クエスト6-10 討伐戦(後編)
「はあっ!」
「おらぁ!」
飛び交う斬撃、響く獣の唸り声。
俺とタンデとリズが相対するのは、狼の魔物ガレル。
俺とタンデがガレルを引きつけつつ攻撃を繰り出し、リズが魔法を放つ。
それらを繰り返し、ガレルを追い詰めつつあった。
レベル13の冒険者が3人いれば十分、と覆面の冒険者、ダマスさんは言った。
若干すばしっこいものの、攻撃も盾で流しきれるし、厄介な状態異常や魔法も飛んでこない。
やたらとしぶといので多少の消耗してはいるが、このまま抑え込めるだろう。
「2人とも、下がって!」
「分かった!」「おう!」
「命与え奪う水よ、今ここに集い、塊となりて捕縛せよ! スライム・ショット!」
後方でリズの持つ杖が煌き、粘り気のある水の塊を発射する。
文字通りスライムのような水の塊はガレルの足に命中し、トリモチのようにへばりついて身動きを封じる。
「ダブルスラッシュ!」
ガレルの動きが鈍ったところにタンデがダブルスラッシュを放つ。
ガレルは動く足でかわそうとしたが、タンデの方が速い。
「遅いぜ!」
タンデが2連撃を叩き込み、
「はぁっ!」
そこへ俺が追撃し、
「ストリーク!」
続け様に攻撃を受けたガレルだったが、それでもまだ動いていた。
「こいつ、まだ生きてるのか!?」
「任せて。命与え奪う水よ、今ここに集いて立ち塞がる魔を泡沫のごとく散らせ! ユナイト・バブル!」
リズは輝く巨大な泡を放ち、ガレルへ飛ばす。
泡は漂うようにふわりとガレルに近付き、激しい爆発を起こす。
飛び散った雫が雨のように落ちる中、ずぶ濡れになったガレルは震える足で立ち、遠吠えをしようとして力尽きた。
「ま、ざっとこんなもんだな」
タンデがガレルへ歩み寄り、短剣を握って剥ぎ取りを始める。
「ふぅ。ユナイト・バブルはちょっとやり過ぎたかも」
「しぶとかったし、それくらいでいいんじゃないか?」
「ボクの出る幕が無かったのデス」
剥ぎ取りを手伝いながら話し込んでいると、少し離れた場所で青い光が見えた。
ズズロウラがクラスタードレインを使った合図だ。
「向こうも追い詰めているみたい」
「よし、急いで片付けて加勢しよう」
「任せとけ!」
「素材の保管はボクにお任せデス!」
手早く解体を済ませて魔核と素材を入手すると、合図のあった場所へと走る。
……………………
………………
薄暗いクネパスの森をタンデを先頭に駆け抜け、ズズロウラを探す。
戦っている音は聞こえるが、姿はまだ見えない。
「あそこデス!」
乱立する木々の中から、ピスがその姿を見つけた。
翼を持った大型の黄色い魔物、ズズロウラ。
気付かれる前に矢を撃ち込んだ後、全員で乗り込む。
「はぁっ!」
ズズロウラ向けて放った斬撃は、槍を持った鉄仮面の兵士に受け止められる。
「ドル!」
「ドルー!」
「こいつは……!」
洞窟の帰りで見た奴と同じ……!
「そこをどけっ!」
槍を跳ね上げて斬りつけるが、奴の身体は液体のように変化し、何事も無かったかのように元に戻る。
くそっ、こいつも物理無効かよ!
