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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト6 港町動乱(集の大陸・イェルデン島編)
76/106

サブクエスト8 転

この回はサブクエスト6の続きです。

 




 デルタポートに到着したピスは、冒険者ギルドでギルドカード更新と外貨両替を済ませた後、シンヤ達を探す。


 ギルドにいないと知れば宿を、大通りを、裏道を、とにかく隅から隅まで、2ヶ月間に渡りとにかく探し続けた。



 しかし、彼らはそこにいない以上、見つかるはずもない。



 それどころか情報の欠片すら手に入らず、何の成果も挙げられない日々が続いていった。






「うーむ、これからどうするべきデスかねぇ……」




 デルタポート到着から2ヶ月経ったある日、船着場のほとりでピスは思案していた。



 ここまで探して見つからないなら調査地域を変えるしかない、とピスの中で結論は出ていた。

 だが、戦闘能力が著しく乏しい彼にとって、その手段は簡単に取れるものではなかった。


 1人旅となれば魔物の襲撃に耐えられず、他の冒険者に同行するにも自衛手段すら殆ど無いため足を引っ張る可能性が高い。

 妖精態を利用すれば荷物持ちやサポーターとして役割を得られるが、売られた経験からその姿を晒すのには抵抗があった。




「こんな時、シンヤ様ならどう対処するのデスかね……」




 ピスはシンヤと過ごした日々を思い出す。

 暫し目を閉じ、考え込むような姿勢を取った後、ピスはポンと手を打つ。




「弱いなら、特訓をすればいいのデス!」



 ピスは両手を高く掲げ、船着場を離れた。



 ……………………




 ………………




 デルタポートの北側街門近くの草原。


 街から近すぎるために魔物もいないその場所に1人、ピスはフォースワンドとマジックミサイルの魔導書を手に佇んでいた。


「えーと、マジックミサイルの使い方は……ふむふむ……」


 街の外壁を背に、ピスは魔導書を読み込む。

 穏やかに吹き抜ける風をBGMに、ピスは次々とページをめくっていった。





「使い方は分かったのデス。それでは早速……我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!」



 ピスはフォースワンドを掲げ、高らかに叫ぶ。




「……あれ?」



 しかし、何も起こらなかった。



「うーむ、何が原因デスかね……とにかくもう1回デス! 我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!」



 もう1度叫ぶが、やはり何も起こらない。



「こうなったら何度でも繰り返すまでデス! 我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!  我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル! 我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!」



