始まる変化Ⅴ
翌朝、森の中からは銃声が響いているが、そんな中で一樹はグッスリと眠ることがきたのである。
体を伸ばし、身支度をすればテントの外に人が立っているのが分かる。朝日に照らされ、その影がテントへと写っているのだ。影のシルエットを見る限り、それが女子だと言うことは分かった。おそらく明日奈か幸あたりだろう。由愛だったら、もっと身長が低いはずだ。
ゆっくりした動きでテントから這い出て誰だかを確認したら、そこには予想外の人が居たのだ。
「学園長……?」
そう、そこに居たのは一樹から言わせれば叔母にあたる天使だ。叔母というと歳を感じさせるが、目の前にいるミカエルはまだ二十六歳ほどにしか見えず、叔母と言うのは殺されそうな気がする。本当だったら、自分が天使のハーフだと言うことを認めたくないのだが、言われて見れば自分も天使なのではないかと思ってしまうようになっていた。
一樹が出てきたのが分かったのか、昇る太陽を背にして一樹へと向き直ると、
「一樹君……卵の中に居た時に女の人に話しかけられなかった?」
向き直ってきたミカエルの表情は、懐かしみを感じているようなものになっている。
「……はい、まぁ女の人に話しかけられましたけど、どんな人なのかは分からなかったです。後ろから抱き着かれたんで顔が見れなかったですけど。それと俺のことをルーシィって呼んでた。あと、最後に黒い翼が見えたのは覚えてます」
「……やっぱり、一樹君は妹の子供なのね……」
懐かしむのと同時に、悲しい表情を浮かべているミカエル。なぜ、悲しい表情を浮かべているのかが分からない。
「一樹君の名前はルーシィなのね。自分の名前をそのまま代用するなんて、あの子らしい不器用さだけど……でも、そこが可愛らしかった……」
一人思い出に浸り始めたミカエルの瞳からは涙が流れ、それは赤い炎の形を模した結晶へとなり、地面に落ちた。
「学園長……」
見ていて居た堪れない。これまでは楽しそうな表情と、真剣な表情しか見たことがない彼女だが、彼女に涙は合わない。ミカエルは自分の服で目尻を拭うと、
「これからは学園長じゃなくて、ミカエルって呼んでくれると嬉しいな。一応は、同じ血が混じってる家族なんだから」
と笑顔で一樹を見つめてくる。ミカエルの後ろからは太陽の光が目に入ってくるなり、ミカエルの背中からは翼が広がる。
「少しでも強くならなきゃいけないわね……だから少しの間、誰にも邪魔されない場所に移動するわよ」
その言葉が放たれるとミカエルは懐から光輝く羽根を取り出して、
「一日か二日、私と一人の学生が離脱するわね。カウントよろしくお願いね、ガブリエル」
『わかったわよ……その一人の学生は能力が使えなかった子のことよね?』
「そうよ、明日には能力が使える世界最強の学生に変わってるからよろしく」
『はいはい、わかりました。ミカエルの言う通りにしておくから、さっさと行ってくれる?
こっちも忙しいのよ』
「ありがと、ガブリエル。今度お茶奢ってあげるわね」
『楽しみにして待ってるから……』
ミカエルが手にしている物は通信機のようで、羽根から凛とした女の人の声が聞こえてきた。
「これで準備は大丈夫ね。ルーシィ、飛ぶからね」
「は、はい? どこに行くつもりなの?」
「それはお楽しみよ。ほら、舌咬まない様にしてないと舌が無くなるわよ」
その瞬間、ミカエルが羽撃たくと恐ろしい程の速度で戦線を離脱していく。一つの断末魔が眠りに就いていた者達を起こす。そして高く、より高く空へと舞い続け、星に届く程の高さまで行き、こことは違う場所へと消えて行ったのであった。




