第136話「炎海の大時化」
~東の森・入口~
セイメイとクリスは森を抜けようとすると、魔法の詠唱音が聞こえてくる。
とっさに隠れたセイメイ達は様子を伺うのであった。
―セイメイさん…。
セイメイの耳にwisが入る
―どうします??おそらく敵本営の近くまで来たみたいですよ?
―ああ、そうみたいだな。それよりここまでは良いとして、どこから侵入して妲己とルカにどう接触するかだ。
すると、どこからともなく聞きなれた声が飛んでくる
―マスター!生きてたんすね!!
―ユーグか?おまえらどこにいる?
―マスターの左後ろ辺りです。
セイメイはすぐさま振り向くと、ユーグは手を振り、アイオリア会釈をし、物陰から身を潜める様にセルがいた。
―おまえら大丈夫だったのか?
―ええ、アイオリアさんのおかげですよ。
―マスターがここにいるということは、まだ接触出来てないようですね。
―そうだ。それより、なんでセルだけおまえらと合流したんだ?
―その事なんですけどね、赤眼が現れて別行動取ってたらしいんですよ。そしたら僕らに…いや、アイオリアさんに救われたぽいですw
―まぁ少なくとも、戦力は減っているが気心が知れているのが残っているのが幸いってとこだな。
セイメイはフッと笑顔をすると、ユーグもコクっと頷き笑顔を返してきた。すると、セルがいつ間にかセイメイの目の前まで進んできた。
―ちょwおまwwwびびらせんなよ!www
―まぁ落ち着け。東の森はフィールドエクスポーズが使えん。だが、森を抜ければ使える。そうすれば、敵兵力がどれくらいまでは教えられる。だから、俺が先行する。
―アサシンの得意分野の本領発揮か?
ニヤッとセイメイは笑うと、セルは嫌な顔をしていた。
―いってろったく…。とはいうても、向こうが常に背後をお留守にしているとは思えん。俺が使えるということは相手も使用範囲である事を忘れるな。もし、バレたらアイオリアを全面に出して気を引かせろ。ユーグとそこにいる小娘ならお前を守れるだろうよ?
そうい言い残すと、サササッとクーロン陣営の間裏に進んでいった。
~東の森・北部 森のはずれ~
結華とスカルドは囮作戦を遂行していた。追撃戦を展開するクーロンのギルメン達はセイメイ達には気づかずに成功を収めていたが、結華とスカルド逃亡劇は暗雲が立ち込める。
「スカルドさん!まだ相手は追ってきます。どうしますか?」
「今は霧を使って誤魔化したけど、大丈夫だと思うの。」
「そうはいっても、方向は予測がつく!」
語尾を強くすると、闇雲に放たれた矢を切り落としていた。
―――くっ…!退きながらの戦闘は中々やりづらいわねッッ!!
スカルドは結華の行動をみてはっと驚く。
「あなたね!今はセイメイ様なのよ??わかってらして?」
「わかってるわよ!それより、距離は突き放せても千切れてくれないのはなんでかしら?」
すると一人足の遅い蓬華をみると、睨んでいた。
「そんなに私が邪魔であれば、置いていけばいい。」
「あんたはそうやって人との距離を突き放しているけど、なんなの??」
結華はプンスカ怒っている。
「フン、逃げてばかりのお前らに言われたくない。」
「今のは聞き捨てならないですわね!!」
「何をいう!作戦はセイメイの囮。作戦は成功した。という事は反撃すればよいではないか?」
「兵力温存!三十六計逃げるに如かず!マスターの話を聞いてなかったの??」
「ふむ。」
「聞いてたならわかるでしょ??」
「では、“温存できるように戦えばいい”のだな?」
「ええそうよ!って、アンタ!何言ってんだよ!?」
結華は蓬華の発言に驚いていた。
「お主ら、“Harlem”という言葉の語源を知っているか?」
「あれでしょ?男の人に女性が群がるみたいな?」
「違う!!愚か者が!!学術的にはトルコ語の発音に近い「ハレム」が一般的なのだ。アラビア語で“神聖な場所”という意味だ。なお、イスラム教徒は野蛮だと決めつけていた西欧のキリスト教徒たちに、“女たちが好みの男を引き入れる場所”と誤認からなるということだ。全く人類の愚かな事ばかり…。全く反吐が出る!」
走りながら、元PROUDのメンバーはあっけにとられていた。
「さらに、時代を越えて現代では、このようなモノは廃れていっているが、現代の女性は、もっと強く、発言力があり、凛々しくあるものだと覚えたが??お主らはそのような集団なのではないのか?」
「元はそうよ?でも今は…。」
「今も昔もお主らの意志は、過去の志の高い女性が切り開いた土台の上に立っている。それをセイメイのようなヒョロ優男に心を奪われおってからに…!!」
「別にセイメイさんが悪いわけじゃ…!」
「黙れ!小娘が!!」
「アンタは童女でしょうが…。」
「フン!見かけに騙されよって…!だからお主らは馬鹿なのだ!!さぁ淑女諸君!!ここらで奮起せよ!お主らは現代に生きるジャンヌダルクだ。武器を持て!声をあげよ!見よ!剣・槍を出せば勝手に刺さりに来てくれるぞ!!」
蓬華はくるりと振り返り召喚獣を呼び出す。
出でよッ!!我が魔神ッッ!!ティアマトォォーー!!
ヴァアアアアアァァァァァァァーーーー!!!
