クエスト2-1 目指せ新天地
前回のあらすじ
異世界転生した普通の高校生シンヤ。
最初の街ワーテルにて、一時は時間とレベルを無駄にしつつもひたすら鍛錬を積み、どうにか戦える能力値までレベルを上げる。
その最中で魔法使いの少女トルカを仲間にし、彼女を虐げていたパーティであるマイティドッグを撃破。
勇者シンヤの長き冒険の旅が幕を開けた……!
俺とトルカは、森の中を進んでいる。
次の目的地であるカルネリアには、ここを通り抜ける必要がある。名前は確か……分かちの森とかそんな感じだったはず。
この森は木漏れ日が結構差してきて結構明るく、割と爽やかな雰囲気を持っている。
大陸にほぼ南端にあるワーテルから陸路で別の地域に行くには基本的にここしか無いらしく、人や馬車が通った跡もいくつかあった。
転生前じゃお目にかかれない光景だ。
ここでも魔物がひそんでいるそうなので、警戒は怠らない。
俺が前を歩き、後ろはトルカに任せる。
どのくらい歩いたかは分からないが、休憩も込みで6時間くらいは経ってるんじゃないか?
「トルカは、カルネリアの事は何か知ってるか?」
何となくトルカに話を振ってみる。
「……知らない」
「知らないか。ってことは、ずっとワーテルにいた感じか?」
「……違う。昔は、あそこじゃない」
「そうか……」
ということは、どこかからワーテルに来て、右も左も分からぬ頃に魔法使いということであいつらにスカウトされた、ってことだろうか。
「……シンヤは、どこから来たの?」
「俺か?俺は、えーと……」
異世界から来たことをバラすのは今はやめておこう。信じてもらえなさそうだ。
「まあ、遠いところからさ。俺もワーテル出身じゃない」
「ふーん……シンヤは何か、他の人と、違う気が、する……」
「そ、そうか?」
適当に誤魔化したが、かえって怪しくなってしまった。
もしかすると、何となくは勘付かれてるかもしれない。子供はこういう事に直感的に気付きそうだし。
不意にガサリと草叢が揺れる。
「!」
足を止めて剣を構え、臨戦態勢で揺れた草叢を睨みつける。
もう一度草叢が揺れ、何かが飛び出す。
出てきたのは、リス。
「リスかよ……」
だがその安心も束の間。今度はさっきよりも大きく揺れ、飛び出したのは真っ赤な目をした灰色の中型犬。
名前は多分マッドドッグとかその辺だろう。
犬というとこの前戦ったあいつらがちらつく。
少しの睨み合いの後、マッドドッグが俺に噛みつこうと襲いかかってくる。
どうにか狙いを定めて口に鉄の剣を突き立て……
あっクソ外れた!
マッドドッグは俺に飛びかかり、右腕に噛み付き、食い千切らんとする。
牙が腕に食い込んでくる!
「ぐっ……この野郎離しやがれ!!」
右腕に噛み付いたマッドドッグを離そうと思いっきり抵抗するが、離れる気配が無い。
鉄の剣を左腕に持ち替えて斬ろうとするも、攻撃がカス当たりで中々引き剥がすことができない。
マッドドッグは更に顎の力を強め、腕に穴を開け、ペンチのごとく骨まで折る勢いになっている。
くそっ!痛いんだよさっさと離せっての!!
「シンヤ!こっち!」
トルカの声。
そうだ、このままトルカの魔法にぶち当てれば仕留められる!
御誂え向きにトルカはフロストの準備中だ。
どうにかしてマッドドッグの身体を抑え込み、トルカのフロストに俺ごとマッドドッグを当てに行く。
「氷の枷を受けよ! フロスト!」
フロストはマッドドッグの体表にヒットし、噛みつきが緩む。
それと同時にマッドドッグを投げ飛ばすようにして振り払い、引き剥がす。
地面に叩きつけたマッドドッグの横っ腹を剣で突き刺し、トドメを刺す。
腕に激痛が走る。
「ふう……」
撃破した事による安心感で思わず座り込んでしまった。
噛まれた右腕を見てみると、かなりがっつりやられており、出血もしている。力も上手く入らない。
「……シンヤ、大丈夫?」
トルカが覗き込む。
「ああ、大丈夫だ」
そうは言ったが、無処置というわけにもいかない。
薬草はしこたま買い込んでいるので、使っておこう。
こういう時ヒーラーがいたらパパっと回復呪文で治せて便利そうだなぁ。
前やった通りに薬草を食おうとすると、トルカに変な目で見られる。
あれもしかしてやり方違う?
