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変化する戦況Ⅶ

「明日奈っ!」


 煉獄を撃った途端に地面へと力なく倒れてしまった明日奈を抱えるようにすると、次の瞬間には爆風が幸たちを襲った。

 明日奈が放った煉獄の大煉獄は着弾した場所の周りの木々は薙ぎ倒されていた。あの一発にどれだけの力を込めたのかはその光景を窺えば一瞬でわかる。

 だが、着弾した場所は明日奈達の思っていた場所ではなかった。


「―――――ッ!」


 それは空から伸ばされた手……緑色の自然色を纏った右手が爆心地だった。その右手は一部は明日奈の煉獄で吹き飛んではいるものの、それ以外に目立った外傷が見当たらない。

 あれほどの威力がもしも敵陣へと直撃していればどれだけの功績を残せたか……斬時や憐矢もそれに乗じて何かしらの行動を取ったはずだ。だけど、それすらも無慈悲に塞がれてしまった。そして、巨人の手によって塞がれた奥側、敵の前衛たちは勢いを乗せて前進してくる。

 そして両腕に掛かっていた重みが忽然と消えた。


「…………明日奈」


 手に支えられていた明日奈は光になって消えていく。それは戦場から身を守るための救護措置、そのまま消えて行った人たちは救護施設で最先端の医療を施される。

 そんな幸も救護施設への道が近づいてくる。

 ズッシリした巨人の歩く音が近くに落ちたところで幸隊の体が一瞬、地面から浮いた。

 一歩と歩くだけでも大地震の如き威力を誇る巨人。そんな巨人の影が大きく縦へと伸びる。


『狗龍、斬時、憐矢っ! お前たちはそこから早く逃げろっ! 潰されるぞ!』


 大きく叫んだ栖偽の声が、キーンと耳元を劈くように鼓膜内で鳴り響いたと思うと、影は縦へと伸ばしていたものをゆっくりとその影を縮めていく。


『早くっ!』

「どういうことですか!」

『聞いてる暇なんかないっ! 死にたくないなら逃げろっ!』


 焦りに焦った栖偽の声を聞いていると、どれだけ危険な事態が起こっているのかが声だけでも想像できる。


『二人とも……早く逃げた方がいい……本当に逃げないと危ない……』


 声音を変えずにいる斬時だが、その声はいつものイケメンボイスとは少し異なっていた。その声音は多少、粗削りで冷静な怒声。普段の声を聞いている憐矢たちだから判断がつくものだ。

 そうなったら幸たちは全速力でここから逃げる、なるべく影から遠い場所へ。そうすれば、その何かから逃げられることが出来るはずだから。

 そして、その判断が正しかったことは約二十秒後に示された。

 ドォォォォオォオオオオオオン、といった衝撃音と爆発音。爆発音なのにも関わらず音源の方には高く燃え上がっているはずの炎は無く、その代わりに抉られた大地が空中へと飛散していた。衝撃音に次いで飛んでくるものが、とてつもない爆風と衝撃だ。爆風は百メートル以上離れている爆心地からでも体を十メートル以上も前へと飛ばすほどの風力、衝撃は体の中へと捻じ込まれるように入ってくる。

 そして、何がそんなことを起こしたのか……。その正体を確認することは容易だった。

 大きく上へと伸ばされた巨人の片手、その重度の質量を持っている一本の手が緑豊かな森へと振り下ろされたのだ。

 そして、巨人はもう一度、振り下ろした手を天高く掲げればゆっくりとした速度で再び大地へと超巨大なクレーターを作り、赤城の勢力を木端微塵の道へと誘っている。


「こんなの……規格外よ……理不尽すぎだよ……」


 さっきまでの気迫は赤城の生徒達から一切消えていた。たった一発の攻撃が理不尽なまでの威力ですべてを薙ぎ払う。すでに決着はついているも同然……。

 これは最初から戦争なんかじゃなかった。戦争が始まった時点でこれは一方的な殺戮だったんだ。最初は小手調べのように手数を多く前へと進行させ、その中にごく少数の精鋭を入れることで、強者は強者同士で戦わせる。強い人間は弱い人間に対して自分は強いと認識させたがるが、それとは逆に強い人間と戦うことで自分の強さにより強い自信を持たせたがる。そんな心理を突かせるかのように明日奈や揮移が嵌まってしまった。


