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顔合わせ

 あの射撃から五日が経った。

 あれからの学校生活は、一樹にとっては軽い地獄の始まりだった。


「……しょうがないわね、私に様をつけて呼びなさいよ、いいわね?」


 そう、あの一発で決めなければならない賭けに一樹は負けてしまったのだ。それは、やはり当然といった結果で、一樹の撃った弾はアルミ缶に当たることもなく射撃場の中を突き進んでいき、


「イッテぇぇェえええ」


 という悲鳴が上がった後、結果も同時に分かってしまった。


「…………外れた」


 一樹が放った弾丸はアルミ缶に当たるのではなく、その直線上にいた憐矢の頭へと当たり、賭けが終わってしまった。憐矢の口調は痛みのあまり、普段とは異なったものになり、それ程までの痛みを与えてしまったことには申し訳ないことをしたと思いながら、目の前の結果に、二度目のどうしようもない喪失感が一樹を襲っていた。

 ……外したんだ。結局、俺は学園最下位のレッテルを無くすことすらできなかったんだ。

 二度目の喪失感は、一度目の喪失感ほど大きいものではなかったものの、それはやはり一樹自身の心を抉るような、そんな痛みを心へと与えていた。

 一樹の隣で様子を見ていたミカエルも、一樹との賭けを受けていた明日奈も、その結果に多少の期待を寄せていたのだろう。二人の表情には、さっきまでの真剣な表情から移り変わって、落胆の意を込めたであろう溜息と、次の機会は当たる。そんな希望を込めた視線を一樹へと向けているのだ。

 そんな視線を向けられている一樹は、二人の視線を見たわけでもないのに分かってしまった。二人が自分に期待を寄せていた。二人は俺の為に、いろいろと教えてくれようとした。けど、結局はそれを結果として表すことができなかった一樹には、より一層の喪失感が圧し掛かった。

 自分が憎らしい……。

自分に力を扱うことが出来る程の才能があれば、こんな惨めな思いをしなくても済む。でも、それはどうしようもないもので、どれだけ努力で埋めようとしても埋まるようなものではない。

「綺兎部君、今度ゆっくり私が力の使い方を教えてあげる。だから、今はそんなに落ち込む必要はないわよ」

 そんな言葉を掛けてくれる学園長に、俺の心は逆に傷つけられた。

 生半可な慰めは、より大きな傷をつくる。中途半端な言葉が一番人のことを傷つけるのだ。学園長にはそういう意志はないのだろけど、逆にその無意識で言っている言葉が心を深く傷つけ、より大きなレッテルが自分で作られてしまう。


 ――――死んだ方がマシな人間。


 頭の中では、その言葉が反響をしていた。

 人の期待に応えられないような人間は、この学園には必要ない。この学園は、自分の国をより優位な位置へと立たせるための前準備期間。自分たちが国の役に立たなければ、自分の国が危うい立場へと落ちてしまう。それを阻止するためにも、自分たちのような中学卒業したものが、こんな場所で給料を貰いながら生活していて……そんな中、他の学生たちは成績を残していき、戦場へと駆り出されていく。

 だけど、俺自身はどうだろうか?

 どれだけ頑張っても結果を出すことが出来ずに、あまつさえ学園の管理をしている天使自身が目を付けてくれていた。その天使の期待を裏切ってしまった俺には、どんな価値があるのだろうか……。

 そんな自己嫌悪が一樹の中で塊となり始める。それが心の中で少しずつ大きくなり、そして、


「…………すいません、俺……今日は寮に戻ります」


 これまで一心同体のように使ってきた銃を、地面へと放ったままにしてゆっくりと歩を進めていく。一樹の後ろでは、どんな表情をして明日奈達が一樹の背中を見つめているのだろうか……。それを確認しようとしても、そんな気が一切起きない一樹は、そのまま歩いて行く。一度だけでも後ろを振り返ってみようという意志があれば、二人の女子が自分のことをどう思っているのかを聞くことが出来たのに……。一樹は、そんな選択を取ることをせずに、ただただゆっくりとした歩調で自分が暮らしている寮へと足を運んでいくのであった。

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