「……シンヤ、何してるの?」
「いや、傷を治そうと……」
「貸して」
トルカに薬草を取られてしまった。
彼女は包帯を取り出すと、薬草を軽くすり潰して傷口に押し当て、包帯を巻く。
言っちゃ悪いが、お世辞にも巻き方は上手いとは言えない。
「いっ……!」
「……じっとして」
そうは言うけど勘弁してくれ……! 傷口に……! 汁が……! 染みる……!痛い! 傷口にレモン汁垂らした時の比じゃねぇ!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!
……とは言ったものの、そのまま食うよりはマシかも。まあ今までの時は全身がヤバイ時だったとはいえ、まるで動けなかったし。
「……傷がちょっとなら、食べて治すより、こうする方が早い……」
「し、知らなかった……」
「……シンヤ、もしかして……おばかさん?」
「言わないでくれ……」
やめろ、年下からのその言葉は割とグサっとくるからやめるんだ。
こんな事ならウルツに聞くべきだったか……
……………………
………………
そんなこんなで時折休憩と戦闘を挟みつつ3時間。辺りはすっかり暗くなっていた。
ギルドカードを更新すると、トルカのレベルが1上がってた。俺の方は変わらず。
名前:トルカ・プロウン 種族:森の民
属性:氷 レベル:11 職業:魔法使い
体力:9 魔力:115
筋力:2 敏捷:13
創造:111 器用:18
トルカのステータス合計値は270。対して俺の合計値は117。極振りだから個々のステータスでは勝ってるところもあるが、合計値は既に2倍以上の差がある。ヤバイ。マジでヤバイ。
カルネリアに着いたら稼ぎを入れないと確実に付いていけなくなる。
だが、先の事より今の事、とにかく飯だ。
焚き火を起こし、予め買っておいた干し肉を食べる。かてぇ! 思ったよりかてぇぞこれ! あ、でも味は結構いいな……噛めば噛むほど味が出て、美味しい。
トルカの方を見ると、パンに思いっきり蜂蜜をかけて食べている。
それ手とかベタベタにならないのか……?
「……」
目が合ってしまった。
トルカは複雑な顔でパンを隠す。
「いや、取ったりはしないから……」
食事を終えると、特にやる事もないので睡眠を取る。
といっても、2人同時に寝れば当然危険なので、どちらかが起きている必要がある。今回はトルカが先に寝て、その間俺が見張り番だ。
しかし、野宿なんてのはいつ以来だろうか。中学校の時にやったキャンプの時以来か。あれは確か中1の頃だったはず。当時は確か13で今は16だから……あれ、言うほど年数経ってねぇな。
軽く腕立てをして、睡魔を飛ばしつつ余計な気持ちを振り払う。
聞こえるのは薪が燃える音とトルカの寝息、時折風に揺れる木立の音。
なんとも言えない静けさが心地いい。
軽くやるだけなので適当なところで腕立てを切り上げ、本来の役目である見張りを行う。
……特に何もいない。
まあいない方が好都合なのだが。
……そういや生肉持ってたらこいつで肉焼けるんじゃね?
とはいっても今は焼けそうな肉を持っていない。今度から香辛料も買っておくのが良さそうだ。
………………
…………
…………思ったより退屈だぞ、これ。
仕方がないので筋トレをやることにする。トルカとの差を少しでも埋めなくちゃならない。
スクワットなら見張りつつ出来るかな?
……………………
………………
トレーニングに夢中になってたら時間になったのでトルカを起こし、俺は寝る。魔物は出ませんでした。スクワット効果で魔物が逃げ……いや、それは無いな。うん。
……………………
………………
朝。
身体が痛い。
起こされなかった辺り、特に魔物は出なかったらしい。
朝食を取り、再び歩き出す。
ちなみに、この世界でも食事は3食が基本らしい。少なくともワーテルではそうだった。
昨日と同じく歩いて、休憩して、時折魔物が出ての繰り返し。魔物のラインナップはあばれドングリ、マッドドッグ、ゴブリン。たまーにクローラーが出る。
ゴブリンは結構な集団で出るが、所詮は烏合の衆。とはいえ油断は禁物だ。
……………………
………………
問題なく行軍は続き、6日目。レベルは特に上がってない。
そろそろ終わりが見えてくる頃合いだろうか。
先を進んでいると、トルカが不意に足を止める。
「シンヤ」
「どうした?」
「何か、先にいる」
気配を感じ取ったらしく、トルカが警戒モードになる。
近くに魔物がいるとみていい。
「分かった、ありがとう」
鉄の剣を抜き、いつ戦闘に入ってもいいように進む。
「お助けーーーー!!!」
5歩も歩かないうちに、前方から誰かの声が聞こえた。
「誰かが襲われてるかもしれない! トルカ、行くぞ!」
「うん」
声のした方へ走っていくと、商人と思しき人物がゴブリンの群れに囲まれている。
数は1、2、3……6体!
