第111話「戦闘の梢」
重力場による行動が制限される中、ファウスト達は立ち上がることが出来ない。
両手を付かなければ、地面に吸収される様な重さが身体全体にのしかかっている。
「敵勢力につき排除対象と視認、これより排除行動をとる。」
そういうとルカは魔法を詠唱に入った。
「へへへ…。パンチラ見るにはいい角度だねw」
メガネを輝かせながら頭上を見上げていた。
「お、おい!!先生!!完全にド変態先生になってるぞ!!」
「とうとう俺らもフルボッコを喰らうことになるのか…。」
「お生憎様、ボクはそんなことにはならないよっ!」
そういうと、手を使わなければ立てない現状にも関わらず、顔を上げる事すら出来ない状態をファウストは両手を使って、身体を空に飛ばした。
エレメンタル魔法:極 エクスプロードッッ!
「おい!!ウソだろ!!?」
「なんで??なんであんなの出せるんだよ!!!」
爆発音と共に天高く打ち上げられたファウストは、グラビティフィールドのエリアから離れる様に落下を試みる。
―――さて、ここから博打だ。落下速度は通常のおよそ二倍、落下ダメージも二倍。エリクサー使用可・回復POTの使用も可。これならいけるッッ!!
ファウストは身体がまだ上昇している最中に各種エリクサーを飲み回し、回復POTを使用し最大HPまで全回復をする。
―――よし、同じ魔道を極める者として挑ませてもらおう!!
氷結魔法!雪月花!!
無数の氷刃がファウストを中心に三日月型に並び、片腕で横一線に払うと氷刃は斉射される。
ルカは杖を軽く持ち上げる。
ルカに向かっている氷刃はバリアーのようなモノで溶解や砕けたりしている。
「無駄だ。」
エレメンタル魔法・極 火山爆発!
―――な!!詠唱を既に終わらせたというのかッッッ!!??
地中からマグマが噴き出し、落下してくるファウストを待ち構えていた。
―――クソッ!!!
腕をクロスし、防御体勢を取る。マグマは柱のように吹き上がっていた。
「あちゃー!ありゃダメだ。」
思わずグラニは目を手で覆った。
「あれ??重く…ない?」
「みろ!地面に…!!亀裂が!!」
「まさか!?」
地面に突き刺さる氷刃が魔法陣の陣形を崩していた。
「そう、そのまさかだよ?地面にヒビが入れば重力場の魔法陣は効果が切れる!!」
吹き上がったマグマの中から青白い鎧を纏った騎士が降りてきた。
カチャ
「なんで魔導士なのに鎧とか剣とか持っているんだよ!!」
グラニは思わずツッコむ
「魔法剣士って知らないの??」
「ち、チートぢゃあねーか!!」
「バカモン!MP常に消費しているんだよ!?限定モード!」
「ずりーよ!魔法職!!」
―――エレメンタルアーマーは諸刃の剣…。耐性は炎耐性とサブで氷耐性に少し耐えれるのみ!使える魔法は氷結魔法の派生、それ以外は全てマイナスなんだよね…。ここらで他の属性魔法撃たれたら死んでしまうのだよ…。
ルカはスッと杖を前に出し、稲妻を纏わせる。
―――くっ!!手の内がバレている…!!
「君達!!ここから離れるんだ!!」
我が怒りの雷を受けよ!
サンダーチェイン!!
杖から稲光が発生すると、辺り一面に雷柱が立った。
「ぐはあぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっっ!!」
「ウボァァ!!!」
グラニとホルスは吹き飛んだ。ファウストはもろにサンダーチェインを受けたため、ファウストの身体からはプスプスと煙が立ち上っている。
「せんせぇーーー!!!」
グラニはすぐに駆け寄り肩に腕をかけ、やがて背負う。
グラニは迷うことなくホルスに向かって叫ぶ。
「ホルス!!逃げるぞ!!」
「わかっている!しかし!!」
当たりを見渡すとファウスト達は囲まれつつあった。
その中には城壁で戦った格闘家もいた。
―――ここまでか!!!クソッタレがぁ!!!