「ソード・スパイン!」
その時、鍔迫り合いになっていた鉄仮面の兵士の胴体に光の荊が絡みつき、巻尺を戻すかのごとくメアシスさんが一気に距離を詰める。
「カースド・アイ!」
直後、メアシスさんの瞳が真っ赤に輝き、俺の眼前にいた鉄仮面の兵士が見る間に石化していく。
石化した鉄仮面の兵士を足場に跳躍し、もう一体の兵士に鞭のように変化した剣をしならせて巻きつけ、先程と同じように赤く輝く瞳で石化する。
「こちらは私が対処します、貴方達は向こうを!」
「はい!」
メアシスさんにこの場は任せて、ズズロウラへと向かう。
巨大なホースのような口と、鳥ともドラゴン……いやワイバーンともつかないシルエット。
何とも言えない見た目のズズロウラは、傍から見ても分かるほどに消耗していた。
そんなズズロウラを機敏な動きで追い込むのは、蜥蜴の獣人の姿となったロッソさん。
「援護します!」
「オレも混ぜろよ!」
人間に近い姿へと戻ったロッソさんとタンデが斬り結ぶ中を、弓を使って縫うように射撃する。
仮にも大型な上、素早く動き回る2人の邪魔になる事を考えた結果、遠距離からの攻撃に徹することにした。
「はっ!」
的がデカいので、当てる事そのものは苦労しない。
だが、この手の敵は闇雲に当ててもダメージが小さい。
加えて前衛2人があちこち動き回っている状況だ、誤射しないよう慎重に狙わなければ……
「終わらせる……烈火!」
……という俺の思惑を打ち崩すかのように、ロッソさんの炎を纏った斬撃が炸裂し、ズズロウラは倒れて動かなくなる。
もしかして援護する必要無かったんじゃ……
「片付いたな」
ロッソさんが武器を収める。
「んだよ、オレ達来た意味殆ど無ぇじゃねーかよ。つまんねぇ」
「まあそう言うなよ」
「そうだよ、ぼくなんか魔法唱える前に終わっちゃったし」
「意味ならありましてよ。人型が回復するせいで中々しぶとかったのですが、貴方達に意識が向いたおかげで楽に片付きましたわ」
メアシスさんも武器を収めて戻ってきた。
彼女のいた方向を見ると、砕けた石の塊がある。
「そういえば、あれは何の魔物なんですか? 全く見覚えが無いのですが……」
「でしょうね。野生下ではこんな魔物生息していませんわ。文献によれば、名前はフラッドルーパーズだったはずです」
「フラッドルーパーズ……?」
うーむ、聞き覚えがないな。
フラッドルーパーズ……水の兵隊?
「魔王軍が従える魔物の一種で、姿形を変える特性を持っていますわ。性質上物理的な攻撃に強いですが、形を持った魔力という身体構造を持つため、魔力吸収や変質に弱い、といった特徴を持ちます。まあ、こうれは属性の要素を強く持った不定形の魔物に共通するものではありますが」
「魔王軍が従える……ということは……」
「恐らく、これらは魔王軍の差し金、ということですわね」
ということは……本格的に打って出てきたのか……? いや、それにしては小規模が過ぎるか。とすれば陽動か? それとも位置の炙り出し?
いずれにせよ、厄介な事になった気がする。
「おいシンヤ! 解体すっぞ!」
「悪い、今行く!」
タンデに呼ばれ、ズズロウラの解体及び剥ぎ取り作業へと向かう。
……………………
………………
解体を終え、全員で素材を分配する。
ダマスさんのパーティも解体を開始して少しした辺りで合流した。
無論メインで頑張ったメアシスさんとロッソさんが1番取得量が多いのだが、図体が図体なので俺達にもそれなりに回ってきた。
「しっかし強いと噂には聞いていたが、まさか合流する前にズズロウラを虫の息まで追い込むたぁな。たまげたぜ……」
「なんかよく分かんなかったけどよ、ズズロウラって強いのか?」
「そりゃあそうだ。大型の種族な上、やみくもに人数を重ねても倒せない性質を持つ魔物だ。そいつをねじ伏せるとなりゃあ、レベル20相当は必要だぜ?」
「ほーん……」
ダマスさんとタンデの会話の傍、ズッカにメアシスさんが歩み寄る。
「ご苦労様でした。素晴らしい調合の腕前と徹底した補助姿勢、素晴らしかったですわ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
「ええ、それはもうパーティの一員として加えたい程ですわ」
「えっ!? あ、いや、その……か、からかうのはやめてくださいよぉ」
「からかってなどいませんわ。私としては、考えてくれると嬉しいのですが」
休憩と雑談の最中、足音が聞こえてきた。
「ここで救世主登場〜さーて、えーと……名前忘れたからいいや、なんとかの魔物も俺にかかれば……あれ?」
現れたのはデルタポートの酒場で会った、妙な既視感を覚えたフードの冒険者。
最初の馬車に乗らなかった奴が今更何しに来たんだ?
