第121話「戦略会議」
ドスンという音と共に近くの椅子にもたれかかったセイメイは、頭を悩ませていた。
「俺の思っていた作戦と一部変更というか、改悪が施されている…。」
「一見、前回の戦いにおいてあてつけられたシゴトを、俺の恨み辛みを味合わせる配置になっているがとどのつまり、伏兵扱いだ。どうせ敵はセイメイ、あんたがターゲットだ。なぜなら、相手の厄介どころといえば、奇策妙計・神算鬼謀のお前さんが邪魔で邪魔で仕方がない。それは、どのギルドマスターも軍師ポジションの幹部連中も感じることだ。おそらく敵のギルドマスターらはそれを危惧している。力ずくで潰す!もしくは、誘い込んで叩くはずだ。ならば…!!」
「そんな存在を蚊帳の外に置いちまう方がいい…。ククク…むははははーー!!」
セルは歯茎をむき出しながら、笑いを堪えきれずに笑っていた。
「それにこちらが大掛かりなブラフをかましておけば、いざという時にあんたの攻撃が致命的なダメージを相手に負わす事ができる。うまくできているだろ?」
「でもよ…、よくよく考えろよ?今回の大大将、総指揮官はベルスだぞ?本陣を強襲されたらどうしようもなくないか??」
「お前ほどのキレ者でも凡人のような発想は出てくるんだな。システム上はベルス、しかし目的はセイメイ、この二つのターゲットを同時に落とす事が可能か?諺ではどう捉えている?」
「二兎を追う者は一兎をも得ず…か?」
「そうだ。システム上、なるべく落ちちゃいけないのはベルス。だけど、ガンガン…まぁ、そこそこ落ちていいのはセイメイ、あんただ。」
「いやまぁそうだけどさぁ…。そんな簡単に俺にフォーカスが向くかな?」
「向かないときは押し込めばいいじゃねーか?向けば引くだけ。その時は相手の後ろをつけばいいだけのことだ。」
「そういや、このやり方は昔ながらの戦法だな。」
「古典的だといいたのか?」
「それは悪くないけど、それだと逃げ場が出来てしまわないか?」
「そのために我々がいる。」
「ああん?先鋒を務めるみたいな言い方してたじゃないか!?」
「前線に立つとは言ったが何も先鋒とはいってないぞ??」
「じゃあ誰が中央に立つんだよ!?」
「決まっているだろ?目立ちたがりでお前さんを誰よりも信じている殊勝なやつがな?」
セルがチラッとセイメイの横に立っているヤツを見る。
目立ちたがりでセイメイの信者にして、いの一番に担ぎこんだ男。
「お前が本作戦の主役だぞ?いい加減、眠れる獅子が牙をむくときなんじゃないのか?」
アイオリアは一瞬、ピクとしていたが顔をみるとポーカフェイスのように仮面をかぶっていた。
「いやいやいや、この私が前線にいては、伏兵として伏せているマスターに万が一が起きた時にお守りできない。それに自由なポジションを与えてくれるのではないのかね?」
「そうだ。だから前線で戦えば、嫌でもお前に向くだろ?いいんじゃねーのか?」
「なお、指揮なんか私にはできんぞ?」
「一騎当千、アイオリアにはこの言葉が似合う。かつてガルヴァレオンの懐刀と言われた所以、忘れてねーぞ?」
セイメイはふと思った。以前のアイオリアの活動を知らない。元エウロパにてファウストやベルス、セルもそうだがほぼエウロパ構成員だ。その首を取って付け替えたのがセイメイである。無論、カラーはガラっと変わり、組織系統も今は各々(おのおの)独自のギルドを所有している状態だ。それでも繋がりを保っているのは、やはりこの男の影響力なしでは語れない。
セイメイは思うところはあるが、やはり戦となれば、この男。らしいのだが、セイメイ自身が戦力をまだ計り知れていない。これを機にみせてもらおうと思いついた。
椅子から立ち上がるとセイメイはアイオリアの方に視線を送る。
「なぁ、アイオリア。俺はお前の本気を見たことがない。前の大戦でも活躍という活躍を俺は感じえなかったな。」
「なにをおっしゃる!御大!わたくしは…」
「まぁいいじゃないか。ここらで俺にぐぅの根が出ないほどの活躍をみせてくれ。バックアップにソロモンを置こう。指揮はソロモンに任せようじゃないか?」
「…。」
「珍しいな?黙るなんて。普段もその通り聞き入ってくれるとありがたいんだがな?まぁ、お前の横には暗黒騎士のユーグ、ストライカーのカルディア、聖騎士のドリアス、二番手にはピピンなどの戦力を入れよう。どうだ?」
「いえ…。不服はないです。」
珍しく普通の返答に違和感をもったセイメイは首をかしげる。戦力としては十分なほどの寄せているのだ。無論、普通の指揮官になるプレイヤーであれば、鬼に金棒と言わんばかりの歓喜の声が上がってもおかしくない。彼はなにが不服なのか、また何か不安な事が生じているのか、セイメイはその漠然とした謎は、来たるのちに知ることになる。
「これだけの戦力をお前の後ろや横に固めたわけだ。指揮を執るのはソロモンという安定を置けば俺も安心して伏せれる。」
