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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト1 勇者爆誕(獣の大陸・南ベルデン地方編)
8/106

クエスト1-6 負けるものか(前編)

 


 特訓を続けて約3ヶ月。

 とうとう1ヶ月費やしても1レベル上がらなくなった俺と違い、トルカは順調な伸びを見せていた。

 トルカは魔法の形成練習もあるので毎日魔物を倒していたわけではないが、それでもレベルは8まで上昇。命中率も着実に上がっている。

 一方俺は一応毎日魔物を倒していたにも関わらず、レベルは1だけ上がった16。

 俺のレベル上げは諦めて、そろそろ次へ進むべきだろうか。




 それはさておき、今日も俺はトルカの練習に付き合っている。

 練習の様子を見学して、アドバイスできることがあれば行い、時に身体を張って魔法を受けたりする。

 いずれは魔法を使う敵も出るだろうし、俺自身も魔法における対処法を覚えなければならない。





 断じて俺がドMだからではない。俺にそんな趣味はない。




 無いって言ってるだろ!!




「……シンヤ、行くよ」

「よし、来い!」



「氷の枷を受けよ! フロスト!」



 冷気の弾が飛んでくる。




 フロストはダメージを与えつつ、動きを封じることができる。

 とはいえ、ダメージそのものは大したものではなく、足止めがメインだ。





 対峙する時は、とにかく足に被弾しないこと。足にヒットすれば動きが止められ、格好の的となる。






 被弾しないように右に左にとにかく跳んで避ける。




 がむしゃらに回避するだけではいずれ足場を失うので、そこにも気を配らなければいけない。






「おわっ!?」







 とか考えてたら被弾しちまった!! しかも左足! 身動きが取れねぇ!






「私の、勝ち……」






 トルカは誇らしげにフンと鼻を鳴らす。

 なんだか可愛らしい。



 トルカの口元は普段はマフラーで見えないのだが、それを抜きにしても感情は顔に出にくい。

 が、その分声の調子や仕草などに出てくる。



「どうだトルカ、フロストのコツは掴んだか?」

「……まあまあ」


 彼女は着実に進歩していた。

 仲間として頼もしい限りだ。


「そうか。で、どうする?まだ特訓するか?」

「ううん。今度はブリザー、やる」

「分かった。ブリザーを受けるのはキツいから、俺は見学させてもらうよ」


 そう言って、俺は適当な場所に腰を下ろし、トルカは特訓を開始する。


 ブリザーは氷魔法の初級魔法で、氷塊を相手にぶつけるもの、とトルカから聞いた。

 最近買った魔導書で覚えたそうだ。


 単純にダメージを出すならフロストよりこちらがいいらしく、トルカに言わせれば、形は適当でいいからこっちのが楽……らしい。

 ……正直その感覚の違いはよく分からない。



 それにしても魔法かぁ。俺も魔法使えたら楽しそうなんだけどなぁ……魔力0だもんなぁ……ステータスが上がってもそこと創造は不動だったし。

 一般的勇者スタイルは諦めて物理特化を目指すか。



 今後の方針を考えていると、トルカが寄ってきた。



「……シンヤ、レベル上げ、したい」

「レベリングか。よし、任せとけ」


 俺は立ち上がり、剣を抜く。


 トルカのレベリングには必ず俺が同行するようにしている。


 理由としては、彼女の耐久ではこの辺での魔物でも2発貰ったら沈みかねないからだ。能力値の合計はトルカの圧勝だが、耐久に限っては俺の方が上だからな。俺が注意を引き付け、その隙にトルカが仕留める。これが今の俺達の戦い方だ。