「どこの誰だか知らないが、ズズロウラならもう倒したぞ」
そう言って、徹底的に剥ぎ取られたズズロウラの残骸を指す。
「うげっ……! あ、いや……オホン、てめぇ俺の手柄を」
「誰だか知らねぇけどよぉ、オレぁちょいと暴れ足りねぇんだ。こっから先てめぇが何て言うかによっては、お前をボコっちまうかもなぁ?」
「おいおい待て待て猫助」
短剣をチラつかせ、ドスの効いた声で近寄るというチンピラムーブをかますタンデの肩をダマスさんが掴む。
「あ? 何だよおっさん」
「俺も仲間に入れてくれよぉ〜」
うわぁ、ダマスさんまで乗っかってきた。
背中の大剣を引き抜いて見せびらかすように持つその姿は、もはやホラー映画の殺人鬼か何かだ。
「ナメやがって!」
「へっ!」
フードの冒険者はボウガンを構えようとするが、それよりも早くタンデが短剣を投げて後方へ叩き落とし、怯んだところをダマスさんが転倒させて喉元に大剣を突きつける。
「うぐっ……」
「ゴミ漁りの分際で調子に乗るんじゃねぇ。死にたくなかったらとっとと失せやがれ」
「くそっ……覚えてろ!」
お決まりの捨て台詞を吐いて、フードの冒険者は走り去っていった。
「やれやれ。たまにいるんだよなぁ、ああやって大物のこぼれ狙う奴」
ダマスさんは溜め息を吐いて武器を収める。
「あの冒険者……」
「おや、あのゴミ漁り野郎をご存知ですかい? お嬢さん」
「いえ、そういう訳ではありませんが……」
「貴女には関係の無い奴ですよ、あんな底辺は」
メアシスさんは何か引っかかる、といった顔つきで去っていった冒険者を見つめていた。
よく分からないが、酷い言われようだな……
「ゴミ漁りって……」
「見たことないか? 黒髪の。たまにいるんだよ、ああいう大物のおこぼれを狙う奴」
「でも有用なものなんて粗方取り尽くしましたよ?」
「確かに今回は結構取ったが、それでもこの図体だ。残っているといえば残っている。小物をちまちま狩るよりは良い値段で買い取ってくれるだろう。それに……」
「それに?」
「こいつを倒したぞ、という嘘自慢にも使える。熟練には通じんが、素人くらいなら騙せるだろう」
虚構の実績による自慢ねぇ……そんな事やらないで地道にレベル上げてきゃあいいと俺は思うんだけどなぁ。
「処理は終わりましたし、そろそろ戻りましょうか。ズズロウラを倒した以上、長居は無用ですわ」
冒険者達は、森の出口へ歩き出した。
……………………
………………
入口付近まで戻ってきた時、ピスが足を止めた事に気付く。
「ピス、どうした?」
ピスは答えないまま、妖精態へと姿を変える。
「む……むむむ……むむむむむ!!」
「ピス?」
唸りに唸ったピスのモニターに、レーダーマップのようなものが映る。
ここから東に少し行った先に反応があるが……あれ、この位置ってまさか……ペペロ村?
「シンヤ様、何か異様な魔力を検知したのデス! 放っておくと大変な事になってしまうかもしれないのデス!」
「分かった! ピスは応援を呼んできてくれ!」
「がってんデス!」
急いで森を抜け、ペペロ村へ駆け出す。
「シンヤ、どうしたの?」
「ペペロ村で魔物の反応があったらしい。俺は今から向かう」
「待てよ、オレも行くぜ!」
「僕も行くよ。放っておいたら大変だからね」
「もちろん、ぼくもね」
「分かった、ありがとう」
「他の人も呼ぶ?」
「それはピスに任せているから大丈夫だ」
「分かったよ」
タンデ達を引き連れ、4人でペペロ村に向かう。
突入した村の中で見たもの。
それは、逃げ惑う人々。
恐怖のあまり動かない人々。
半壊した家屋の数々。
そして、かつてこの村で出会った赤髪の少年ベレンが、無惨にも食い散らかされている姿。
彼の近くには、彼とつるんでいたグルケとランシアがいる。
彼らと俺達の眼前にいるのは、上半身だけとなったベレンを咥え、口元を人間の血で濡らした、明らかに世界観の違う見た目の魔物。
何だ、こいつは一体何なんだ!?




