第118話「システムの壁」
ソロモンのもとへ歩いていくと、蓬華がツンとした顔でこちらを睨みながら話しかけてきた。
「なんだ。あの危なかっしい戦い方は??」
「ああん?サムライってのはああいうギリギリの接近戦が主だぞ?」
「ほほう?滞空時間を計算されて相打ち…いや、うち負けておいてから相手を油断させるというのがお前のスタイルなのか??」
「何が言いてぇんだおめーわ!?」
「おめーじゃない蓬華だ。あんな戦いしか出来ないんじゃ観戦する側は、安心して見れんぞ?」
「いちいち注文が多いなぁ!!しょうがねーだろ?相手は先手必勝に付け加え、一撃必殺だ。こちとら連続技の手数で勝負するしかねぇーんだよ。」
「フン、それではいつまで経っても優勢勝ちが出来んではないか。神道流は戦わずして勝つというのが極意ではないのか?」
「おいおいたかがMMORPGで、剣聖になれとでもいうのか?」
「ならんのか?」
「なれるならなってるんだよ!」
2人が言い合いをしていると1本の矢が2人の間をすり抜ける。
「セイメイ、勝負だ。」
そこには死に戻りしていたディアナが立っていた。
「ディアナか…。」
「いや、俺はお前と戦う気は無い。それに!!話し合いをする場も無かったじゃないか!」
「黙れ!お前と話し合いをするためにここにいるのではない!」
「じゃあわかったよ。殺せよ。お前の気が済むのなら!ギュスターヴの仇を取るってんなら潔く殺せ!お前に殺された事で返り討ちすら出る気がない!!」
「お前は…そうやってカッコばっかつけて…!!周りの目ばかり気にして何が面白いんだ??」
「別にカッコつけてるわけじゃ…!」
「だったら、身近にいる仲間が振り回されていることに申し訳ないって気持ちはわかなかったのか?!」
セイメイは返す言葉を失ってしまった。
たしかにソロモンには迷惑をかけっぱなしだったし、他の人にも迷惑かけていたかもしれないという漠然とした不安が脳裏を横切った。
「まぁそうカッカすんなや。ディアナ…。」
蓬華とセイメイのやりとりからずっと黙っていたソロモンがよっこらしょと立ち上がりディアナにむかって話しかけた。
「お前さんは、効率厨の節がある。それはそれで素晴らしい事だし悪いことじゃあない。だが、人間は感情がある。あるからこそ冷静と情熱の狭間で生きている。そこに人と触れ合う事の時間が無駄だということはならんのだよ。」
「あ、あのなぁ!!!」
「言いたいことはわかるんじゃよ。喧嘩早くて、お節介で打たれ弱く、感情の起伏が激しい。おまけに涙脆く情に流されやすい。お前さんとは正反対じゃからのぅ。」
「そんな風には…!」
「思っとるよ。思うからこそ離れた。喧嘩別れしたくないからな。」
「!!」
「喧嘩したら修復する時間を要する。そんな時間を割きたくない。なら、いっそ合わなかったと思って離れよう。それは時間を優先させた結果なんじゃろうよ、ワシはこういうゲームでの人間関係の修復することに、時間かけても悪くは無いと思う。無論、一方通行ではなく、歩み寄りが前提じゃがの。お前さんはそれから逃げたとワシは受け止めている。違うか?」
ディアナは黙ってしまった。
セイメイとディアナが会ったのは占領戦前に山の峠で会った以来なのだ。彼を見るとセイメイは一緒に笑った日々を思い出す。
人は綺麗な思い出しか残らない。人間の脳は辛いことは忘れるように出来ているのだ。また、反対に辛い体験というのは、負の感情や思いが停滞する。
それを脱却させることが出来るのは“きっかけ”なのだ。
きっかけというと軽く感じてしまうのだが、要はケジメや区切りをつけるタイミングを指す。セイメイとディアナの関係はそれしかなかったのだ。
ソロモンはジリジリとディアナに囲い込みを行う。
「おまえさんだって、マスターが心底嫌いじゃないはずじゃ。ワシから言わせてもらえば、面倒くさがっただけに過ぎん。人間関係は面倒臭いが、それがコミュニケーションじゃし、それがないなら、単細胞に生まれ変わるしか他ないじゃろ?生物は他者とのコミュニケーションをなんかしらの方法で行っている。犬ならお尻を嗅ぐし、猫なら鼻を擦りつけ合う。人間は言葉でコミュニケーションをとるんじゃ。森羅万象の中で生きていることを忘れちゃ行かん。例え、この世界でもじゃ。」
ソロモンの流れを感じて、セイメイが口を開いた。
「なぁディアナ…。俺は事ある事にお前の言葉が突き刺さっている。その事で判断を間違えずにいられる時がある。それはお前が置いていった置き土産のように俺は大事にしている。ギルドに戻れとは言わん。だが、せめて蟠りは無くしたい。俺の願いはそこだ。」
俯くディアナは下を向いたままその場を去っていた。
ソロモンとセイメイはディアナが去る足取りを止めることが出来ずに立ち尽くしていた。
ディアナの背中がみえなくなると、蓬華が口を開いた。
