第124話「怒号の雨音」
外はザーと土砂降りになる。時たま、稲光と雷鳴が城内に響き渡る。外の雨は更に一層強く降り注ぎ、地面をひっきりなしに叩いていた。
セイメイはアイオリアと睨み合いをしていた。
ソロモンは間に入り、二人に声をかけた。
「よう、お二人さん。今日は戦前の直前日じゃ。わかっておろうな…?」
激しい三者の睨み合いが続く
その不穏な空気をいち早く感じ取ったのはファウストだった。
「ドリアスくん!久しぶりだね!良かったら、うちのメンツの話をPROUD勢の中で語り合わないか?美女に囲まれて先の大戦の武勇伝!聞きたいなぁ~!!」
「何を言う?!あれは指示をひたすらまっただけ…」
ドリアスが喚きそうだったので、ファウストは人差し指でドリアスの唇にそっとおく。
「そのあとは…ゆっくり中で聞こうか…」
ファウストらしくもなく、甘ったるい声を耳元で囁く。すると、元PROUDのギルメン達から黄色い声が飛び交う。
「お嬢さん達、一緒にどうだい?僕と禁断の薔薇園ついて語り合わないかぁい?」
ファウストはドリアスの肩を鷲掴みし、会議室へ連れ込んだ。
三バカも慌てて中に入る。
「なにさ!なにが『語り合わないくぁい?』なのよっ!」
マノはプンプンしながら、追いかけるように中に入るとホルスとグラニもマノに引きずられるように慌てて入っていった。
ソロモンがクリスをみて話しかける。
「お前さんら防衛戦前夜じゃぞ?明日は夜遅くまで起きることになるじゃろ。今のうちに寝てお肌の大敵になる睡眠不足なんぞに怯えないようにな?」
そういうと、目配せしてスカルドと結華を会議室に誘導し、三人だけにすることにした。
バタン
ドアの閉まる音がした後、沈黙の時間が経つ。
「喋らんのなら、ワシからいおう。まず、マスターからの。」
「なんだ?」
セイメイはソロモンを睨みつけて返事をした。
「まぁまぁ、いきなり喧嘩腰では話が進まんじゃろ?肩の力を抜けぃ。」
ソロモンは深く呼吸をすると語り始めた。
「この前の件だが、あれに関してはアイオリアも反省しておる。今すぐ許せとは言わんが、許す方向で調整してほしいんじゃがの。
それと内容は別じゃ。
少なくとも今回の件に関してはマスターの肩を持つ訳にはいかん。わしらは、あの頃のような自由はない。
今じゃ領地持ちの一国を預かるギルドじゃ。それをおいそれとまたギルマスが独断専行を許せば、ギルドの沽券に関わる。それは、お主だけがやらかして良いというものじゃないのは、よく知っておろう?」
「あぁ、知っている。」
「なら、話が早い。救出作戦はちゅう…」
「辞める気は無い。」
セイメイはソロモンが言い終わる前に言い切ってしまった。
「おいマスター。冷静に考えるじゃ。救いたい気持ちはワシには痛いほどわかる。じゃが今回はクエストでもなんでもない。リスクを背負い、ただ、闇雲に動くだけの事で…。
万が一キャラデリートが行われてしまったら、元も子もないじゃろう??」
「キャラデリの線も考えたがおそらくそれは出来ない。大戦中による通信の遮断も保証対象内だ。そこは問題じゃあない。問題なのは、サーバーダウン後に再度起きたルカの状態だ。そこが謎なだけだ。」
「それで、こちらに不正行為の判定が出た場合、不戦敗。そんなことになれば、ワシらは…いやベルスに顔向けが出来んぞ…??」
「わかっているさ!でもな、あいつは自分の意思でうちを抜けた訳ではない!!だからあいつの本心を知りたい!本当は俺らともっと旅したり冒険がしたかったんじゃないかって思うんだよッッ!!」
「言いたいことよくわかる!しかし、我々は“いちプレイヤー”に過ぎん!!これ以上は運営側の問題じゃ!!」
「それでも!!あいつは少しずつ人間のような表情をしてきていた!それはお前も…!ソロモンも!見ていただろ!!?」
「そんなことはワシは知らん!!」
「あの子は!!お前の娘だろうがッッ!!」
「違う!!ワシの娘はとっくに死んどる!!」
「なっ…そんな、バカな…!」
「お前さんには色々話しすぎているから今更かもしれん!あいつは…!アレは娘ではない!!」
「おまえ!それ本気でいっているのか!?」
「当たり前じゃあ!!あんなの本物なわけがない!」
「ありゃ!!あんたに対しての置き土産だろうが!!娘の成長の思い出を捨てるってぇのは!許せねぇ!!こんの…馬鹿親父がぁぁぁ!!」
セイメイは怒り狂い、ソロモンの胸ぐらを掴むと、一気に壁に叩きつける。すると、すぐさまアイオリアがセイメイの首を掴み、ソロモンから無理くり剥がした。
「マスター。流石にやり過ぎですぞ!今回の事といい、ルカに対して執着し過ぎです!」
「あぁん?お前のような無責任な輩にとやかく言われたくないわッッ!!」
「無責任なのはマスターの方じゃろうがぁ!!」
ソロモンが叫んだ。
「んぁーゴホゴホ!!っあー!お主は立場をわきまえよ!所詮ワシらはユーザーに過ぎん!それを飛び越えたらハッキング行為になることをお主は…まだ…わからんのか!!」
咳払いをしながら、セイメイに一喝する。
「…わかった。俺はギルマスを辞める…。」
「な!?馬鹿な!!」
「俺はなぁ!仲間一人すら救えないのなら!!ギルマスなんかやんねーよ!!俺は色々なギルドをみてきたし、知っている!