「まぁセイメイには慣れねーだろうが、ここは俺らと同じように三方向を固める。それによる押し引きはソロモンがやるならいいんじゃないか?」
「ああ、今回は伏兵役になるとは思わんかったが、楽しもう。」
「しかし、なんでココなんだ??」
セイメイは自分が割り当てられた駒を指でトントンと叩く。
「そこはネクロマンサーや魔導士が好む地形ではないからだ。それに元PROUDのメンツは山岳が得意な奴が多い。適材適所ってやつだよ。それにそっちに逃げることは無いだろうしな。」
セイメイの配置は、ロームレス側にある川の上流に位置する山岳地帯だった。
「なるようにしかならんな。」
「死に戻りの件に関しては、外に補給所と中継地点の陣を引けば、本陣に戻る必要なく復活が出来るからな。」
「あともう一つ気になる他の参戦ギルドはどう潰していくんだ?」
セイメイはちくりと抜けていそうな部分に釘をさす。
「そこに注力してしまうと、逆に即席のチームが出来てしまうだろうな。“呉越同舟”ってやつだ。こいつは基本、下がる一択なんだが、もし中堅ギルドに見つかった場合、ロームレス側まで下がり、北方防衛といったところだろうな。それでも、東側で1・2を争う黄竺のギルド“九龍威覇”が攻めあぐねる結果になると思うがな。」
「え?クーロンうぇいばぁ??」
「おまえなぁ…ギルマスは知っているのに、なんでギルド名知らねーんだよ…。」
「なんつーか、そん時は…頭に血が上っていたというかwww」
「大丈夫かよ、このギルマス…。」
「セル、間違えるな。セイメイ様はグラマスだッッ!!」
バサッとマントを靡かせながらキメ顔で見つめる。
「どっちでもいいよ…。この会話だけ疲れるわ。」
「あ?わかる?毎日こんなんだぞ?油濃いめ・味濃いめのギトギトの醤油豚骨ラーメンだ。」
「ああ、なんつーか、同じギルドにいたが、こんなに濃いとは思わなかったぜ。」
「まぁ…セル、細かい事は明日にしようか。」
「おう、大方はこんな感じだ。」
「んんーーーああ!」
セルは大きく背伸びをし、そして、だらんと腕を下した。
「久しぶりに使わない部位の脳みそを動かしたら疲れたわ。…ったく考えとけよな。」
「考えていたのに、お前のテイストが特盛に入っていたじゃねーかwww」
「フン、今回くらい下っ端の気持ちも考えろって意味でいい勉強になるだろうよ。細けー事は決めろよ?そしたら、今度こそ教えろよ?じゃあな。」
「ああ、またな。」
セルは手を挙げるとログアウトしていった。
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セイメイはアイオリアと2人っきりになったので、セイメイはあの引っかかった骨を取ろうと聞いてみた。
「なぁアイオリア。さっき素直に返事していたが、どうかしたのか?」
「いや、セイメイ様のおそばにいられない事が気がかりな事で…。」
「そんなものは数時間ぐらいだろ?さては、てめぇ俺に何か隠し事してんだろ?」
「いえいえ!!滅相もない!!私は攻めてくる眼前の敵を叩き潰すのみです!!」
「ふーん。なら、最多キル賞でも取ってくるんだな。」
「…御意。」
セイメイは眉毛を八の字してフンと息をすると、会議室を後にする。
~アーモロト城・大廊下~
しばらく歩き大広間にいこうとする。
すると、アイオリアがいつものテンションではなく、普通の会話をしてきた。
「セイメイ様、一つ忠告することがあります。」
「なんだ?」
「どうか、ルカには近づかない様にお願いします。」
「なんでだ?俺はあいつの“ココロ”を預かっている。それを返しにいくだけだ。」
「ええ、言いたいことはわかります。それと勝敗は我が軍が勝ちます。それはこの私が身命を賭して勝利に導くでしょう。しかし、あの子は返ってきません。」
「なぜそんな事がいえる?」
「情報が書き換えられていますので、それを渡せばおそらく不具合が起きます。そのことにより、この世界に何かの異変が発生すると思われます。それはサーバーダウンも考えられますし、最悪の場合、サービスが強制終了する事態になるかもしれません。」
「そうか。それをいいたかったのか?」
「無論、それだけではありません。今、フルダイブ型のプレイヤーが神経麻痺を引き起こす可能性が出てきます。私たちは、夢と現実の合間にいます。その中で、機械のショートが起こった場合、一時的な記憶喪失を引き起こしかねない。今見えている“現実”がなくなる可能性が出てきます。それでも、会いに行かれますか?」
「それはどういうことだ?」
アイオリアはセイメイに初めて深刻な顔をして、セイメイの目を見る。
「我々、人間の身体損傷の危険を回避するために会わないか、可能性の低いAIデータの復旧を強制的に行い甚大な被害を齎すかという選択になります。」
セイメイはあまりにも漠然とした話に呆然として、口を開いたまま話を聞いていた。