『この巨人グリーンジャイアントは異常なまでの耐久力と破壊力を兼ね備えているが故に戦争では使うなって言われてきたがな……相手が『朱雀の巫女』の軍勢ならば話が別だ……遠慮なんかする必要はない。全力でお前たちを倒すことが俺たち、緑城の今の目標だ』


 高らかに上げられた声が空から降り注げば、すでに時が迫ってきている。


「攻め落とせぇぇええええ!」


 叫びをあげたNATURAL ENAGYナチュラルエナジーの嬉々とした表情を浮かべながら、幸の五十メートルとほんのちょっとの距離から走ってきていたのだ。

 木の幹にワイヤーを使って蔦ってくる緑城の生徒に、地上から目で見ただけじゃ数えきれないほどの軍勢。

 もう逃げられないよ……。

 地面へと倒れている幸はさっきの衝撃で木へと飛ばされ、身動きが取れなくなっている。そんなところへ一気に駆けてきている五人の生徒たちが駆け足から歩みへと歩調を替え、まるでジワジワといたぶるために時間を使ってくる。


「やっと、やり返せるな……俺の仲間をお前たちに消されたんだ。お前も同じように消してやるよ……ゆっくり苦痛を味あわせながらな、ハハハ」


 愉悦に満ちた顔が歪んで声を上げて笑えば、他の仲間たちも大きく笑い声をあげた。

心を抉るように歩み寄ってくる数人の敵はアサルトライフルの銃口を一点に集中させながら歩いてくる。

 ガチャリと音を立てながら尚も愉悦に満ち満ちた表情で銃の引き金へと指を掛け、ゆっくりと力を入れていく。数秒間、引き金を焦らすかのように何度も触れたり、離れる。

 焦らさないで……覚悟が緩むから……。

 何度も焦らされたことで、いつ撃たれるか分からない状況の中で気を緩める瞬間が何度も産まれる。そして、引き金に触れた相手の指先には力が込められた。


「―――――――――ッッ!!」


 幸の体には激痛が迸った。一発、銃口から肉眼では捉えきれない速度で吐き出されたそれは、右の手の平へと撃ち込まれた。


「一定以上の痛みを蓄積しないと、この戦場からは退場できないのは知ってるよな……?相手で遊ぶなら一番痛みが少ない体の末端、手と足の甲を五発撃てば退場扱いになるが、最後の一発は……」


 遠くでは激しい戦闘が再び開戦されたのか、銃声が何重にも切り開かれた森の中を蹂躙して耳の中に響いてくる。でも、そんなことは考えていられない。目の前には銃口がまだ残っている。また焦らす様にして引き金に掛けた指を掛け離しを何度も繰り返し、時間を掛けながら右足、左足、左手へと打ち付けられる。そのたびに悲鳴にならない叫び声が幸の口からは漏れる。痛みのあまりに失神しかけそうにもなった。いっそのこと失神していたほうがマシだった。


「これが最後の一発……」


 黒い光沢がギラリと苦痛の涙でぼやけた幸の視界の中に入ってきた。

 その銃口が向けられている先……人を一発の弾丸で確実に殺せる部分。人間の本質を作っている生命維持には必要不可欠で感情、言語、身体のありとあらゆる部分を制御しているその一点へと銃口が為す術もなく相手に突き付けられてしまう。

 ここで終わっちゃうんだ……。

 このまま一方的にやられて負けちゃうんだ……。

 最後は遊んでいるとしか思えない状況で戦争に負ける……それが堪らなく悔しい。

この状況に彼が居たら、どんな風に思っているだろう……。

 彼なら絶対に、「諦めんなっ! まだ負けたわけじゃないだろ!」って励ましてくれるかな。そんな彼が今は天使と一緒にどこかへと行ってしまっていて、そんな幸の気持ちは届くはずもない。

 頭の中で目の前の光景を目の当たりにしているのに、そんな彼の事を考えている幸には最後の敵の言葉が掛けられる。


「………死ね」


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