第114話「予測と仮定」
「運営も中途半端な曜日だから、今年のスケジュールとイベントの調整で大変だな。」
「ははは!そうですね。何回お知らせを更新してるんだかね~。」
セイメイとベルスの会談は、占領戦の日取りの打ち合わせと時間の打ち合わせで談義に花を咲かせていた。
「ああ、そういえば例の女の子は??」
「てんでダメです。自分の作戦は失敗に終わりましたよ?」
「セイメイ殿で失敗とはな……。」
セイメイはあっけらかんといいながら、苦笑いを浮かべていると、ベルスは腕を組みながら無精髭をザラザラさせながら触っていた。
「詳しく聞けますかな?」
「ええ、まぁ…」
作戦実行した内容を説明すると、ベルスはふとおかしな点に気づいた。
「妲己は、人数が多いから引くといったのですね?」
「ええ。その後消えて…」
「消えるのは最早チートの類でも、違和感が残るなぁ…。」
「どの辺が?」
「チート魔法…まぁこの場合は無詠唱魔法を行ったということは、CTやMPの消費量も概念が存在しないはず。ならば、問答無用でセイメイ殿の一行を瞬時に殲滅出来たはずだ。なのに、彼女達は…いや、彼女はセイメイ殿にトドメをささなかった。」
「どこかに仲間がいたからだろ?あとは…、バレたくないとか??」
セイメイは頭を掻きながら下を向いた。
「いえ、話の流れでは、妲己・ルカさんの二人対オケアノスの構図なのに、妲己は手を出さなかった…。いや!出す能力が無かった??」
「力の温存、という表現も出来るけど…?」
「その方向からの予測もたちますが、果たして意味があるのでしょうか?」
「マジックをするのに、最初から種明かしをするマジシャンがいるかという話になりますよ?w」
「そうであれば、ルカさんに別の強力な魔法を打たせればいい。しかし、その指示すらしなかった…。もしかすると…。」
「ん?!わかったぞ!!」
顔を曇らせていたセイメイは慌てて立ち上がった。
「そう。召喚しながら攻撃する手数が足らなかった!?」
「セイメイ殿、そういう予測が有力ですな。」
ベルスは席を立ち上がり、窓を見る。
ベルスと目のあったウィッチを手招きし、上に上がってくるようにいう。
程なくして会談をしている部屋に呼ばれたウィッチが入ってきた。
ベルスは簡単な質問をする。
「ウィッチが召喚中の動作制限と召喚中の消費量を教えて欲しい。」
「はい。ご存知だと思いますが、我々の職は強力な魔法を詠唱、または、魔獣を召喚することで騎士やその他の職と引けをとらない攻撃力を有します。従って召喚中は物理攻撃、あくまでMPを消費しないスキルや、武器による物理攻撃、武器依存のスキルが使用許可されています。
また、召喚中に強力な魔法を詠唱するとなると、ほぼ棒立ち状態になり、かなりのスキを相手に晒す事になります。それと同時に召喚中MPの消費量も尋常ではないくらい早く、POTを飲みまわしてやっとと言えるほどの消費スピードが伴い、一度枯渇すれば、召喚獣は一時的にフリーズ状態、または召喚解除になり、本人も身動きが取れなくなってしまいます。」
「うむ、結構。ありがとう、さがってくれたまえ。」
「いえ、お役に立てれば幸いです。」
バタンとドアが閉まる。
「と、言うわけですな。」
「つまり、ルカは召喚獣扱いをされている…?」
「おそらくあやつり人形のような状態でしょうな。」
「アカウントの乗っ取り…?」
セイメイは思いつく限りの単語を捻り出していた。
ベルスはある仮説を説いた。
「2人ともゲームマスターアカウントと同じ扱いだと仮定をする。そのアカウントの不正アクセスは、いとも簡単に行えているが、接続が長いと運営管理に疑われる。しかし、召喚獣の識別をさせればなんの問題もない。」
「情報の書き換え?だと?アイツめ!手の込んだ仕掛けを作りやがって…。」
「フフフ、AIも用意周到ですな!ハハハ!!」
ベルスは高らかに笑っていた。
「いくらMPやCTの概念が無くなったとはいえ、強力な魔法を使うとしても若干のフレームによる隙は生まれる。挟み撃ちをしかけた場合、不利なのは戦力を分散をしたセイメイ殿ではなく、彼女たちにある。」
「古典的な作戦が弱点とはな…。」
「ごもっとも。近年はややこしくし過ぎて、オーソドックスな戦い方が効くという事もありますからね。」
「しかし、ベルスさん。手の込んだ説明方法を取りましたね?」
「なぁに、彼女は私の元教え子でしてね。既に論文を発表しているような子ですよ…。」
「教え子??」
「うーん…実は講師をやっていましてな。そう、個別指導系のね。」
「ええ??めっちゃ頭いいじゃないですかーー??」
