第120話「王道の奇策」
強引に連れてこられたアイオリアを横目にセイメイとセルの会議が始まった。
扉を閉めるとセルはメディオラム地方の地図を探しながら話しかける。
「早速だが、これは俺の大筋の予想と考えだ。」
「ああ、多分考えている事は一緒のはずだ。」
「まぁ聞け。」
「あいよ。」
セルが大きな四角いテーブルに地図を広げロームレスを指す。
「ここがロームレス、ここが黄竺だ。そして、真ん中に流れる川を隔てての開戦だと思う。恐らく戦場はこの森での戦いがメインになるだろうな。ここまでは基本的な予測の範囲だ。大筋は合っているな?」
「無論だ。」
「おし、ここからが本題だ。開戦中はモンスターが出てこない仕様になってはいるが、俺らからしたら結局のところ、召喚獣と戦うことに変わりはない。正面から当たれば、押し負けるだろう。」
セルはテーブルの引き出しからコマを置きながら解説をすすめていた。
「そこでだ。我々は連盟…。なんか、もう連盟じゃねーな。連合軍だな。」
「どっちでもいいよ。意味は伝わる。」
「じゃあそうさせてもらうか。連合軍は森での戦いは引きながら戦い籠城作戦にする。」
「早い時間帯に籠城することになるなぁ。」
「ああ、そうだ。今回は下っ端の活躍がモノをいうといっても過言ではない。特に物資班は社畜並みの労働力が必須事項になってくる。意味はわかるな?」
「ああ、壁の修復作業だろ?」
「あと、門の再設置するための時間稼ぎだ。」
「それはみんなでやればいいんじゃないのか?」
「そこがあんたの甘いところで今回は致命的になりかねるところだ。その“みんなで”というのが物資班を堕落させる。」
「指揮官の俺らや幹部は前線に出てやっとの思いで迎撃している。その中で義勇軍も加わって混戦になる。そうなると、城の内情なんて知るわけが無い。つまり、役割分担をしっかり明確にすることが大事だ。わかっていると思うが、あんたが動いちゃいけないことくらいわかるよな?」
「んー城の中にいても、暇だしギルメンと一緒に再設置の指示とかしているよ。」
「それがダメなんだ。そんなのは、お前のとこのチーチーパッパのやつらに任せるんだよ。何事も経験だ。」
「ち、チーチーパッパ??」
「ん?ああ…、戦力外のご新規ちゃんには丁度いいだろ?」
「え?ああそういうことか。まぁ新規はどうしても雑用や後方支援になってしまうのが現実だしなぁ…。」
「だからこそ、土木工事の監督者をつけとけば、万が一の時でも肉壁にはなるだろ?」
「肉壁かぁ…誰がいいんだ?」
「んなもん、お前が決めろよ。」
「じゃあ、アイオリア。」
「ちょっ!!御館様!!待ってくだされ!!」
「んだよ、不満か?」
会議に強引に連れてこられたアイオリアは焦っていた。
「いい加減、前線に立たせて下さい!なんでもしますから!!」
「うん、わかった。監督、頑張れよ!」
「NOOOOOoooooッッッ!!」
アイオリアはムンクの叫びのような表情をしていた。そこにセルは軽く咳払いして、間に入った。
「ゴホン、あのなぁセイメイ。流石に!そりゃ宝の持ち腐れってやつだぜ?アイオリアは単騎で走らせても何人かキル持って帰ってくるプレイヤーだぞ?それを監督にそえるなんてw」
「こいつは暴走するからダメ。」
「わからなくもないが、こいつは部隊に組み込まずアンタから離れさせて、暗黒騎士と前線張らせればいいじゃん?」
「んー、じゃああれか?ソロモンはどうだ?」
「あのオッサンは今やネクロマンサーだろ?前線行きだよ。」
「他にいるかなぁ…。」
セイメイが腕組みして唸っているとセルがやれやれといった顔をしていた。
「ファウストがいるだろ?」
「あいつこそ前線じゃないのか?」
「本来ならそうだが、相手は召喚獣メインのライン取りをしてくるだろう。互角に戦えても効率が悪い。今回ばかりは効果薄いから下げた方がいいな。」
「じゃあファウストか。」
「特別なことがない限り、後方支援の指揮を執ってくれている方が、後顧の憂いがなくていいな。」
「そうか。んじゃあそうするか。」
セイメイがそういうと、アイオリアはセイメイの見えないところでヨシ!と、ガッツポーズをしていた。
ふと気づいたセイメイはアイオリアの方を振り向く。
「ん?なんかいったか?」
「いえ。今回は死力を尽くして参りますッ!!」
「まぁ、アンタもこんな背中に羽の生えたようなヤツを扱うのは一苦労すると思うが、魚には水を与えてやるもんだぜ?」
「あー慣用句のように行けばいいけどなぁ。」
「大丈夫だって。ベルスもいるんだろ?城内防衛という観点からみても、ベルスとファウストなら、気質も似ているし反発し合うことも無いだろうしな。」
「そ、そうだな。そう考えれば、アイオリアが不安要素になるとも限らんしな。」
「私も!!可能ならベルスの助力をしてあげたいのですが、前線に立ち!!セイメイ様の勅命ということで数多の敵を薙ぎ払っていくというのであれば!!致し方ござらん!」
