第131話「怨嗟の音叉」
~東の森・中央部~
セイメイとクリスは敵本陣、黄竺に向かっていた。
道中、黄竺のギルメン達に会う事はなかった。セイメイは少し不気味に思いながらも、森を抜けて黄竺の街の入り口についた。
木陰から覗くと衛兵はいなく、ただガランとしていた。
通常の雰囲気とは違い、ただBGMのように合戦の音楽が聞こえているのみ。その不気味な静けさを感じつつも、様子を伺っていた。
ふと、幾人かが死に戻りをしており、前線復帰をしようとしていた会話を盗み聞きすることになる。
A「おい、なんだって今回の作戦はギルマスとあのへんなちっこいのがいっつも隣にいるんだ?」
B「知らねえよ。なんでも、お抱えのプレイヤーなんだとかだぜ?」
C「はー?毎回毎回あの光の中で敵味方関係なくぶっ殺されるのはどうなんだ?」
B「まぁそれでも、前線はあがっているし、本体はどうやらメディオラムに張り付けたらしいぜ?」
A「まじかよ!?じゃあ今回勝てるじゃん!!」
B「そうだな。だけど噂じゃAIだとかいう話だぜ?」
C「うそだろ?AIがあんな攻撃しているのか?そりゃ勝てねーわけだぜ?」
B「俺辞めようかなこのゲーム…。」
A「なんでだよ。別にいいじゃん。」
B「ゲームの中までAIの助けが必要な占領戦なんて聞いたことないぜ?」
C「まぁいいじゃねーか。このままいけば勝ちは見えてきている。AIだろうとなかろうと、褒賞金は旨いわけだからさ。」
B「う、うん。」
A「一定のキルとかアシストキルしないとリザルトで足切りされちまう!」
B「そうだね。俺らは格下を見つけて排除するしかできないから強い人達はAIに任せるという意味では楽かもね?」
ABC「あはははは!!」
三人はイキイキと走り始めメディオラムの方へ向かっていった。
「セイメイさん…!」
「ここにはいないってことか…。」
「どうします?戻りますか?」
「このまま潜入して旗を取ってもいいけどな??」
「それは無理でしょ!!防衛の人だって中に待機しているだろうし!!」
「冗談だよ。さて、後ろを取るか。」
「はい!私たちも!後ろを取られないようにしましょうね!」
「ははは、そうだな。」
二人は道なき森を戻ることにした。システムのアラームをふとみるクリスは驚愕の事実に青ざめていた。
~ロームレス・東門~
シューン…シューン…シューン…
死に戻りが多数出てしまったソロモン達は動揺していたが、必死に態勢を整えていた。
「くそったれが!!ソロモン!!どうなってんだ!!?」
「どうもこうもあるかぁい!!ワシもその場から消され取るんじゃ!!」
「復活ポイントも城門前まで戻されちまって…!!クソ!!せっかくの戦線が後退しちまった!!」
「クソクソ排便しかいわんやっちゃなぁ~!便器に突っ込むぞ!?さっさとレオナルドをまとめろぃ!!」
「んだと!?ジジィのくせに!小便のキレが悪くなってる年齢に言われたく…!おい!ちょっと!そこ!固まるなよ!?」
ドリアスは隊列を組もうとしたギルメンに注意を促した。
「マスター!なんでですか?」
ロータスが不思議そうに質問してきた。
「あの光は手辺り次第ぶっ殺しにくる。こちらがまとまっていたら、エサを与えてやるようなモンだ!!」
「あー!あれか…!」
「そうだ。あれで俺らは二度もやられた…。」
パーシィを始め、他二名はかなり警戒していた。
「あれを防ぐには遮蔽物がないといけない。その上で迎撃しなくてはならん。」
対策を練っている最中に別の死に戻りの集団が現れた。
「お、おい!どうした!?」
それはセル率いるDCギルドの面々が現れていた。
「うちのおかしら…マスターが赤眼と交戦中!その間に作戦進行していたら、光に飲まれてここに…!」
「セルが死に戻りしていないということはまだ森の中にいるようだな。」
「おそらく…。」
「じゃあ、まだ作戦は生きているな。」
「ソロモン!俺らはとりあえず入口で待つより、城門を隔てての応戦が得策だな。」
「そのようじゃな。また森に潜ったとしても全員が光を避けれるわけでもない。万が一避けても、光が止んだ後に追撃を受けかねない。よぉし!!籠城するぞぃ!!」
『おう!!』
死に戻りしたプレイヤー達は城内に戻り、迎撃に備えるのであった。
~ロームレス・南門~
一方その頃、ベルス達はオメガグリードとの戦いが始まっていた。
城門前での魔法とスキルの応戦、手の空いている者は蘇生をするなど、防衛戦の激化が進んでいた。
