第117話「deja vu」
セイメイは亡き祖父の形見のように扱っていた刀を手放し、新たな刀を手に入れた。
複雑な心境の中、落ち着かせて深呼吸をする。目をゆっくり占領戦への決意を固めるのであった。
「おお!!マスター!!よりかっこよくなったな!!」
「人が感傷に浸っている時になぁ…。」
「まっまっ、このまま鎧も変えちまおうぞ!?」
「ソロモン、お前はローブとか変えなくていいんか?」
「ワシはのぅ…、フフフ…実はもう予約してあるんじゃw」
「なんだと!?」
「安心せい。ローブは被り物じゃろ?中身は下着や裸じゃ変質者になってしまうので、中身は魔法の絹糸で塗ったものじゃて。」
「予約だって??」
セイメイはソロモンに連られるまま、闇市の店にはいっていった。
「よう。出来ているじゃろうな。」
≪おまたせしました。≫
「ベッピンだろ。NPCとは思えない。」
「なにをいってやがる。2.5次元の世界の女は大抵美人で可愛いんだよ。」
ソロモンは荷物を受け取ると黒いローブを纏った。
「フフフ…。」
「んだよ。気持ち悪い笑い方しやがって…。」
「お前さんにはわからんだろうが、このローブはな、MP消費を軽減するのと、回避率が上がっとる。その分、装甲と言われる防御力は紙じゃ!」
「まぁ布製だから、布なっ!?」
「意味が伝わればいいんじゃよ!」
「ったく…。」
セイメイが店を出ると、何やら騒がしい。
「な、なんじゃ?」
「わ、わからん!行ってみよう!」
一行は人だかりにかけよると、PvPが始まっていた。
「あれは?MIKADOの!!」
出で立ちこそ、セイメイと同じポニーテールをしている女といえば、南の島以来の事だ。
ナタネは刀撃を放ち、相手方に切り刻んでいた。
ふと、見るとディアナと戦っていた。
「おい!!アイツ!!」
「ディアナじゃないか!!?」
「マスt…」
セイメイはソロモンが言い終わる前に刀を抜き、ディアナを守っていた。
ガシーーン…
「おや?セイメイ君じゃないか!?」
「別にここで暴れていようがいまいが構わんのだがな、そこいる奴はちと訳ありなんだわ…。」
「ほう??ここのルールも曲げてまで救う恩人なのかね?」
「いや、そうじゃないが勝手に体が動いちまったんだわ。水を差してすまんな!」
キリキリと峰で受けた刃を鍔迫り合いに持ち込むと、ナタネの刀を弾き、距離をとった。
「セイメイか!?邪魔をするなッッ!!」
「うるせー!馴染みの癖で刀を抜いちまったんだよッッ!!!」
「手だし無用だ。それにお前に助太刀して貰う義理は無い!!」
「……わかっているよッッ!!」
ディアナと言い合いをしていると、ナタネがニタニタと笑いながらこちらに仕掛けてくる。
「言い争いの最中悪いが、お前も倒すのみッッ!!!」
キーン!!
「ほう?童子切か…。この前とは違うようだな。」
「そうだ。下ろし立てだぜ?こいつの童貞卒業記念しちゃあ、悪くない女だよなぁ??」
「そう安くないぞ!私はッッ!!」
はじき返し距離を取る。
「高飛車な女を跪かせるのが、大好きだとよッ?!!」
刀をくるくると回し挑発をした。
「へっ!おらぁいくz…!」
すると、ディアナが後ろから矢を打ってきた。一瞬、硬直するセイメイを横目にディアナは弓をしまうと精霊剣を出し、ナタネに突撃していた。
数多の剣撃を重ね、体勢を崩したナタネに剣を突き刺そうとするが、ナタネの剣技もそれなりの手練れでもあるので、突いてくる剣をうまく横に仰け反りながらも切り上げて攻撃を無効化する。
足止めされたセイメイにソロモンが近づく。
「お前さん!なに出しゃばっとるんじゃ。アイツはもうウチのギルメンじゃないんじゃぞ??」
「わかっているさ。でも、あいつが負けるのを見たくないんだよ。」
「なんで負けると決めつけておる?」
「俺が負ける分には笑われて終わりになるだろ?」
「うぬぼれんなよ、マスター。少なからず、アイツの腕は本物だったじゃないか?」
「だけど!ナタネはそれなりに名うての剣士だ。俺だって同等に戦えたのは流派が違うからだ。それに同門の話ではかなり強いと噂を聞いた。」
「だとしてもだ。ここは誰がPKしてもいい無法地帯、それにグラマスのお前さんが負けたとなれば、信頼と期待は失墜する。先ほどもいったばっかじゃろ~に。」
「くっ…。」
セイメイは感情に流されてしまう事に情けなさと歯がゆさを感じていた。
すると、MIKADOのギルメン達が屋根の上から観戦しているのがわかった。
「あいつら…。」
「マスター落ち着くんじゃ。我々の敷地内ではあるが、フィールドのルールくらい守ろうじゃないか。ワシらは関わらん方が得策じゃ。」
「わかったよ!今日という今日はソロモンに従うよ。まったく調子狂うなぁ。」
踵を返そうとするとき、視界にはディアナがトドメを刺される瞬間を見てしまった。
「わりぃ!!ソロモン!!さっきの言葉は前言撤回だわ!ナタネぶっ殺してくるわ。」
「ま、マスター!!あ~あ、言わんこっちゃない…。」
「なんでだ?」
「おう、話しかけてくるなんて珍しいのぅ。」
「フン、あいつが負ければ、オケアノス(ココ)を出る言い訳が出来るからな。」
