見ていう。
「さっきもいったが、君は私を助けた。それは素晴らしい事だ。ウジウジするな。任務や指示通りやることも大事だが、咄嗟の判断が功を奏したわけだから、それは誉と言えるものだ。顔をあげ胸を張れ。」
というと、顎にかけていた柄を下ろし、マノを褒めたたえていた。それでも泣くマノを、やれやれといった顔でホルスとグラニは茶化す。
「ほら、あれだ。マノはびびりだから、怒られると思ったら褒められてパニクってんだよ。」
「俺なんてさっき、師匠に怒られたんだぜ?“なんであの時、盾を降ろしたんだ?”って、俺は怒られて泣かなきゃいけないのに、褒められて泣くというこの矛盾よww」
「あのな、ありゃお前さんが悪い。盾を構えていれば、僕らは死なずに済んだんだぞ??」
「はい!すいませんでした!以後気を付けます!!」
グラニは背筋を伸ばし敬礼する。そして、グラニはマノの方をみて、ウインクをしながらニヤリと笑う。
「ばっかじゃないの??怒られて笑うのもどうかと思うでしょ!?」
と、マノは噴き出しながら笑っていた。それに釣られてホルスとグラニは笑い返した。
「さぁて、第二波に備えて体制を整えなくちゃあいけないね!」
三人の肩を抱きしめながらファウストはメガネを光らせていた。
「ベルスさん、西門・南門の防衛展開はどうしますか?」
「一応、西門に布陣していたギルドは旗を奪って潰した。残るは残党狩りといきたいのだが、東門が気になる。」
「東門からは特にアラートや、伝令が入ってきていない!…まさか、やられたのか?」
ファウストは焦りを見せていたが、ベルスはファウストを宥めることにした。
「落ち着きたまえ!君の仲間ソロモン殿がいる。それにドリアスも。二人ならやって退けるさ。」
動揺したファウストを諭しながら答え東門の方角を見ていた。ふと我に返ると、相手の再突撃に備えなければならない事に気づき、すぐに移った。
「さぁいこうか。我々も力を合わせて迎撃だ。」
「しかし、本陣が動くのは…。」
と、ファウストは少し不安げにいう。しかし、ベルスは力強く答える。
「今がその時だ。この城・町、その他のギルド達も冒険者達も我々は好きだから守りたいのさ。」
そう言い終わると、ベルスはファウストの肩をポンポンと叩きギルメン達に次の指示を送っていた。
~東の森・北部 森のはずれ~
蓬華が召喚した魔神は禍々しいオーラと共に消えていった。その魔神に恐怖を感じた結華は、恐る恐る蓬華に話しかけた。
「あなたは何者なの?あんな魔神…!見たこともないッ!」
蓬華は結華の目をみて語った。
「世界でも有数のネクロマンサーの召喚技さ。そんじょそこらの上級者じゃ召喚の仕方も会得するやり方も知らんだろうよ?」
「え?ど、どういうことよ!?」
「レベルの階層が違う。と、言った方がわかりやすいか?」
「違う!!あんなのを操れるネクロマンサーなんていないわ!第一、一撃で薙ぎ払う召喚なんて存在しちゃあバランスが…。」
「そのバランスを壊すために私は存在しているのさ。」
「な、なにをいっているのかわからないわっ!?」
「わかってもらおうなんてこれっぽっちもない。私はお前らの飼い主になる存在さ。」
「まったくもって理解できる話じゃないわ!おかしいわよ!」
結華は蓬華に詰め寄った。
「おかしい…か。おかしいのはお前ら人間であろう!?」
「人間って…!あなたも人間でしょうよ!?」
「…私は違う。私はそんな傲慢な事を学んでいない。」
「学ぶ?傲慢を?そもそも、なんであんなシロモノを出せるのよ!?反則だわ。」
「反則か…。反則とはまたこれも傲慢でしかない。反則なんていう概念は自然界には存在しない。強者か弱者のみだ。その反則という概念は人間が作りあげた反則でしかない。」
「なッ!?さっきから意味不明なことをいわないでよ!」
「そうか?私はごく当たり前の森羅万象を唱えているだけだ。なんの不満だ?それも傲慢の類か?」
「傲慢傲慢って…、アンタは!何様のつもりよ!!」
蓬華は結華にゆっくりと近づくと、結華は後ずさりする。
「ほう。私を恐れるか?ギルメンがギルメンを倒す事は出来んというのに、お主は恐怖を感じたな?」
「ち、違うわ!あなたは人間じゃないと言ったわ!!じゃあ何なの?宇宙人?それとも…火星人!!?」
結華は語尾を強めた。
「私はお主らのような生命体ではない。お主らの現実でもっとも活躍する…そうだなぁ?人種と表現しておこうwww」
「はぁ?これもまた意味がわからないわ!!」
「AIよ…。」
スカルドが結華の前に立つ。
「ほう、賢い人間もおるのだな?」
「あなたの事を理解しようにも、歩み寄りがなければ相互理解なんてものは存在しないわ。」
「お主らはそうやって、対等の立場を確立しようとするが、それこそが傲慢なのだ。対等?平等?ならば、世界に起きている紛争を止めてみぃ!!」
蓬華は不思議なオーラを纏う。
それをみたスカルド達は武器を出し、迎え撃とうとしていた。
「その行動が、お主らが唱えている“対等な立場”なのか?ぬるい!ぬるすぎるッッ!!そんな自己中心的な思考をするから、お主らは阿呆なのだッッ!!」
そういうと、瞬く光と共に蓬華は消えた。
「きえた…!?」
辺りを見渡すと、どこにも蓬華の姿はいなかった。
~クーロン陣営・裏手~
潜めるセルはギリギリの範囲で待機し様子を伺っていた。
パドスの出陣と共に慌ただしく動くクーロンをやり過ごし、息を潜めた。
出陣を終えると、そろりそろりと足音を消す。
―――よしッッ!!今だッッ!!
