表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/208

第11話「分水嶺(後編)」

~三城塞の長城跡~


 ここは難所中の難所。城が三つも連なる都市である。カステル・シュバイツ・ヴァルトの3つからなる長城である。南攻の要所として今現在でも対北上軍への対立を維持する。

 黎明期ではここで防衛一択をしていれば、時間で勝つという生産性のない戦場だったので、運営が模擬戦用に改良し、長城はあまり原型がなく今はただの古城の跡地だ。



 ここでは流石の追手はいなく、いたのは観光目的のプレイヤーがちらほら見かける程度だった。


「マスター、この先は私が先鋒にでます」


アイオリアは神妙な声で俺に話しかける。


「ああ、別にアイオリアはある意味切り札だとしてたからアイオリアでダメなら俺も腹をくくれるよ」


 アイオリアは俺の顔を確認する。少し驚いたような感じでもした。ここの古城は今度ゆっくりみるとしよう。


 橋を越えてからゆっくりと下山コースになりつつある位置にコンスタンの湖と同じように形成されている湖がある。それがルガールである。



~湖畔のルガール~



 ここは南北戦線の境界線に当たる街。北伐となるとここを足掛かりに関所町パスガや、パスガより西側に位置するウルススという町にいける中継地点である。



 補足してウルススの町も合わせて紹介しよう


~自然要塞都市ウルスス~


 川を挟んで隆起した丘の上にありパスガとは違った自然の要塞である。町の大きさはパスガより大きい。街の三方が川で囲まれており、残る一方には城壁、堀、“大時計搭”などが築かれており、特に“大時計搭”は時を知らせる鐘、塔の時計、仕掛け、天文時計はすべて一つの装置で賄われておりイーリアス大陸の時を知らせている搭でもある。時刻の他に曜日、日にち、月、星座、月に位相も表示している。別名:時の街



 さてルガールより南下すれば国境越えが可能となる。ルガールを抜けて下りの山道を進み、順調に馬を走らせる。ユーグは少し疲れ気味にいう。


「いやぁマスター、明日休みだからいいけど、ねみーよ~」

「ここで寝たら死ぬぞ!!」


俺は遭難したメンバーのようにいった。


「マスターの言う通り、寝たら死ぬぞ!!」


ソロモンが悪ノリしてくる。


「え?じゃあとりあえず、ここまでということでログアウトすればいいのでは?」

「そうじゃないんじゃあ」


ソロモンは天を仰ぎ、手で目を塞いだ。


 クリスは生真面目なのかもしれない。


「マスター、ここから先はある意味、危険です」


アイオリアは一人で何かを察知していた。


「おいおい、そろそろ中二病キャラはユーグにやらせてやれよwキャラ食ってるんだよ!」


俺はユーグにふると


「え?俺そんなポジションなんですか?」


ユーグが笑いながらいった。


「マスター、アイオリアは病状でいっているんじゃあない。こいつは…!」


 ヴォンと手に魔法陣を描くソロモンがいた。

 山道を抜け、林道に差し掛かったところで馬脚を止める。

 国境のラインの近くで足止めを喰らうように止まった。


 しかし、敵となる人物、モンスターがいない。



 俺らは見えない敵と対峙しているようだ。

 刀を抜き、周りを見渡す。しばらく木々の音が消え、無音世界が広がった。一本の矢が俺の顔をかすめた。俺は驚き、刀の構えを替え、胸に刀の柄を当て、防御姿勢をとった。


 少し草木のざわつきが恐怖を与えるがすぐに音がやんだ。

 一同は耳を研ぎ澄ませ相手の居場所の特定を急いだ。


 一瞬の光が俺の視野に入った。


―――くる!!


 一本の矢がまた顔をめがけて撃ってきた。


 その瞬間、空から弓スキルが降り注ぐ!


―――このスキル!……アーチャーだ!!