 彼の詠唱は、日が暮れるまで何度も何度も繰り返された。

 魔物の活動が活発化しやすい夜は流石に宿屋に戻ったが、特訓は閉門ギリギリまで続けられた。




 ……………………





 ………………




 それから、ピスは毎日マジックミサイルの練習を行った。

 取らなくても平気だが毎日取っていた食事も取らず、来る日も来る日もマジックミサイルを唱え続けては、何も起こらない日々が続く。






 彼の努力が実を結んだのは、特訓を開始してから2週間後だった。



「我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!」


 詠唱の後、白い魔力の弾が杖の先から飛んだ。

 1m前後飛んだだけで消えてしまったが、確かに魔法は成功したのだ。



「おお……おおお…………やったー!」



 ピスは飛び上がり、全身で喜びを表す。



「よーし、もっともっと特訓して、皆様のお役に立てるようになるのデス!」



 ピスは再び、詠唱を繰り返す作業に入っていった。






 特訓開始から2ヶ月が経過した頃には、ピスは少し遠出して魔物を討伐していた。




「くらうのデス! 我が魔力よ、砲弾となりて貫け! マジックミサイル!」



 ランドフィッシュと呼ばれる、蜥蜴と魚が混じった見た目の魔物を遠くからピスは攻撃する。



 特訓の結果、マジックミサイルの飛距離は20m程にまで達し、ある程度の追尾性も獲得。

 火力が低い事に目を瞑れば、攻撃手段としては十分な領域まで引き上げられていた。




 その結果編み出されたのは、遠距離からの狙撃。



 草の茂みに身を隠しながらバイタルサーチで居場所を捕捉し、遠くから狙い撃つ。


 威力の低さは数で補い、ランドフィッシュを倒す。




 このようにしてピスは周辺の魔物を倒し、レベル上げを行なっていた。





 時折街でシンヤ達の捜索を行うこともあったが、ピスのレベル上げは約4ヶ月にわたって続けられた。

 人間態だけでなく妖精態でもマジックミサイルを使えるか試したところ使用できなかったため、妖精態でもマジックミサイルを扱えるよう特訓もした。







 ……………………






 ………………





 そして4ヶ月後、ピスの特訓と捜索は……






 名前:ピーステール・フォリア 種族:森の民 階級:緋銅

 属性:風 レベル:1 職業:吟遊詩人

 体力:35 魔力:130

 筋力:5  敏捷:25

 創造:35 器用:25




 何1つとして結果へと繋がらなかった。


 厳密には人間態によるマジックミサイルの射程と操作性が1.2倍程に増えたが、レベルは一切上がらず、仲間もその情報も見つからず、妖精態でマジックミサイルを使えるようにはならずと、事態の進展には一切繋がらなかったのだ。




「むむむむむ……」





 ある日の朝、ピスは馬車の停留所へと足を運んでいた。

 デルタポートを出て、別の場所を捜索するためである。




 ピスの中ではここに残留しても無意味と結論が出ており、これまでの特訓も場所を移すためのものであった。

 目に見えた収穫があってから移動しようとしたが、停滞する状況に対する我慢の限界の方が先に来てしまったのだ。



「この辺りは村が多いようデスね……ぐるりと1周してみるデスか」




 ピスはは東端にある村へ行く馬車に乗り込んだ。




 ……………………






 ………………





 それからピスは、馬車を乗り継いで様々な村を訪れた。


 商人や冒険者に紛れて馬車に乗り、行く先々で歌を披露しては、シンヤ達の情報を集める。




 歌に関してはどこの村でも概ね好評で、それなりにおひねりを貰い懐を潤すピスだったが、情報に関してはどこの村でも成果無しであった。



 村々を巡る中でピスは徐々に焦りと寂しさを募らせ、知らないうちにその感情は歌にも篭り、より臨場感のあるものになったのは別の話。











 そうして時は過ぎていったある日。


 ピア村行きの馬車の中に、ピスは見知った顔を発見する。





「およ?」



 メアシスとロッソ。


 かつて指輪状態のピスを発見した、深紅のベレー帽を被り、同じく深紅のドレスとコートを合わせたような服を身に纏った女剣士と、緑のメッシュ混じりな赤髪オールバックに緑色の鱗を顎髭のように備え、蜥蜴のような尻尾を生やした、2mを優に超える大柄な男戦士の2人組である。




