第129話「同職嫌悪」
~東の森・北部~
潜伏していたセイメイ達は信号弾を見ると、セイメイは抜刀する。
「よし、全員戦闘態勢で前進、身を潜めつつ南下するぞ。」
一部傾斜のある坂や崖を各々降りていくと、結華がセイメイに近づいてきた。
「セイメイさん…下がってください。私が先頭切ります。」
「ああ、そうだったな…、大丈夫か?」
「後で分かれるのですから、戦力分散にはなりますよ。」
「死ぬなよ…。敵わなくてやられてもいいが、可能な限り逃げ切ってくれよ?」
「囮をやるわけですから、そこは大丈夫ですよ。」
「そうだが…、切り捨てるようで辛いな…。」
「大丈夫ですよ。セイメイさんが救いたい人がいるなら、これくらい大丈夫ですから。」
「すまん…。」
セイメイはそういうと、ゆっくりと後方へ下がっていった。
「…羨ましいな。大事にされて…。」
結華はボソッというと、前を向き激戦しているであろうポイントへみんなを誘導していくのだった。
~東の森~
各部隊が中央に向かって前進することにより、クーロン包囲網を作っていた。
これは事前にセルが考案した包囲作戦によるものであった。
ソロモン・ドリアス達は東征、DCのギルメンは北上、そしてセイメイらは南下をしていた。
包囲網をされつつあるクーロンの行動は大きく3つ。
それは、中央突破、もしくは北か南への血路を開く。
ここで後退という選択肢もあるが、それは衝突するまでの時間の延長・遅延による効果しか生まない。
足並みを揃えての攻撃をする選択ぐらいであり、現時点で押しているクーロンはそれを選ぶことはない。とすると、南か中央突破の二つが考えられる。北の選択肢が薄いのは、山間にわざわざ地の利がないところに歩を進める理由がない。また、補給路の確保も難しいのである。
東征を歩むソロモンは、そのことを想定していた。
ギルメンらには周囲の警戒をさせてながら、ドリアスと会話をする。
「おそらく中央突破を図るじゃろ。相手はクーロン正面から一気にくる。そうなると骨が折れるぞい?」
「そんなこたぁ知っているさ。でも、俺らが落ちれば死に戻りで復帰した頃には、城門に張り付かれて、突破を許し城内で戦わなきゃならん。そこを許せば、他の城門も許す事になりかねない。」
「内部から破壊もされて困るのは、中にいるファウスト達じゃ。流石のファウストもお手上げになるじゃろ。そうならん為にも、この作戦で相手の戦力を削らなければならん。」
「さぁてと、本腰入れて止めるかの。」
そうこうしていると、敵のモンスターが呻き声が聞こえてくる。
「敵影発見!!」
「おう、見えとるわい!」
「正面!!盾構え!!どっからでも対応できるようにしとけよ!!」
召喚獣の頭はちらほらと見えているのに、こちらに来る気配がない。
「どうなっている…!?」
「ワシらの前進を待っているのか?」
「罠でもしかけているのか…。」
「ロータスいるか!?」
「はい!」
「これをどう見る?」
「おそらく、これはあからさまな罠ですね…。」
「じゃろうな…。こりゃおかしなことを考えておるに違いない。」
森はシーンと静けさを保っていた。前進することによる鎧のきしむ音はなくなり、ただ目の前からの攻撃を防ぐだけになったソロモン達は、ときたま揺れる木々に次第に怯えるようになった。
―――くそ…どうなっているじゃ…。相手の召喚獣は頭すら動かんという事は別働隊が前進しているのか?それにしても、おかしい。ソロモンは指輪を前に出し、魔神を呼び出す。
「いでよ!!魔神!我が使徒となりて、力を示せ!!」
指輪より放たれた光は地面に魔法陣を映し出し、ゆっくりと魔神が出てくる。
≪我ガ名ハ、ビフロンス…地獄ノ26軍団ヲ率イル序列46番ノ偉大ナル伯爵…≫
ローブを頭からに被り足などは見えず、地面から浮いていた。
「うぅへぇ~なんだこの禍々しいヤツは…。」
「えーと、こいつはネクロマンサーの元になったとされているやつだよ。」
ソロモンは注釈をみてドリアスに伝える。
「なんか、これが神器と思うと、味方にいると頼りになるなぁ…。」
「だといいんじゃがの。使い手に問題がある。」
「は?オッサン、これ使いこなせてないの??」
「うむ!わかんないけど、多分問題ナッシングじゃ♪」
ソロモンはニマっと笑ってウィンクしながら、親指を立ててドリアスに笑顔を振りまいた。
「うわ~。すんげー不安でしかない…!なんのフラグ立ててんだよ!?」
ドリアスはドン引きしていた。
「大丈夫じゃて。なんとかなる。」
「おまえ、よくそんなんで神器を手に入れたな。」
「安売りエクスカリバーに言われとうないがの?」
「これは、先人のお陰で取りやすいからだ!それより!!どうすんだよ?」
「まぁ落ち着け。して、ビフロンスよ!我が願いを聞け。森に住みし英霊をまとめ、我が敵を打て。」
≪容易イ…≫
ビフロンスは左手を空にかざし呪文を唱え手を森の木々にむける。
すると、占領戦時などに現れないモンスターが現れる。
「ば、ばかな!!戦時下だぞ?なぜモンスターが!?」
「ワシはネクロマンサーじゃ。幽霊くらい扱えなきゃネクロマンサーの名折れじゃて。」
ソロモンはビフロンスを召喚したまま、前進を続ける。
色々なところから幽霊がうめき声をあげながらビフロンスの呪文に呼び出されるように出現し、東にすすんでいった。
≪ギャー≫
≪ギャー≫
と色々なところから聞こえてくるようになってきた。
「どうやら近いぞ。ドリアス!」
「む?」
「降霊した幽霊達が遠くでやられておる!ということは、相手は目の前の敵を倒している事になる。声のする方に敵がいるぞ!?」
「なるほどな!くくく…!オッサンやるじゃねーか!!我々は幽霊がやられる声の方に3人一組で攻めろ!いけぇ!!」
このソロモンの召喚は功を奏し、相手の待ち伏せ・伏兵をことごとく潰す事になった。
「さぁそろそろ本丸が見えてくる頃じゃな。ドリアス聞いてるのか?」
ソロモンはドリアスに送ったこの言葉が最後となる。
~東の森・南部~
キン…キン…キキン!ズバッ!バシュィィーーーン!