 ……………………








 ………………








 そして、そんな特訓の日々を繰り返すこと、さらに1ヶ月。異世界に来てからおよそ14ヶ月。





 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:17 職業:勇者

 体力:36 魔力:0

 筋力:30 敏捷:29

 創造:2  器用:20




 名前:トルカ・プロウン 種族:森の民

 属性:氷   レベル:10 職業:魔法使い

 体力:8  魔力:105

 筋力:2   敏捷:11

 創造:101 器用:16



 ついにトルカのレベルが10に到達した。ついでに俺のレベルも上がった。



 しかし、トルカはいつ見ても魔力と創造の成長率がぶち抜けてる。そんでもって成長速度も俺の比じゃない。

 俺と5、6歳しか違わないはずなのに、こんな馬鹿な……



 やっぱりかつての自分がもやし状態だったのがいけなかったのか。

 スカ成長も相まって完全にレベル詐欺だ。本来なら9相当だぞこれ。

 俺のレベルアップまでの必要討伐数はどんどん多くなってるのでこれ以上のこの近辺でのレベル上げはキツい。もう次の町に移ってしまおうと思う。



「ついに、ここまで来たか……これで、次の街に進む準備は出来た」

「……どこに、行くの?」

「森を抜けた先に町があるみたいだから、そこだな」



 トルカが聞いてきたので、地図を開いて場所を確認する。

 えーっと、名前は……カルネリアか。



「必要な物はすでに買ってるから明日には出発できそうだけど、どうする? やり残した事とか無いか?」

「うーん……」



 トルカは考え込む。



「取り敢えず酒場で魔核の換金をしに行くか」

「……うん」





 ……………………









 ………………






 酒場にやってくると、ウルツの姿を発見する。彼と会うのも今日が最後だろう。


 そういえば、トルカが仲間にになってからはご無沙汰だったな。




「おっす。1ヶ月ぶりくらいか?」

「そうだね。おや、そっちの子は?」



 トルカはウルツの姿を確認すると、俺の後ろに隠れた。

 まあ彼はフライフェイスなので気持ちは分からなくもないが……


「俺の仲間さ。トルカって言うんだ」

「そうか。初めまして、ウルツです。どうぞよろしく」


 ウルツは目線を合わせて挨拶する。


「……トルカ。よろ、しく……」

「うん、よろしくね」



 怯えた様子だったが、トルカは無事挨拶を交わした。




 しかし、今日のウルツは一段と大荷物だ。

 どこかへ行くのか?


「そういえば、今日は随分大荷物だな。何かあるのか?」

「実は、これからこの街を出発する予定なんだ。僕は元々ある事件の調査のためにここに来たんだけど、その事件の犯人が東へ向かった、という情報が入ったから、東の方へ渡るつもりだ」



 マジか。さよならを言うつもりが、先に言われるとは。



「そっか。今まで世話になったな。本当にありがとう」

「こちらこそ、話ができて嬉しかったよ。こんな見た目だから、怖がられることも多くてね。僕も感謝しているんだ」

「まあ、その……なんだ。お互い、頑張ろうぜ」

「ああ。では、また会おう」


 握手を交わし、ウルツと別れる。



 この街で接触した最初の冒険者にして、先輩として色々アドバイスをくれたウルツ。

 旅となれば出会いと別れはつきものだが、それでも少し寂しい気持ちになる。



 そんな気持ちを振り切ってウルツを見送ると、魔核の換金を済ませる。




「おい、そこのお前」



 ちょうど換金を済ませたところに、誰かが威圧的に声をかけてくる。


 振り返れば……誰だこの人相の悪いおっさん。なんか偉そうな態度だし。

 後ろにはチャラそうな男とシーフらしき女。


 いや、おっさんだけどっかで見たような……?





「何でしょう?」


 なるべく刺激しないように注意して言葉を選ぶ。

 出来れば余計な喧嘩は避けたい。


「お前か? 勇者の剣を引き抜いた勇者とかいうのは」


 誤魔化そうか悩んだが、わざわざ無名の俺に声をかけた時点で特定されてると見ていいだろう。

 すっとぼけても無駄っぽいし、ここは大人しく名乗り出ておくか。


「ええ、そうですが何か?」

「その剣を頂いてやろう。見たところ、お前はまだ新人だな。そんな奴にそんな大層な武器を持っていても仕方がない」

「そうそう、不相応な武器を持ってると身を滅ぼすことになるわよ、坊や?」



 何か余計なガヤまで加わったぞ。なんだこいつら?


 正直この剣自体は曲者っぽいので押し付けてやりたい気持ちも無くはないが、こんな高慢ちきな野郎共にくれてやるのはお断りだ。

 それに、レベルアップの上昇値がフイになるのはいただけないが、斬れ味は一級品。奥の手というものはあった方がいい。


 仮に譲るとしてもタダはねぇぜ。



「わr」

「お前なんかに、やらない!!!」


 俺の言葉を遮ってトルカがNOを突きつける。それもすごい剣幕で。


「……と、トルカさん?」


 雰囲気がいつもと違いすぎる。


「あらぁ?誰かと思えばあの時の役立たずの小娘じゃなぁい?初心者につけ込んで何をするつもりかしら」

「……!!!!」



 トルカは女を睨みつける。

 どうやらこいつらと因縁があるらしい。


「彼女は俺がスカウトしたんです。余計な事は言わないで頂きたい。それより、剣の事ですが、これは俺が引き抜いた剣です。タダであげる訳には……」



 今にも魔法を放ちそうなトルカを制し、俺は話をつける。出来たばかりの仲間をディスられたとなれば俺としても思うところはあるが、落ち着け。ここはクールになるんだ俺。



「ハァ? 何偉そうに言ってるわけぇ? 貴方なんかに選択肢が用意される訳無いでしょう?」

「そうだぜ! 雑魚冒険者は俺達マイティドッグの言いなりになってろっての!」


 おーおー、吠える吠える。

 この程度なら俺は耐えられる。が……


「黙れ!!」

「落ち着けトルカ、気持ちは分かるがここで魔法は撃つな」

「シンヤ!!!」


 まずい、トルカがヒートアップしている。


「この剣は、シンヤのもの!! そんなに欲しいなら、トルカ達に、勝ってからにしろ!!」

「おいちょっと待てトルカ!」


 やばい、事実上の宣戦布告だ。


 勿論向こうがそれを理解していないはずが無く、マイティドッグの連中はニヤリと笑う。




「言ったわねぇ?」

「おーおー、やっちまったなぁ? ワーテル最強のパーティであるマイティドッグに宣戦布告するなんてなぁ!? 親分、聞きましたか? こいつら俺達に勝てると思ってるみたいっすよ! やっちまいます?」