甲高い呻き声をあげながら、蓬華の前に出現する。
「な、なによ、これ…!?」
結華はたじろいでしまう。自分達を追撃してきた向こうのパーティーも度肝を抜かしていた。
「決まっておろう!お主らにピッタリの魔神じゃ…!」
蓬華の腕には時折、稲妻が走っていた。そして、静かに詠唱をしていた。
静淵の生える数多の水藻を乱す愚かな者よ!
我が逆鱗に触れ、波を起こしやがて大海を淀ませ
高波となりて!すべてを飲み込まん!!!
喰らえ!!
混沌の大海!!!!
ティアマトは手を前に出すと追撃隊に向かって勢いよく飛沫を浴びせると次の瞬間、大波が辺りを飲み込み荒波が全てを飲み込んでいった。
「す、すごい…。」
「な、なんだ!これは…!!」
スカルドや結華は、ただ茫然と威力に圧倒されていた。そして、恐怖と畏怖を心の奥底に根を生やしていった。
~九龍陣営~
蓬華はティアマトを召喚した頃、それを感づく妲己が北を見る。
―――あやつは…!とうとうすべてを無に帰す時が来たという事か。
妲己は何かを悟ったように動き出す。
「ギルメンを集結させよ!これより、総攻撃をかける。エリクサー、バフの重ね掛けを怠るな!聖水を惜しむことなく使用しろ!!ここが正念場だ!!」
『オオオオオオオォォォォーーーー!!』
ギルメン達を鼓舞すると、ルカを伴って城門へ歩を進めるのであった。
~ロームレス・東門~
バシィィー……ン!!
幾度なくパドスとドリアスの徒合いは続く。
クーロンのネクロマンサーで構成された軍勢は踏みとどまらせているが、押されることはなくとも、引かせることもない。ただ、ほんの少しの匙加減でこの拮抗は崩れる事を両者陣営は悟っていた。
それはどちらかが、負ければ劣勢になるという事である。
何度もいうが、占領戦や団体競技に共通して言える事は、一騎打ちほど無能の証明である事に変わりはない。戦略も戦術としても、愚策中の愚策。しかし時にはこの一騎打ちが形勢逆転を図れるほどの価値がでてくるのは、勝敗が決した時に生じる感動が激しい高揚へと昇華し、この概念は影響力が計り知れないものだからである。
だが、この一騎打ちはその間抜けな一騎打ちとは違う。何か熾烈な戦いを彷彿させるドラマが存在していた。
パドス、ドリアスは戦いでしかコミュニケーションを取れていない。相手がいるから自分を成長させていくというありきたりなライバル関係だ。だが、今回に関しては、圧倒的に不利なドリアスに情けをかけていたパドスに、ドリアスは真夏の湿度のようなモワンとした嫌悪感ともいえない違和感を感じていた。
パドスの攻撃は常にドリアスの裏を取っていき、攻撃の合間合間を差し込んでいき、連続技などを中断させていく。また、ドリアスは防戦一方であり、時には危ない場面にも出くわしたが、パドスの癖などを知っているのか致命的な危機には陥られなかった。
この膠着状態を打破すべく、ある男が戻ってくる。
そう、ザ☆オヤジのネクロマンサー、ソロモンである。
「な、なんじゃこりゃあ!!!」
ソロモンは度肝抜かされているとロータスの指示が遠くから飛んでくる。
「左半身に光魔法を放ち、右側面は集中して攻撃を集めろ!!」
現場に戻った魔導士、魔術師達は急いで応戦に向かう。
ソロモンが辺りを見渡すと、ロータスが走り込んできていた。
「ロータスか!どうしてこうなった!?」
「すまん!ソロモンさん!うちのマスターが!!」
と、ロータスの指さす方向に一騎打ちをしている二人を見かける。するとソロモンは走り込みながら、手には魔法陣を呼び出していた。
「受け取れ!!ドリアスッッ!!!」
手には魔法球が生成され、それをドリアスに標準を合わせて投げつけた。
「クイックアクセル!!」
球は地上を這うように真っすぐドリアスの左肩へ向かって吸い込まれていく。
「おいオッサン!!これは俺の戦いだ!!援護射撃不要!!」
ソロモンを見て叫ぶ。
「ばかか!!これは戦争だ!!汚いもクソもあるか!」
「うるせーー!!」
そういう一瞬のやりとりに気を取られたしまった瞬間にパドスはチャンスを見逃さなかった。
ライトニング・バーストォォォ!!!
「くっ…!!」
光りの放出がドリアスを包む!!
「これで終いだッ!!ドリアスッッ!!」
「そうはさせん!!!」
「ヒール!」
―――くそ!基本魔法しか使えん!!
すると、レオナルドのギルメンがドリアスに向けてヒールノヴァを唱えていたヴァルキリーがいた。
ソロモンは一瞬、クリスと見間違うかと目を疑った。
「マスター!!あなたの一騎打ちに付き合うのはこれが最後です!!いい加減勝って下さい!」
「な、なんじゃあ!?ドリアスも隅に置けんじゃないか!」
「ソロモンさん!ヒールでいいから打ってくれませんか?」
「そ、そうじゃな!」
ソロモンは慌てて打ち込んでいた。
パドスはオーラアタックを打ち終わる頃には、ドリアスはプスプスと煙を上げドリアスは腕をクロスさせながら膝をつき、黒い煤をつけていた。
戦火の海は、大時化となっていった。