「あやつ、迷走しておるな…。」
「自分の言葉に自信がなくなってしまったようじゃな。」
「ディアナ…。」
「まぁワシらは前に進むしかできんからの。マスターの鎧を見に行こうぞ?」
セイメイは後ろ髪を引かれる思いをしつつ、足を踏み出す他無い事を理性ではわかっているものの、足取りは足かせをつけているように重たかった。
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~裏通りの外れ・闇市~
色々な露天商を見て回ったがしっくりこないものが多い。
かといって新調しないわけにはいかない。というのは、連撃型は一撃一撃がどうしても軽いダメージである。多段攻撃を食らわすには先手を取るか、相手の攻撃と攻撃の合間を狙って、連撃を放たなければならない。どの型を選んでも基本スタイルは変わらないが、兎に角、それまでは防御や回避を行う必要性がある。特に一撃型には耐える事を余儀なくされる場面が多いため、鎧の選定は生死に関わるといっても過言ではない。
無論、スキルや立ち回りで補える部分はあっても、ここぞというときは防御力がモノをいう。
説明が、だいぶ遅れたが簡単にこの世界の型の三すくみを紹介しよう。
一撃型は連撃型に強いが、魔法/遠距離型に弱い
連撃型は魔法・遠距離型に強いが、一撃型に弱い
魔法・遠距離型は一撃型に強いが、連撃型に弱い
職業別の相性もあるが、大きくこのことにより、出す技によってじゃんけんのような関係性を持つ。
連撃型は連撃型が多いが、技によっては一撃型や魔法・遠距離のスキルを要する。つまり、出す技がどこに偏っているかというの部分で、大分類されているのだ。
例えば魔法職の場合、連撃魔法職というピーキーな職でもあるが、使いこなせればものすごく厄介ということ想像できると思う。いわゆる玄人志向であり、例を挙げるとしたらファウストがそうである。
一撃型はいうまでもなく、先の大戦で戦ったギュスターヴやJOKERが該当する。
初心者からベテランまで幅広く愛用され、職種も選ばない。
連撃型も同じく一部の初心者からベテランまで愛用されているが、一撃が軽くカウンター技もトリッキーな動きを要するため、反射能力と機転が利かないと向かない。
魔法・遠距離は後衛タイプの職であるが、魔法職が魔法・遠距離を選ぶと詠唱時間が短くなったり、飛距離が伸びたりする。近距離職の騎士やサムライなどがこれを選ぶ理由があまりない。
また、サムライ自体がスタミナ・気力ゲージが枯渇しがちな為、あまり好まれた職ではなく、一線の不遇を受けている。しかし、ここぞという時の可能性は無限だと言われているが、如何せん、プレイヤー数が全体的に少ない上に盾持ち職とのぶつかり合いに若干弱いため選ばれにくい。
また、総じてみると魔法職が一見強そうに見えるが、そこは装備差・防御力で均衡を保っている。
とどのつまり、全ては各プレイヤーの反応速度と読みと勘にかかってくる。この世界は、プレイヤー依存ということだ。それだけ場数慣れという避けては通れない壁が存在する。
経験値は別の見えない経験値が求められてくるのだ。
さて、物語に戻ろう。
「んー。いいのがないなぁ。」
「そんな必要なのか?」
「必要だな。マスターは突っ込みすぎるからの。」
「なんだなんだ?今日はホントダメ出しされるなぁ!」
「それだけマスターは言われてもおかしくないんじゃよ。」
「まぁったく、年寄りってのは口うるせーんだな?」
「安心せい。お主もいずれ年寄りじゃ。若いもんに口出したくなる気持ちがいずれわかる。」
「はぁ~。」
セイメイの溜息とは裏腹に来た道を戻ることになった。ぶらぶらと当てもなく歩いていると、セイメイの目に飛び込んできたものがあった。それは、上限突破が可能な強化石を目にした。
「こ、これだ!!」
セイメイはその強化石に飛びついた。
「ソロモン!!俺はコイツで鎧を上限解放させるぞ!」
「ええ?このタイミングで上限突破させるのか?」
「ああ!下手な装備を買ってイマイチな状態より、こっちの方がいいだろッッ!!」
「それはダメじゃ。」
「オーバーエンチャントするって事はぶっ壊す事にもなる。成功すればそりゃ良いが乱数調整すらまだわからんのに、やるのか?」
「うっ……。」
セイメイは少しうろたえた。
防具や武器の上限解放には、攻撃力アップするかわりに壊れるというデメリットが存在する。数多のプレイヤーはそれに一喜一憂する。そして、それに打ち勝ったものだけが、強さを手に入れる。無論、単独で強くなる事に越したことはないが、消滅するというデメリットは高価な武器防具を所有するプレイヤーにとっては一種のギャンブル性が存在する。
そこにセイメイは少し怖気づいてしまったのだ。
強化の闇はどこのゲームにもある見えない戦いがここにもあるのだ。