 後ろにいたチャラそうな男がイキリ散らしてくる。

 側から見りゃお前も腰巾着にしか見えないのによく言えたものだ。



「私達マイティドッグの名を知らないわけじゃないでしょうねぇ?貴方達無名の、それもそこの役立たずの小娘のハンデを背負ったパーティで勝てるとでも? まぁ、もう逃がさないけどねぇ?」



 いやマイティドッグの名なんざ今聞いたばかりだっての。


 それに昔のことは知らんが、今のトルカは充分に役に立つ。こいつらが油断しているなら1発ぶちかませることも……

 待てよ、もしかしたらこれいけるんじゃね?




「……いいでしょう。そっちが勝ったらくれてやります。その代わり、俺達が勝ったらたんまり金を頂きますよ」



 言ってしまった。

 もう後には戻れない。



「フン、馬鹿な奴だ。いいだろう。そいつに乗ってやる。表へ出ろ。ポルメ、ヴァシ、行くぞ」

「ケツまくって逃げるなら今のうちだぜぇ?ま、逃がさなぇけどな!」

「命までは取らないから安心なさい?ま、ボコボコにしてあげるけどね」






 決闘のようなものか。穏便に済ませるつもりだったが、こうなりゃヤケだ。やってやる。



 挑発的な台詞を吐きつつ先に出た……えーと、マイティドッグの面子を見送り、トルカの方を向く。


「あいつらとは面識があるのか?」

「前の、パーティ」



 なるほど、それでさっきから殺意ギラギラな訳だ。




「トルカ、あいつらがどんな戦法を取ってくるか分かるか?」


 前のパーティだというのなら、戦略が分かるかもしれない。

 情報は多い方がいい。


「えっと……横の2人が突っ込む。やられたら、真ん中のアイツが来る……」


 うわ自分はなるだけ戦わないタイプかよ。いや一気に来る可能性が少ない分楽なのか…?


 俺はしゃがんでトルカと目線を合わせ、語りかける。


「トルカ、あいつらに勝ちたいか?」

「うん」


 トルカは杖を握り締め、頷く。


「だったら冷静になれ。こういう時こそいつも通りにやるんだ」

「……」

「俺も負けるつもりは無い。だが、俺の力だけでも、トルカの力だけでも勝てない。だから、力を合わせる。そのためには、先走っちゃ駄目だ」

「……うん」


 トルカが少し落ち着きを取り戻したように見える。


「よし。トルカ、牽制攻撃は分かるか?」

「……?」


 トルカは首を傾げる。




「えーっと、連続で魔法を飛ばしてくる相手には、攻撃が当たりにくいとしても近寄りたくないだろう?」

「……うん」

「そんな感じで、当たったらそこそこ痛い程度の威力の魔法をたくさん撃って欲しいんだ。よく狙う必要はない。当たったらラッキーって感じで十分だ。いいか?」

「…………うん」

「よし、頑張ろう。いけそうな時は大きいのをかましても大丈夫だ」

「……分かった」


 今の説明で分かったかどうかは怪しいが、ここはトルカを頼る他無い。



 作戦としてはこうだ。

 トルカの魔法で動きを制限しつつ、勇者の剣を使って各個撃破を狙う。俺が向こうの動きを止めれたらトルカが撃破してもらう。


 クローラーをあっさり切断できたなら人間なんざどうってことはないはずだ。しかし油断したら人殺しになっ……ええい考えるな考えるな、こっちだって負けてはいられない!


 作戦というにはあまりに雑だが、今の俺の脳ではこれが限界だ。



「しかしあんたも無謀だな、マイティドッグに喧嘩を売るとは。あいつらはこの街でも最強クラスの冒険者だ。といっても初心者狩りばっかやってるセコい連中だがな。ま、勝ったら飯くらい奢ってやるよ」

「ええ」


 2本の槍を携えたキザっぽい冒険者の忠告? 煽り? まあなんでもいいや。俺達は外へと出る。






 トルカが先走った感じは否めないが、俺だって少しばかりイラっときていたところだ。ここまできたらやってやる。

 特訓の成果を試すにはいい機会だ。


 覚悟しやがれ!



ヴァシ・バイル:虎の威を借る狐なチャラ男。実はレベル10に届いてない。

ポルメリア・アエリア:ワーテルにおいては一般的なレベルの冒険者。強きに媚び、弱きを見下す。美人ではあるが化粧が濃い。

ラガード・ワイラー:かつては別の町を拠点にしていた冒険者。パーティから追放された結果、初心者狩りを繰り返す等堕落した。


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