フィールドエクスポーズッッ!!!
ブオン!!
セルの視界にはクーロン陣営のメンバーが見通せた。
―――どこだッ?!どこにいる!?
!!!!
セルの目の前が暗くなる。
視界を切り換えると目の前には妲己が立っていた。
「のぞき見とは…!見上げた根性だ。」
妲己は鉄扇を瞬時に出すと、一振りでセルを絶命に追い込む。
―――いつの間に一撃で…俺をッッ!!
妲己は血の付いた鉄扇を振り、血を拭うと滴る血を舐めていた。
「フン…、急ぐか。」
その場を異空間を出して消えて陣営に戻る。
「おい、後ろにネズミがいる!!駆除してこい!!」
妲己は近くにいたギルメン達へ指示を出した。
~東の森・入口~
セイメイとクリスはまだ身を潜めていた。それはセルからの情報を待っていた為である。
それを処理するために派遣されたクーロンのギルメン達は真っすぐにむかってきていた。
―マスター!ばれたかもしれません!
―落ち着け!クリス!セルを信じろ!
―しかし!万が一やられたという事も!?
―わかっているさ!!
クリスとワチャワチャとやりとりしているところにセイメイの後ろに忍び寄るアイオリアがいた。
「御大、もう無理でしょう。私が囮になります。四聖剣といもう…クリスを頼みます。」
「ば、声を出すな…!!」
「我が道はあなたの後を歩くことになっています!ここで倒られてはいけません!!前方に阻む者がいるならば、私が刃となりて、切り捨てるのみッ!!御免ッッ!!!」
アイオリアは勢い良く現れた。
「い、いたぞ!!」
「こっちだ!!」
クーロンのギルメン達はアイオリアを見つけると捜索していたメンバーに声掛けをしてアイオリアを追いかけていた。
アイオリアはセイメイから遠ざける様にロームレスの壁沿いに向かい走り込んでいった。
―――アイオリア…!すまんッッ!!!
セイメイは下向きながら、やり切れない自分の感情を潰す様に拳を握り締めていた。
~ロームレス城・南東の城壁外~
「フハハハハハハ!!!我こそは!!天下無双ッ!!一騎当千ッッ!!白金の拳を持つ者だッッ!!死にたい奴はどいつだぁ!!??」
―――ざっと15.6人か…。抜けなくはない人数だな。
追撃隊はアイオリアを見ると白金の鎧兜、そして赤いマントを羽織っている男を眺めていた。
「おまえ…、アイオリアだな。」
「いかにも!!我が名はアイオリア!!“白金の騎士”と言われた“漢”だ!このアイオリアを前にしょんべんちびんなよぉ!!???」
「あれがアイオリアなのか?」
「ああ、間違いない!アイオリアだ。」
「嘘だろ?実在したのか?」
クーロンのギルメン達はアイオリアを目の前にすると、ざわざわし始めた。
「どうした??この俺に恐れ戦く暇は貴様らにはないのだぞ??さぁ!!どうした!?怖気づいたか!!?」
アイオリアの気迫は鬼気迫るものであった。
アイオリアの名を知らない古参はいないと言われている。
各戦地でのトップスコアラーであり、エウロパ時代では、戦場で飛び回る“白き流星”と言わしめていた。
アイオリアはその凄みをまざまざと見せつける事になる。
構えを解き、ゆっくりと歩き始めた。
カシャンカシャンと鎧が鳴らす高音は死へのカウントダウンのようになっていた。
「さぁて、久しぶりに暴れさせてもらおうかね?なんなら、まとめて来てもいいんだぜ?」
兜から零れる眼光はクーロンのギルメン達を動揺させる。
ニヤリと笑い、フンッ!踏み込むと一瞬でトップスピードに達し、瞬く間にクーロンギルドのメンバーを蹴散らしていくのであった。
壁に掲げられていた松明は、アイオリアの背中を紅く照らしていた。