「ごきげんよう。貴方もピア村に?」

「ええ」



 メアシスはピスに気付くと、挨拶を交わす。

 ロッソは腕を組んで目を閉じ、仮眠を取っていた。




「あら……貴方、どこかでお会いしまして?」



 と、メアシスは不思議そうな顔でピスを見る。



「ほう……人間態のボクを見破るとは、貴方中々の慧眼デスねぇ!」



 メアシスはあくまで疑惑を向けただけだが、それを見抜かれたと勘違いしたピスは彼女の前で妖精態になって見せた。



「貴方は、あの時の……」

「ええ。ボクはピーステール・フォリアと申しますデス」

「そういえば、名乗ってはいませんでしたね。私はメアシス・ラベンディア。こちらの蜥蜴の草原の民はロッソですわ」



 お互いに挨拶を終えた辺りで、馬車は動き出した。





 ……………………







 ………………






「なるほど、混沌の魔物に偽物の勇者デスか……」

「ええ。この大陸……いえ、この世界を脅かす可能性のある存在ですわ」




 移動の最中、ピスはメアシスから混沌の魔物と偽物の勇者に対する説明を受けていた。



「私達はそれらの調査ないし討伐を目的として、各地を巡っていますの」

「なるほど……」

「新しい人員、特に後方支援を得意とする方を引き入れたい、というのもありますが……そういえば、シンヤ・ハギという殿方が貴方を探しておりましたわよ」


 突如聞かされた探し人の名に、ピスは思わず目を見開き身を乗り出す。


「シンヤ様が!? どこで会ったのデスか!?」

「デルタポートですわ。恐らく、そこを拠点にしているのでしょう」

「そんな……デルタポートは散々探したはずデスのに……」

「行き違いになったのでしょう。過去の事を悔やんでも事態は解決しませんわ」

「むむむ……そうデスよね……およ?」

「あ、あれは……!?」



 ロッソが目を覚ますと同時に、御者が声を上げた。




「どうかしまし……ああっ!?」



 3人が御者席の背後から前方を確認すると、目的地であるピア村から煙が上がっていた。


「村が……燃えてるのデス!」

「い、いかが致しましょう皆さん!?」

「そのまま向かってくださいまし!」


 困惑する御者にメアシスは指示を出し、ロッソは双眼鏡を取り出す。


「チッ、ズズロウラか……」

「私達だけでは対処は難しいですわね……」

「応援の手配をしろ」

「もうやってますわ! ですが、今出してもすぐには来なくってよ!」



 メアシスはそう言いながら、依頼書を一筆したためる。



「貴方、私達を下ろしたらこれをデルタポートに届けなさい。見せれば分かるはずです!」

「わ、分かりました!」




 メアシスは書き上げた依頼書を御者に手渡すと、ピスに目を向ける。


「貴方も私達と一緒に来てもらいますわ」

「でもボクは荷物持ちくらいが限度デスよ?」

「それだけ出来れば十分ですわ!」





 ……………………





 ………………





 3人がピア村に着くと、村のあちこちから火の手が上がり、煙が立ち込めていた。

 燃え盛る瓦礫から現れたのは、鳥と飛竜を合わせたような身体に切り詰めた巨大なホースのような口を持った、全長17m程の黄色い魔物。



「皆様、落ち着いてください! ひとまず教会の中へ逃げ込むのです!」




 神父が逃げ惑う村人達を教会へと誘導する。

 3人はその村人達の中に1人、違和感を覚える人影を見た。




「教会へ行け。こいつは俺が対処する」

「待ちなさい、いくら貴方でもズズロウラを単身で討伐なんて……」

「そこの緑髪に戦闘能力は無い。お前が来れば村人は死ぬぞ」

「……分かりましたわ。必ず生き延びなさい。これは命令ですわ!」

「……くだらん」

「ピーステールと言いましたわね。貴方は私と共に教会へ来てもらいますわ!」

「がってんです!」



 ピスとメアシスが教会へ駆け込むのを横目で確認すると、ロッソは片刃の剣を抜く。





「久々に邪魔が入らず暴れられる」




 その言葉と共にロッソは目を見開き、全身に力を込める。

 同時に彼の全身を赤黒い電気のようなオーラが駆け巡り、骨格も変化し、蜥蜴の特徴が色濃く出た獣人へと変化した。






 ロッソはぐっと足に力を溜めて跳躍し、ズズロウラへと突撃する。





 ……………………






 ………………



「失礼致しますわ」




 一方、メアシスとピスは教会の中へと立ち入っていた。


 村のものにしては比較的広い教会の中では、避難してきた村人達が身を寄せ合っていた。


「見透す眼よ……バイタルサーチ」


 ピスは小声でバイタルサーチを発動し、メアシスは村人達をを見回す。



「なんということだ……」

「おら達の村が……」

「怖いよ……かーちゃん……」

「こんな大きい魔物が来るならこの日に商売には来なかったのに……!」

「皆様、教会にいれば安全です、落ち着いてください!」



 メアシスは怯える村人達を必死に宥める女神官を見て、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「メアシス様……」

