第133話「トライ&エラー」
~戦況~
ソロモン達は、ルカが発動させた“白い光”によって全滅させられた。それは大きな痛手となって戦争全体の勢力図を動かしていた。
本来、防衛戦は主力ギルドを牽制しつつも格下ギルドを潰していくというのがセオリーである。それは、反攻戦力全体の戦力を削るという意味があり、最終的に真っ向勝負に持ち込むことにより、五分と五分の戦いもしくは、戦力差を開く意味があった。
しかし、今回の占領戦はセイメイ率いる元七星連盟軍と連合軍とクーロンという、多国籍軍対多国籍軍というたたかいになっているため、各所イマイチ連携が上手くいかない。
それがあるのか詰めの一手が決まらず、両者共に侵攻スピードが遅れていた。そのため、セイメイ側の被害が大きいが、連合軍は付け焼き刃の集団のため、更に被害が大きかった。
そのため、足並みが揃えられずに各拠点での待機が強いられていた。
時を同じくして、ここ東門前では妲己率いるクーロンは攻城戦にとりかかる。
城門前での攻防を行うのだが、白い光のせいで城門を解放。城内での攻防が行われていた。
死に戻りのプレイヤーがポータルポイントで情報交換が飛び交うと持ち場の各指揮官へ伝達、過去の実体験がようやく生きることとなり、連携がしやすくなり始めていた。
城門付近での戦いは、魔法職による応酬がひきりなしに発動され、それに呼応するかのように盾持ち職の面々による、防戦で押し返しており、攻められては押し返しての繰り返しを行っていた。また、門外には攻め返さずに城内に撤退したため、城門が開いているにも関わらず、クーロンは城門突破を図れないでいた。
~九龍陣営~
「何を手こずっておる?!城門が開かれているんだぞ!?なぜ城門を制圧できない??」
妲己は痺れを切らしていた。
「ありゃ無駄だぜー?マスター。待ち伏せされている。罠だ。大砲使って相手の陣営を強制ダウンさせるなどして優位を取らない限り、上手くいくわけがない。あと残念な事に、大砲を扱える人間は生憎いないぜ?」
そう語るのはクーロン陣営に所属するバトスだった。
この男、クーロン立ち上げ時から所属する古参の一人。
妲己とは昔からの付き合いだったがある日を境に人が変わったかのような言動と攻撃力に違和感を覚えていた。
「なぜだ?なぜおらん!!?」
「うちは元々拠点戦からの成り上がりになったばかりなのに、アンタの一声で膨れ上がった成り上がりに過ぎん。多少の知識を持ってはいるが、正確に打ち込めるかと言ったらそうじゃないからな。」
バトスはそういうとふーっとため息をついていた。
―――やはり、おかしい…。いつからこんなに変わっちまったんだ?ギルメンも感じているはず。だが、誰も声にしないのは結果を出し続けているからだろうな。
俺も長く遊んでいるが、ここまで人格が変わると垢売りされて別のプレイヤーが操作しているようにしか思えんな。マスターをやる奴は変わったヤツが多いというが…、いやはや困ったもんだ。
それと、あいつの横にいるプレイヤーは何者なんだ?ついこないだ入ったばかりだというのに、ここまでのキル数は群を抜いている。ここまでのプレイヤーならば、名前くらいこのイーリアスでは認知度があるはずだ。しかし、無名ときたもんだ。
まぁ勝てばなんでもいいが、もし、万が一負けようもんなら人が離れていく事は避けられんだろうな……。
バトスは戦いの最中、そんなことを思っていた。
バトスの勘は当たっていた。
既に妲己はAIが操作している。
その謎の裏が取れていないため、無闇に発言することはギルド内での立場を危うくする。それと同時にせっかくここまで大きくなったギルドを崩壊させないためにも、口にせずにいた。
突撃に失敗したプレイヤー達がゾロゾロと戻ってきはじめた。
「お前ら!揃ったか?今度は俺も出よう!突撃態勢をとれぇ!」
拳を握ると戦地へ赴くのであった。
~ロームレス・南門~
「やっと会えましたね。グラブレさん。」
「最早語るまでもない。」
グラブレのマスターは弓をしまい、精霊剣装備した。
―――この男、出来るッッ!!
