第132話「情熱と冷酷」
「フランジ!粒子化すんな!今は一人でもこの場にとどまらなきゃいけない!おい!!だれかいねーのか!?」
廻りを見渡すと、既にフォルツァは壊滅状態に陥いており、一人また一人と倒れていった。
抱き上げるフランジは静かに粒子化していく。
「おぉぉぃぃ!!」
連合軍もまた壊滅状態となり、双方死に戻りの時間差により一時休戦に近い状態に持ち込んだ。
しかし、残存兵力はわずかに残っている。
それはあのアルテミスの弓を所有するギルマス率いるGrand Breakerが残っていた。また、防衛側をみればベルスを残すのみとなっており、第一次防衛戦の終幕が近づいていた。
「…ギルメンは死に戻ったら城門での迎撃…!俺は…ここで少しでも時間を稼ぐ。か…。」
ベルスは頬に伝う目の汗を払い、聖剣デュランダルを握り直していた。切れかかっていたエリクサーの効力を飲み直した。残るグラブレの面々がベルスを見つけるとゆっくりと押し寄せてくる。
―――滾る戦いがここにはある…懐かしいな、この感覚…久しぶりだ。まだあの頃は生徒と共に遊ぶ暇つぶしでしかなかった。
この剣とも出会って無かった。
当時の我がマスターが一緒にクエストを進めてくれたおかげでこの剣を手にし聖騎士なれたんだっけなぁ…
今はこの剣を自分の為にじゃなく、仲間の為に!我が子弟のために!!振るう!!!
「さぁいくぞ!我が愛剣デュランダルッッ!」
剣を胸に掲げ、スキルを打つ
【命中率UP・物理攻撃UP・物理防御力微力UP】
「距離およそ300!会敵まで残り11人!ポーションはなし!…ん?コイツか…。」
道具袋の手に当たるものを、即時使用のアイコンに設定すると剣を横に胸の辺りに構える。
「あの人なら、なんていうのかな?フフフ…!」
ベルスはニヤッと笑い、セイメイの顔を思い出さずにはいられなかった。
―――――――――――――――――――
~東の森・???~
ドラゴンフレイムッッ!!
走り飛んだアイオリアは赤眼に向かって飛び込むが、赤眼は紙一重で避ける。
「もらった!!」
アイオリアは後ろ回し蹴りを打つと赤眼はふっ飛ぶがターンしてくる。
ガチャチャ…!!
赤眼の刃がアイオリアの籠手と擦れる。
「そんな大振りでは俺にはかてねーぜぇ?」
「笑止!!貴様にやられる俺ではない!!」
アイオリアは弾くと手のしびれを感じた。
「くっ…!!」
「毒が廻ったようだな…!じわりじわりと攻め立ててやるッ!」
拳を眺めながらアイオリアは笑う。
「フッ…ハハハハハハハハハ!」
「なにがおかしい!狂ったか!?」
「お互い狂人であろうが!!」
そういうと道具からエーテルを出してきた。
「そ、それは!!」
「エーテルだ。高レベル知識と調合レベルがないと作れない効果なシロモノだ。お前でも知っているだろ?」
「こいつ…!」
赤眼は眉を細める。
「さぁ赤眼よ!!一騎当千!天下無双と謳われたこの俺を討ち取ってみろッッ!!」
「ベラベラと五月蠅いヤローだ!!」
「おまえにだけは言われたくないな!!」
「舌戦は終わりだッッ!!」
フォン…
赤眼は姿を消す
「子供だましにこの俺が引っ掛かるかぁ!!!」
膝を曲げ天高く舞う。
鬱蒼と茂った森の茂みをかき分けて森を抜ける
―――敵はもう既にあのへんまで…!早くケリをつけてやるッッ!
天空轟雷脚ッッ!!
空中でクルっと回り、地面に目がけて踵を落とす。
足にはイナズマが迸り、急降下をし始めた。
「馬鹿め!そんな技など恐るるに足らんッッ!!」
「喰らえ!!黄金の踵落としィィーーッ!!」
見えない赤眼など無視するように地面に衝撃波が走る。そして、土煙が舞う中アイオリアはゆっくりと起き上がる。
―――もらったぁ!!!
静かに背後をとった赤眼はアイオリアの背中へ刃を突き立てる!
「な、なにィィ!?」
アイオリアはそこにはいなかった。
赤眼はキョロキョロと周りを見渡すが気配がない。
「愚か者め!!喰らえ!!」
霹靂!!雷鳴拳ッッ!!!