「トルカ、牽制に1発魔法を撃ってくれ。ゴブリンに当てなくていいから、あの人に当たらないようにするんだ」
「……うん、分かった」
トルカが魔法を準備している間、俺は商人の救助へ向かう。
「フロスト!」
冷気弾でゴブリンをビビらせたところへ、俺が商人を救助する。
「こっちです!」
「は、はいぃ!」
商人を安全な場所へ避難させ、俺はトルカの前に出た。
ゴブリンはこの近辺で最弱の魔物だ。
しかし、それは単体で、かつ平原で現れた時……つまり、そいつがはぐれ者だった時の話。
今回のように森や洞窟で、複数とエンカウントした時はその危険度は跳ね上がる。
単純に数の暴力が面倒なのもあるが、 奴らは地形を利用する。基礎能力だけを見て侮り、死亡する新米冒険者は決して少なくない……
……というありがたいお言葉をだいぶ前にワーテルの酒場の女主人から頂きました。俺の言葉じゃないです。
「全体にぶちかませる何かがありゃ楽なんだがな……」
こう、ブーメランか何かで一網打尽にしたい構図だ。
俺は通常攻撃しかできないし、勇者の剣に(多分)特殊な効果は無いし、トルカの魔法は全部単体対象だ。
だったら、各個撃破で片付ける!
「トルカ! パワーリングは使えたよな?それを頼む!」
「……あれ、ちゃんと、使えないよ?」
「それでもいい、とりあえず頼む!」
現状のパワーリングは攻撃、防御、素早さバフのうちどれかを付加する。
攻撃を引けばトルカと一緒に畳み掛け、防御か素早さを引けばトルカの盾になって時間を稼ぐ。
「力を授けよ! パワーリング!」
トルカの杖の先から光が放たれ、輪のような形状になり、俺に装着されるようにして浸透する。
光の色でも分かるが、全身の感覚の変化でも何のバフを引いたかは分かる。
力が漲るこの感覚……攻撃バフか!
「トルカ! 一気に行くぞ!」
「うん」
前に出て、一斉に襲いかかってくるゴブリンを斬り伏せる。
対処しきれないところはトルカに繋ぐ。
攻撃バフがあれば鉄の剣でも問題なく一刀両断できる。
能力自体ははぐれゴブリンと大差ないから撃ち漏らしてリンチされない限りはやられたりはしない。
3体を撃破したところで残りの3体がトルカに標的を変えたのか、俺を無視してトルカに襲いかかる。
「させるかよ!」
その内の一番近い1体を踏んづけて突き……
あ、踏み潰した。バフすげぇ。
……じゃねぇ、残りの2体を潰しにかかる。
「このっ……!」
トルカの正面に来たゴブリンは後回しにし、背後に回ろうとするゴブリンの頭蓋を叩き割り、その後にトルカの正面のゴブリンを蹴っ飛ばす。
魔法の準備に入ってたのが見えたので、追撃はせずに一旦後ろにステップして離れる。トルカの魔法はゴブリンに向かって……
ない! 位置がずれた!
「逃すか!」
逃げようとしたゴブリンに急いでトドメを刺す。万が一増援を呼ばれたらたまったもんじゃない。
グロテスクな光景にはある程度耐性が付いたが、万全ではない……あっ駄目だ言ったそばから気持ち悪くなってきた……
全てのゴブリンを倒したのを確認して、商人に話しかける。
「ゴブリンは倒しました。もう大丈夫です」
「危ないところを助けていただきありがとうございます、もう何とお礼をすればいいか……」
大荷物を背負い、ふくよかな見た目をした、大黒天のような、なんだかご利益のありそうな顔をした男性が深々と頭を下げる。
声も見た目もおじさんなのだが、背丈はトルカと同じくらいだ。
……よく見ると耳の形が人間と違うな。異種族か?でもトルカのとは形が違うし……
「いえ、人として当然のことをしたまでです」
「いえいえ、当たり前の事を当たり前に出来る者は多くはありませぬ。それに、私の命は貴方がたによって助けられたのは間違いの無いことです。私、シルロス・ソムンに出来る事なら何なりとお申し付けされ」
シルロスと名乗った商人はそう言うが、勇者なんだからこれくらいはやらないと……ねぇ?
それはさておき、出来ることか……あっ、そうだ。
「カルネリアまでの道のりってこっちで合ってますか?」
長い道をずっと歩いていると、どうにも合ってるかどうかに自信が無くなってきてしまう。
「カルネリアはこの道を辿れば着きますぞ。折角ですし、案内しましょう」
えっ、案内してくれるの?