「おまえさんも意地が悪いのぅ。」
近くにある木箱の上に座り込みセイメイの後姿を見る事にした。
「よう、セイメイ。どうした?コイツとまだつるんでいたのか?」
「いや、そいつは俺のところから抜けたヤツだ。なんも関係ないんだが…。」
「じゃあいいじゃねーか。こいつも元MIKADOだ。私が脱退したやつらを潰そうと勝手だろ?」
「ああ、勝手だ。じゃあ俺の勝手も押し通させてもらおうか!!」
刀を抜くと中段の構えをする。
「やはりな。その独特な半身で正眼の構え…。神道流だな。」
「新陰流のようなメジャーな流派は選んでないんでな。」
「そして、その刀を手にしたという事は、それなりに攻撃力も上がったということか。」
「お察し頂けるとはね。前回のような甘っちょろい事はしねーぞ。」
「そうだ…。そうだったな。セイメイ!私に苦渋を飲ませた事だけは褒めてやる。だが、勝ちを譲る気はないぞ。」
ナタネが手をあげると屋根の上に待機していた。ギルメンが雨のように降ってわいてでてきた。
「ここは無法地帯だ。お前もそれはわかっていてのケンカだな?」
「そうだな。出来ればサシで勝負したいものだがな!」
「お前がどんな方法で言ってこようが、条件を飲む気はさらさらないぞ?いけ!!!」
MIKADOのギルメン達が一斉にセイメイを襲おうとするとセイメイの後ろから眩い光に照らされた。
目が眩み慌ててセイメイは防御態勢を取っていると、瞼を開くと、MIKADOのギルメンは地面に張り付いていた。
「ここは無法地帯なのだろ?私が倒しても問題ないという事だな?セイメイ。」
ふと、俺の左前に現れたのは蓬華だった。
セイメイは一瞬何を言っているのか理解できなかったが、地面に這いつくばっている敵を見ると軒並み戦闘不能になっていることに気づいた。
「お前…。」
「蓬華だ。お前呼ばわりされる筋合いはない。」
「おおうwすまん。」
「貴様ァァァ…!!!」
蓬華は怒り狂うナタネをみると、ソロモンのところにトコトコと歩き始めた。
すれ違い様に蓬華はいった。
「お前の条件を整えた。あとは実力で現状を打破せよ。」
「このksチビ…!!偉そうにぃ…!」
「チビなのは設定の問題。偉そう?セイメイとやら、私より演算が早いのであれば、対等の立場で話をしよう。それまでは同等の条件だ。遠慮や畏まった事は省略させてもらおう。」
「出来るわけないだろうが!!」
「じゃあせめて、私に人の可能性とやらを見せろ。妹がそなたについたという事はそういうことだろ?」
セイメイは一瞬、ルカの顔を思い出した。その顔と蓬華の表情は一緒だった。
―――クソッ!姉妹ってのは似て似つかないモンだと相場は決まっているが、なんで仮想世界でもこんなデジャヴを味わうんだよ。
セイメイは刀をもう一度、力強く握りしめて蓬華にいった。
「ああ、お前の妹にも同じような事を言われていたよ。キョーダイってのは種族問わず、似てしまうモンなんだな!」
すると、勢いよくセイメイは攻撃をしかける。
下段からの切り上げを行い、袈裟斬りへ移す。そして、構えを霞の構えにすると珍しく刀技を放つ。
水突ッ!!
※ 牙突みたいなもの。
風神剣ッッ!!
※ 刀を素早く横一線に高速回転し、風に刀撃を乗せる
「ほほう、少しはやるようだな。」
捌き終えると、刀を肩に乗せてセイメイとの距離を目視で測っていた。
「アンタほどじゃないさ。」
「元MIKADOのギルメンである以上、それなりに腕の立つ者でなくてはなッッ!!」
刀を下すと瞬歩で近づき、スキルを放つ。
陰流・朧車ッッ!!!
「同じ手を食うか!」
剣聖神道流奥義!!日輪ッ!!八重桜ッッ!!!
※ 刀を返し敵の攻撃反動を活かす。そして天高く舞うと、相手に8回連撃を行う。
自家発の場合よりカウンター判定が出ると威力はその数倍にも膨れ上がる。
物理攻撃のみカウンター判定が出る。
魔法攻撃、遠距離攻撃には反応しない。
「こちらも行くぞッッ!!」
新陰流奥義!!五常飛燕剣!!
※ 5回攻撃による先手必勝攻撃
カウンターを受けるはずのナタネは、セイメイの滞空時間読み、瞬時に体制を整えると、奥義を発動させた。
セイメイは着地すると、四肢と頭へダメージを負い、膝を着く。
ナタネはというと、連撃の攻撃を捌ききれないため、いくつかの攻撃を受けるしかなかった。その中で剣先の軌道をずらしながら急所を外していた。
「残念だったな!私の方が頭1つ飛び出たようだな!」
剣聖神道流 蜈蚣
地面着いた体勢からの蜈蚣はより発動条件に適している。
ギュスターヴ戦においても、この体勢から起こした。
すると、ナタネの腹部を切り刻みダメージを与えた。
チンと刀を納めるとセイメイはポーションのガブ飲みした。
「残念だったなぁ…。ハァハァ…お前の負けだッ…!」
「あの瀕死から…だと!?」
崩れゆく姿をセイメイは冷たい目で見ていた。
「アンタが弱いんじゃない…!俺が強くなっただけだッッ!!」
そう言い終わる頃にはナタネの身体は遺体へと変わっていた。
傷口を塞いたセイメイは、傷痕を手の甲で拭き取るとソロモンの待つ方へと踵を返すのであった。
セルと別れてから半刻を回ったほどの出来事だった。





