第126話「二色闘命」
戦局はクーロンの強襲により、防衛する連盟軍はいち早く守衛の陣を引くことになった。
東側の戦火はアイオリアの猛攻により、クーロンの進軍が鈍ることになる。
しかし、東に意識を取られ、南側に陣を引いていた他ギルド達が結集し南側に歩を進める。
これにより、南からの侵攻を許すことになった。
その報を聞いたソロモンは、東門側の敵がまだどれくらいで攻めてきているのかわからないため、身動きが取れないでいた。
そのため、致し方なくファウストに伝令を走らせる。
~ロームレス・城内~
「敵、連合軍となって南門前に集結しつつあります!」
「なんだと?」
「先生!これは我々の出番では??」
ファウストは信号弾なしで入ってきた情報に驚きつつも、指令を下す。
「東門は我がギルドの総力を敷いている!我々だけで南門の死守をするのです!!」
「大丈夫ぅ?東門突破されたら、中庭辺りに構えているベルスさんに迷惑かかるんじゃないの?」
「フン…マノ。ベルスさんを甘く見ない方がいい。あの人とフォルツァの面々はギルド全体の最大火力を最大限に引き出せるほどの連携力だ。侮ってはいけないよ?」
「あっそ。じゃあ伝令いってくるわね。」
「ダ~メ♡」
「な、なんでよ!(可愛くいうなっ!!)」
「今回も君にはちゃんと働いてもらうんだから、僕のそばにいてもらわなきゃ困る。他のプレイヤーにいってもらおうかね…。」
「ば、ばかじゃないの?!!」
ファウストは近くにいた他のプレイヤーに伝令役を頼み、ベルスのもとに走らせた。すかさず回線を部隊専用に合わせる。
「やぁみんな!武者震い止まらないよね?僕も止まらないんだ。だからね、そんな僕らに初仕事が舞い込んできた。南門死守の命令を下す。バリケードや石材は南門用に配分されているのを使うから今から全員でダッシュ!!よーい!ドン!」
というと、ファウストはワープを使う。
「あ!きったねー!!」
グラニがキョロキョロすると、南側にある高台に立っていた。
「おーい、3人ともー!先にいくぞー??」
ファウストは高台から近道するルートを走り始めた。
「ずっちぃーな!」
「まじかよー!」
グラニとホルスは慌てて走り出す。
すると、マノは2段ジャンプをして、壁や家の屋根を伝ってファウストの後を追う。
「あれは…ずるいのか?」
「どっちもずっちぃーんだよ!」
グラニはプンスカしながら、全速力で南門の位置へ走っていった。
~メディオラム・北側山脈麓~
セイメイ達はメンバーが山岳に慣れているエルフとヒューマンの軍勢の為、さほど苦労することなく潜伏ポイントに着いた。
セイメイは高い位置にいることを利用して現状の確認をしていた。
「マスター、覚悟できたのか?」
いきなり声をかけられたセイメイは蓬華に驚かされる。
「だぁはあ!んだよ!ビビらせるなよ!」
「ビビる?まぁ良い。それより問いに答えよ。」
「さぁな…。対峙してみねーと、わかんねーよっと!」
セイメイは携帯望遠鏡をタタタンと畳むと、煙と爆発の位置を地図で確認する。
「森だからな、イマイチわからねーな。」
「セイメイ様、敵はまだ動いてないかと思いますわ。」
「ああ、そうだな。本体が動いたらド派手なドンパチが確認出来る。しかし、あの位置での魔法爆破が起きているとなると、既に川を渡りきっているということか…。」
地図を指さしながら相手の位置を予測していた。
「私達が動くことなく相手が後退して欲しいですね。」
クリスは少しシリアスな顔つきて話している。
「おバカさんね、そんなんだったらとっくに戦争終結してるわよ。」
「そ、そんなのは!!スカルドさんに言われなくてもわかってますよ!」
クリスはスカルドにちくりと指摘されたことにムッとしていた。
「まぁセイメイさん率いるハーレム部隊は、セルって人の発案なんでしょ?あたし達はそれに乗っかってるだけなんだから、信号弾待ちって事で待機してればいいのよ。」
結華は淡々とした表情で腕を組んで森を見下ろしている。
「他にすることも無いしな。今はただ、祈るだけだな。」