必死な防衛をしているベルス達は、オメガグリードとGBなどの連合軍との不利な戦いを強いられている。
「ちょいさぁ!!」
「まだまだぁ!!」
ベルスとコウキはほぼ一騎打ちの状態になっていた。
むしろ集団戦においては近接職がまとめた敵プレイヤーを魔法職が一掃するというスタンスが基本なのだ。しかし、敵も味方もリフレクションやら、ディフェンダーなどの防御魔法やスキルを重ねがけしているため、ほぼ無効化の状態である。
また、攻撃魔法を打ちつづけるとMPが枯渇しやすくなる。MPポーションなどを飲み合わせても追いつかず、中級魔法がほぼ大半を占めるものとして、中級魔法の無詠唱を施すとかえって乱発し過ぎてしまい、ルーティンを乱すことになりスキを生んでしまう。
トドメの一撃が与えられなくなるなど、タイミングがモノをいうようになってしまいかねない。
魔法職はただ魔法をブッパなせばいいということではない難しさが占領戦ではカギとなる。
この厳しい現象を魔法職は常に自己管理しなければならない。
当然、回復魔法を保有しているため、使い勝手の良い職として重宝される。魔法職はそこが難しさと面白さを兼ね備えている。
「そらそらそらぁ!!」
「この…!!」
「聖剣デュランダルが泣いているぜ?」
「言わせておけば!」
剣を弾き、距離をとると雷鳴衝撃を発動させた。
「あまいっ!!」
セイバーエッジッッ!!
地面からベルスに向かって鋭利な刃が飛び出してきた。
構えを崩してベルスは辛うじて受け流すがダメージは負ってしまう。
「ちぃ!飛び込んで来りゃカウンターダメージと威力でHPゲージ吹っ飛んだのによぉ!悪運がつえーヤツだな!!」
ハイポーションを立て続けに飲もうとしたベルスは最後の1本であったのを忘れてしまっていた。
「おらぁ!どうした??ポーションでも切れたか?クックックッ…!!!」
コウキは下唇を舐めてニヤリと笑う。
「どうやら、俺の形勢勝ちのようだな!」
「どうかな?」
ベルスはボロボロになった身体を大きく起こし、大きく拳を振りかざし指を天に指す。
「何の宣言だ?ぁあん?」
「我が同志の威力!!とくと味わえ!!」
コウキは空を見上げると隕石の雨が降り注いできた。
連合軍に向かって杖を掲げると、掲げた腕を掴みファウストは一気に魔力を放出する。
そして、静かに詠唱を行った。
我が身に纏う魔力よ!
過ぎ去りし虚空の空から天の川より発すらんとする恒星を!
何時いかなる時も汝がたどり着くさんとするその意志を!
叡智の源泉を受け継ぐ者達を護り!
この身この魂をも導く道筋に約束の地を齎さん!
今生の汚す不届き者へ厄災と獄炎石をもって振り払え!
特大禁忌魔法!隕石襲来!!
連合軍のプレイヤー達に向かって隕石が降り注ぐ。
グラニはそのサマを目の当たりにする。
「す、すげーー!!先生!!敵がみるみるやられていくぞ?」
グラニは興奮して防御の構えを解いてしまう。
「ば、バカ!防御体勢維持しろ!!」
「え??」
グラニはファウストの方を向くと、後ろから光の矢が飛んできた。
グラニの背中に突き刺さり、絶命してしまった。
「グラニィィィ!!」
ファウストはグラニが前のめり倒れていくのを支えることが出来ずに魔法を唱え続けていた。
ファウストはすぐに発射された先端を探すと弓をキリキリと引く一人の男をみつけた。
―――あいつ!!
そこにはGrand Breakerのギルマスがたっていた
―――あの場所はギリギリ範囲外!!この魔法攻撃をよんでいたのかッッ!?
グラブレのマスターは目いっぱい引いた弓を放すと矢は勢いよく手元から離れファウストの胸を貫いた。
―――この僕がスキをつかれただとッッ…!?
ファウストは丁度打ち放った直後のため、スキがあった。それはほんの少しの硬直だったにも関わらず避ける事も防御する事も出来なかった。
ファウストはグラニと共にその場で果ててしまった。
二人は粒子化をしていく…。
ベルスはファウストの方を見たが、ファウストの姿を見つける事が出来ずにいた。
「マスター危ない!!」
鋭い矢がベルスに向かって伸びてくる。とっさの判断が追いつかない。
―――避けれない!!
すると、ベルスの視界を横切るように大きな影ができた。
なんとフランジがその矢を受けてベルスの盾となった。
「フランジィィィ!!!」
戦場に響き渡る嘆きの声は、フランジの鼓膜には心地よく響いたのか倒れながら笑顔で目を閉じていった。
戦場の怨嗟はとどまることを知らない。