 降り注ぐ雨はディアナの得意とする攻撃と似ている。

ユーグとソロモンはクリスの盾スキルの応用で上にディフェンダーを打ち防御はできたが、俺とアイオリアは範囲外だ。アイオリアはそのまま矢を打ち込んだ方に走り込んだ。俺はというと、弓スキルの範囲外から逃げるのに必死だ。とりあえず、俺は多少のダメージはもらってしまった。が、まだ敵の攻撃は緩まない。


 さらに上から何か黒い物体が降りてくる。


 俺は慌てて横転し攻撃を間一髪避けた。


「あー??なんで当たんねーんだよ!」


 俺は土を被りながら立ち上がる。


「♀ストライカーか!!」


 斧や重装武器のみを扱う♀ウォーリアのクラスチェンジの職業だ。

 オーラアタックのみ魔法は使える。スキルは捨て身系のスキルが多く肉を切らせて骨を断つタイプの職だ。投げ技が多種多様にあり、女子プロみたいな存在だ。♀の場合、ウォーリアからヴァルキリー、ウォーリアからストライカーとなる。なぜ日本サーバーはヴァルキリーが多いかは後述する。


 ♂の場合はウォーリアが担っていてウォーリアは騎士へのクラスチェンジやアイオリアのような格闘家へのクラスチェンジとなっている。

 久しぶりにみた。日本国内では人気がないのは女性への見方が少し古いからというのもあるが、これはこれで珍しい。


 ♀ストライカーが口を開く


「あんたがセイメイだって?賞金稼ぎとしてはあんたに恨みはないがキル数貰うよ!」


 そういうと、大斧を振り回し俺を追い詰めていく。


「サムライが逃げ回ってだらしねーな!!」

「おあいにく様、俺は自分の距離でしか戦わないタイプなんでな。罵倒したところでお前のペースに合わせる気なんてないぞ!?」


 距離が取れるたびに弓スキルを打ち、相手の動きを止める。


「しゃらくせい!!!」


 ♀ストライカーの手にオーラが光る



 ビースト・ブレイカー!


 2m近い大斧を俺に向かってぶっきらぼうに投げつけた。


 なんちゅー無茶苦茶なスキルだ。俺は木を盾にするように転がるように避けた。相手は武器を持ってない。


今だ!走り込んで刀を突き刺そうとすると「おいおい、後ろをみろよ!?」とにやりと笑ってきた。


―――うそだろ!!?


 あの大斧が♀ストライカーと俺を挟むように戻ってきた!

 俺の背中に大きくえぐれるダメージが入る。


 俺はダウン取られた。


―――ここで終わるのか。……あっけなかった。みんなすまん……。流血のダメージで死ぬのか……。


 目の前が真っ暗になった。ここまで付き合ってくれたソロモンやユーグ、クリス。そしてアイオリア。あーあと三バカにも謝んなきゃな…。俺は走馬燈のように脳裏をよぎった。






 ゆっくりとHPゲージが減っていく。動けん……。くそ……こんなものなのか……。








「セイクリッド・チャージ!!」


 クリスが突進し♀ストライカーを退けた。

 ソロモンが近寄り俺の背中に向かってヒールオブエスペランサーをかけてくれた。


 ※ ヒールオブエスペランサ-

「サー」でも「サ」でもいい。詠唱者のノリ。効果は全回復をする。ただし、マナやMPを滅茶苦茶消費する。CTも少し多めに2分間


「セイメイさん!!しんじゃだめですよ!国境を越えるんです!!」

「そうじゃ!!クリスの言う通り!!荒療法だろーが諦めるな!!」

「クリスちゃんばっか良いところ持ってかないでくださいよっ!!」

「お、おまえら。無茶しやがって…。」

「むちゃしてるのはセイメイさんですっ!」


 半ベソかきながら俺にいう。


「いつもいつも一人でなんか背負ったことにして、私たちに何もいわないじゃないですか!ソロモンさんが気にかけて、多少判明する程度で!!兄の事だってそうです!!今回の逃避行だって、セイメイさんは何も関係なのに!!!なんか一人で出来るようにしなきゃって!それじゃあうちの兄と変わらないじゃないですか!!背負った荷物を少しは分けてください。そうすれば、歩くのが少し楽になるでしょ!!」