セイメイは別働隊とはいえ、役割を果たす事も念頭に入れていた。あのギルドマスターと対峙するまでは、セイメイの秘策を使う事は出来なかった。
~東の森~
「はぁっ…ハッ!はぁっ…はぁっ!」
ユーグは森中を駆け回っていた。
爆発音や喧騒が響き渡る中、時たま出会うクーロンのギルメンらを倒しては攻撃を喰らい、喰らっては倒すという事を繰り返していたため、ポーションの減りが激しくなっている事に気づかなった。
「くそ!アイオリアさんはどこにいったんだ?」
すると、斜め向こうにバーバリアンを召喚していた術士を見つけると、断末魔が聞こえてきた。警戒しながら、恐る恐る近づくと白い閃光がユーグの目に映る。
ファ…ン……
白い光は不規則な動きをしている。
すると地面から炎が舞い、一気に辺りを明るくした。
そこには赤いマント靡かせたアイオリアがいた。
足元にはまだ粒子化していない死体がゴロゴロ転がっており、顔を上げると、無言で相手の顔面を握っていた。相手の腕はだらんとしており、おそらく戦闘不能状態。そして、アイオリアはユーグの存在に気づくと死体をユーグの足元に投げ捨てていた。
その顔は無表情で冷たく、敵を見かければ瞬殺するというただの殺人マシーンと化していた。
「アイオリアさん…カルディアさんに言われて、バックアップにきました…!けど、応援いらなかったすね?」
と周りを見ながらいうと、アイオリアがユーグに向かって突撃してくる。
「ちょ!!俺味方っすよ!!」
アイオリアはユーグの後ろに周り込むと、ユーグの背後を襲おうとしたジャイアントの鳩尾に正拳突きを入れていた。
「ひぇぇえ…!!」
ユーグは腰を抜かした。アイオリアはそのままジャイアントが倒れ込むところに、カカト落としを首に向かって振り下ろしトドメを指した。
ユーグがビクビクしながらジャイアントをみると、粒子化し始めていた。
「おい、四聖剣!」
「はヒィ!?」
「剣士が背後をとられるなど、剣士の恥ッ!!万死に値するッッ!!気合いを入れ直せぇッッ!!」
「はいッッ!!」
ユーグは驚いて急いで立ち上がり、直立していた。
アイオリアはユーグの肩を空かして通り過ぎると、周りを警戒した。
「こっちを見るな。警戒しながら話すぞ。」
「はい!」
背中に納刀してある魔剣の柄に手をかける。
「おまえ、何人殺った?こっちはざっと50は倒したはずだ。」
「ご、ごじゅう??」
「む?正確には今ので51だ。おまえは?」
「まだ…5、6人です…。」
「そうか、俺の後を着いてきてその程度か。む?その怪我は回復せんのか?」
「あ。いえ!あ!!ポーションが残り少なくなってきている!?」
「貴様、ドレインのスキルをなぜ使わない?」
「あ!そうだった!」
「そんなのでは、セイメイ様をお守りできんぞ?」
「す、すいません。」
「いいからサッサと回復しろ。カルディアのとこの敵を倒せば、補給路なら、ポーションを買い足せるだろ?」
「はい!」
というと急いでポーションを飲み、HPをある程度回復させた。
「では、戻るぞ?」
「も、戻る?」
「北側に来すぎた。これ以上、北上すればセイメイ様にお会いしてしまう。それでは、味方の位置を敵に教えるようなものだ。」
「あ、はい。そうですね!」
「来い。相手の死に戻りがカルディア達を襲う。そうなれば、戦力が集中し、東門まで一気に押し込まれる。削げる戦力を削ぐ。それが俺の戦術、戦い方だ。」
「わ、わかりました。」
「あと、さっさと剣を抜いておけ。抜刀状態での移動スピードが多少は落ちるが、瞬時に攻守の反応が出来なければなんの意味も無い。そのままついて来い!」
「は、はい!!」
二人は走り出した。倒木や岩などがあるため、飛び乗って走り抜けたり、飛び越えたりしていた。
すると、アイオリアはふと顔を上げる。
「おや?お早いお帰りだな?」
遠くに見えるがしゃ髑髏が大きく吠えていた。
あれは!伏兵の!!
アイオリアはさらに加速し術士の裏取りを練る。
薄暗い森から零れる日差しが、両者の鎧を照らしている。
森を駆け抜ける白と黒の光は、網を縫うかのように、緑の絨毯に二色ラインをひいていた。





