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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト2 風と妖精と騎士と(獣の大陸・北ベルデン地方編)
14/106

クエスト2-4 すんごい依頼(後編)

 





 重い。





 一歩も動かせない。





 この騎士、ざっくりと見積もっても2m近くの身長がある。ゴリマッチョな体系ではないのだが、フルプレートアーマーを着て動けるので筋肉量は相当なものだろう。


 筋肉は脂肪より重い、と聞いたことがある。

 鎧そのものは金属製なので当然重い。




 そうなれば、総重量は100kgは余裕で超えているだろう。





 冷静に考えてみれば、ブレストプレートだけで手一杯だった俺にフルプレートを担ぐなんてのは土台無理な話なのだ。







 だが、ここで諦めるわけにはいかない。







 金もそうだが、倒れた人を見殺しにするなんて寝覚めの悪いことなんか出来るわけがない。勇者だというなら尚更だ。



 とはいっても、現状じゃ担げないし、引きずるのは論外だ。





「まずいな、どうするか……」

「ボックスに生物は入れられないのでどうにかして運ぶしかないデスよ」



 ボックスの事を言う前に先制で言われてしまった。

 トルカは俺以上に非力だから2人で担いでも無理だろうし、どうする?




 クソッ、一時的にもパワーアップする手段があれば……!








 ん?







 待てよ、あったぞ。









「トルカ! 俺にパワーリングをかけてくれ。力と速さだ」

「選んでかけるの、時間かかるよ?」

「それでもいい、頼む」




 トルカは頷き、魔導書を引っ張り出す。




「なるほど! 魔法で増強して運ぶ作戦デスか!」

「そういうことだ」





 トルカは魔導書を開き、それを見ながら魔法を唱える。


「力を授けよ! パワーリング!」


 力が漲る感触を確認し、騎士を持ち上げておぶり、トルカの手を引く。





 バフを貰ってなお若干きついが、それでもやるしかない。





「力を授けよ! パワーリング!」






 身体が軽くなった感覚を確認すると、揺らさないように気をつけながら走り抜ける。






 距離は遠いが、馬の嗎に似ても似つかぬ不気味な鳴き声は未だに聞こえてくる。



 とにかく早く抜けなければ全滅するかもしれない。






「ピス! 今魔物がどこにいるか分かるか!?」

「ちょ、ちょっと待って欲しいのデス! 見透す眼よ! バイタルサーチ!……うわわ、近づいてきてるデス!」

「くっそ……!」






 トルカの腕をしっかり掴み、走る速度を上げる。






 そろそろバフも切れる頃合いだし、距離を稼がなくてはいけない。











 ある程度まで走ると一度止まり、トルカにもう一度バフをかけ直してもらう。





「トルカ、もう一度かけ直してくれ!力が先だ!」

「うん」



 トルカは魔導書を開く。

 バフが切れたら押し潰されるので、騎士は一旦下ろす。


「力を授けよ! パワーリング!」






 力のバフがかかると同時に背負い、速さのバフがかかったのを確認すると同時に、先程と同じように走り出す。







 あの鳴き声と、馬のような足音がさっきより鮮明に聞こえ始める。









 ピスが先導してくれるので迷う心配は無いが、追いつかれたら対処がかなり厳しい。




 俺達は走るペースを上げた。









 だが、そんな俺達の全力逃走を嘲笑うかのように、蹄の音はより大きくなって背後から迫り来る。





 薄ぼんやりと黒いシルエットが見えるが、どんな姿の魔物かまでは分からない。






「このままじゃ追いつかれる……!」








 こうなったらトルカに牽制をさせるか……?


 でもそれじゃトルカが危険な目に遭う。



 駄目だ、トルカが倒れたら話にならない。これは無しだ。








「もうすぐ霧の地帯を抜けるデス!」

「よし! トルカ、大丈夫か!?」

「うん」







 直後、硬い何かが地面を抉る音がした。




 魔物にトルカが狙われた。おそらく武器か何かを振りかざしたのだろう。


 こうなったらやるしかねぇ……!



「トルカ!」








 騎士を米俵のごとく担ぎ上げる形に変え、一瞬速度を落としてトルカも担ぎ、そして持てる力全てを出して全速力で駆け抜ける。





 すぐ横の地面を何かが抉った時に魔物の姿は見えた。







 黒い馬に跨り、左手に巨大な剣を携え、右手で兜を被った頭を、抱えた首の無い騎士。





 死の執行者、デュラハン。






 冗談じゃねぇ! こんなところで死んでたまるか!!