「……ええ、私も同じ推測ですわ。厄介ですわね……」


 ピスはメアシスに耳打ちすると、彼女はため息混じりにそう返事した。



「ぼ、冒険者の方ですか!? こちらは大丈夫です、外の魔物を止めてください!」


 メアシスとピスの存在に気づいた女神官は、2人に向けて懇願するように叫ぶ。



「そちらは私の連れが食い止めていますわ。後で加勢しますが、その前に……」



 メアシスは腰に備えた鞄から拳大の大きさを持つ無色の宝石を取り出し、詠唱を行う。




「聖なる輝石よ、我が意に従い悪しき魔物の化けの皮を剥がしたまえ! セイクリッド・ミラー!」


 刹那、メアシスの手に握られた宝石は白く輝き、教会内を照らす。




「あぎゃー! 眩しいのデス!」

「ま、眩しい……」

「冒険者様、これは一体何の真似ですかっ……!?」

「荊よ、我が意に従い悪しき魔物を捕縛せよ! ソーン・バインド!」



 メアシスは女神官の問いに答えず、左手の平から4本の荊を呼び出し、行商人と女神官を捕縛する。




「セイクリッド・ミラーの光は真実を映し出す鏡……さあ罪無き人々に隠れた悪党よ! 真なる姿を見せなさい!」

「あ……ああ……ああああああ!!」

「おや……もうバレてしまいまシタカ……」





 捕縛された女神官は突如身をよじって苦しみ、行商人は不敵な笑みを浮かべる。




「勇者を誘き出すための呼び水のつもりでシタガ、こうも早く邪魔が入ルトハ、いささか不運でスナァ。しかし、その数で状況を打開する事はできまスカナ?」

「!!」



 光が収まった時、そこにいたのは皮膚の一部がアイスクリームのように溶け、四天王マジクスの配下フラッドルーパーズが持つ鉄仮面や鎧が露出した行商人と、身体の一部が巨大なカマキリのような姿に変貌し、虚ろな目をした女神官だった。

