第102話「元エウロパ勢とセイメイ」
セイメイはつい、言葉にしてしまったことに後悔しながらも語ることにした。
「実はさ、みんなに紹介したかった仲間がいたんだ。」
「あーあれですか?ログに載ってはいましたけど、ルカさん?でしたっけ?」
「ああ、そうだ。あいつは…ギルメンなんだけど、ちょっと変わっててな。」
『??』
カルディアとファウストは顔を見合わせていた。
「あいつは…A…Iなんだよ…。」
「え??」「まじかよ!?」
「大マジだ。俺も最初疑ってはいたが、一緒に旅するうちにな。チートぽいスキルとか、俺の情報なども調べ上げるほどだった。」
「おいおいまじかよ。本当にAIが導入されていたなんて…。」
「一部のプレイヤーには気づかれつつある。だが、どいつがAIなのかなんて、見た目だけでは分からないし、本当にそうなのかという確証もない。これが今の現状だ。」
「で、そのプレイヤー…いや、AIはどこに?」
「ここに来る前に、謎の女に誘拐され、しかも、ギルドの脱退までやってのけた。おそらくそいつもAIだろうと踏んでいる。」
二人はセイメイから発せられた言葉に絶句した。AIの導入が事実だとすれば、今まで苦労して育てた自分達はごくわずかな時間であっという間に追いつかれ、そして追い抜かれる怖さを否応もなしにたたきつけられたのだ。
「…それで、セイメイさんはどうしたいんですか?」
「ああ、ちょっとした事があってな。ルカを見つけ次第、俺の下に戻す方法があるんだが、どうも、不確定要素が多いらしいんでな…。なんともいえない。」
「そ、そうなのか…。ところでマスター、相手はどんな女だった?」
「どんなって…。妲己って名前だよ。中国の伝説に出てくる悪女の名前だ。」
「あーあれか。」
「知っているのか?」
「知っているというか、知識で知っているレベルですよ。歴史とかでね。」
「まぁそんなもんだよな。」
セイメイは頭痛がしているかのようにコメカミを触っていた。
「ん??おい、マスター調べてみたら、出てきたぞ?」
「なん…だと…???」
「黄竺の占領ギルドのマスターだなこれ。」
「うそだろ!??」
「いやまじ。みてみ?」
セイメイはシステムを開き、ギルド一覧を調べてみると該当するギルドの横に記載があった。
「おい!!次の占領戦…!いや、ロームレス防衛戦はいつだ???」
「今年はやる予定だったらしいんだけど、メンテナンスと年末ということもあって、来年だな?」
「そ、そうか。…なら…黄竺にいく!!!」
「ええ???」「今からですか??」
「まぁ明日だろうけど、今回は俺一人でいく。」
「ダメです!!!城主が一人で旅するなんて!」
「バカ野郎!城主だろうがなんだろうが俺はいくんだよ!!」
「まてってマスター!!落ち着け!!」
「あ?カルディア…。俺に優勢だからって俺を止める権利とは別だぞ??」
セイメイはどこかにおいやっていたはずの燻りがカルディアに飛び火しそうになっていたが、カルディアはひとつ提案をしてきた。
「バカ!とめるとかじゃねーよ。止めたっていくんだろ?」
「…ああ。仲間を放っておけねーよ…。」
「あのね、いくならせめて迷惑かけてもいい仲間を連れてけ。」
「じゃあソロモン…。」
「ソロモンさんは今、会議中でしょうよw」
「じゃあ誰がいいのさっ!!」
セイメイは子供のようにふてくされつつあった。
カルディアとファウストは目を合わせて、ふうとため息をつきながら、答えた。
「『ボク・俺』がついていきます。」
「おまえらが?」
セイメイは驚いたような表情で二人をみた。
しかし、今回の旅は、セイメイ一人の独断である。
それをこの二人につき合わせるのは、気まずいと思ってしまっていた。