 後はどうなってもいい覚悟で霧の地帯を走り抜ける。



 真っ白な視界の中、先導するピスを頼りに走る。ただただ走る。全力で走る。






 走り込みが活きた瞬間かもな……。






「視界が晴れてきた……!」

「霧の地帯を抜けましたデス!」






 霧の地帯を抜けると、デュラハンは踵を返して去っていった。





 湖周辺が縄張り、といったところか。



 トルカと騎士を一旦下ろし、少し休憩。

 悔しいが、完全に息が上がってしまって今はとても走れない。バフも切れたし。



「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思った……大丈夫か、トルカ? ピス?」


 息を整えつつ安否を確認する。


「うん……大丈夫」

「ボクは平気デス。むしろ、勇者様こそ大丈夫デス?」


 トルカもピスも大丈夫そうだ。



「なぁ、ピス。前から言おうと思ってたが、別に勇者様なんて呼び方しなくてもいいぞ。シンヤでいい」

「デスが、勇者様……」

「なんかモヤモヤするから名前で呼んでくれ!!」

「わ、分かりましたデス、勇……じゃなくて、シンヤ様」

「様……まあいいや、それでいい」




 息を整えて立ち上がり、トルカにパワーリングをかけてもらい、再び騎士を背負う。



 一番まずいのは、この状態で複数の魔物に囲まれることだ。


 現状即座に戦闘態勢に移れるのはトルカだけ。範囲攻撃があるとはいえ、攻撃に移るまでにラグがあるトルカだけでは切り抜けるのは困難を極める。

 逃げるにしたって包囲網を突破しなきゃいけないわけで……



「シンヤ様! 魔物デス! ポイズンフライが5体デス!」





 って時に限って来るのはやめろ!!



 ポイズンフライと呼ばれた魔物は、毒々しい色の羽を持ち、ピスとほぼ同じ大きさの蝶だ。

 5体のポイズンフライはこちらにゆっくりと向かってくる。





 トルカに呼びかけようとするが、彼女は既に詠唱に入っていた。






「大地を濡らす天の涙よ、刃となりて牙を剥け! アイスレイン!」







 今度はトルカの杖の先から魔法陣が出現し、ガトリングのごとく氷柱が連射される。



 飛んでるが故に中々当たらないでいたが、トルカは杖を動かして方向を調節し、4体のポイズンモスフライの羽に命中させる。




「ピス! 騎士を頼む! トルカは残った一体に集中してくれ! 落ちた奴は俺が片付ける!」

「は、はいデス!」

「うん」






 残ったポイズンフライはトルカに任せ、羽に氷柱が刺さったポイズンフライを迅速に片付けてゆく。




 翼の機能しない飛ぶ魔物なんか怖くも何ともないし、そんな奴にトルカの手間と魔力を使わせる必要もない。

 マナシロップだって有限だ。




 俺が地に落ちたポイズンフライを倒し終えた頃、残ったポイズンフライは鱗粉を撒き散らし始めた。





 や、やばい! この手の奴はくらうと厄介なやつに違いない!






「唸れ炎よ! ファイア!」









 撒き散らして動きが止まる中、トルカはすぐさま魔法を放ち、ポイズンフライを丸焼きにした。










 なんか……焦った俺が馬鹿みたいだった。






 戦後処理を済ませてバフをかけ直してもらい、再度出発する。

 トルカは残り魔力が心許なくなってきたらしく、マナシロップの便の蓋を開ける。



 小さい瓶の中の蜜を飲み干したトルカの顔は何だか不満気だった。



「どうした?」

「……足りない。あんまり、回復しない」





 魔力の無い俺にはイマイチ事情が分からないが、どうやら回復量はあまり多くないようだ。


 まあ安物の市販品じゃそんなもんか。





 回復量が少ないとなれば魔法を撃てる量もかなり限られるな。





「トルカ、今の状態でパワーリングはあと何回くらい撃てる?」

「……うーん、4回」

「分かった。これ以降は魔物が出ても逃げよう。トルカの魔力が空になったらどうしようもない」

「……うん」






 トルカの魔力残量も判明したところで、俺たちは帰り道を急ぐ。

 出会った魔物は全て無視して素通りし、全速力で町へと戻る。




 ……………………






 ………………







 どうにか街門付近まで戻ってきた。



 最後の方でジャンクドールという名の通りのガラクタ人形にしつこく追われたが、どうにかこうにか撒いてきた。





 体力も限界が近い中、慎重に騎士を下ろし、ピスは騎士の武器と盾を出して腕輪に戻る。


 あと少しのところで、俺もトルカも限界が来て座り込んでしまった。



「だ、大丈夫か君達!?」


 門番である兵士が慌てて駆け寄る。




「ゼェ……ハァ……門番さん、運ぶの手伝ってください……」

「分かった。ズィーベン! 町へ戻って何人か連れてこい!」

「分かりました!」


 ズィーベンと呼ばれた兵士は駆け足で町へと消えていく。


「それにしてもよくやったな! 領主様の御令嬢を見つけるたぁ大手柄だ!」




 兵士がそう言って肩を叩いてくるが、俺は何を言ってるのかをすぐには理解出来なかった。





 えっ?





 この人が?






 確かに身長は高い。よく見れば盾に描かれた紋章は屋敷で見たものと同じだ。



 しかし、頑丈なフルプレートと優れた体格でから、男と思っていた俺にはにわかには信じがたい。そもそも顔も髪色も分からないってのに。





 色々気になるが、ひとまずこれで依頼はこなせたようだ。


 い、一旦休みたい…… 

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