「上を見れば限りないですよ?私の担当は物理です。生徒も少なく、こうやって趣味のゲームを嗜めているわけです。」
「ええ??それでも凄い!!」
「まぁあれでも、あの子は国立大学に受かっている優秀な生徒で、今となってはもう私の生徒ではなく良き友人、ゲーム友達になっていますけどね。」
「流石です!その信頼関係は崩れることは無いでしょうね。」
「あなたの絆ほどではありません。毎度のようにいいますが、類まれで物珍しく羨ましい結束力を施せるのはセイメイ殿、あなただけの人柄スキルですよ。自信を持ってください。」
「え?あ、いや…。」
セイメイは言葉を詰まらせた。
ベルスはさらに畳み込むようにセイメイに言い聞かせる。
「喧嘩したところで崩れない。それはあなたもギルメンもお互いがお互いを信用し、信頼しているからこそ、おかしい点を面と向かって注意し合える。胸を張って自慢出来る素晴らしいギルメンをお持ちでしょ?」
「んーー。」
セイメイは腕を組みながら頭を悩ませていた。
「私に出来てあなたにできないはずは無い。もう一度、蟠りを払拭し結束力を取り戻してください。それに相手の弱点もわかったことですしね…。」
ベルスはセイメイの顔を見てニコッとした。
「弱点が手前にあればいいんですがね…。」
セイメイは頭を掻きながら照れくさそうにする。
「そうは問屋は卸してくれないでしょうねw今回は我らがロームレスの防衛戦になります。しかも今年最後のドタバタ開催!気張っていきましょう!!」
セイメイとベルスは固く握手を交わした。
~ローレムス・市街地~
会議を終えると、ずっと黙って聞いていた双璧の2名が話しかけてきた。
「まぁ我がマスターは挫けるような人ではないと信じておりますから、私は大船に乗ったつもりで活動していきますよ?」
アイオリアがドヤ顔をしていると、ファウストはため息混じりに口を挟む。
「相変わらず君ってやつは…。セイメイさん、今回の作戦は結果的に失敗しました。その事で自分を責めないで下さい。それなりの収穫もありましたからね。」
「どんな収穫だよ。新じゃがの季節じゃねーんだぞ?ったく…。」
「まぁ少なくとも、我がギルド内における古参よりのホルス・マノ・グラニの3名は少なからず、成長しております。私の管轄下に起きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あの三バカからのOKは出てるのか?」
「出てませんけど、ギルマス直轄のメンバーでいるより、私の息のかかるところで活動すれば、恐らく前より今、今よりも未来の幹部候補になると思いますがね。」
「ほー?それで?」
「ご許可を頂きたいなと思いまして懇願させていただきます。」
「フン、用は手駒が欲しいんだろ?」
「まぁそれもありますが、彼らとは色々な事を共に過ごしたこともありますからね。直接マスターと話すのに緊張するらしいですから、何かあれば一緒に立ち会って話をすれば、スムーズに伝達や言いたい事が伝わるでしょうから、ここは1つよしなに。」
「彼らがうちで活動したいのであれば、俺は制限を設けるつもりはないぞ?」
「じゃあOKですか?」
「ああ。正直、俺は末端のメンバーまで見る事はできんよw」
「でしょうねw」
「アイツらがうちで楽しくやれるなら、それでいいんじゃねーのか?任せたぞ。」
「ありがとうございます!!」
ファウストは笑顔を見せると負けじとアイオリアはセイメイの顔を見ながら強く発言する。
「私は直轄の人間ですぞ??」
アイオリアは満面の笑みを浮かべてニヤニヤしている。
セイメイは、はぁ~と溜息をつくと、アイオリアを横目に嫌味のひとつでも言ってやろうかと思ったが、猛獣に餌を与えるようなものだと思い、言うのをやめた。
この後、セイメイは一度アーモロトへ帰還することを伝えると、ファウストは、今回決まった事を早速三バカを伝えて鍛えるという名目で、ロームレスに留まると伝えた。
セイメイは残りのメンバーを集めて、アーモロトへ帰還することとなった。
~帰り道・とある山道~
馬を走らせて戻るセイメイは、セミオートで馬を走らせながら、戦略を立てていた。ロームレスでの会談が作戦会議に発展しなかった事が気がかりだったのだ。
ベルスに作戦案をいくつか提案した内容をメッセージに添えて送信した。
占領戦は今年最後の戦いでもある。今回はロームレス防衛戦。
前回、アーモロトを落としたというだけに、各地のギルドがロームレス攻略を練ってきている。その筆頭が黄竺に過ぎない事をまだオケアノスのメンバーは把握してないのだ。
それは、新規参入のギルドが最初にぶち当たる難関なのだから。