互いが同職アサシンである為、不毛な争いになるのは必定ではあった。
―――このまま、戦っていても埒が開きやしない!なんで、こんなにこいつはめんどくせーほどにしぶといんだ??
攻撃スキルを打ち込んでは離れて打ち込んでを繰り返し、はお互いの攻撃が全て受け身を取れていた。
赤眼はセルの焦る表情をニタニタしながら、指をさして話しかける。
「なんで俺の攻撃があたらないと思っていないか?」
「なんだぁ??てめぇもそうじゃねーか!!当たんねーぞ!雑魚がぁ!!!」
「カッカッカッ!!お前は俺で俺はお前だ。こうやって戦い続ける限り、俺が負ける事は無いんだよ!!」
「なんだと!?…まさか!?クソ!!しまっ…!!」
自分のギルメン達が進んでいった方向へ目を向けてしまった。
ズプシュ…
重鈍い音と硬直をセルは受けた。
「おいおい、目を反らすなんて余裕だな。」
セルは左バラに刃を突き刺され切り捨てられる。
物凄い勢いで血しぶきが噴き出てその場に膝をついた。
「なかなか楽しかったぞ。DCのギルマスよ…。何か言い残す事はないか?」
どくどくと流れ出る腹部を抑えながら、セルは口を開いた。
「ああ、大いにあるぜ…。お前が俺を油断させたように、お前もマウントとっている時点で油断している。」
セルは「ぐはぁっ」といいながら、出血ダメージを受けている。
「その状態は瀕死じゃあないか!!強がるやつも嫌いじゃないぞ。しねぇぇい!!!」
刃を突き立てようとするとセルはスキルを放つ。
ブシューーールルルルルーー!!
「クソ!!どこ逃げても無駄だぞ!!DCのギルマス!!」
白い煙玉を放ったセルはいずこへ消えていった。
~ロームレス・南城門前~
攻め込んでいるベルスは南門にいる連合軍を切り崩し、一旦は分断に成功するが、今度は逆に挟み撃ちを受けそうになる。城門を破壊していたメンツが逆流して、ベルス率いるファルツァの後方を攻撃し始め、やがてぐるぐると廻りはじめ、城門を背にするようにベルスたちは隊列を整えるしかなかった。
乱戦の最中、一筋の矢がベルスの背中を捕らえる。矢はベルスの背中に刺さるとベルスは落馬してしまう。すかさず、ギルメン達がベルスを囲み防御を固めて次の攻撃に備えているが、ベルスは起き上がるのに時間をかけてしまった。
「マスター!」
「大丈夫だ。ひどくダメージを受けているな。」
カチャカチャと音を立ててハイポーションを飲む。
「どこから射ってきた?」
「わかりません。ですので、今伸びかかっている隊をまとめているところです。死んだ人間は城の中で待機させるように通達を出しているので、今は残存勢力で耐えています。」
「まぁ死に戻りのCTが長くなっても旗さえ奪われなければ、負けではないからな。」
「ええ、しかしこのままでは…。」
すると、ベルスはみかけたことのあるプレイヤーを目にする。
「赤髪…!」そこにはエクスカリバーを振り回しフォルツァのギルメンと戦うものがいた。
「いくぞ!君達は弓手を探してくれ!」
そう言い残すと、ベルスは聖剣デュランダルを抜きギルメンを助けに剣を振り抜いた。
ベルスは走り込み、剣を振り下ろしギルメンとの戦いを阻止する。
「ま、マスター!!」
「治療をうけろ。今は一人でも多い方がいい!!」
「わかりました!!すいません!!」
「大丈夫だ!下がれ!!」
フォルツァのギルメンは一命をとりとめて下がっていった。
「よう、どこぞの人間かと思えば一般人か。俺はつえーぞ??」
「フッ…。そうか、私の名を知らんのは致し方ないな。」
「おまえ…それは聖剣デュランダル…。フハハハハハ!!」
「なにがおかしい?ギャグはいってないぞ?」
「ムギィ!!いるか!?」
矢をさばいているムギはめんどくさそうに返事する。
「戦闘中!!あんた暇なら手伝ってよ!!」
「それどころじゃねー!俺らは運が良いぜ!目の前に親玉いんぞ!!!!!」
コウキは高らかに叫びだし、自分を鼓舞し始めた。
「よう…。セイメイの援軍って思って顔だけは覚えていたが、なんせちゃんとみていなかったが、剣だけは見た。それがアンタで、このロームレスの城主だったとはな…。」
「戦争中じゃああ!!タイマンなんていってねーで、一気にカタをつけてやるッッ!!」
エクスカリバーを横に構えてスキルを放とうとしていた。
戦火の炎はまだ燃え盛り続けていく…。





