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■第8話 今日も見事な巻き舌ファスト・トーク


 

 

翌日から、タクは毎日学校帰りになると粗悪フランス人形の家に通った。

 

 

それは勿論ひとりでなはずはなく、ブツブツ文句を言い続けるヒロオミ

など完全無視して、自分では運転しないふたり乗り自転車を無理やりあの

庭へ向かわせた。

 

 

渋々向かうその目的地。

 

明らかに気乗りしていない、ヒロオミの自転車のペダルを漕ぐ脚のスロー

スピードにタクは不満気に眉根をひそめ、その痩せた背中にグリグリと

肘鉄を喰らわす。

 

 

 

 『なーぁんで~・・・?


  ヒロオミ、興味ないの?アノ子に・・・ 


  ・・・超おもしれえじゃ~んっ!!!』

 

 

 

シャボン玉にはしゃぐこどもの様な、そのタクの弾む声色。


ヒロオミは一瞬顔だけ後ろに振り返り、『全然。1ミリも。』と即答し

気怠そうに溜息をついた。

 

 

 

 

今日も鬱蒼と植物が茂る塀横にある古いアーチをくぐり抜け、バラの庭へ

と足を進める。


逸る気持ちを抑えられないタクが小走りで進むその背中を、重い足取りの

ヒロオミが気怠く続く。 そしてツタが絡まり薄暗い出窓が見える位置で

足を止め、タクは爪先立ちで背伸びしてその姿が現れないかキョロキョロ

と様子を伺った。


暫し挙動不審に他人の家の中の様子を覗こうとしていた小柄な学生服の

背中は、いつまで経ってもお目当てのそれが出てこない事に痺れを切ら

して体を屈めしゃがむと、小指の爪大の足元の小石をひとつ摘み上げた。


するとタクは一瞬振り返り、少し離れた位置でただ傍観しているヒロオミ

にニヤリと謎の笑みを向けると、出窓に向かってそっと放りそれはパチン

とわずかばかりの音を立て落ちる。

 

 

『ぉ、おい! ・・・やめとけって・・・。』 眉根をひそめるヒロオミ。

 

 

聞く耳を持たない悪戯っ子のような笑みを浮かべるタクは、それを3回

繰り返し、呆れたヒロオミが付き合い切れないと背中を向け停めた自転車

の元へ引き返そうとした、その瞬間。

 

 

 

 『また来やがったのかっ! ボンクラ共がぁあああ!!!』

 

 

 

その聴こえた悪罵に、ヒロオミが足を止め振り返る。

 

 

 

 『ココは川かっ?!


  お前らの母なる川かっ?!

 

 

  サケか、ボケェ!!! 小麦粉付けてバターで焼くぞっ!

 

 

  あー・・・ 言ったらムニエル食べたくなったわぁ・・・


  美味しいよねぇ~、鮭のムニエル。


  バターしょう油と、タルタル。 どっち派??


  あたしは今日はシンプルにバターしょう油でイこっかなぁ~・・・

 

 

 

  って、お前らのせいで、もう今夜のお口は完全ムニエルじゃっ!!』

 

 

 

今日も見事な巻き舌ファスト・トークに、タクは待ってましたとばかりに

喜んで飛び跳ねる。 

その表情はモンシロチョウを見付けた時のそれと同じで。

 

 

不機嫌そうに出窓を閉めようとしたその一瞬の隙に、タクは小走りで出窓

下まで駆け寄り、挟まれるの覚悟で手を伸ばして閉め切られるのを遮る。

 

 

そして、負けじと早口で矢継ぎ早に少女に話し掛けた。

 

 

 


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