グラニは盾を前に出しながら手負いのファウストを守っていた。
「年貢の納め時だぁ!!かかれぇ!!」
号令と共にワーッという怒号が鳴り響くと地鳴りが起きているように感じた。
ファウスト達を囲んでいた黄竺のギルメン達の足元にいくつかの苦無が刺さる。
苦無にはピンポン玉ぐらいの球体がくっついてた。
次の瞬間にはそこから煙が一斉に発生した。
「クソ!前が見えない!!」
ホルスが煙をはたいていると柔らかい何かに触れる。
「ん??なんだこれは…!?」
見えにくい視界を凝らして見るとマノが顔を真っ赤にしている。
「あんたまでそういう事するようになったんかぁ??」
「いや、そのこれは不可抗力だろーよ!!」
「いい加減!離してくれないかな??」
「ああ、ごめん!!」
「それより、へっぽこ魔導士はなんでそんな焦げついているのよ?」
「そんなことより、2人とも!ここから逃げるぞ!そのためにマノは合流しにきたんじゃないのか?」
「そ、そうよ!待ってても来やしないからあなた達が来るはずのルートを遡ってみたら、この有り様よ。さぁ脱出しよ!!」
4人は煙の中、南門へと走り出した。
門手前の角に差し掛かったあたりで、手負いのファウストに大いなる聖水を使用し回復POTを飲ませて、頬を軽く叩いた。すると、気絶していたファウストは意識を取り戻した。
「ううっ…。ゲームで気絶をさせられるなんて思っても見なかったよ。」
「え?本当に気絶を??」
「ああ、そのまさかさ。画面が真っ暗になって意識が遠のいていくのがわかった。しかし、別の意識では覚醒しているんだ。第三者的な立場でね。」
「人体に影響を与えている結果が出たとなるといよいよこのゲームもヤバいってことになりますよ?」
「まぁゲーム廃人が意識が飛ぶというのはよくある話だよ。しかし、今回のは何だったんだろう。不思議な体験だった。」
「それより、その鎧どうするんですか?」
「まだ発動していたのか…。待っててくれ。」
一瞬、ファウストの身体は光り、いつもの姿に戻っていた。
「そっちの方が見慣れてるから安心しました。」
「なんでまたあんな鎧兜が纏えるんです?」
「エレメントは4つに構成されていて、特化することが出来るんだけど、あくまで短期間の限定版だよ。技だって1個しか使えない。ボルガニックのような魔法を唱えられたら、極限に耐性を振ることになったんだよ。」
「それでか。」
「もっとも、あの女の子には通用しなかったけど、あのモードなら、そこら辺の野試合程度なら、渡り歩けるさ。」
「あの女キャラがマスターのサガシモノだったのですか?」
「ああ、そうだよ。元ギルメンだ。」
「なんというか、凄い人?ですね?あの子…。」
「ああ、まぁ“人類の希望のカギ”みたいなモンさ。」
「希望のカギ?」
「そんなことより、へっぽこ魔導士さん。そろそろ、南門よ。準備は出来ているの?煙玉も限定飛び道具も底をついているのよ?」
「ああ、大丈夫さ。南門は元々手薄なんだよ。それにセイメイさんが森で暴れてくれているおかげでNPCの門兵しかいない。つまり、入るのは面倒だけど、出るのは簡単だというわけだ。」
4人はそのまま走り抜けると門兵は気づいたが、追いかけるほどではないであろう。2.3歩ほど歩いてまた定位置に戻っていった。
おぶさったままのファウストは、南門を振り返りながら確認するとグラニの背中にあるマントのよれた布をギュッと握って下を向いたままだった。
――――――――――――――――――
~東の森~
セイメイとユーグの陽動作戦は激化を極めていた。
あらかたMOBを倒し終わったセイメイは、黄竺のギルメンとPK合戦を行っているユーグを見ると、囲まれつつある自分達のエリアを感じ取っていた。
―――こうなりゃPKしつつ、MOB狩りだな。
セイメイは刀を片手に持ちながら、ユーグの方へ足を向けて走り出す。
一人、また一人とダウンさせていくユーグは連撃を繰り返していたが、やがて極度の緊張感が身体全体に駆け巡る。
「はぁ…はぁ…。」
―――息が苦しい。フルダイブ型でも息切れなんて存在するのか?張り詰めた緊張感からくる息苦しさか?腕も上がらなくなってきている。
ユーグは感情による衝動で戦う事が出来ても平常時からの長期戦闘は初めてである。そのため、戦闘慣れしてない故の緊張感が身体がついてこなかったのだ。
「こいつ、スタミナ切れじゃないか?」
「おっしゃ!ぶっ潰すぞ!!」
ユーグは黄竺のギルメンらの剣撃や射撃を受け流す事に必死だった。通常時であれば、黒い霧などを駆使し相手との距離を埋めていくはずだが、連闘による極度の緊張感が及ぼした自律神経の障害が発生していた。
健康的な人体であれば、特に問題がない。場慣れをしている事に意味があり、ぶつけ本番のような状況で、場数が少ないユーグはどこかしらで失敗という恐怖にかられていた。その心理状態がこのような自律神経に支障をきたしていたのだった。
―――クソッ!!身体が…!!いうことを聞かない!!
レーヴァテインを盾にして攻撃を受けることしかできない。
「おい!ユーグ!!大丈夫か!!まってろ!!」
セイメイは立ち塞がるMOBを一刀両断しながらユーグに近づく。
セイメイの声が聞こえてきた。
―――ま、マスター!!
セイメイの方を見た瞬間、一瞬のスキを作ってしまった。
「もらったぁ!!!!」
雷鳴衝撃!!
ユーグの脇腹を狙う青白い閃光がユーグの身体へ真っすぐに伸びていた。
森のざわめきは一層増す事になる。