雷を纏った拳が赤眼目がけて叩き落とす!
頭上に落ちる雷撃とともにアイオリアは地上に帰ると赤眼を足払いすると、一瞬にして宙に浮く。アイオリアは間髪入れずにトドメにかかる!
千手斬裂拳ッッ!!
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!
オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」
最後の1発をお見舞するとダメ押しの一撃を加える。
オーラが彼の拳に集まる!!
「お久しブリーフ!!アイオリアファン!待望の!オーラアタックッッ!!」
ライトニングゥ…バァーストッッ!!
拳を前に突き出すと眩い光が赤眼を貫く。
――――ば、バカな…!お、オレが負けるのか…!!?
赤眼はその場で倒れこんだ。
「聖水使って起き上がって来んなよ…?まぁ反撃のスキなんて与えるつもりは毛頭ないがな?」
ふーと一息つくと、ユーグがゆっくりと近づく
「す、すげーー!!アイオリアさん!すげーー!!つえーーー!!最強すぎるぅぅぅぅ!!!」
「四聖剣ユーグよ、圧倒的強者は手を抜かない。これが最強たる所以の法則だ。覚えておけ。」
「いやー感動したっス!アイオリア先輩!カッコイイ!!」
「フッフッフッ…やっとわたしのすごさがわかったか?」
「えぇそりゃもう!じゃ戻りましょう?」
「ん?そんだけ?」
「え?いや、凄かった。だから早く戻りましょ?時短したんすから!」
「もう…ちょっと褒めてくれても…。」
「ダメっス!セイメイさんからあまり褒めるな!と言われてるんすよ。なので、切り替えてください。」
「ユーグ…」
「な、なんすか?」
「俺は悲しいぞ…!!」
「ハイわかりましたから、戦争終わったらまた褒めますから!次いきましょ!?」
「おい!ちょっとまて!」
セルが木の上から降りてくると二人を驚かせた。
「えぇ?なんでセルさんがここに??」
「逃げていたのか?」
「まぁそういう風に言われても弁解が出来んな。つい、余所見したらやられちまったのさ。情けない…!」
セルは視線を逸らして舌打ちをしていた。
「セルさんが一人ということは、もうDCは壊滅状態ということですね…。これで人海戦術でのカウンターも難しくなりそうですね…。」
システムを開くと死亡ログがズラっと並んでいた。
「クソ、作戦失敗だな。」
「でも、まだセイメイさんの死亡ログは確認できていません。まだ、作戦は継続中ですよ?僕らもロームレスに戻りましょう!」
「そうだな。バックアタックすれば、多少は足止めできるからな。」
「では、御二方いきましょ?」
ユーグが走り出すとセルも続いていった。
アイオリアはまだ粒子化していない赤眼を見ると睨む。
「後ろから万が一襲うなら、俺らじゃない方がいいぞ?まぁお前が俺を殺せても二人がお前を容赦なく殺すだろう。聖水は大事に使えよ…。さらばだ!」
マントを靡かせながらその場を後にした。
―――――――――――――――――――
~ロームレス城・南門前~
くらえ!!!
雷鳴衝撃ォォォ!!
閃光の煌めきが走ると一人二人と倒していく。
途中、魔法職がいるのがわかると地面に剣を突き刺してセイバーエッジを放つ!
スキルを放ち終わると、横から高く飛んできたアサシンの刃を受け流しつつ、横一線に剣を引く!
そこにグラブレのマスターの矢がベルスに襲いかかる。
しかし、ベルスの鬼気迫る攻撃に動揺した騎士がいたため、ベルスはその騎士の腹部にめがけて剣を突き刺し、盾がわりにすると、一気に踏み込み数人を走り抜いた。
―――距離50切った!!これで弓は打てない!
剣を胴体から抜くと、追い抜いたプレイヤーからバックアタックを受けてしまう。振り向きながら防御態勢をとろうとすると、そこには敵プレイヤー達が膠着していた。
「ほら!!!仲間の敵討ちするんでしょ!?はやくしなさいよっ!!」
ベルスは一瞬動揺しつつも、声のする方をみるとマノがしゃがんで糸を引いていた。
城外に出てベルスの様子を見ており、急いで援軍にかけつけていたのだった。
マノが影縫いをしているのを知るとアイコンタクトで済ます。
ベルスはそのまま剣を携えて、グラブレのマスターと対峙するであった。
戦火は次第に引き潮に変わりに、押し寄せる波のように穏やかな潮目を覗かせていた。