ソロモンであれば、多少のわがままもノリに合わせてくれるが、彼らはアイオリアの紹介である。
自分のわがままを言えるようなコミュニケーションをしたといえる時間をまだ彼らとは過ごしていなかったのだ。そのため、セイメイは気が引けており、悩んでいた。
「だめだ。」
というと、彼らは悩んでしまった。それをみたセイメイははっとし、訂正をした。
「いや、お前らじゃ…役に立たないとかじゃないんだ…。あまり、俺の情けないところを…君達には見せたくは無いんだよ…。」
うつむくセイメイをみた二人は優しくイジった。
「なんだ。やっと人間らしい一面が見えたな。」
「そうですね。我々も信用が置けないと言われているのも新鮮ですね。」
「はあ??」
セイメイは少し恥ずかしそうに顔を隠すような動作をした。
「まぁあれだな。マスターと旅と言う旅をするのは初めてだしな。いいんじゃねーか?」
「そうですね。戦のとき以外のマスターもみてみたいですしね。」
すると、後ろからいるはずのないプレイヤーが顔を覗かせていた。
「聞きましたぞ!!マスター!では、このアイオリアが!!久々にお供いたしまする!!」
セイメイの表情が一瞬で曇る。
「お、おまえはダメだ。俺の指示を聞かないから!」
「ふふーん。ご心配されておられるようだが?マスターはすこぶる物の怪の類に弱いという情報が入ってきておりまするぞ?」
「おい、て、てめー!だれから聞いた!!??あ!!クリスのやろ~…!!」
「まっ!出所は企業秘密って事で、ひとつよろしく。」
「では、明日の夕方にでもいきましょうかね?」
「他の志願者がいたらどうするんだよ?」
「今回は私は外れませんよ?二つの旅にいけない罰を既に受けております。その上、ご叱責を賜ることをし、名誉挽回の機会を頂きたいと思います。」
もっともらしいことをいうアイオリアに返す言葉が見つからなかった。
「おお!!久しぶりアイオリアと旅するのか!わくわくしてきたな!!」
「懐かしい組み合わせでボクもちょっとワクワクしてきたな~!」
「では、そうしましょう。マスターセイメイ。」
「ったく…。もし長引いて防衛戦の連絡はどうするんだよ?」
「スカルドやクリスがそのポジションなんだから、二人に任せていいだろ?日付もあるしな。」
「ベルスさんたちも活躍するだろうし、セルにも連絡とれると思いますからそこはご心配ないかと?」
「はぁ~、お前らの元飼い主ガルヴァレオンと比較すんじゃねーぞ?俺はあんなに立派で、人間が出来ているわけでもねーぞ…俺。」
「大丈夫ですよ!」
「ったく…。今日は…俺は、落ちるぞ?色々疲れたわ。」
「そうですね?我々も落ちましょう。」
「久しぶりのマスターとの旅、興奮が冷めませぬぞぉぉぉ!!」
「ハイハイ…んじゃおやすみ。」
セイメイはシュンとログアウトしていった。
「アイオリア…。これも君の計算のうちなのか?」
ファウストが尋ねるとアイオリアはふざけた笑顔からまじめな顔になっていう。
「いや、あの方を死なすような旅はさせられない。」
「俺らじゃ心配か?」
カルディアがちくりという。
「そうじゃない。俺はあの人の刃でありたい。よくも悪くもね…。」
「君らしくもない。その破滅的な発言は現実からの反動か何かからかね?」
「まぁどう捉えてもらっても結構だがね、マスターは知らず知らずに茨の道を歩んでいる。それを少しでも軽減できるのであれば、俺は祭り上げた甲斐があったってものだな。」
「そうか…。ならばいいんだがな。」
ファウストが窓の外を見ると、アーモロトは朝を迎えようとしていた。
昇る太陽の光がファウストのメガネを反射させる。
太陽の光は夜空の色を赤く染めていった。





