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始まる変化

 ここはどこだろうか……。

 今いる場所を確認しようとあたりを見回しても、周りには何も無く、地面に唯一あるのは雲と表せるのであろうモクモクと立ち込める煙と、その上に立っている自分だけだ。

 周りには何もない。どこまでも続く平原のようなそんな空間が広がっているだけだ。

 声を出してみても、声は周りに響かずに霧散してしまう。どれだけ大きな声を出しても霧散してしまい、この空間に置いては声が無意味なものだと気が付いた。

 俺にここで何をしろと?

 周りには誰もいないし、物というものすらもないこの状況でいったい何をしていればいいのだろう。いつもなら隣に誰かが一緒に居てくれるのに、今は誰もいない。

 ――――独り。

 天涯孤独になってから早くも一年以上が経っていることを思い出した。これまで楽しい生活を送っていたことで紛らわすことが出来た悲しいという感情が、一人になった途端に心の中から沸々と湧き出てくる。


「独り、天涯孤独。俺の周りに誰もいない……」


 今の状況が自分をより深くて暗い部分へと誘っているかのようだ。周りの景色とは裏腹に人の感情を暗くして、世界に自分だけが取り残されたかのような錯覚を覚えさせる。

 ちょっと昔の自分だったらこんな状況が当たり前だったんだ。中学から家へと帰れば、本当だったら迎え入れてくれる母さんがいた。そして、夜になれば父さんが帰って来ていた。両親共々、本当の親ではないことは知っていた。それはずっと前から……。だけど、今の生活が充実していたことを思えば、今の両親が本当の両親であると思えたのだ。一時期、本当の両親に逢ってみたいとは思ったが、捨て子だと言うことも知らされていたので会うことは不可能に近かった。だから、両親を探すこともせずに楽しんでいた。

 でも、ある日を境にそんなことも終わってしまった。

 家へと帰り、「ただいま」と口にしても帰ってくるのは自分の声だけ。母さんの声は返って来ない。時間が経って、夜になっても父さんは帰ってこない。

 最初の頃はそれがとても心細くて、寂しくて、泣きたくなったりもしたけれど、泣くことを嫌いだった俺としては唇を噛みしめてでも我慢をしたのだ。日が経つに連れて、そんな感情も無くなっていった。でも、心の奥底では『独り』という単語が住み着いてしまっていた。

 俺の今の生活はどうなんだ?

 新しい友達や仲間、優しい親友たちが出来ている今の生活は、忽然と独りに立たされた俺に大きな変化を与えていた。


「独りは嫌だ……もう独りになるのは嫌なんだ……」


 周りの景色は煌々(こうこう)ときらめく雲のような場所の上だというのに、心だけは沈み込んでいく。

 いつの間にか涙が頬を伝わり、嗚咽交じりの声も出てくる。涙が徐々に多く流れ始め、少しでも止めようとすれば、逆にもっと流れる。


「少しの間だけなら泣いてもいいわよ……私が傍に居れなかったからいろいろと大変な目に逢ってきたはずだから……」


 後ろから声がして、振り向こうとすると体が固定でもされているかのように動かない。そして、後ろにいる誰かは一樹の後ろから優しく抱き着くと、


「ここまで成長してくれて私は嬉しいよ……ルーシィ。これからも見守り続けてあげるから、だから頑張りなさい」


 聞き覚えのある懐かしい声が耳元で囁かれる。それは直接、頭の中に響いてくるようにも聞こえ、まるでミカエルに頭の中に語りかけられた時のような感覚だ。


『……あなたは誰ですか?』


 声を出そうとしても、この変な空間の中だと声が出ずに霧散してしまう。それと、頭の中に直接話しかけられている感覚を考えると、ここは思考発声する場所なんだと理解できた。

 そして、背中へと体を押し付けているのが女の人だというのは分かる。声のトーンからも予想はできるし、背中には女性特有の物体が押し付けられている。

 心臓は強く脈を打ち付け、鼓動も速くなる。

 そんな一樹を無視するかのように後ろに纏わり付いている女の人は、抱き着く力を強める。力が強くなるにつれて後ろからは懐かしい匂いがしてくる。その匂いが鼻孔をくすぐると自然と、このままでもいいか、と思う。


「私の大切なルーシィ。いつまでも近くにいるから安心していいのよ……貴方達のことはいつまでも守っててあげるから……だから、もう目を覚ましなさい。あなたのことを待ってる人たちがたくさんいるみたいだからね」


 最後に心の底へと響くような優しい声が響いてきた時、大きくそれでいて漆黒の翼のようなものが一樹を包んだ。それはミカエルたちのような天使の翼で、それに包まれた瞬間には意識が無くなっていた。


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