 両者はいずれも拘束を解き、メアシスとピスと向かい合う。



 安全だったはずの教会はたちまち地獄と化し、村人達は悲鳴を上げる。


 ある者は窓からの脱出を図り、ある者は地下通路を探し、ある者はただただ泣き叫ぶ。



「クカカカカッ、やはり悲鳴は心地が良いでスナァ! ここで増援をひとツマミ……」


 行商人は札の付いた3枚の石版を取り出し、札を剥がそうとする。


「光よ! シャイニング・ショット!」

「ぬっ!?」


 それよりも早く、メアシスが射出した魔力の剣が行商人の腕を斬り裂き、石版を腕ごと落とす。




「ぬおおおお!」




 それに呼応してピスが行商人の元へ走り、落ちた石版を奪い取る。




「おやおや、これはしてやられましタナァ。仕方ないでスネェ……お行きナサイ、デミコープス!」

「う……うう……あああああ!!」




 顔と上半身の左半分を残してカマキリの魔物に変異した女神官は、苦しむ様子を見せながらピスに襲いかかる。



「おわーっ!? これは渡さないのデス! 歪みし時空に……ボックス!」



 攻撃をかわしつつ石版を上に放り投げ、ピスは妖精態に変身。

 すかさずボックスを短縮詠唱で発動し、落ちてくる石版を自身の身体にしまい込んだ。



「ふべっ!」



 通常の4倍の体躯のボックス形態から戻る前に地面に落ちたピスに狙いを定め、デミコープスは鎌へと変化した右腕を振り上げる。




「ソード・スパイン!」




 鎌が振り下ろされる瞬間、メアシスは剣を銀の荊へと変化させ、鎌に巻き付けて動きを封じた。




「貴方、戦闘が不得意な割に大胆な行動をしますのね!」

「そうは言っても、見ているだけにもいかないのデス!」

「ふふ……そういった心構え、嫌いではありませんわ。こちらは私が受け持ちます! 貴方は村人の脱出の手伝いを!」

「がってんデス!」

「そう簡単には行きまセンヨ?」



 斬り落とされた腕をどろりと再生し、どこからか槍を生成した行商人がピスに襲いかかる。


「うぉっと!?」



 ピスは人間態に変身し、フォースワンドで応戦する。



「大丈夫かあんちゃん!?」

「ボクは平気デス! 今のうちに早く脱出を!」

「それが、窓も壊れないし開かないし、地下通路への扉も閉じられていて出られないんだ!」

「な、なんデスとぉ!?」

「ククク、その通りでストモ」



 ピスに攻撃を加えながら、行商人は悠々と語る。



「計画上、ここから出しては意味がありませんかラネェ。必要な犠牲、というやつデスヨ。まあ、出たところで外の魔物の餌になるだけですガネェ!」

「ぐっ、卑怯な……!」

「戦いに卑怯などありまセンヨ。あるのは勝利と敗北のミデス!」



 行商人の槍捌きは取り立てて秀でているわけでもなかったが、元々戦闘能力の低いピスにとってはそれですら脅威であり、防戦一方だった。






「花弁よ、我が意に従い風と共に舞え! ヴァイオレット・ウィンド!」



 詠唱の後、魔力を纏い紫色をした無数の花弁がメアシスの周囲に現れ、それは横殴りの突風となってデミコープスに吹き付ける。



 突風と花弁の一つ一つが魔力の光弾となってデミコープスを襲うが、怯みはすれど傷は浅い。



「流石に元が聖職者ですと魔法の効きが悪いようですわね……」



 メアシスはピスに一瞬視界を向けると、苦戦を強いられるピスの様子が映り込んだ。




「であれば……我が身に宿る魔よ、我が意に従いを力を解き放て! メガパワーリング・オール!」





 メアシスはその言葉と共に魔法を唱え、自身とピスの攻撃力と防御力を強化する。



 赤と青の光の輪がメアシスとピスを囲い、2人の身体に浸透していく。


「いきますわよ……はっ!」



 メアシスはデミコープスと一気に距離を詰め、心臓めがけて剣で突く。


「ぐぅっ!」

「ヴァイオレット・スラッシュ!」



 鎌で防がれた直後、バック宙の要領で身体を翻すと共に魔力を込めて斬り上げる。

 剣からは魔力の残滓が紫色の花びらのように舞い散った。



「ライトニング・スラスト!」


 鎌を跳ね上げて防御の構えを崩した後、メアシスは白く輝く剣を構え、目にも留まらぬ速さで突きを放つ。


 メガパワーリング・オールで強化された高速の連撃は的確にダメージを与え、鎌にヒビを入れたが、



「うう……ああああ!!」



 その攻撃は傷を無視して振りかざした鎌によって中断させられる。


 メアシスは攻撃を回避して構え直し、再びデミコープスに攻撃を繰り出す。







 メアシスが善戦する傍で、ピスは苦戦を強いられていた。



 村人達は置かれた長椅子を使ってバリケードを組み、脱出のために窓を壊そうとしたり、通路の扉を開けようとしている。


 そのバリケードの前で、ピスと行商人は戦闘を繰り広げていた。



「おやおや、魔法を受けてもその程度デスカ?」

「何を……っ!」



 フォースワンドは魔力を力に変換する作用を持ち、メガパワーリング・オールにより強化もされている。


 だが、そこまで強化しても元の数値の低いピスでは展開を有利に運ぶことは出来ず、武器を扱う経験の浅さも相俟ってジリ貧状態であった。



「ふふふ、少しいい事を教えてあげまショウ」

「なんデスって……?」



 余裕綽々といった様子の行商人は、槍を振り回しながら悠々と語り始める。




「今暴れているあの魔物……便宜上デミコープスと呼んでいるアレ、元々はただの人間なのデスヨ」

「お喋りする余裕があるのデス!?」



 ピスは遠心力を利用して渾身の力でフォースワンドを叩きつけるも、行商人はそれを受け流し、カウンターを叩き込む。



「ぐふっ……!」

「おかげさマデネ」


 行商人はピスを追い込みながら、話を続ける。



「彼女にはあらかじめ寄生型の魔物を仕込ませておきマシタ。時期にして大体2ヶ月ほど前ノ話デス。無意識のうちにこちらの指示通りに動くように仕向け、身体の構造を魔物へと変化させておきマシタ。本当はもっとじっくりと変化させ、完全に魔物になってからお見せしたいところでシタガ、先ほどの魔法で魔物への変化に関しては不完全となってしまいマシタ。全く、ツイておりませンナァ」

「お、お前……!」


 ピスは怒りを露わにし、渾身の力でフォースワンドを振り下ろす。



「お前の計画とやらのためだけに、神官様の身体を滅茶苦茶にしたというのデスかッ!?」

「そレガ、何カ?」

「うっ……!」


 ピスの一撃は受け流され、体勢が崩れたところを足元に槍を引っ掛けられ、転んでしまう。



「先程も申しまシタガ……戦いにおいて存在するのは勝利ト敗北ノミ! 正道も邪道も関係無いノデス!」

「ぐぅ……うう……!」



 行商人は体重をかけてピスを踏み付け、彼を嘲笑って見せた。





 ……………………




 ………………





 教会の外でも、ロッソとズズロウラが激しい戦いを繰り広げていた。






 翼の先端近くにある、フックに似た形状の鋭く頑丈な鉤爪を用いた切り裂き攻撃や羽根飛ばし、巨体と飛翔能力を活かした叩き付けや瓦礫投げ等、激しい攻撃をロッソに仕掛ける。



