変化する戦況Ⅳ
翌日、思ったよりも戦況は早くも危うい状況に陥っていた。
「勾坂……相手が多分だけど、全勢力を出して一気に攻めて来てるみたいなんだけど……どうする?」
襟元にある無線へといつものように話しかけている斬時だが、今の状況は普通に喋っているだけでも苦しい。斬時の目の前には、三千を超える学生達が銃を持ちながら前進してきている。その前衛には斬時達とは色が異なるが、型が同じの制服を着た生徒が四人、その中の一人は腕に大将という証の腕章を付けている。
「それと大将自身が出張って来てるんだけど……しぶとい。何発も体にヒットしてるのに倒れない……化物みたいな奴だ」
『斬時君、まずは前衛に出張ってきている特別枠の生徒を集中攻撃してくれるか? 大将は後で全勢力を持って潰しに掛かるから、その前に護衛である生徒たちを排除してくれるかな?』
「…………了解」
そう指示を受けた斬時は、回線を変更して憐矢と幸へと通信を入れる。
「大将を狙うのは後回し……先に護衛の生徒を排除して……」
必要以上の言葉は発せず端的かつ迅速な指示を銃撃の嵐の中、憐矢たちへと送った。
そんな言葉に相反することも言わずに、
『『わかりましたっ!』』
二人の声が重なり合って返事が返ってきた。
それからの戦闘は一方的なものになる。斬時達の勢力はせいぜい千人程度に対して、相手校である緑城は今だに三千を超えた勢力でジリジリと赤城の本拠地へと着実に境界線を伸ばしながら前進してきている。
斬時達にも援軍がやってくるが、恐らく十分近くの遅れが生じているはずだ。輸送機を使ったとしても必ずしも全員がここに辿り着けるわけではない。途中で地上からの砲撃を受けてしまえば、そこで輸送機は墜落して百人近くの兵力が失われる。
そんな状況でも一切、緩めることのない銃撃戦は早くも二十分近く行われている。異常に長い戦線には、援軍はいまだに後方から向かってきているのだろう。空には赤城の輸送機が飛び交っているが、それも推測通りで対空砲が緑城から撃たれている。激しすぎる戦争だ。
『俺達もそろそろ終わりに向かわせて貰うぞ……』
銃撃戦をしている中でもはっきりと聞こえる野太い声が斬時達を強張らせた。声だけでも威圧感を感じさせる声の持ち主である緑城大将は何かの力を行使する。地面へと触れようとした腕を斬時は最大限に能力を付与した弾丸で弾き飛ばそうと打ち出すが、確実に着弾した弾をびくともせずに地面へと触れた。
大将の身体からは緑色のオーラのようなものが溢れ、徐々にそれは巨大化していく。
『昨日は仲間たちが大勢退場させられたが、今日は逆にお前たちを退場させてやる……ウリエルからはなるべく使うなと言われていたが、ここで使わないでいつ使うというのか……こちらも全戦力を持ってお前たちを倒す……』
言葉を言い終わった途端に大きな変化が訪れた。
「地面が震えてる……?」
幸が口を開いてみれば、足場である土は振動を起こしていたのだ。足場の揺れは小さかったものから徐々に大きく揺れて行き、まともに立っていられるような状況では無くなってしまった。
『マジかよ……こんなの勝てるわけないだろ』
襟元からは輸送機の操縦最中である栖偽の驚嘆する声が聞こえてくる。
「何かあったんですかっ?」
声を荒げながら栖偽へと連絡を取る幸に戻ってきた返答は、
『お前ら一度、退避しろ……今の状況だと一瞬で負けるぞ、これ……』
「だから、何があるのか教えてっ! はや……く」
途中で言葉が減速した。赤城の生徒たちはみんなして一度動きを止めた。銃撃は一瞬だけ止まり、皆の視線は一点へと集中される。
「何よ…………あれ……」
幸や憐矢、他の生徒達は全員が驚愕した。眼前に広がる光景に誰もが驚いたのだ。
視線の先にある物体が一歩踏み出せば、地響きのような大地震が起こり動くことを遮られる。その物体があるだけで森を覆い尽くさんばかりの影が出来る。影を作り出しているものを見ようとしても、その全貌を幸たちは望むことはできない。
「……本当の……化物じゃないの……」
空から降下して合流してきた明日奈が息を切らせながら口にする。彼女と栖偽はこの物体の全貌を望むことができていた。恐ろしく巨大なその物体を見たのだ。
「こんなの……揮移先輩でも無理よ……」
絶望が入り混じった声が明日奈の口から漏れていた。
『勾坂……拠点からなら分かるだろ。お前の目に入って来てる光景が……』
「あぁ……見えてるよ。あんなの僕たちのクラス全員が束にならないと倒せるわけがないよ」
『そして、今は揮移がいない……これはかなり勝率が低い状況だな……』
「……………………………………」
勾坂は言葉を口にしない。自分でも分かってしまったのだ。目の前に聳え立つ巨塔のようなモノが絶望の化身だということを。
「これまで七回ぐらい代理戦争をしてきたけど……ここまで絶望的だと思ったのは、今回が初めてだよ……でも、諦めるわけにはいかないよ。僕たちは今年が最後の戦争なんだ……ここで諦めて悔いを残すようなことはしたくない……栖偽もそうだよね?」
『あぁ、お前の言う通りだ。今年で最後の俺たちは諦めるわけにはいかない……なら、最後まで小賢しく足掻いてみるのもいいだろ』
「……そうだね」
二人の回線は個人で送られているため、他の生徒達には聞こえることはない。そして、勾坂は自分を奮い立たせるためにも覚悟を元に一大決心を全生徒へと通達する。
『みんな……僕たちは勝率の低すぎる戦闘に陥っちゃったけど、でも、僕と栖偽……三年の僕たちは今年が最後の戦争……悔いを残すわけにはいかない。全力でやるなら日本一を取って、最後に世界一を取る。そして、僕たちの意志を世界に広めたい……。苦しんでいる人たちにも幸せは来てもいいはず……そんな人たちにも僕たちは何かできるはずだよ。でも、毎年世界一位を取っているアメリカとロシアはそんな人たちに目もくれずに自分たちの利益の為に力を奮ってるんだ。そんな世界を変えようじゃないか……その為にもみんなの力を貸してくれないかな? 勝率が低くても勝ちに行く……それがどれだけ醜い足掻きだとしても勝たなきゃいけない戦争なんだ……』
最後は呻くような声で喋っていた勾坂の言葉は赤城学園全生徒に届いていた。この戦争に掛ける勾坂や栖偽の想い。また、世界を変えたいという気持ちを生徒たちは真摯に受け止めていた。