「よろしいのですか?」
「ええ。本来はワーテルへ出稼ぎに行く予定でしたが、この調子では命がいくつあっても足りませんので、戻ることにします」
「そうですか。そういうことであれば、お願いします。魔物が出た時はお任せください。おっと、申し遅れました、俺はハ……あっ逆か、シンヤです。彼女はトルカといいます」
「シンヤさんにトルカさんですか。良いお名前だ。よろしくお願いしますぞ」
というわけで商人シルロスが一時的に加わり、俺達は森の中を進む。
「しかし近頃は魔物が増えましたなぁ。昔は護衛が無くともこの付近は歩けたものですが、最近はそうもいきません」
シルロスさんはしみじみと語る。
やっぱりこれも魔王の影響ってやつなのか?
「私も若い頃は体術を使えたりしたものですが、今ではすっかり退化してしまいました」
シルロスさんは苦笑して言うが、退化したって分かってるなら何故単身で行ったのか。
「いや分かってるなら護衛くらい雇いましょうよ……」
「いやはや、それがとんでもないぼったくりに遭遇してしまいまして……」
「うわぁ、それは災難でしたね……」
あー、雇いはしたのね。でも運が悪かったと。
しかしゴブリンで逃走するってどんだけだよ。
もしかしたらその前に別のヤバイのに遭遇して何やかんや、って感じかもしれんが……
「私が言えた立場では無いかもしれませんが、お二人も魔物にはお気をつけください。特に最近ではゴブリンの群れに襲われる人が後を絶たないようです」
「分かりました」
ゴブリンの大量発生か……何か異変でも起きているのだろうか。
「ところで……シンヤさん、貴方は洞窟の民を見るのは初めてですかな?」
「へ?何故それを?」
予想しなかった方向の質問に、思わず変な声が出た。
「いえ、少し物珍しそうな顔をしておられたもので」
マジ?俺そんな顔してた?
ていうか襲われてる最中にそれを見る余裕あるんだったら逃げられたんじゃ?
まあ……いいか。
「ええ、まあ、住んでたところが荒野の民ばかりだったもので……」
そう答えると、シルロスさんは洞窟の民について語り始める。
「我々洞窟の民は元々洞窟を掘り、そこに住んでいた種族の事なのです。狭い洞窟でも不自由なく暮らせるよう、成長しても身長は伸びないように進化しました。とはいっても、今は他の種族に混じって街中で暮らしております」
「へえ……」
所謂ドワーフにあたるのが洞窟の民ってところか。
やっぱり呼び名は違うんだな。
「我々洞窟の民を物珍しがるなら、草原の民を見たらさぞ驚くことでしょう」
「草原の民?」
「動物の特徴を持った亜人の種族のことです。普段は荒野の民の方々に耳と尻尾が生えたような見た目ですが、有事の際はより動物に近い見た目に変身するようです」
「そのような種族もいるのですか……」
つまるところ獣人ということか。
耳尻尾の状態は僅かながら目にしたことはあるが、そんな特性を持ってたとは……
……………………
………………
そんなこんなで歩く事数時間。
「さて、もうそろそろ森を抜ける頃ですな」
森を抜けると、遠くに風車のある町が見えてきた。
町は頑丈そうな塀で囲まれており、町付近の道の両脇には麦畑が広がっている。
「見えてきましたぞ。あれがカルネリアです。さあ、もう少しですぞ」
「……あれ、何?」
意気揚々と進むシルロスさんに対し、トルカが風車を指差して尋ねる。
そうか、トルカは風車見たことないのか。
俺も生で見るのは初めてだが。
「あれは風車といいましてな、風の力を利用して 麦の脱穀や製粉をやっているのです」
「……?」
「へぇ……」
風車がどんな役割を持ってたかは意外と知らなかったな。
そんでもってトルカは分かってなさそうな顔だった。
そこからしばらく歩き、カルネリアに到着。
門番から背の高い金髪の女性を見なかったかと聞かれた。
見ていないと伝えると、そうか、と門番は返した。
誰か行方不明にでもなったのだろうか?
「いやぁすみません、助かりました。こちらは町の地図と私の店の割引券でございます。印を付けたところが私の店ですので、冒険の備えの際は是非どうぞ。では、私はこれで」
シルロスさんはそう言って地図と割引券を渡すと、軽い足取りで去っていった。
流石は商人、そこら辺はちゃっかりしてやがる。
ともかく、今日からここが新しい拠点だ。
シルロス・ソムン:カルネリアで道具屋を営む商人。穏やかだが、ちょっと話が長い。