 ロッソはそれらをかわしつつ、主に翼を狙って攻撃を仕掛けていた。



 鉤爪の切り裂きを受け流し、飛翔には瓦礫を投げて対抗し、剣による一撃を叩き込む。




「チッ……」



 ある程度傷は負わせたものの、ズズロウラはまだ余裕とばかりに空を飛び、様子をうかがう。

 対するロッソも幾ばくか消耗しており、呼吸を整えながら次の一手を繰り出す瞬間を探っていた。





 先に仕掛けたのは、ズズロウラ。



 ズズロウラはいくつもの羽根を矢のように飛ばした後、一旦高度を上げ、その後急降下する。

 ロッソは羽根を弾き返し、一気に迫りくる巨体をかわし、剣を振るう。




「!」




 ズズロウラを斬りつけた瞬間、ロッソはズズロウラの上に人影を見つける。



 ロッソは上空へと逃げようとするズズロウラに自分の身長以上の大きさの瓦礫を投げつけてバランスを崩させ、落ちた瓦礫を足場にズズロウラへと飛び乗る。



「ドル!?」




 ズズロウラの上に乗っていたのは、四天王マジクスの配下である鉄仮面の兵士、フラッドルーパーズ。



「ド、ドルー!」


 ロッソの存在に気付いたフラッドルーパーズは慌てたような声を発しつつ槍を構えた。


 振り落とそうと激しい飛行をする中、ロッソとフラッドルーパーズは戦いを繰り広げる。


 ロッソは激しい飛行をものともせず、足場であるズズロウラを斬りつけつつもフラッドルーパーズに攻撃を加える。


 対してフラッドルーパーズは攻撃を液状化して受け流しても尚押されており、完全に防戦一方の状態であった。



「ハッ!」



 ロッソは翼を上げた瞬間を利用してズズロウラの頭部近くへ飛び移り、右目に剣を思いっきり突き刺す。


 ズズロウラは暴れ狂い、バランスを崩して地面に落下する。




「ドルー!」



 フラッドルーパーズの叫び声の直後、ズズロウラは地面を這うように進み、教会に向かって背中から突っ込む形で壁を壊す。




「!」




 直前でその行動にに気付いたロッソはズズロウラの背中から脱出するが、ズズロウラの本当の目的はロッソの引き剥がしではなかった。





 教会の壁を易々と壊し、メアシス達の場所へ乱入したズズロウラ。



「そ、そんな……!」

「ば、化け物が……!」



 混乱する人々をよそに、ズズロウラはフック状の爪を地面に打ち込んで身体を固定し、巨大な口を人々へ向ける。




「時間切れですヨ、冒険者サン。では、私はこレニテ」

「ま、待つのデス!」




 行商人は液状化して姿を消した。

 直後、ズズロウラは黒い魔力の塊を大砲のように撃ち出す。



 それは分裂してメアシスやピス、村人や無力化されたまま放置されたデミコープスに纏わりつく。




「こ、これは……何デス……!?」

「ち、力が……抜けていく……!」




 黒い魔力の塊は人々の体力と魔力をを瞬く間に奪っていき、吸い尽くされた人々は次々と倒れていく。



 黒い魔力の塊は吸い取った人間の属性によって様々な光を内部で放ちながら空中を漂い、ズズロウラはそれを掃除機のように次々と吸い込んでいった。




「いやぁ、随分手間取ったようでスネェ」

「ドル……」


 生命力を吸収し、傷を回復していくズズロウラの上に乗った行商人は、ぐったりしたフラッドルーパーズに声をかける。


 もう不要とばかりに行商人は化けの皮を脱ぎ捨て、フラッドルーパーズの姿になる。



「ドル!」

「ドル……」




 2体のフラッドルーパーズを乗せたズズロウラはトドメとばかりに教会の屋根を飛び上がって踏み潰し、ピア村を去ろうとした。




「ウオオオオアアァァァァァァ!!!」




 屋根を踏み潰して飛び上がった矢先、真っ赤に燃える剣を携えたロッソが雄叫びと共に背後から現れた。




「ドル!?」




 教会の外にいたおかげで生命力吸収の魔の手から逃れたロッソは、渾身の力で左の翼に対して斬撃を放つ。



 一度地面に落ちたズズロウラは右の翼でロッソを打ち払い、飛び去っていった。






「逃したか……」


 変身を解いて人間に近い姿に戻ったロッソは、1人そう呟く。


 彼は周囲を一瞥すると、手当たり次第に瓦礫を撤去していった。



フラッドルーパーズ:水の四天王マジクスの配下である鉄仮面の兵士。液状化と変身が可能。

素の状態では人語を話せない。

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