「お、おうすまん…」


 ていうか、なんで俺謝ってんだ?むう。どうやら男ってのは女の涙に弱いってのは本当だった。


 重い体を少し起こしていう。


「それよりアイオリアはどうした?」


 ソロモンがいうには、追い回しているようだ。


「…そうか、あいつが負けるようなことはないだろ。」


 ♀ストライカーが吠える。


「ほう、なんだ。骨があるんだな。狩り甲斐があるってもんだ!」


 そう、クリスに大斧を振り下ろすとクリスの盾は体ごと沈む


「くっ…!」

 睨み合いが続くかと思っていた矢先に意外な展開になる。


 ガサガサガサ…

 木々の間からアイオリアがアーチャーの首根っこを掴みながら俺らの前に現れた。

 首根っこを掴まれていたのは亜人型のアーチャーだった。


「放せ!アイオリア!!いつまでもちっちゃいと思ってナメプしてんじゃねー!!」


 ♀ストライカーがぽかーんとする。


「あれーー?アイオリアじゃん!!なんでここにいんだ?」


「カルディア、そいつは俺の妹だ。斧を降ろせ。」


 ♀ストライカーは斧を肩にかけた。


「ピピンを降ろしやってくれよ。」


 亜人のアーチャーは地面にぽてんと落ちた。


 どうやら顔見知りのようだ。


「おい、アイオリアなんでこいつらとつるんでいるんだ?」と亜人のアーチャーがいう

「私はこのマスターのところに今所属している。おまえらは相変わらず山賊まがいの事で生計を立ててるのか!?」

「いやぁだって対人戦の方が楽しいじゃん!賞金稼ぎも立派な金策だろ??」さきほどの♀ストライカーがニヤニヤしながら話しかける。

「それよりアイオリアは逃亡者の手助けとはなぁ…。いくらもらえるんだ?」


 アイオリアがはぁ~とため息をつく


「俺の信念を貫いた結果、私がまきこんでしまったようなモノだ。」

「えええーーー!!!!」二人は驚いていた。

「まぁお前らにいっても理解するまで時間と言葉を使うことになる。先に答えを聞こう。こちらは急いでる。協力するか退くかだ。」




 そうアイオリアがいうと、ふたりはやれやれとした顔で国境越えに協力した。




 こうして、俺らは最後の“難所”を越え、国境越えに成功したのだった。





 ~ メディオラム共和国 ~


 ここは、6つのギルドが統治する連合国家として形成している国である。



 フォルツァ・レオナルド・DG・ガガSP・PROUD・BVと中堅クラスのギルドたちの集合体である。


 この盟主であるフォルツァはエウロパと決別した反エウロパがいる統治国でもあり、先ほどまで逃避行を続けた各拠点でのいざこざが発生している。無論、狩場で被るようならば衝突は必至で小競り合いが続く。対して、他5ギルドはエウロパに反旗を翻すこともなく現状維持を続けギルド運営をしている。しかし、同盟ギルドであるので、エウロパにはしばしばPKされることも懸念材料だと思う。


 まぁ懸念かどうかは当人じゃないとわからないか。

 俺自身は狩りの邪魔されるのは好きじゃないので、個人的な懸念と言わざるを得ない。



 そんなことよりまずは自分のことを考えよう。ユーグは眠さ限界で寝てしまった。

 アイオリアは用があるといって席を外した。

 クリスは明日、女友達とショッピングにいくといってログアウトしていった。

 ソロモンは今後の事を話そうといって、残った。



 まずは箇条書きに考えていこう。


 1.まずはエウロパの管理下に首都アーモロトに戻っても私怨で衝突は避けられない。

 2.ギルドの本拠地の移動を検討する必要がある。

 3.3バカのことが気掛かりだ。

 4.……………………。



 4は正直、アイオリアと知り合いである二人のことが気になるところだ。



 とりあえず、今日はログアウトして寝よう。

 二連休をイーリアスについやすことになりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集英社小説大賞2 HJ2021 ネット小説大賞十 ネット小説大賞十感想 マンガUP!賞1 キネノベ大賞2 OVL大賞7M ESN大賞3 がうがうコン1 コミックスピア大賞1 123大賞 新人発掘コンテスト 小説家になろうSNSシェアツールcont_access.php?citi_cont_id=79336103&si ツギクルバナー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 場所が……情報が……多い…… けれども、区切ってあり見やすい。 ほんわかのんびりから急なバトル展開に突入。 敵パーティ(役職や技説明)の説明も十分。 戦闘シーンが脳内でスムーズに再生され…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