しかし、今回は低の悪い仲間外れじゃねーか?!仲間がイカれたら救えない?救える方法が!もしかしたら、あるかもしれないじゃないかだ!
それをはなっから諦めて、やめろ救えないと決めつけているのが!!俺はいけすかねーんだよ!しかも、ソロモンまでそうくるとはな!!見損なったぞ!!」
セイメイはシステムをピンと開き、ギルド概要欄を開く。
そして、ギルドマスター譲渡のボタンを押し指名をソロモンにした。
ソロモンの前にシステムが開かれた。
そこには【 ギルドマスターの任命を受けますか? 】の質問の問いの下に、【 YES or NO 】のボタンが表示されていたのだ。
「おらぁ、押せよ。俺がやりたかったギルドはもうすでに死んだ。そンなギルドに俺は用はないし、お払い箱だ。」
「こんなもん…!!押せるかぁ!このッッ!!バカモンがァァァァァーーー!!」
ソロモンの怒号に驚いたギルメン達はドアを開けて顔を覗かせる。
「せ、セイメイさ…ん?」
「おう。クリスか?わりぃな。俺はギルマスやめるぞ?ったくどいつもこいつも諦めの良い優等生ばかりでむかっ腹がたつ!防衛戦??てめーらで勝手にやれや。仲間救う気のねぇやつは俺の周りにいらねーだよ。クソが…。」
セイメイがコケ下ろした時にソロモンがなにか言おうとする。
しかし、それよりも早くクリスが行動を起こした。
パァァーーン!!
クリスはセイメイの顔面に平手打ちを打ち込んだ。
クリスははたいた手を擦りながら涙を流す。
「よわむし!!セイメイさんがそんな弱虫だったなんて知らなかった!!」
「ってなー。誰が弱虫だ。ボケェ!!」
「ううん!弱虫よ!前もいったでしょ!なんでも抱え込んで!!1人で戦っているような雰囲気だして!カッコばっかつけて!少しは理解してくれたのかなって思ったのに何もわかってくれていない!!そればかりか!みんなを信用して相談もしてくれない!!」
「相談したところで現時点で断られて…。」
「そこよ!!断られたっていいじゃない!真剣に話せばわかるっていったの!セイメイさんだよ!?私はそういうところが好きなの!!ちゃんと人と向き合って、それでも頑張っててそんなマスターだから…、みんな支えたいっておもって…このギルドに集まったんじゃない…!!」
クリスは泣きながらセイメイを睨みつけてある。
すると、奥からドリアスやPROUDの女性プレイヤー達が出てくる。
女性プレイヤー達は現場を見てクリスの肩をそっと抱き上げる。
「おう、グラマス。なんだ?流れが読めんが大丈夫か?」
「ドリアス…。」
「まぁ何はともあれ、女を泣かせたアンタが悪い。女は泣かせるものじゃない。笑わせて花を咲かせる。それが男ってもんだろ?」
「てめー…。」
「おおっと、いい所なんだ。話させろよ?つかぬところ、AIのプレイヤーがいて、そいつが引き抜かれた。まぁ強制とかどうとか俺にはどうでもいい。あんたのやってる事はただのストーカーだ。やめとけ。どうしても取り戻したかったら、タイマンになった時にでも交渉すればいいだろ?どんな手を使ってもな。戦場は!強いやつが、正義なんだぜ?」
ドリアスがセイメイに向かってニヤリと笑った。
「セイメイさん。」
クリスが泣き止んでセイメイに話しかける。
「ルカちゃんを救いたいんでしょ?」
「ああ…。」
「私も救うお手伝いしてもいいですか?」
「いや、だ…」
「1人で抱え込まないって約束、破るんですか?」
セイメイにクリスの言葉が胸に突き刺さる。
「もう、1人じゃないんです。あなたにも私にも大事な仲間がいるんです。だから、別働隊で私達は動きましょう?幸い、隊長として指揮できるのは、スカルドさんがいますから。」
すると、奥から泣き止んだスカルドが泣き出していたクリスを見て話を聞いた。
「なら、私はセイメイ様のお役に立つため!道を切り開きます。例え、この身がどうなろうとも、お仕えしている以上!私が導きます。」
「あんたじゃ突破力ないでしょうよ?」
壁にもたれて聞いていた結華が口を開く。
「セイメイさん。私が突破口を開き、ルカって子の前に出れればいいのね?」
「まぁ…そうなんだけどな…?」
「じゃあ私が囮になるわよ。同じサムライだしね?」
結華はシステムを開き、髪型をセイメイに近い髪型をしアバターをセイメイのモノと酷似した服を着る。
「はい。これでセイメイさんと似た影武者の出来上がり。これで、敵の目はこちらに引くわよ?」
「ああ、悪い結華。ありがとう。」
「フン、グラマスの特権は使ってないようだな。これで、解決したな?ソロモン、アイオリア、これで手打ちだ。いいだろ?」
二人はヤレヤレと言った感じで渋々納得した。
遠くで鐘がなり始めた。
奇しくも、明日のこの時間は開幕する時間だった。