精霊剣は白く輝きを放っていた。それは精霊王による加護を纏っている証拠である。アーチャーが武器を変えるということは得意分野の3割を削るということになるが、この男は瞬時に切り替えて迷うことなく3割を捨てたということだ。
これは7割でも勝てるという宣言でもある事をベルスは驚きを隠せないでいた。
「名を聞こう。」
「Grand Breaker ギルドマスター、ハーネスト。」
「ハーネスト…!私の名は…!」
「ベルスだろ?」
そういうと、ハーネストは一気に距離を縮めベルスの胸元に飛び込んできた。
ベルスはとっさに防御体勢を取ると間一髪で防ぐ。
キーン……!!キリ…キリキリ…キリキリ……
「ほうやるなぁ。エルフの速度に対応出来るようだな。」
「エルフ族の特性を最大限に引き出しているお前さんに褒められると、うかうかと足を向けて寝れないね…!!」
二人は鍔迫り合いをしつつ、相手の出方を伺っていた。
口火を切ったのはハーネストだった。
ベルスを押し返し、その反動で空に舞った。
すると、弓を出して速射連打を放つ
―――この至近距離で弓矢だとッッ!??
喰らえ!
流星連撃ッッ!!
矢が雨のように降り注ぎ、とっさの防御の構えをしたベルスの全身に突き刺さる。
「ぐは……!!」
更に追撃を入れる
すかさず武器を切り替えて精霊剣を出すともう一度、突撃してくる!
「これで終いだ!」
ベルスは地面に剣を突き刺す!
セイバーエッジィィ!!
地面から刃を出すがそれはハーネストは知っていた。
「そんなものは把握済みだ!」
ハーネストは刃を受け流し回転する。その勢いを活かして精霊剣をベルスの腹部へ切り込んだ。
その剣はベルスのHPを抉り、致命傷のダメージへと変換されていく。
ベルスはその場で跪いでしまう。
「はぁ…はぁ…んぐ…はぁぁ…。」
「聖騎士なんぞ、そんなものだ。精霊王の加護を纏う俺に敵う奴など!!とうにいなくなったわ!!しねぇい!!」
ベルスはトドメを刺されてしまう。
「ベルスさぁぁぁーーーーん!!!」
マノはベルスに届くはずもない声をあげた。
ハーネストが剣を振り払い、マノの方に向かっていく。
「フン!」
マノの胸部を一瞬で切り裂く
マノはスキルを解除して倒れ込んでしまう。
「べ、ベルスさ…ん。」
「ふー!助かった!マスター!」
「いいから1度戻れ。後から俺も戻る。」
「わかりました。では!」
そういうと、残党は一旦引きあげてハーネストの帰りを待つこととなった。
「ほう?まだ、生きていたのか。ん?オケアノスの紋章…。ウワサのセイメイのところか。たわいもない。さぁ出直してこい!」
精霊剣を掲げると一振りにマノを切り捨てようとした。
マノは目をぎゅっと瞑り、最期の時を祈っていた。
神技:雷鳴剣!!!
どこからともなく、スキル名を轟かせていたのは、死んだはずのベルスだった。
聖剣デュランダルはハーネストの背中を一直線に切り裂いた。
「な、なぜ……いきている……んだ……。」
ハーネストは動揺を隠しきれず、無念のうちに絶命していった。
「すまん。助けるのが遅くなった。立てるか?」
ベルスはマノの肩を担ぎゆっくりと持ち上げると、マノは自分の道具袋からハイポーションを取り出し、ぐいっと飲み干しHP回復を行なった。
「な、なんで?生き返ったの??」
ベルスはマノの驚く目に微笑んだ。
「知りたいかい?」
「そりゃそうですよ!死んだかと思ったのですから!」
「それはね、聖水のおかげだよ。」
「え?たった…それだけ?」
「占領戦において聖水は貴重だ。これだけの激戦の最中、誰が聖水を使うなんて考える?終盤戦なら時間を惜しんで使うだろ?私はその時が今だったのさ!」
そういうと、ボロボロになった剣を納刀して、南門へ歩き出した。
たったか歩いてしまうベルスを追いかけるように、マノは小走りし、ベルスに追いついた。
「もったいない…。」
下を向いてしまったマノにベルスは空を仰いだ。
「セイメイ殿なら同じことをしたはずだ。」
「え?」
「君も私の仲間だからだよ。そうこれは彼から教わった非効率な教えだ。ゲーマーとしては失格だけど、人としては大正解だからね?」
「私なんか…より、ベルスさんの方が大事ですよ…。あとで変な風に思われちゃいます。」
「ああ、私が君に恋しているからとか??」
「ち、違いますよ!!他ギルドのギルメンなんか助けたら、フォルツァの人達になんて言われるか…。」
落ち込むマノをみて、ベルスは真剣な顔をする。
「君は援軍にきたんだよね?そして、アシストをした。その時点で役に立てている。胸を張りなさい。」
「だ、だけど…。」
「いや、君は立派な判断をした。誰にでも出来ることなんかじゃない。大丈夫!」
マノは顔を上げてベルスを見ると親指をたてていた。
「ありがとう!!助かったよ!」
マノは元気よく、はい!!というと笑顔で嬉し涙を流していた。
一時の安らぎがマノの心を少し溶かしていった。