「なぁアイオリア…。おまえさ、恥ずかしいと感じる配線がぶっ壊れているのか??」
「いえいえ!セルの意見に同意する現れです!」
アイオリアはセイメイと目線を合わせず、上を向いていた。セイメイは、ふぅと溜息をつきながら、作戦を練ることに戻った。
「それにしても、エウロパを倒し解体に追い込んだことで、群雄割拠の時代に持ち込んでしまった以上、色々な中堅ギルドが立ち上がったそうだな。」
「ああ、その件だがな。メインの黄竺の他に他ギルドが攻め込んでくるという案件はいくつかある。ただ、黄竺の下につくというわけでもなく、連合でも無いそうだ。」
「単独で攻め込んでくるという事か?」
「まぁいわゆる漁夫の利作戦だな。戦場に砦を構えはするが、動きを静観してここぞという時に一斉に攻める。そんで、御印である御旗を強奪するという算段だろうよ?」
「火事場泥棒のようなもんか?」
「まぁシステム上は事前に同盟を結んでいない以上、それは可能だが巻き込まれて死ぬのはこちらも相手方も一緒なのにな。」
やれやれといった表情しながら、駒を増やしていく。
「ちなみに、こちらの友軍はフォルツァとレオナルド、そしてDGのウチだ。」
「ドリアスは元気にしているのか?」
「あん?おまえしらんのか?この前の戦いで、ギュスターヴに押し負けた事が悔しくて、聖騎士のクエストこなして、エクスカリバーを上限突破させてたんだぞ?あの大の面倒さがり屋がだ。」
「まじで!!???」
「まぁ戦力的にはギュスターヴに負けず劣らずってとこだな。神器の数が足りてない分、防御面に難ありってとこらしいんだが、まぁよほどのことがない限り、問題なさそうだな。それと聖騎士といえば、真逆の暗黒騎士様お抱えになったそうじゃないか。ええ??」
セルはにやにやしながら指示棒をタタタタン!と伸縮させてペン回してこちらを見ていた。
「おう…。それがどうしたんだ?」
「かぁー!お前さんはなんもわかっちゃいねーんだな!?どれくらい凄いかというとだな。JOKERとほぼ同等の戦力を手に入れたという事だぞ?誰にでも出来るわけではない。」
「そ、そうなのか??」
「これだから、成り上がりは困る!!某掲示板じゃお祭り状態だったんだぞ?知らんのか?」
「ああ…。俺そういうの苦手なんだよ。人の陰口をネットに書いて憂さ晴らすという、ストレス発散行為が…。」
「そんなスレッドは見なくていいよ。碌な奴じゃないし、どうせ弱い。喧嘩の仕方も知らない雑魚の事はいいんだが、そこに良くも悪くも名を連ねたって事は、名うてのプレイヤーにも廻り回って耳にするだろうよ。それだけ警戒される人物に育ったといことだ。ま、戦場では複数人で斬りかかってくる。背中には気をつけるようアドバイスをするんだな。」
「あいつの背中を守るなんてことは俺じゃない適任がいるさ。それに、俺のボディーガードは…んーヴァルキリーだからな…。」
セイメイは頭をボリボリとかきながら舌打ちをした。アイオリアはクスっと笑っていた。
「あーあの小娘か。まぁ、いいんじゃないのか?盾持っているしな。」
「そこ??」
「ヴァルキリーも戦乙女と書いて、文字を当ててるくらいだから、本来なら戦場に立つ事なんだろうけど、このイーリアスでは、盾役が多いよな。見た目も可愛いし人気職だし?絵にはなるよw」
「なんか、バカにしてないか?」
「まぁ本人がいたらメンドクサイ事になりそうな話は聞いているからこの辺にしとこうか。話は脱線したが、俺らもそれなりに戦力UPは行ってきているはずだ。そうそうやられはせんよ。」
「だが…」
「あんまり侮るなよ?それなりに強い人材はこの世界も同様、全体的に上がっているのは間違いないわけだが?高を括っていると足元をすくわれて、黄竺との決戦にすらならなくなる。それでは本末転倒ということだ。用心に越したことはない。」
「わかった。ご忠告、ありがとう。」
「それで、ロームレス防衛は、あの二人で良いとして。本陣になってしまうオケアノスはだ!配置はここだ。」
「なっ!!ばかな!!??」
セルは支持棒を伸ばして、とある場所をパシっと叩き指し示す。
「ここは…!!」
「たまにはやりがいがあるだろ??ライン戦に今回は俺らが務め預かる。それと、お前んとこのアイオリアを始め強力打線を俺らがもらう。」
「他は?まぁそうだな。スカルドの一党が残っているだろ?あの辺りを囲ってハーレム部隊でも組めよ?wはははははwww」
「そんなことしたら、ソロモンから疎まれるわ…。」
セイメイは顔を抑えて困っていた。
「相手は一応♀(メス)なんだろ?メス同士の喧嘩に俺ら♂(オス)が加わったらつまんねーから。キャットファイトってのは、男がいないから面白いんだぜ?あとは任せたぞ?」
「まじでいっているのか??」
「マジだぜ?しかも大事な囮役だからな。」
セルが自信満々にそういうと、血の気を引くセイメイは近くの椅子にもたれかかってしまった。
部屋の松明はパチパチと燃え続けていた。





